無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

小学校レベルの理科実験

 食を取り終えたら、早速父と祖父を伴って納屋へと向かった。昨日採って来た木を『三角ホー』へと生まれ変わらせるのだ♪。
 しかし一つ大問題中の大問題がある。木工に詳しい人なら、まさかこのままやる気か?となるほどの問題。
 それは材料の木材に乾燥が行われていない事。伐りたての木には、当然水分がバッチリ含まれている。これは異世界に来ようが変る事の無い現実で、伐りたての木に、すぐさま細工などを行ったものなら、水分が抜けた時に狂いが生じてねじれていく、そうなっては耐久性の問題が出るばかりか、形状が変化してしまい使い物にならない、木工を行う上で十分な乾燥は必須条件になるのだ。
 昨日切ってきたこの木には、当然一夜にして水分が抜けるなどという事はなく、たっぷり水分が含まれたままの状態だ。それをどう抜くかといえば魔法を使う。
 それも計算に入れて葉を残して切ってきている訳だが、俺が使う魔法は脱水などの、やり方が分から無い魔法では無い、"回復魔法"だ。まあ風も使うのだがメインは回復だ。
 なぜ木の乾燥に回復魔法なのかと言うと、理科の授業を思い出して貰いたい、植物は根から吸った水分を葉へと運ぶ機能がある、それを一種悪用させてもらう、風を当てる事で葉の水分を飛ばして萎れさせたところで、回復魔法を使い葉っぱを回復させる事で、根の無い木材の中から水分を奪い取ってしまおうという事なのだ。
 たった一晩とはいえ、葉はかなり萎れて元気がなくなっている、第一段階は魔法を使う前にクリアだ。
 そして第二段階、しっかりとギランギランと照る太陽を浴びて、元気の良い状態の木をイメージしながら、「葉っぱよ、元気になれ~」そう唱えると、萎れて元気を失い垂れ下がっていた葉が、伐られる前の元気な状態へと戻っていく、完全に元に戻ったところで、再度萎れさせるために風の魔法を使う。


「パパ、この葉っぱがシナシナになる位、魔法で風を起こして」


 何をさせられてるのか分かっていない父の頭の上に、???と?マークが並んで見える気がするが、そこは華麗にするーして置こう。
「枯らさないようにシナシナで止めてね。枯れちゃったら水が抜けなくなっちゃうから」
 父は???となってもやってくれる辺り、後で肩でも揉んで上げよう。


「風よ巻き起これ」


 父の方がやはり魔法の扱いがうまいのは言うまでも無い事だが、10秒足らずでシナシナを通り越しそうになったので、慌ててストップをかけた。


「パパやりすぎだよ」
「なかなか、難しいな、しかしこれで水抜きなんぞ出来るのか?」


 科学知識と言うものがなければ、自然乾燥に頼る水抜き方しか思い浮かばないのは当然だろう、数ヶ月の時間をかけて水が抜けていくのを待つのが、ウチだけではなく他所でも行われているのだから、しかし今日はそんなものを待ってなど居られない、すぐに作って試したい道具を作るのだから。


「家の前にママがお花を植えてるでしょ。それにお水をあげたんだけど、一つだけ元気がなかったから回復魔法を使ったの、そしたら土が乾いたからおかしいな?って、後は洗った服も風がある日の方がよく乾くの、だから切った木もそうしたら乾くかなって思ったんだ」


 実際これは発見だった。回復魔法の練習にと花に使わなければ、こんな方法は思い付きもしなかっただろう、ゲームで植物系モンスターも回復魔法で回復してたから、自然に生える花も行けるかな?なんて冗談発想が功を奏した格好だったのだが儲けものだった。


「「お前は変な所に気が付くな」」


 そんな二人してハモリながら言わなくても・・・まあ事実ですけど。


「じゃあ、もう一回。葉っぱよ元気になれ~」


 先ほどと同じように葉が起き上がってくるが、少し抜けたためだろうか先ほどよりも回復に時間が掛かった。


「もう一回やれば水がなくなるかな??」
「こんな事で水が抜けるとは」
「わしもこんな乾かし方は初めてじゃ」


 二人に感心されたが、所詮は小学生レベルの知識を褒められても、何だかこっ恥ずかしい気分になるだけだった。
 先ほどの事もあって、「パパ、風お願い、さっきより弱くして」そう注文をつける事も忘れない、最初の魔法では強すぎて自分でなら制御が簡単だが、一種の二人羽織のような器用すぎる作業スタイルには、タイミングが測りづらく止めづらい。
「風よ」詠唱を短くしたお陰か今度は先ほどの半分以下に出力が抑えられた感じだ、これなら17秒で止めれば良い、心の中で15、16と数えストップをかける。
「パパ、もういいよ~」と絶妙な萎れ加減になったところで再度回復をもう一度、とことん拷問じみた方法だが、この木がひねくれない事を切に願うよ。
 再回復をしたが今度はほとんど変化しなかった、中の水分があらかた抜けた証拠だろう、次の風は完全に枯れるまでやって貰えば乾燥は完了しそうだ。


「今度は茶色く枯れるまで風を吹かせて、それで水が全部なくなると思うから」


 父に風を吹かせてもらい、葉がパリパリになるまでやって貰った。持ってみると水の抜けた材木は、俺では持ち上げるのが大変だった重さを失って、軽く持てるほどにまでに重量を落としていた。


「じいちゃんも持ってみて」


 ホイと祖父に渡すと、その完璧な乾燥を終えた材に、祖父は驚きを隠せずにいた。
「グラハム、本当に抜けておるぞ」父にも渡しながら、そういった横で父が驚いているのは、何だか微妙な心持だった。
「ね、乾いたでしょ」と言っても、木の乾燥が終わっただけで、まだ成型が残っているのだから、そもそもの本番はこれからだ。

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