無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

家に帰っても俺の苦労続く

 家に帰った俺を母の熱い抱擁が出迎えてくれたのだが、まあそれは骨が骨がと言いたくなるほどの熱烈なものだった。
「ママ痛いよ、ものすごく痛いよ」
「もうママはエドの事を離さないわ、魔物に食べられて無いかケガはしてないか、心配で心配でお昼も少ししか食べられなかったんだから」
 食べたんかい!って言うか、いやマジで離して折れるから、ちょっと皆見てないで助けて。
「いい加減、離しておやりあんたが一番苦しめてるよ」
 ナイスだ。ばあちゃん、本当に死ぬかと思ったよ、まあそれだけ心配をかけたのだから母には申し訳なく思ってはいるのだが、それで絞め殺されたのではたまらない訳で。
「そんなに危ないところには出していない、心配するなと言っておいただろ」
「それで。はいそうですか。そんなお気楽な事言える訳無いでしょ」
 三文夫婦喧嘩にしか思えないが、まあ俺が原因を作ったのだからしょうがないとも言える。
 しかしそれよりもこうなった原因はお馬鹿な兄ちゃんズにあるのだ。あの中の一人ボハンスと言うのだが、そいつが事もあろうに恐慌状態のままで、ウチにまで逃げ帰ってしまい、部屋で泣き続けたのが発端となって、理由も話さないものだから、もしやとんでもない魔物が出たのではと地区が騒然となったのだ。
 その話は当然母の耳にも届き、俺たちが後片付けをして遅くなった間に、母も恐慌化そして現在に至るのだから、イヤやっぱり原因の90パーセントはボハンスにある、残りは軍団蟻だ。
 あれ俺悪く無いじゃん、まあそれでも心配をかけたのだから母の心配には感謝の気持ちは忘れないで置こう。
「ねえママ。今日ね、僕、いっぱい働いたから、お腹すいた~」
 どこの世界でも子はかすがいの理論は成り立つもので、ここは能天気な話題で話をそらすのが何よりだろう、実際腹はすいたのだ。
「そうね、すぐ仕度するわね」
 そういうと母の機嫌はコテンと変わって台所へと駆けていった。後ろからは祖父の「やれやれ」と言ったため息が聞こえてきたが、玄関口での騒動だったので父も祖父も家に入れないで、玄関前で立ち往生と言うまさかの事態に成っていたのだ。
「やっと家には入れる、まったくホネットの所のヘタレ坊んにも困ったもんじゃわい」
 そうだよね、これでじいちゃん公認で俺は悪くない事になったんじゃないか?
「やっぱりエドを連れてくのは早かったかな」
「まあなんだな、運が悪かったと言う事じゃな」
 親父なんちゅう事言うねん、早く無い早く無い俺は頑張ったし、たまたま魔物が出て、ヘタレ兄ちゃんがへましただけで俺は安全圏にいたし、言うこと聞いていい子にしていた、隊長さんも褒めてくれたじゃないか、次も付いていっても問題ないぞ。
「運が悪かっただけだよ~、次も絶対いく~」
「エドが行くなんて言って、またシーリスがワタワタしないと良いのだけれど」
 祖母の突っ込みは回収フラグにならない事を祈りながら、食堂へと場所を移した。
「ママなんか多くない?」
 席についた俺の前にある食事はいつもより圧倒的に多い、多分父のものと遜色ないほどの量が用意されていたのだ、その前に姉のニコンニコン顔もものすごく気になる。
「おねーちゃんどうしたの?そして何でこんなに多いの?」
「みんなの為に私もお料理お手伝いしたのいっぱい食べてね」
 別段話していなかったが、時折姉も食事のお手伝いはしている、しかし今日のこの量はあきらかに作りすぎたというやつだろう、ウェイン兄さんがお相撲さんにならなきゃ良いけどな。
 しかし祖母も平成を平静を装ってはいたけれど、内心は心配だったのだろう、で無ければ母と姉が量を間違えていた段階で、それを指摘していたはずなのだから。ご心配をおかけしました。
 大量の料理も、父に助けてもらいながら何とか胃に収め、食べ終わると直ちに襲ってきたモノがあった。そう睡魔である、ガッツリ動いてガッツリ食べれば眠くなるのも当然なのかもしれない。
「眠くなっちゃったから、僕もうねるね、おますい~」
 最後の方は何を言っているのか、自分でも聞き取る事は出来なかったから、家族には???かも知れないが、これ以上は起きてはいられない、てんやわんやの一日が過ぎ、寝床にもぐり込んだ俺は、すぐに意識を失った。
 あれだけ濃い一日を過ごせば、そうならない方が不思議かもしれないが、当然泥のようにぐっすり眠った俺は深い眠りについた。
「…さい、エド朝だよ」
 今日は雨のようだ、雨の音と姉の声が重なりながら彼方から聞こえる、後10分~。
「起きなさいってば!」
 勢い良く掛け布団代わりのムシロを剥ぎ取られた、こう言うところは異世界だろうとも変わりはない、どこか後10分が有効な世界は無いのだろうか?
「ね~ちゃんおはよう~」
 ふにゃふにゃと間延びした挨拶を姉に向けた。
「エド、食事だよ。早くしないとみんな食べちゃうよ」
 不思議なものだ。昨日あれだけの量を食べたにもかかわらず、胃もたれする事もなくお腹が空いている。若いって何て素晴らしいものか。
 食堂には昨日のような量ではなく、いつもと変らない食事が用意されていた。流石に朝からあれは辛いからありがたい。
「エド、昨日採って来た枝は何を作ろうって言うんだ?」
 父の疑問はもっともだ。口では説明したが見た事の無い物をイメージするのは難しい、バブル期に出た肩掛け鞄のような携帯電話の時代に、スマホを説明しても伝わらない様なものだろう。
「パパ食べ終わったら、パパも手伝って。僕が考えたのは、草取りにも畝立てにも便利な道具になると思うから」
「まあ、今日は雨だしなエドに付き合ってやるとするか」
 こうして人員と材料を確保した俺は、ちょっとだけ便利な生活に向けての、第一歩を踏み出そうとしていた。

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