無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

只の金属は貴金属

「ウェインは、これからどの位のかねが取れるか、知ってる?」


量くらいは知って置きたいからな。ある程度まとまった量が採れるなら俺にも少し貰いたいし、採れないなら金属以外の材料を使って作る方向で、今後の材料選定を決めなければならない、どちらにせよ今後の道具開発には重要な話になる。多いと嬉しいな~


「そうだな、両方で8ケムくらいはあるだろうから、まあ7ケムくらいは採れるんじゃないか」


 な、何だと~!、何かおかしくないか?、85パーセントの回収率だと?と言うよりこの虫ほとんど金属で出来てるのか?それよりも鉱山から採集するより圧倒的に取れるにも拘らず、金属文明の発達がここまで遅れているのだ?


「そんなに取れるのに、何であんまり使われてないの?」
「エドも以外と知らないんだな、赤金虫あかかねむしだって夏のこの時期しか取れないんだぞ、それに
お前が頑張っていっぱい取ってくれたけど、それでも全員で分けたら一軒で1ケムも貰えないじゃないか」


 そこはファンタジーじゃ無いのかよ、ゲームの虫なんて雪原にも居たりするのに、春でも秋でも年がら年中採れると思ってました。


「ほら夏の間に何度か取りに来るとかさ」
「そんな事したら他の地区の人たちが取れないだろ、それに今回はお前が赤金虫を取っていたお陰で、去年の取り分よりは多そうだし、大人たちは伐採に集中できたって、みんな喜んでたんだ」


 1キロに満たない量の金属源で喜べるって、その前に伐採後回しにしても金属確保した方が・・・、駄目だ農繁期になったこの時期に、そうホイホイ木を切りに来てもいられる訳がない、「思っていたよりもこの世界の金属事情は深刻なようですお母さん」ってヤツか、これは冗談抜きでおこぼれなんて言えないぞ、片方は生活が掛かっているんだから、子供のお遊びにホイホイ使わせてもらう訳にも行かないし、これは最低限の実績は上げないと、金属使用の許可は出ないなトホホ。
 それにしても、この世界には鉄鉱石とかの金属源は存在しない物なのだろうか?、それとも発見されていないだけで存在はしているのだろうか?、確認はしたいが変な事を聞くのもまずいし、これはどうしたものか・・・・・・。


赤金虫あかかねむし以外にかねになる物はないの?」


 この聞き方なら違和感無く聞けるかな?知らないって返されたらどうしよう。


「俺は聞いた事無いな。それにそんな物があるなら、今日はエドがやってくれたからだけど普段は大人がやるんだぞ、態々大人たちが虫を捕まえるなんてして無いんじゃないか?」
「何だウェインは知らんのか?、他にもかねになるモンは居る。北の森の奥にはかねの毛で覆われた大ネズミがおるでよ」


 話が聞こえたのだろう、おっちゃんBが面白い話を振ってきた、なんでも常に逆立った金属の毛が生えたネズミが居るらしいのだ、それってハリネズミですか?


「コイツが動きは鈍いんだが金の毛が硬くてな、剣の刃が欠けちまうし襲って来る事も無いから、わざわざ狩りをせんのだ」


 これは多分ハリネズミですね。感じからいくとクギくらいの毛が生えてるのかな?それにハリネズミなら生え変わりの毛を拾えるかもしれないし、飼う事が出来れば良い金属源として使えそうだ。


「小坊主、間違ってもネズミ狩りなんて考えるんじゃねえぞ。お前の親父は討伐隊で行くだろうが、場所は北の森の奥だ。態々奥まで入って討伐する事はねえし、一人で入るんじゃ命がいくつあっても足りやしねえ、そんなのにかまってついででやれるほど北の森は甘い場所じゃねえんだ」


 北の森の危険性まで考えていませんでした。反省します。流石に父の命と引き換えにしてまでというのは、素材ごときでは割に合わない、これは金属はお手上げかな。


「おじちゃん他には何かないの?もっと安全に取れるやつ」
「そうさな~、危ねえのならいくつか知ってるんだが、安全なのはあんまり無んだわ、まあそんなのがゴロゴロしてたらみんな取ってるだろうしな」


 結局それかよ、この世界には鉱石とかは存在せんのかい?これだけファンタジーならドワーフとかノームとか居たって良いじゃないか!、神様どうか潤沢な金属源をボクに下さい。神様に本気で祈った事も無いけど、今ならそう祈りたい気持ちでいっぱいだ。
 なんて事をやっている後ろで、指笛が鳴り響いた。


「下がれ、下がれ、下がれ」


 荷車の方にいた大人たちが、鬼気迫る顔で一斉にこちらに走ってきた。


「ウェイン!、エドを連れて町まで走るれ、大アリが出やがった」


 森の方に目を移すと茂みがガサガサと蠢き、数匹の巨大なアリが頭を振りながらこちらを伺っている。その中の一匹が茂みから這い出してきたが、それはもう蟻とは呼べるものでは無い、柴犬ほどもある蟻なんて気持ち悪い意外に表現しようが無かった。
 その後にもゾロゾロ這い出てくる蟻は、30匹程度は居そうだ。
 俺はウェインと共に町まで全力で走り出す。その横を必死の形相で大人たちと一緒にいたヘタレの兄ちゃんたちが、俺を追い抜いて逃げていく光景は何とも言えないものだ。
「年少者を庇うとかしろよ」かく言う俺も、全力で逃げてはいるのだからあまり大きなことは言えないが、地球時代にも蟻に噛まれた事はあるが、あの小さな蟻に噛まれただけでも痛いのだから、あんなのに噛み付かれたら胴体が真っ二つになってしまうではないか。
「余計な事言って無いで走れ」そうウェインに怒られながらも、何とか柵の所までたどり着き後ろを振り返ると、大人たちが一塊になりながら撤退戦を行っているのが見えた。
 誰かが教えたのかそれとも生活の知恵なのか、戦国時代の槍衾よろしくショートソードを正眼に構えてじりじりと後退している、30匹ほどの蟻もいきなり襲い掛かるでもなく、奴等なりの陣形があるのか川の字型の陣形で迫ってきていた。


「大丈夫だ。お前の父さんは、いつも北の森に出る化け物と戦っているんだから、あいつ等くらいならどうって事ないさ」


 ウェインはそう言って励ましてくれたが、相手は数で勝っているし人間とは体格差がある。某有名なRPGのスライム並みだと言うなら安心もできるが、どう見てもあの大顎で足元を狙われたら、不利な戦いになるだろう。

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