無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

異世界金属源

 午前中に粗方の作業を粗方終わらせてしまったので、午後はかんなり暇だった。大人達からは離れられないし、この体じゃ走力の問題で森にも近づけないしで、ヤル事が詰んだ・・・この辺りは朽ちた切り株だらけの為、つまずかないよう下草も綺麗になって土がむき出しになっているので、薬草探しも出来ない。
 俺のご希望の品は、5本ほどちょうど良い形のものがあったので、長さを指定して切ってもらい、一便目の大八車に積み込み済だ。
 ・・・午前中やりすぎました・・・、ウェインの忠告に「へ~い」とか言って舐めた態度取っていたやつを殴ってやりたい、俺なんだけど。
 ああそう言えば、昔仕事始めた頃言われたな~、仕事はやり過ぎてもやらなくても駄目だって、やらないのは勿論論外だけど、やりすぎて周りを息切れさせるのも、結果的に全体の効率が悪くなるから、頑張るなら105パーセントくらいにしとっけって、10年前の教訓を今思い出すとは、う~ぬ~反省だなこれは。
 さて、俺が出来る事を考えなければ、サボる訳にもいかないしな、う~ん・・・オヤジ~助けて~。


「パパ、何かすること無い~?」
「そうだな~、次のヤツと一緒にウチに帰るか?」


 イヤイヤイヤ、そう言う事じゃなくて、やることの指示を下さい。


「エドワード、やる事が無えなら、さっき切った切株とお前の切った切り口に、赤い虫が居ないか見て回って、この中に捕まえて来いや」


 そう言って祖父から渡されたのは、俺の頭がすっぽりと収まるほどの木の小樽、言われた虫には引っかかるけどナイスフォローだよじいちゃん、これでやることが出来たよ。


「赤い虫?そんなのどうするのじいちゃん?」


 俺が住んでいた長野県には至る所で食べられる虫が、佃煮として食卓に乗せられるが、こっちでもまさかの佃煮?じゃないですよね???
 蜂の子とイナゴは平気だったけど、ザザ虫は食べた事が無いし蚕のサナギは悲鳴を上げたくらいだから、あんまりにもグロがキツイのは勘弁だよ


「赤い虫は、『赤金虫』(あかがねむし)と言ってな、鋤や斧なんかの刃はこの虫から出来とるんだ」
 おお~、食卓に上る佃煮は回避したが、まさかの明後日の方から変化球が飛んできた感じ、まさかの虫が金属源とは!、鉱山開発で影響の出る地域住民と揉める事は無くて良いけど、これは異世界過ぎるんじゃないか?


「集まってきとるな、こいつが赤金虫だ」


 祖父が朝一作業を始めた切り株まで行くと、ひょいっと持ち上げた虫は、赤金の名前通りのメタリックレッドに輝くコガネムシだった。


「この黒いのは要らん、お~お白もおるな、こいつは何が何でも捕まえんだぞ、後は青もだな捕まえるのは赤、青、白の三色だけでええ」
「何でこの黒いのは要らないの?」
「こいつはかねの毒でな、混ぜるとかねが脆くなって、使い物にならんくしてしまうんじゃ」


 黒いこいつも金属源には成るみたいだが、混ぜなきゃ使える事は使えるのかな?、白はじいちゃんの反応から見るとレアアイテム系だな。
 言われた通り切り口の樹液を吸いに集まったコガネムシを、ひょいと捕まえて壺に放り込んでいく、カブトムシは生前の小さい頃に、親にねだっては夏の夜に水銀灯の下を夜回りに出かけてまで採った記憶はあっても、コガネムシを採るなどこちらの世界にでも来なければやらなかった事だろう、虫好きとかじゃなきゃやりませんよね。
「白は最初の一匹だけか」そう一人ごちて肩を落としながら、他の色をしたコガネムシは採れたが白だけはどの切り株を見ても、最初の一匹以外はサッパリいない、レア出現率低すぎるがね、俺が虫取りにいそしをでいる間にも、どんどんと伐採がされた木材が各自の家に運ばれる、切り株を7割方回って、やっと壺いっぱいにまでコガネムシが集まった、途中からは俺には重すぎて、壷まで虫を運ぶなんって効率の悪い作業と化したが、小人だもの仕方が無いじゃ無いか。
 一つ壺目をいっぱいにした報告をしたら、ええ次の壺を渡されたのはお察しの通りでございます。
 二つ壺目は白が数匹捕まえられた、その喜びを上回るのが赤の多さだった、一壺目もそうだが8割くらいが赤なので、これは銅らしき金属が使われるのもうなずける。
 しかし、このコガネムシからどれ程の金属が採れる事やら・・・質量と同量に採れるなら銅製の道具がもっとあっても良い訳で、刃先だけ金属を付けた風呂鋤を使っている訳が無い、それでも雀の涙も勘弁して欲しいけどな。




「じーちゃん、全部採ったよ~」
「良くやった、こっちも今切ってるんを積んだら帰るから少し待っとけや、おーいウェイン、エドが採った壺回収しとけ」


 流石は未来の婿殿だな、じーちゃんも父も将来の義息子扱いで、いろいろと言い付け安いのか、事あるごとに「ウェインウェイン」と用事を言い付けている、ウェインの実の親も別にどうこう言わない、気に入って貰っているなら、向こうさん流であれもこれも仕込んで貰ってって事なんだろう。
 まあ、何でも出来なきゃ生きていけない世界だから、当然と言えば当然なのだけど。


「ウェイン、悪い、流石に持ち上がらなかった」
「な~にこのくらい良いさ、イヤ、『やり過ぎる義弟を持つと義兄さんは大変です』、って言えば良かったかな?」
「義兄さん、イジメナイデクダサイ」


 ウェインに壺を運んで貰いながら、下らない掛け合いを楽しんだ。

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