無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

新農具のひらめきと開拓の常識

 初夏と言っても日中の日差しは、その暑さは完全に真夏と変わらない、はっきり言ってめちゃくちゃ暑い。
 そんな中を父と祖父は、昨日収穫が終わった畑を鋤で起こす作業をしている、牛馬に引かせるでも無く、たぶん青銅製だろう金属が、先端に付いた土木スコップの原始タイプのような物で、畑の土をせっせと天地返ししている様を見ると、初期型農業の苛酷さを感じてしまう、前世では田舎に住んでいたので田畑付きの家だった、素人ながらに家庭菜園と米は作った経験がある。
 その時御世話になったのが、備中鍬と三角ホーと言う道具だったが、この二つがあれば鋤や鍬などはもう要らない、備中鍬で起こして砕いたら三角ほうで畝を立てて立派な畑が出来る、鍬の方が効率は良いのだろうが、素人が使うには「腰が入ってない」と言われる。
 父も祖父も農業経験は豊富だが、鋤で慣れているのだから鍬とでは使い勝手がかなり違う、素人の俺でも使えた道具で、フォームを慣らしてからの方が効率が上がるだろう。
 この街は、どこの家にも家畜も居ないのだから犂も使えない、魔物とかテイム出来ないかな。
 遊び事など開発してないで、農機具などの開発を急がないと、祖父の寿命が縮まるわ。
 俺はと言うと、父たちが起こす先にカマドの灰を散布している、灰はカイバクを播く時に散布する為に半年間溜に貯めていたモノだ。
 所詮灰なので軽いのだが、風下に向けて散布しても時折の逆風で自分にも掛かる、これがまた鼻や口に入って、何とも言えない燻したような味と香りが広がる。
 日差しの強さと四歳児の体力で、体ににじむ汗と灰が合わさり、不快な事この上ない作業をこなしながら、同じ作業をもくもくと行っている姉や、降りかかる灰に重労働を加算した父たちを前に文句も言えず、重機や農機具に労働を任せていたような、現代農業しか知らない俺からすると、本当に昔の人には頭が下がる思いだ。
 この灰を撒く作業だが、この辺りの川の水は弱酸性の水のようで、そのまま飲む分には普通なのだが、コップなどに溜めてしばらくしてから飲むと、微かだがすっぱい水に変わってしまう、そんな水を畑に引き入れているのだから、灰などで中和させてあげないと、たぶん土壌が酸性に傾いて作物が育ち辛い土に変わってしまうのだろう、それを防止する為に撒いているのだ。
 最初は畑に灰を捨てていただけなんだろうが、そこが生育が良いと気付いた人は大したもんだな。


「お~いリース、エド、休憩するぞ~」
「「は~い」」


 どっかり腰を下ろしている祖父の元に集まって休憩だ、お茶やお菓子がある訳では無い、小型の桶に水が張ってある、これで咽を潤すだけだ。
 井戸の水は真水なので、汲み置きしても味が変わる事無く美味しく飲める、肉体労働をした後と言う事も合わさって、ただの水が大変美味しく感じる。
 年寄り臭く言うなら「甘露甘露」と言いたいところだか、俺がそんな事を言うと全員の頭に???と浮かびそうなのでやめて置こう。
 灰は撒いたが肥料は撒かないのか?、と言われそうだが今は撒かない、理由は解らないが、どの作物も追肥の形で生育中期にしか肥料を与えないのだ、この辺りも地球での農業とはやり方が違うなと感じた。


「エド疲れたか?」


 考え事顔をしていたのが父から見ると疲れ顔に映ったのか、心配されてしまった。
 ここは疑問解消させてもらおう。


「ううん、大丈夫だよ、何で最初に肥料撒かないのかな?って思ってたの」
「小さいのに変な事に疑問を持つ子だな?」
「グラハム!こういう事を子供のウチから知って置く事は大事だ。エド、よく覚えておくんだぞ、最初に肥料を入れてしまうとカイバクや野菜以外の草が大きく育って、カイバクも野菜も育たんのだ。だから芽が出て少し育った頃に草を取って肥料を撒く、そうすると草は生えて無じゃろ。栄養を横取りされんから作物が良く育つんだ」


 父はそう言ったが、祖父が説明してくれた。
 たしかにこの辺りのただの草原は、「ヨシ原かよ!」と言いたくなるほど雑草の背丈が旺盛で、子供くらいなら中に入ってしまうと見えなくなってしまう、草原なんかは雨季の初めに雑草の芽が出たらあっという間に大きくなっていってしまう、地球時代ですら雑草の生長に悩まされたが、異世界の雑草は格が違うとかでは済まされないレベルで、青葉マークとF1レーサーくらいは差があるだろう、そんなのと生存競争させてしまったら、作物は普通の生育しかしないのだから負けてしまうのか、うん俺の観察が足りなかった。


「さあエドも良いか、そろそろ始めよう」そう父に促されて作業再会だ。
 話していなかったがウチの畑は全部で三枚ある、このあたりの畑は一枚の面積は30アール程度で統一されている、今耕しているこの土地は先祖代々の土地ではなく、草原だったところを祖父が一人で開墾したものだそうだ。
 この町に限った事なのかは解らないが、草原の開墾は自由に出来るみたいで、跡継ぎ以外がある程度大きくなるまで生き残っていた場合に、祖父、父、兄弟、更には近くにいる男の親戚の協力を得ながら、徐々に開墾を進め、結婚と同時に開墾地に分家に出るのが一般的みたいだ。
 祖父が一人でと言ったが、実家と仲が悪かった訳ではなく、兵士の仕事のせいで任地の近くの方が良いという事だから、この場所を開拓したものらしい。
 ウチは叔父と呼ばれる人は全員小さい頃に病気で死んでしまったらしい、そのためウチには分家は存在しない、ちなみに曾じいちゃん家はあって、曾じいちゃんも53歳でいまだ健在だ。今は父の従兄が家長をしている。
 他の二枚の畑は来週と再来週に刈り入れ予定になっている、なのでこの畑は後五日で起こして種蒔きまで済ませ、次の畑に移る。
 うん忙しい。

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