無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

はじめて見る魔法、食卓の事情

 さて調理だが、IHクッキングヒーターを使って・・・などと言う事は無い。
 もっと言えばガスコンロなどと言う物も無い、あるのはカマド、それもタイル張りとかの、昭和レトロな物ではなく、所々ヒビが入り表面が剥離した、二つ穴式の土カマドを使っている。
 このカマド煙突などは付いていない、煙は屋根に開けた天窓から出て行く作りをしている、このあたりは江戸時代の長屋みたいな作りだなと思った。
 いつもはこの時間、子供部屋に篭って異世界考察をしているのだが、今日は珍しくキッチンスペースに来ていた俺は想いもかけぬものを見てしまった。
 焚き付けに火をつけるのだが、マッチなど無いだろうから火打石辺りで火をつけると思っていたのだが、祖母がブツブツと何か言うと、何もしていないのにカマドに火が付いたのだ。
 これはもうお口があんぐりな光景だった。


「ママ?ひ!」


 さあ母よ、この三文字から俺が、「な、なんで火が付いた?火打石は?マッチは?どうやったの?」を読み取ってくれ!


「どうしたのエド?」


 おお~やはり伝わらない様だ、さて低ボキャブラリーな俺はどう伝えたえたら褒められるのでしょう、教えて下さい・・・「ひ・ぼって!」カマドを指差して、火が付いた事に驚いたとジェスチャーを交えてみた。


「ああ、エドは魔法見た事が無かったのね、あれはね『魔法』って言うのよ、おばあちゃんが火の魔法さん出てきて~、って言って出てきて貰ったのよ」


 何か聞いた感じだと精霊魔法系っぽいけど、見てた分には黒魔法ぽいんだよな??
 ごっちゃごちゃになってきた、これは自分でやってみるしか無いか?、母もまだ早いと思ったのか食事の用意に忙しかったのか、それだけしか教えてくれなかったが、今一つ魔法があるって事しか解らなかった。
 しかし、それだけでも大きな収穫な訳で。
「(あったよ魔法、転生万歳さらに三唱)」
 これ以上母を質問攻めにしていては、僕のご飯が遅くなってしまうので切り上げたが、これからは注意深く、どのような魔法があるのか観察していく事にしようでわないか。
 今日の夕飯だが、メニューは鹿のステーキ(俺のはハンバーグだが)とサラダにスープ、主食は未だに慣れないオートミール・・・多分こんな味だったと思う。
 この世界に来て米と言うモノを見た事が無い、米だけならまだしも小麦やライ麦なども生産されていないので、黒パンとかって言う物までは覚悟していたが、まさか主食が粥とはお釈迦様でも思うまい、こっちの世界には居ないだろうけど、とほほ。
 米の粥は好きで結構な頻度で食べていたけど、俺は大の米党でパン食すらキツいのだぞ!、それがオートミールとなるとマジで堪える。
 と言えどもそれしか無いので、食べるしかないんだけどね。
 エン麦という麦自体は、小麦畑の雑草からスタートした穀物なのだから、小麦は探せばあると思うけど米は無理なんだろうな~。
 感傷に浸っていると、俺の分の食事が運ばれてきた、一般的には所詮は赤ん坊扱いからやっと抜けるかと言う歳なのだから、食器で遊ぶなんて事はしないが、食事に介助が必要だろうと大人判断で先に食事になる。
 まあ一人で食べれるから、もう「あ~ん」なんてさせないけどな、この世界では食事の前のお祈りもいただきますも無い、うちでは父さんかじいさんが「おお今日も美味そうだ」と、並べられた料理に手を付けたところからみんなが料理に手を付け始める、母やばあさんもその時にゆっくり食べたいからなのだろう、俺だけ先に済まされてしまうのだ。


「しっかし、手の掛からない子だよエドは、こぼさないどころか好き嫌いも言わないし、あたしも何人も育ててきたけど、こんなに手の掛からない子は見た事が無いよ」
「そうですね、リースの時はもっと大変でした、逆にここまで手の掛からないのも物足りなく感じます」


 もうオネショだけでも相当に御迷惑をお掛けしてますんで、その他までは気が引けるんで御座いますよ。
 母よ、お腹の子が俺の分まで手を掛けてくれるから、休養期間とでも思って下さいな。
 普通の二歳児なら、口の周りにベットリ食べ物をつけながらの、介助必要な食事であっても不思議ではないのだろうが、当然俺はそんな事に成らないように食べるのだから周りは見てるだけになる、これならそもそも別で食べる必要ないんじゃない?


「食べ方は綺麗だし全く手がかからない、どうなってるんだろうね?この子は」


 すいません、転生の事は墓場まで持って行くつもりでいるんで、「実はあなたの孫は三十オーバーです」何て言えないし、よくよく考えたら母より祖母の方が余程年が近い、日本なら珍しくも無い話でもこの世界の一般では、実年齢的にはじいさんと呼ばれても可笑しくない年なのだから、食べ方程度で関心されてもと思ってしまう。
 そんな祖母たちの視線を浴びながら食事をしていると、じいさんと父が畑仕事から戻って来た。


「お帰りなさい、さあ食事にしましょ」


 そう母が声をかけて母以外が席に着く、この世界のステーキはウェルダンくらいまでしっかり焼く、すでにミディアムくらいまで焼かれたステーキを、再加熱して内部の赤みを無くしてから食卓に上げる、母は今その行程中だ。
 食品衛生法どころか、屠殺場も無いジビエを食べるのだから、レアで食べるなんて自殺行為なのだろう。
 メインの肉が出てくるまでの間、食卓は大盛りサラダの大食い大会か?と思うほどの大量のサラダをバクバクと皆食べる、今の野菜不足の日本人に見習わせたいほどの量を食べるのだから、太って居る人のいないのは、これも一因なんだろうな・・・
 こうして楽しい食卓と共に、俺の異世界生活の幼児期が過ぎていくのだった。

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