高校生の平凡な日常

ノベルバユーザー86613

電車に乗って・A

長編です。A、B、Cの三編より構成される予定です。

今日は25日。アルバイトを週4で頑張って得た報酬が講座に振り込まれていた。
彼は思わず微笑みを浮かべた。中学生の時とは違い、こんなにもお金を使うことが出来るのかと。どこか遠くに行きたいと考えた。

早速ではあるが明日、日曜日に決行することにした。あくまでも目的は電車に乗ることであり、観光はおまけのようなものだ。
よって特急や新幹線は使わずに全て「鈍行」で向かうことにした。日帰りの旅なので多かがりな準備はいらない。自由に好きな場所に行って好きな物を買って好きな物を食べるだけだ。前夜は早く寝ることにした。

当日。日光がこれでもかという程に降り注ぎ、夏の訪れを感じさせるような気候だった。帽子とタオル、ペットボトルのお茶を数本用意して、準備は完了だ。
母の声に見送られ家を出た。
行き先は特に決まっていなかったので、いつもとは反対方向の電車に乗ってみることにした。終点は隣の県のそこまで有名ではない街。どんな風景が広がっているのかを考えただけで彼はワクワクした。
いつもより高額の切符を買って少しだけ優越感に浸りながら駅員に見せた。大人に一歩近づいたような心地がした。
列車は聞きなれたような音をたてて走り続ける。ひとつ違うことといえば景色だ。
見慣れない田園風景が続く。橋の上にさしかかると川が見えた。反対側には新緑を感じる木々を見ることができた。
それから暫く揺られていると、向かいの席(車両の走る向きと並行に設置されている一対一の向かいあわせの席)に1人の老人が座った。老人は彼を物珍しそうに見た。それもそのはず、日曜日に制服で電車に乗る高校生などそうそういないからだ。
「前、失礼するけどよいかい?」
「はい。大丈夫です。」
「学校かね?」
老人は尋ねた。
「いいえ。旅、ですかね。」
「ホゥホゥ。ワシも若い頃はよく旅をしたな。国内旅行では飽き足らず、大学時代は海外にもよく行ったの。」
「詳しく聞いてもいいですか?」
彼は好奇心から聞いた。
老人は終点の駅に着くまで1時間ほど若かりし頃の思い出を彼に語った。彼は時々、頷いたり相槌を打ったりしながら聞き役に徹した。駅のホームに着くと、老人はありがとう。と行ってどこかに向かった。
駅はホームが3つ程しかなく、彼の乗ってきた路線の他に1本通っているだけの規模が小さいものだった。最近新調した腕時計を確認すると、12時を丁度回ったところだった。どこで昼食にしようか。彼は数秒悩んだが、ラーメン屋の看板が目に入り早速入店を決めた。
「へいらっしゃい!」
威勢のいい声が店内に響いた。
その店は自営業で30代くらいに見えるお兄さんが一人で経営しているようだった。
外観はお世辞にも綺麗とは言えなかったが店内はとても綺麗に清掃されていて、昔からの店なのだろうと彼は思った。
他の客はおらず、どうやら彼一人のみであった。
「注文はお決まりでしょうか?」
「ええと、醤油で。」
「醤油1人前入りました!」
若大将はそそくさと厨房に入っていったようだ。
程なくして真っ白な湯気をあげて美味しそうなラーメンが運ばれてきた。
「お待ちどうさま!」
「ありがとうございます。」
そして暇になったのか店主は彼に話しかけてきた。ラーメンを食べながら応対させてもらうことにした。
「君は高校生だよね?ここらでは見ない制服だね。」
「隣の県より電車で来ました。一人で電車に乗るのが趣味でして。」
「そうかそうか。ウチの店に寄ってくれたのも何かの巡り合わせかもしれないね。」
爽やかに店主は言った。ここに来て正解だったと彼は思った。
「そうですね。とても美味しいラーメンが食べれて幸いです。そういえばこの店はお1人で?」
「そうだよ。この店は祖父の代から経営していて、前までは父が仕切って僕が手伝いをしていたんだけど数年前に亡くなってね。今は僕一人さ。」
「そうでしたか。踏み入ったこと聞いてすみません。こんなこと言っていいのか分かりませんけど昔ながらの雰囲気、僕は好きです。」
「いいんだよ別に。ありがとう。客もめっきり減ったけど常連然り君のような旅人が訪ねてくることが何よりも嬉しいんだ。」
「それは良かったです。では僕はそろそろ行きますね。ではいつかまた。」
代金を払って店を出た。
店主は手を振ってまで見えなくなるまで彼を見送ってくれた。

Bへ続く。



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