ガンスリンガー

限界集落村人

21

夜は敵の索敵能力が低下する。ましてや月明かりだけでは何も見えない。
道脇に俺たちは伏せ、帝国皇帝の妹の護衛の列を待った。
「こちらクーパー。無人偵察機からの報告だ、標的は南から1.5キロ先、40km/hで移動中、失敗するなよ。」
俺たちは草陰にふせ、標的を待った。
しばらくして、馬の足音が聞こえ始めた。先頭は騎馬隊で中央に馬車があり、かなりの数の護衛が付いていた。
「マグス、即席爆弾起爆を起爆しろ。」
「即席爆弾起爆。」
マグスは手に持っていた起爆装置を押し、先頭の騎馬隊は爆砕する。
馬車は止まり、俺たちは後方の騎馬隊を全員射殺し、馬車に接近した。
馬車を引く男は逃げ出して言った。
馬車に乗り込むと、中にはドレスを着た10歳前後の少女がいた。
「標的を捕縛、繰り返す、標的を捕縛した。これより回収地点に移動する。」
俺たちは皇帝の妹を捕まえ、すぐにその場から離れた。
「よし聞け、12キロ先の回収地点で20分後に離脱わかったか?」
「了解。」
「よし行こう。」
俺たちは馬に乗り、回収地点に向かった。
「あなた方は何者ですか?」
皇帝の妹は馬に同乗するマグスに尋ねた。
「我々は……。」
「マグス!無駄話はよせ。」
「す、すみません。」
標的と話す必要はない。俺たちにとってはただの標的に過ぎないのだから。
「私は帝国皇帝、イルヌス・ディアブロスの妹、マリア・ディアブロスです。このような無礼、ただではすみませんよ?」
俺たちは皇帝の妹の話を無視し、回収地点に向かった。その時だった。
「こちらクーパー、回収地点周辺に未確認飛行物体を確認。空を警戒……。」
「こちらナイトフォックス、応答せよ。」
クーパーとの通信は急に途絶した。考えられるのは、無人偵察機が圏外に出たか、もしくは撃墜されたか。
だがその後者のようだ。近くで爆発音と、ドラゴンの鳴き声が聞こえた。
「こちらナイトシーカー、ナイトフォックス、応答せよ…。回収地点上空にドラゴンを確認、一時離脱す……うあぁぁ!!」
「どうしたナイトシーカー!応答せよ。」
回収ヘリからの通信が途切れた瞬間、爆音と共に森の先から煙が見えた。
「まさか回収機が墜落したんじゃ……。」
「黙ってろマグス。この目で確かめるまではまだわからない!」
俺たちは回収地点に急いだ。
すると、皇帝の妹が空を見て悲鳴をあげた。
「なんだ!?」
俺たちが一斉空を見上げると、後方にはドラゴンが上空を飛んでこちらに向かっていた。
「止まるな!」
俺たちはひたすら馬を走らせた。しかしドラゴンに距離を詰められ、リーが馬ごと吹き飛ばされる。
「リー!」
だが俺は反転せず走り続けた。
「全員あの洞穴に入れ!」
俺たちは小さな穴に馬ごと入っていった。
森の中にある洞窟にドラゴンは入ってこれず、上空を旋回していた。
「大尉、リー中尉が!」
「落ち着けマグス、この状態でリーを探しに行けば全員ドラゴンにやられる可能性がある。」
「しかし…!」
「それに……あいつがそんな簡単に死ぬわけがない。」
あいつが死ぬわけがない。それは自分が都合のいいように解釈しているに過ぎなかった。本心は不安で一杯だった。
「とりあえず今はあのドラゴンがいなくなるまで待とう。」
「それは無理です。」
「どういう意味だ?」
「あのドラゴンは我が兄、皇帝が私の護衛につけたドラゴン、エンドラゴンです。私が拐われたのに気づいて取り返しに来たのです。」
もし嘘だとして逃げられたらこの少女は死ぬ。本当だとしても俺たちをやすやす逃してくれるはずもない。
「君を解放すればドラゴンに俺たちを攻撃しないようにできるのか?」
「いえ、それはできません。エンドラゴンは皇帝の兄の命令しか聞き入れません。ですから兄の意向無くしてあのドラゴンからあなた方を救う手立てはないという事です。」
これはどうしようもない状況だ。仮にここで動かずに来るかもわからない救援を待ったとしても、あんな大きな爆発に軍が気づかないわけがない。すぐに来るはずだ。だとしたら俺たちに残された道は一つ。ドラゴンを撒いてヘッケランのもとに向かう。それしか助かる方法はない。
その後は考えるしかない。
まずリーを探しに行かなければならない。無線には応答しない。つまりリーの安否は不明という事。馬からの落馬だ。最悪の場合死んでいる。
約20分後、ドラゴンは遠くへと去っていった。
俺はマグスを連れて洞窟から出てリーが飛ばされた場所に向かった。
するとそこにはリーの姿はなく、かわりに鎧を着た帝国軍の兵士の姿があった。
「まさか、リー中尉捕まったんじゃ……。」
「黙ってろマグス。とりあえずあの中の一人を捕まえて尋問しよう。」
俺たちはその場にいた兵士を殺し、一人を捕まえてさっきいた洞窟に戻った。
「おい、あそこで何をしていた?」
俺は兵士の首にナイフを突きつけて尋問した。
「帝都より皇帝陛下の勅命で王国の国境地帯に向かっていたら…た、たまたま倒れている人を見かけて、そいつを仲間に連れて行かせた。」
「どこにだ?」
「て、帝都の診療所さ。」
どうやら帝都の診療所はかなり巨大な医療施設で、入るには帝都の国民証明書が無ければ入ることはできないらしい。
皇帝の妹がいる以上、迂闊に帝都には入れない。足手まといでしかないからだ。
要するに今はリーの事よりも任務優先、という事だ。
俺たちはヘッケランと合流してなんとか通信する手立てを取らねばならなかった。

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