ガンスリンガー

限界集落村人

16

各地の反王政派閥は一年で抑え込まれ、王国の内部事情は整理されつつあった。
少佐の部隊は軍師タヌーア・アルキメデスの采配により、各地で数々の勝利を収め、領主のユーリーは多大な褒美を与えられた。だが、少佐や俺たちに対する見返りは全くと言っていいほどなかった。
少佐以外は皆帰る手段を探るため、特になにかを望んではいないが、少佐は納得していなかった。
少佐の軍は力を増して行った。単純に兵力が増えただけでなく、実戦経験を積んだ見込みのある人物を士官とし階級を与え、装備はイルムスに揃えさせ、ある程度の通信機器や無線に加え、大量の車両や武器、弾薬などが補充された。
帰る手段を探すのを効率化させるため、クーパー主導の諜報部隊を編成し、各地区に配置した。
俺はこっちの世界で中尉から大尉に昇格、少佐自身は自分を大佐とした。
俺は早く元の世界に戻ろうと皆に言ったが俺は、帰る方法を探すのを諦めかけている自分に気づいていなかった。

俺は14地区内に設けられた新たな新居、というか俺たちの本部で朝を迎えた。
「おはようございます大尉。」
目を覚ますと、メイサが俺の寝室で洗濯物を回収していた。
「おはようメイサ。できれば大尉はやめてくれ。」
「じゃあ、裕一様…でよれしいでしょうか?」
「いや、裕一でいいよ。」
いいよ、というより呼んで欲しい。
「ゆ…ゆ、裕一……さん…。」
俺はさんをつけられたのが微妙にショックでひっくり返った。
「あのな、仮にも俺はお前と結婚の約束をしている訳だし、それはやめてくれよ。」
「あ、あれって私を村から14地区に行くために作った理由じゃなかったんですか?」
今度はかなりのショックだった。

ディーナ大佐はタヌーアとユーゲルを連れて王都に行き、ヘッケランに会っているらしい。イーライとクラークは新領主が任命されるまで15地区の治安維持を行なっている。
クーパーは集まった情報の整理、頭のいいリーは士官候補生の教官として働いている。
俺はというと、仕事をもらえず待機中だ。メイサは本部でいろいろ忙しそうだし、俺は今なにもやる事がない。
またギルド協会に行こうと思ったが、もうドラゴンと戦って当分はもういい。それにもしかするとあのいかれ女に会う可能性があるしな。
だとしたら寝るくらいしかやる事がない訳だが、寝てるくらいなら街をぶらぶらした方がいいな。
俺は街にでることにした。

14地区はかなり巨大な都市となり、王都に次ぐ二番めに大きな都市になったらしい。その事もあり、14地区の村や農村地帯は減少したらしい。
人口も増加し、14地区の兵の数も増えた。それに比例して大佐の兵も増えていた。
街を警備しているのは鎧を着て剣を持った兵士ではなく、銃で武装した軍警察が街の治安を守っている。
今や軍隊の指揮権は大佐にほぼ移り、領主ユーリーはなにもせずに大佐にすべて一任していた。
街にいるとたまに敬礼してくる兵士がいるができれば恥ずかしいからやめて欲しいものだ。
以前からよく行っていた酒屋を訪れると、そこには獣の耳が生えた少女がいた。奴隷解放があり、一定以下の階級の農民もしくわそれ以下だった獣族やゴブリンはこの14地区では普通に暮らしている。今でも奴隷扱いする輩がいるらしいが、そいつらは処罰の対象となり、軍警察に逮捕される。
どの世界にも差別なんでものはあるが、この世界のは一味違う。大佐がこの案をユーリーに伝える前までは奴隷の奴らは虐殺されたり売買されたりと、まともに扱われていなかったらしいが、奴隷を解放してくれた大佐に奴隷たちは感謝しているのだろう。
 
街から少し離れた場所にある旅人が集まる酒場に俺は出向いた。
「おっちゃん、ビール一つ。」
「はいよ。」
俺は銀貨一枚を置いてテーブルに出てきたビールをとった。
俺はビールを口にしようとした時、旅人の会話が耳に入ってきた。
「最近貴族の連中がやけに殺気立ってるよな。」
「ああ、この前王都近くに兵を動かしたり力の無い地区の領主を脅して食料や金を奪いとっているらしい。」
「貴族は先代の王様がやった事を恨んでるんだろうが、その件は多額の金で話がついたはずなのによぉ〜。全く貴族ってのは面倒な連中だぜ。」
「だがこの14地区にいれば安全だぞ。大佐って呼ばるてる女将軍が、見たこともない武器を使う軍隊で地区を守ってる。どういう仕組みかはわからんが、魔法の力は使われていないようだ。」
「そいつは是非一度でも使って見たいもんだ。」
「だがあれは14地区の軍隊しか保有していない武器で、更には一般に出回る事はほぼ無いらしい。」
「そりゃあ、残念だな。ならいっそ軍に入るか?」
旅人たちは大笑いしてまさかと言っていた。
たしかに軍に入るのはいい選択だと思う。もし軍隊に入るなら、この地区の軍隊に入れば死亡率は激減するからな。
初戦やタヌーアとの戦いの時は損害が出たが、今は装備が充実していて全く問題がない。
隊員数約15000人、装備は一新され、今ではM16A4、Scar、ACR、M4が配備され、他には迫撃砲に重機関銃、車両が追加され、戦力は強大なものになっている。
装備や銃火器や車両はイルムスが錬金術で生み出しているようだが、一体どんな仕組みなんだろうか。少佐は私の頭がレシピだとか言っていたが、全く意味がわからん。
とにかく俺たちの軍はこの世界でずば抜けた技術力を有し、単純な戦闘力は一国を相手に戦えるまでになっていた。



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