ガンスリンガー

限界集落村人

12

俺は檻の中で捕まった事を心底後悔していた。
剣崎愛華。よりによってあの女がこの世界にきているとは。
あの女との出会いは高校時代、俺は可憐な彼女に一目惚れし、思いを伝えた。
付き合って2年で俺は防衛大学へ、彼女は警察官になった。俺が防衛大学一年目迎えた頃だった。彼女と都合があって久々に会った時、彼女の性格は一言で言えば狂気へと変貌していた。
元から俺に対する愛情表現が度を越えていたが、それさえ我慢すれば大丈夫だった彼女だが、愛情という感情を越えて俺に危害を加えるようになった時、俺は身の危険を感じた。
今こうして檻のむこうにいる彼女を見るだけで、震えが止まらない。
「ボス〜私も檻の中に入れてくれな〜い?」
「駄目だ。」
「はぁ?死にたいわけ?」
「やれるもんならやってみろ。」
事情を知ったヘッケランは俺を捕虜とは思えないほど優遇してくれた。これなら逃してもくれそうな雰囲気だが、この女がいるんじゃ逆に檻の中の方が安全だ。
しかしせっかくの手がかりであるヘッケランを前にして愛華に怯えていてはいけない。色々話を聞くべきだ。
「ヘッケラン、元の世界へ帰る手段なんかは分かってないのか?」
「分かってたらこんな事してねーよ。こっちに来てこのいかれ女は仲間を殺すし、食料調達しに街に行ったらナンパしてきた男を殺すし。スラムに行ったらそこを仕切るボスを殺すわ、もうこっちに来てからこの女に迷惑しかかけられてないしな。」
「私は裕一の物なのに私に近づこうとするからよ。」
やはりこの女はいかれている。公安の友人に聞いた、1000人殺しの死神という噂は事実のようだ。
「気づいたら俺は死んだボスの代わりになっててな。今じゃ王国最大の犯罪シンジケートのボスさ。」
ヘッケランは困り果てた表情をしていた。そりゃそうだ。この女がいるのだから。
「ところで裕一、お前なんで俺たちのとこ襲撃しに来た?」
「お前の仲間が俺の姫騎士様をさらって行ったんだよ。だから助けに来た。」
「俺のってどういう事?」
俺の背筋にぞっと寒気が走る。視界に飛び込んで来たのは、檻を荒れ狂うゴリラのように叩く愛華の姿だった。
「ヘッケラン、こ、こいつをどうにかしてくれ!」
俺がそう言うと、ヘッケランは手刀を愛華の首元に振り下ろし、気絶させた。
「本当に悪いな。話の続きをしようか。」
その後、俺とヘッケランはそれぞれの内情を話し合い、情報を共有した。
ヘッケランは王国最大の犯罪シンジケートのボス、こっちは14地区領主の兵士。対極的だ。
ヘッケランと愛華がこっちに来る前から王政派閥と反王政派閥の対立はあったらしいが、そろそろ衝突があってもおかしくないと言った。
一方で王都は後継者争いの真っ只中。一番有力とされていた長男は毒殺され、今有力な候補は次男と三男。後継者争いはまだまだ続くそうらしい。
それと、現在の王に歯向い、破れた貴族たちが連合を結成し、力を蓄えつつあるらしい。王国の内部情勢は最悪だった。
「だが、こんな内部情勢で、他の国は攻め込んで来ないのか?」
「俺の部下の情報じゃぁ、サイシン共和国は魔王軍の討伐、ダウク帝国は軍備を増強中、聖戦同盟は自分の領土維持、魔王軍はサイシン共和国に侵攻中。そんな感じで王国は運良く攻められず、仲間割れをしているって訳だ。」
「なるほど。しかしどうやってそんなに情報を?」
「さっき、犯罪シンジケートのボスやってるっていったろ。この犯罪シンジケートはゲルマン王国の王都を中心して各国に支部を持っている。そこにいる部下たちから月一回報告がある。それで情報を集めているんだ。まぁ、クソの役にも立たない情報だったが、やっと役に立ったぜ。」
ヘッケランは俺に装備を返した。
「さぁ、このいかれ女が起きる前に帰るといい。」
「ヘッケラン、また来る事があるかもしれない。」
「そん時は帰る手立てを見つけた時にしてくれると幸いだな。」
俺は装備を整えて立ち上がろうとした。しかしその瞬間足に激痛が走る。さっきの傷の事を完全に忘れていた。麻痺して気づかなかったが、動かした瞬間に神経に激痛が走った。
「その傷じゃあ当分歩けねぇな。王都の病院に行ったら治癒魔法で1発なんだが、いかんせん金がかかっちまう。先月のこの女がやらかした事件収めるのに憲兵に賄賂を払ってなくなっちまった。悪いがここで治るまでじっとしといてくれ。看病はしてやるからよ。」
「お前の仲間に治癒魔法を使えるやつはいないのか?」
「俺の部下たちはみんな低層階級の国民、魔法を使えるやつらは中流階級以上のやつしか使えないんだよ。まぁ誰も使えないって訳じゃないが、そもそも魔法が使えるやつは犯罪シンジケートになんかならないんだよ。」
「じゃあ、俺はこのままあのいかれ女と同じ空間にいなきゃならないのか?」
「まぁ…そうなるわな…。」
俺は檻の中で怪我を治す羽目になった。

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