ガンスリンガー

限界集落村人

7

グリムホーム村を後にした俺は、父にメイサを第14地区に連れて行くのを条件に婚約を約束した。これはやむを得ない選択だったと俺は思っている。
帰りは何事もなく第14地区まで戻ることができた。
俺は既に帰還していた少佐に事情を説明し、メイサの事を話した。
「で、この女が大魔術師に認められた魔術師だと?」
「はい!メイサ・グリムホーム、不束者ですが、どうぞよろしくお願いします!」
「なかなかやる気があっていい子じゃないか。気に入った。」
少佐はそういってメイサの頭を撫で、珍しく自然な笑顔を浮かべていた。
「早速だがメイサよ、お前は覗いたやつの記憶をもう一人に見せることはできるか?」
「えっと…やってみたことはないですが、多分できます。」
「そうか。では頼みがある、私の記憶をこの老人に見せてやってはくれぬか?」
そう言って少佐は隣にいた伝説の錬金術師、イルムスの肩を叩いた。
「私、やってみます。」
「では早速私の全てをこの老人に見せてやってくれないか?」
少佐の目的は分からないが、俺はその場でその瞬間を見ることにした。
メイサは少佐の頭に触れると、なにかぶつぶつと小声で喋り始め、そのままイルムスの頭に触れた。
なにが起きたか分からないうちにそれは終わり、メイサは「終わりました。」と一言。
「どうだイルムスよ、これが私の全てだ。」
「これがあなたのいた世界…素晴らしい!」
イルムスは地面に崩れ落ちた。
俺にはなにがなんだか分からなかったが、どうやら少佐の目的は達成されたようだった。
「さて、裕一、全員を城に集めろ。」
「分かりました。」
俺はなにも考えず無心で皆を呼びに行った。

城にある使われていなかった部屋に、俺は全員を集めた。埃や塵が積もり、大きなテーブルだけがあるシンプルな部屋だった。
「諸君、集まってもらったのは他でもない…。今日は1日かけてこの場所を掃除してもらう。」
少佐がそう言うと、クーパーは頭を抱えた。
「はぁ……、なんで俺たちが掃除なんかしなきゃいけねーんだあぁぁぁあ!!?」
クーパーは大声で怒鳴り散らした。
「ここは領主にもらった部屋だ。これからは我々はこの部屋で元の世界に戻る手立てを模索する。その部屋が汚くちゃ集中できんだろ。」
「なんだそういう事か…。最初からそう説明しろよ……。」
クーパーが珍しく納得していた。どうやら元の世界に戻る為なら少佐に協力的なようだ。
かくして俺たちは部屋の掃除を始めた。
「すまないなメイサ、手伝ってもらって。」
「いえ、私にはこれくらいしかできませんから。」
俺たち六人に加え、メイサも掃除を手伝ってくれている。やはりいい子だ。
にしても汚い。多分相当の間使われていなかったのだろう。
俺たちは協力して部屋を綺麗にして行った。
クーパーは珍しく張り切っていて、普段より倍の意欲で掃除していた。
掃除は陽が暮れる前に終わった。俺たちの達成感はこの上なく喜ばしいたのだった。
掃除を終えると早速机の周りに集まり、少佐はこれからの話を始めた。
「まず、我々はこの世界について知る必要がある。言語に関する弊害はなぜか無い。だから文化や歴史をある程度勉強してもらう。」
少佐が勉強という単語を出した瞬間、全員のやる気が一気に失われた。
勉強なんてものは学生時代死ぬほどやった。それをまたするなんて考えると頭がパンクしそうになる。
「ただ、この世界での勉強は一味違う。メイサ、やってくれ。」
少佐がそう言うと、メイサは俺の頭に手をあて、もう片方をイルムスの頭にあてた。
するとその瞬間、頭の中に歴史に関する知識が流れ込んできた。
この世界にはかつていくつもの国があったが、戦争で残ったのはゲルマン王国、サイシン共和国、ダウク帝国、聖戦同盟、魔王軍の5つの国。その中でもゲルマン王国は一番巨大で、ダウク帝国とサイシン共和国は同盟を結んで王国を相手に長年戦っていたが、王国は内部事情により二か国に不可侵を約束し、そしていま内輪揉めの最中だと言う。
王国は王政派閥と反王政派閥に分かれていて、60ある地区のうち14地区を含む41の地区は王政派閥、13の地区は反王政派閥、他はどちら付かずである。
王政派閥はどうやらゲルマン王国国王の許しを得て反王政派閥を粛清しようと考えているらしいが、国王は寝たきりになってしまい、王直轄地や王都では世継ぎ争いが始まり、12いる子息のうち既に五人が死んでしまったらしい。
この深刻な状況は、いずれ俺たちにも影響するとはずだ。争いに巻き込まれる前に、早くこの世界から戻ることができればいいが。
全員に知識を与える作業が終わったところで、話し合いは再開する。
「この世界、国の現状を知ってもらったところで、本題に入る。クーパー、兵士の仕上がりは?」
「言われた通り最低限の新兵訓練はやった。こいつが使えるかどうかと言われたらどうかわからんな。」
「あとどれくらいあれば戦える兵士にできる?」
「さぁな。少なくとも後半年もあれば可能だが、あまりにきつい訓練をすれば逃げ出す奴も出てくるからな。」
「ならクーパー、お前は見込みのある奴を集めて特別な訓練をしてやれ。」
「まさかあれをやれって言うのか?大体そんなやつを作ってなんになる?」
「いずれ分かる。イーライとリーは引き続き基礎訓練を再開しろ。領主からもらった兵士は1000。こいつらをみっちり鍛えてやれ。クラークとユーゲルは王都で内情調査を行ってくれ。」
少佐は全員に指示を出す中、俺の名前だけが上がらなかった。
「以上、解散。」
皆少佐の掛け声でぞろぞろと帰っていった。
全員いなくなり、その場には俺と少佐、メイサとイルムスしかいなかった。
「裕一様、屋敷にお戻りになられないんですか?」
メイサの言う通り、俺はなぜその場で立ち尽くしているのだろう。
「ああ、ちょっと、先に戻っててくれ。」
俺はメイサにそう言って先に屋敷に行くように言った。
「あー眠い、わしも寝よぉ〜。」
イルムスもそう言って部屋から出ていった。
部屋には、俺と少佐だけが取り残された。
「あの、少佐……俺には指示はないんですか?」
「ああ、当分お前は待機だ。」
「は、はぁ……。」
「不服か?」
「いえそんな事は。」
「なら指示があるまで待機だ。暇だろうが我慢してくれ。」
俺は少しショックだった。なにか落ち度があったのかと考えてしまう。
「そうだな、暇潰しになるか分からんが、ギルド協会とやらに行ってみたらどうだ?」
「ギルド協会?」
「ああ、王都で聞いたんだが、この世界には魔王軍が生み出した魔物が蔓延っているらしい。ギルド協会ではそいつを倒せば報酬が支払われる。中には巨大なドラゴンなんかもいるらしい。」
「その話、詳しく聞かせて下さい!」
俺はギルド協会について色々話を聞いた。
ギルド協会では、国や軍、一般人からの依頼が集められ、それを冒険者たちが依頼を受けるという場所らしい。
基本的に魔物の討伐らしいが、俺はそれに興味を持った。



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