異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

第8話

 外に出ると、既に村の自衛団が集まりだしていた。
歳は若い者が高校生くらいの青年から、四〇代程の渋いおっちゃんまで計十一名の自衛団だった。
急な出来事に皆困惑しているようだった。
ジノが近付き声をかける。

「弓を使える者は?」

 ジノの問いかけに四人が手を挙げる。
一人は若い青年と、二十歳くらいのお兄さんが二人、渋いおっちゃんも手を挙げていた。

「村の櫓に登って近付く魔物を牽制して欲しい。
他の者は教会の守りを固めて下さい。
櫓にはシンを預けます。
コイツの魔法は役に立つはすです。
私が相手の頭を倒したら、すぐに村へと戻りますので、それまで持ち堪えて下さい」

 自衛団の皆は頷いたが、俺を見てそれぞれ顔を見合わせる。

「お、お言葉ですが、ジノ様。
この子は幼すぎます。
教会に篭るべきでは?」

 青年がそう言うと、幾人かが頷く。

「僕の事は心配無用ですよ。
むしろ、皆さんの事も僕が命がけで守ります」

 そう言って俺は飛翔し、櫓の天辺に降り立つ。

「皆さんも早く来てくださいね。
周囲を警戒しなくてはいけませんからねー!」

 俺は櫓の天辺から声張り上げる。
その言動に目を丸くしていた自衛団だが、弓を持った者達が足早に櫓へとやってきた。
俺は満足気に頷くと、ジノが額に手を置いて溜息をつく。
そして飛翔し、オレの隣へとやって来た。

「あまり派手な事をするなよ。
皆が驚いて変な噂が流れるぞ」

「そりゃあ無理だな」

 俺はそう言って魔力を解き放ち始める。

「俺、今やる気に満ち溢れてるからさ」

 普段は魔力の1割も出す事など無い。
出す必要もないからだ。
それこそ猪と対峙した時ですら。
だが、この戦いにおいては遠慮は無用だろう。
心置きなく、全力全開で立ち向かう。

「忘れるなよ、シン。
無茶だけはするな。
危険だと思ったらすぐに引いて私を呼べ。
約束だ」

 ジノが拳を俺に突き出す。
その目は懇願しているようでもあった。
俺は小さな拳をジノの拳にぶつける。

「わかったよ。
無茶はしない。
流石に五歳で死にたかないからね」

 そう言って俺は笑った。
するとジノも微笑む。

「では、私は先に行く。
奴等の頭を刈り取ってくる」

 そう言ってジノは飛翔し、一気に加速すると闇に消えていった。
俺はその向かった方角に目を凝らす。
俺にはジノのような卓越した生体感知がない。
だから、魔物があとどれ程の距離にいるのかはわからない。
ただ、いつでも襲って来ても対処出来るよう、村の周りを見回し続けた。

 程なくして、ジノが飛び出した方角の森林で大きな爆発音が何度も聞こえた。
ジノが戦っているのか?
その戦闘を間近で見たかったんだがな。
そんな事を思ってると、森林から出てくる影がいくつもある事に気付いた。
其奴らは松明を持ってるようで、複数の灯火が見える。

「オークですっ!」

 遠眼鏡を持った青年が声をあげた。
あの灯火はオークのか。
まだかなり距離はある。
500mはあるだろうか?
敵の位置がわかったのなら、あとは倒すのみ。
俺は両手を胸の前にもってきて、大きなボールを掴むように力を入れ、魔力を練り上げる。
出来上がったのはファイアボールの火球。
しかし、これを飛ばすだけでは飛距離が足りないし、威力も足りない。
俺はファイアボールに土魔法を重ねると、集まった石がファイアボールを包み込む。
これでファイアボム。
更に土魔法の変性を使い、表面を硬くする。
ファイアボム・シェルである。
其処に風魔法を展開。
一気に魔力を集中させ、ファイアボム・シェルの前に手を置くと、魔法陣が出来上がる。
その直後、手の平から爆発的な風圧を巻き起こし、ファイアボム・シェルを吹っ飛ばす。
それはまさに火薬の詰まった砲弾そのもの。
着弾すると、凄まじい爆炎と爆風を巻き起こして大爆発した。
あの複数あった松明がほとんど飲み込まれる。
すると、俺の身体からどんどん力がみなぎってくるのが伝わってきた。
これは……レベルが上がったのか?
しかも、多分一つや二つ上がったんじゃない。
かなり上昇してる気がする。

「い、今の……坊主がやったのか?」

 渋いおっちゃんが俺に尋ねてきた。
俺は平然と頷く。

「でもまだ、全滅はしてないっぽいよ。
ほら、散らばってこっちに向かってくる灯火がいくつかあるから」

 俺が指差すとおっちゃんもその方角にを見る。
遠眼鏡を持ってる青年も、生き残ったオークが向かってくる!と叫んでる。

 さて、残りのオークはあと十五匹くらいかな?
バラバラだから狙い難い。
さっきの俺の編み出した魔法の砲弾。
もとい、ファイアボム・カノンは連続使用には向かない。
初撃で大打撃を与える為に使っただけだ。
後は、確実に一匹づつ仕留めていく。

 俺は土魔法で礫を作り上げる。
ロックショットである。
しかし、それを直ぐには放たない。
浮かぶ礫を変性、硬質化させる。
礫がただの石から鉄のような鈍い輝きを放ち、その先端が尖りだした。
そして風魔法のトルネードを重ね、急速回転させる。
それはまるでドリルのよう。
そしてその前に魔法陣を作り出し、片手でその魔法陣に触れる。
その直後、またも凄まじい風圧が放たれ、弾け飛んだのは一つの弾丸。
オレの編み出した第二の魔法。
バレット・ショット。
岩すら砕き、鉄の盾も貫通するソレは真っ直ぐ飛び、灯火を持つ影を正確に撃ち抜く。
あの灯火を座標とし、魔法展開したのだ。
バレット・ショットはファイアボム・カノンと違い、マナのコストも低い。
一点突破の威力だけならバレット・ショットの方が優れている上、弾速も早い。
俺は次々にバレット・ショットを繰り出し、灯火の影を打ち倒して行く。
オークの姿がしっかり視認出来るほど近づいてきたのはわずか三匹。

 その姿は豚のような顔だった。
下顎が大きく、口から茶色く変色した牙が飛び出している。
人間の鎧を奪ったのか、ボロボロの鉄の鎧からは腹の贅肉がはみ出ている。
大きめの鉄の盾を構えて、もう片方の手には鉄の斧を握りしめていた。
櫓の中の自衛団が弓を引き絞って矢を放つが、彼等の命中率は悪く、当たっても盾で防がれてしまう。
防げる事が分かるとオーク達は盾を構えて門へと走り出す。

 俺は水魔法で水球を三つ作り出した。
それはアクアボール。
それを形状変化させ、三本の槍に変える。
風魔法で大気の力を操り、気温を急激に落として水の槍が凍らせていく。
出来上がった氷の槍を瞬時に放つ。
アイス・ジャベリンだ。
氷の槍は三匹のオークにそれぞれ向かって行くが、盾で防がれてしまう。
しかし、この氷の槍は突き刺す事が目的ではない。
砕けた氷の破片がオークに纏わりつき、その身体を凍らせていく。
瞬く間にオークの氷像が三つ出来上がった。

 俺は櫓の上で腕を組む。
どんなもんだい。
正直拍子抜けにも程がある。
でもまぁ、かなりレベルも上がったようだ。
これはこれで満足。

 そう思っていると、村の中でズシンっと音がした。
まるで何かが落ちてきたかのよう。
慌てて振り返るりと、更にズシンっ!ズシンっ!と二度続けて音がする。
砂煙の中から現れたのはオークだった。
しかし、さっきまでのと肌の色が違う。
さっき見たオークは緑の肌だったが、コイツらは肌の色がより濃く深緑色をしており、瞳は真っ赤に輝いている。
身体もさっきよりやや細いが、より筋肉質にもなっている。
黒金の鎧を身に纏った三匹のオーク。
それはまさしくハイオークの姿であった。
恐らく、あのオーク達に注意が向いてる隙に他の方角から近付き、大きく跳躍して柵を飛び越えたのだろう。

 ハイオークの一匹は両手で握りしめた大斧を持ち、もう一匹は片手にそれぞれ長剣を。
そしてもう一匹は長い槍と大楯を持っていた。
自衛団の弓兵が慌ててハイオークに狙いを定め、矢を放つが、奴等の動きは早かった。
さっきまでのオークと比べ物にならない。
ひと蹴りで2、3mは移動し、村を駆け回る。
そんな動きを自衛団達は捉えきれず、矢は的外れの所にばかり飛ばしている。
そして、双剣のハイオークが櫓の中に飛び込もうと大きく跳躍してきた。

「させないっ!」

 俺は片手を掲げ、暴風の塊を放ち宙を舞うハイオークを叩き落とす。
エア・ハンマーである。
しかし、ハイオークはしっかりと着地し、直ぐに飛び退き距離をとる。
そいつに気を取られてると、櫓の根元から轟音が響き、櫓が傾き始める。
中にいる自衛団の悲鳴が響き、俺は跳躍して飛翔する。
倒壊する櫓。
その柱を破壊したのは大斧を持ったハイオークだった。
中の自衛団の人達を見ると、櫓の残骸に挟まれて動けなくなっていた。
双剣のハイオークが長剣を振り上げ、自衛団に迫る。

「させねぇっての!」

 俺はすかさずファイアボールを放ち、双剣のハイオークを狙い撃つが、直ぐに反応してしたハイオークは火球を打ち落とす。

 ダメだ、集中しろ。
威力の弱い魔法は速射出来るが通用しない。
高威力の魔法をーーッ!

 そう考えていた瞬間、俺の肩に衝撃と激痛が走った。
小さな身体が吹っ飛び、村を囲う木の柵に叩きつけられ、地面に崩れ落ちる。
肩を見ると、槍が深々と突き刺さっていた。
大斧と双剣のハイオークは倒れてる自衛団に得物を振りかざしている。
俺は力を振り絞り、片手を上げて魔法を構築していく。
二つの礫が硬質、変形し、銃弾となって放たれる。
頭を狙ったつもりだったが、奴等の胸を撃ち抜いただけに終わった。
しかし、その射撃によって自衛団へのトドメの一撃を防ぐ事は出来た。
代わりに奴等の怒りの目がこちらへと向く。
遠くで槍を投げたハイオークも、村にあったであろう農業用のピッチフォークを握って近付いてきている。
どうやら三匹共、獲物を俺に定めたようだ。

 俺は槍を引き抜こうとするが、力が入らない。
抜くのは諦め、刺さったまま風の刃、ウィンドブレイドで柄だけを切り裂いて短くしておく。
俺は意識を失わないよう、治癒魔法を自分にかける。
ヒーリングによって多少は痛みが和らぐ。

 過信し過ぎていた自分を今更ではあるが恥じる。
自分は強い、と勘違いしていた。
まともな戦闘も、修羅場も潜っていないのに、魔法が少し得意なだけで強気になっていたのだ。
大馬鹿野郎だ。
魔物との戦いは命の取り合い。
だから、余裕など見せず、全力の本気を出すべきなのだ。

「“身体強化”っ!“身体硬化“っ!」

 魔力によって身体能力を底上げし、身体の耐久も引き上げる。
それだけで一気に身体が軽くなる。
絶対、村人を守り通す。

「かかってこい、豚共。
お前らぶっ倒して、俺の糧にしてやる」

 俺は片手を構えて魔力を解き放つ。
約束通り、命を懸けて、みんなを守る。
もう一つの約束、ジノには無茶すんな、って言われてたな。
でも、ここで無茶をしなければ、人が死ぬ。
そんなのは絶対ゴメンだっ!
だから早く戻って来いよ、ジノ!

 俺は両手を構えて魔力を込める。
迫るのはハイオークが三匹。
味方はいない。
対峙するのは五歳の幼子。
その戦いは、苛烈を極めていく。


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