異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

第6話

「ただいま。
リリアさんからパンもらった」

 俺は家に帰るとジノにパンを渡した。

「そうか。助かるな。
マナポーションでもお礼に渡すか」

「俺もそう言ったけど、マナポーションは要らないってさ」

 そう俺が伝えると、むぅ、と唸るジノ。
やっぱお礼はマナポだよな。
流石ジノ、考える事は俺と同じだ。

「では、これから行く村で何か土産になる物を買うか。
マリーダ村に行くぞ」

 ジノはマナポを大量にバックに詰め込んでそう言った。

「森の外に行くんだよな。
マリーダ村って少し遠いんじゃなかったっけ?」

「村で一泊し、また戻る。
どうやらマナポーションが入り用らしい。
行商人が襲われて物資が不足してるそうだ。
私達ほど頻繁にはマナは使わないだろうが、ある程度生活の上で魔法やマナ変換は使うからな」

 ジノは一枚の羊皮紙を俺に見せる。
それはどうやらマリーダ村の村長からの手紙のようだった。

「この手紙はどうやって届いたんだ?」

 郵便屋なんて来たか?

「伝書鳩でだ。
他にどうやって手紙を配る?」

 鳩が運んでくれるのか。
賢いな。

「いや、人が配ったりとか」

 元の世界でもそうだし。
まぁ、インターネットでのやり取りが普及しまくってるから、手紙じゃなくても連絡は出来るんだけどさ。

「手紙を届ける為だけに命はかけられん。
よほど大事な書物なら護衛もつけて人の手で運ぶだろうが……。
道中は危険が多い。
様々な魔物もいるし、盗賊や傭兵崩れのゴロツキもいる。
行商人も傭兵を複数雇わねば移動出来ない程な。
だから、マナポーションに限っては俺の所にも依頼が来る事もある」

 へぇ。生きにくい世の中だな。
尚更そういう奴らに対抗出来る力がいるわけか。

「それで、オルディール印のマナポを届けに行くんだな。
良いじゃん。俺も行ってみたい」

 なかなか面白そうな遠足だな。
ジノは頷く。

「少し長旅になる。
着替えの服くらいはまとめておけ。
明日か、遅くても明後日には戻る。
それだけの用意でいい。
もしも宿がとれなかったら野宿になるが、構わんな?」

「雨が降らなきゃな。
宿が取れることを祈ってるよ」

 俺はそう言って荷物をまとめていく。
と言っても、着替えくらいしか持って行くものなど無い。
荷物を皮のバックに詰め込み、外に出る。

「それでは行くか。
ある程度は飛んで移動するぞ。
途中で休憩して、また移動する。
夜になる前には到着したい。
いいな?」

 ジノが俺を見つめて確認してくる。
俺は大きく頷いた。
 
「よし、“飛翔”」

 ジノが飛び立つ。
俺もその後を追い、並行して空を飛んだ。
それから二時間ほどは空を旅して、一度降り立ち、広い草原で休憩する事にした。





「そういえばなんでジノが里から離れて住んでる理由って結局何なんだ?
なんか里に戻りづらいだの、一人が落ち着くだの言ってたけどさ」

 俺はマナポを飲料水代わりに飲みながら尋ねる。
一応言っておくけれど、マナが減ったからではない。

「そういえば、サラッとしか話さなかったか。
私はな。外の世界に憧れていたのだ。
エルフの里の閉鎖された空間が、若い時は息が詰まりそうでな」

 ジノはそう言いながら一口マナポを飲む。

「親や祖父からは里に二度と帰るな、と勘当され、私は飛び出した。
そして外の世界を気ままに旅をしているうちに、王国の魔導騎士団に勧誘されてな。
魔導騎士学校に入り、卒業して魔導騎士になったのだ。
これでも一応副団長を務めていたのだぞ?」

 ジノが懐かしむようにそう言った。

「でも、今は違うんだよな?
何で魔導騎士を辞めたんだ?」

 ジノは少し黙り込む。
しばしの沈黙を経て、また口を開いた。

「現王妃に私は慕われてな。
そして、私も彼女に惹かれていた。
しかし、彼女は現在の国王との許婚でもあった。
報われぬ恋というものだ」

 その瞳にはジノが今まで見たことない感情の色を映していた。

「なんかジノから恋とかの話が出るとは思わなかったわ」

「お前は茶化したいのか?話を終わりにするぞ」

「悪い、続けてどうぞ」

 俺は頭を下げる。

「まったく。そして、国王に私達が惹かれあっている事がバレたのだ。
それはもう国王であるザハルドは激怒したものだ。
そして私は国を追い出された」

「追い出されてばっかだな」

「自業自得だがな。
その頃、エルフの里で魔族が襲撃してきてな。
私の耳に届いたのは襲撃があって一週間も過ぎてからだった。
私は大急ぎで里に戻ったのだが、多くのエルフが犠牲となった。
しかし、なんとかその魔族は撃退出来たらしい。
私の父と祖父が最後まで抵抗し、追い払ったと聞いたよ。
その命と引き換えに、な。
もしも俺が里にいれば、あれ程の被害は出なかったかもしれないとも他の人には言われた」

 ジノは唇を噛みしめる。

「だから私は今あそこに住んでいるのだ。
里を捨てたこの身でおいそれと戻る訳にもいかん。
だが、魔導の名家であったオルディール家の生き残りの私は里を守る義務がある。
よって、あの場所で一人で住む事にしたのだ」

 思ってたより深い理由だった。
俺はてっきり人見知りのジノだから俺は一人が良いんです、って引きこもってるのかと思っていた。
ゴメンよ、ジノ。
俺はお前を勘違いしていたよ。

「お前、今物凄く失礼な事を考えていなかったか?」

 ジノがジト目で俺を見て頬を掴みギリギリと力を入れる。

「そ、そんなことないでふ。ジノはたいへんだったんだな、とおもいました」

「子供の感想か、まったく」

 ジノはそう言って手を離す。

「……後悔してんのか?」

 俺はジノに尋ねる。

「何をだ?」

「里を出た事とかさ。
魔導騎士になった事とか、姫さまを諦めた事とか、色々だよ」

 俺がそう言うとジノは考え込む。

「どうだかな。
後悔が無いわけではない。
だが、後悔など常に先には立ってはいない。
いつでも過ぎ去ってからするものが後悔なのだ。
しかし、その選択をしたのは自分だ。
ならば、その選択の成否より、選択をした事の責任を果たす事が重要なのではないか?」

 そう言ってジノは俺を見る。

「だから私は、お前を育てると決めたのだ。
私が選択した事だから、他の者に押し付ける訳にはいかなかった」

 俺はそれを聞いて、胸が熱くなるのを感じた。
ジノは、俺にとって父親であり、兄貴のような存在でもあり、親友でもあり、師匠でもある。
俺は心からジノを尊敬している。
普段は仏頂面をしているが、俺の前では朗らかな顔をするジノは、本当に優しい人なのだと俺は思う。
一生懸命赤ちゃんの俺を育ててくれた芯のある人だと知っている。
だから……。

「そんじゃあさ」

 俺は立ち上がる。

「俺も、ジノと同じ魔導騎士になるよ」

 そう宣言した。

「なんだそれは。
お前が魔導騎士になる理由があるのか?」

 不思議そうに顔をするジノ。
俺はニヤリを笑って答える。

「ジノの見た景色を、俺も見てみたい。
そんで、俺も色んなモンを守れるようになってやるよ。
そしたらジノ、お前の背負ってるもん、少し軽くてしてやるからよ」

 俺はそう言って笑った。
その顔をジノは目を見開いて見つめ、フッと笑って立ち上がり、俺の頭に手を置く。

「子供が生意気な事を言うな」

「見た目だけだろ?中身は同じおっさんだよ」
 
 俺はそう言い返す、
そんな俺に、ジノは一筋の涙を流し、口を開く。

「ありがとう。シン」

 その顔を、その声を、俺は忘れない。
必ず、この人と肩を並べられるようになる。
この日、俺はそう決意したのだ。


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