《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

しみずん

13 「「「もちろん」」」

 俺はターニャの目を真っ直ぐに見て、自分の気持ちを素直に、真っ直ぐに伝えた。

「ターニャ、もし……良かったらなんだけど。一緒に、俺達と一緒に……旅に出ない?」

 突然すぎる俺の言葉にターニャは目をまんまるにして、あっけにとられている。

 そりゃそうなるよね。いきなり何言ってんだ、俺。

「あ、いやっ! もちろんターニャが嫌なら別にいいんだけど……ほらっ! ターニャがいた方がチキも喜ぶだろうし、アイラもさ、もちろん、俺も……」

 気が付くと俺の袖は再びくいくいと引っ張られていて、視線を落とすとそこには愛くるしくウインクしたチキが右手の親指をぐいと立てていた。

 そして、俺の言葉にうつむいてしまったターニャは重々しく口を開く。

「……誘ってくれるのは……すごく嬉しいにゃ。でも……ターニャはハーフエルフだから……カミュ達と一緒にいると迷惑が掛かっちゃうにゃ。ターニャそんなの嫌だにゃ! 初めて友……友達、が出来たのに友達には嫌な思いして欲しくないにゃ! ターニャそんなの絶対に嫌にゃ!」

 閉じた眼から大粒の涙を零しながら、声を荒げてターニャは言う。

 肩の上のジロウはあの時俺にやって見せたように、右前足を天高く掲げてそして、高速で何度も何度も何度もターニャの頭に小さな前足を振り下ろしており、見る限りでは俺の左頬を叩いていた時よりも力強い気がした。それは見ようによっては、まるで激怒しているかのように感じてしまうほど、ジロウからははっきりとした熱を感じた。

 しかし当のターニャは全く痛がる様子もなく、耳を頭に沿うようにぺたりと寝かせ、ただただむせび泣くだけだった。

「ターニャ。世の中はまだ未熟なのです。世の中はあなたの事を詳しく知りませんし、正しく理解してくれない事も多々あるでしょう。その事で辛い想いをする時もやはりあると思います。でも、それでも、世の中はいつかきっとあなたの事を理解し受け入れてくれます。だから、勇気を出して一歩踏み出してみてください。たとえ辛い事があったとしても、私達はすぐ側にいますから」

「そうだよっ! ターニャは一人じゃない。僕やアイラやカミュが一緒なんだから平気だよ! それにもし、ターニャの悪口言う奴がいたら僕達がターニャの良い所を何時間かかってでも教えてやればきっと分かってくれるよ!」

「……にゃあ……アイラ、チキ……」

「何度考えても、どう考えても、ハーフエルフって理由だけでターニャの事を嫌いになんてなれないよ。それに、もし世の中のみんなが敵だとしても、俺達だけはどんな事があっても絶対に味方だ」

 そんな事、当たり前だ。

「……にゃはっ……にゃ、にゃははは……みんな……みんな……」

 嬉しそうに笑って、嬉しそうにターニャは泣き続ける。

 そして、

「ターニャは……ターニャはうるさいぞ。すぐにはしゃぐし、走り回るぞ、ご飯もいっぱい食べるぞ……それでもいいのか⁈」

 俺達は自然とターニャを囲んで、自然と同じ言葉を発していた。


「「「もちろん!」」」

 
 新たな仲間が出来た瞬間だった。

 富と名声が約束されたシリウスのパーティーを抜けて、結果的ではあるがハーレムパーティーを選んだ俺の判断は間違っていなかったと信じたい。




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