《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

しみずん

11 ジロウ

 しばらくの間、アイラと二人で子猫を楽しんでいると、チキとターニャが起きてきた。

「おふぁよぅ……」

 テーブルに向かってフラフラと歩いてきたチキはアイラの隣にちょこんと座って、アイラの肩に頭を預けた。両目を閉じて大きなアクビをしながらチキは二度寝を始める。

 ターニャは朝に強いのか、目をぱっちりと開いてキビキビと歩く、そしてテーブルまで歩みよるなりこう言った、

「あれっ⁈ ジロウだにゃ」

 ジロウ? 何だそれ。

「帰ってきたのかにゃ~!」

 ターニャは子猫を抱えて頭上へと持ち上げる。

 その事で、俺を拘束するものはもはや無くなったので、ようやく上体を起こして伸びをする。

 左頬が、やや寂しい感じがするので左手で撫でながら子猫の方を見る。

 アイラもやはり寂しいのか、右手の指先を擦り合わせて子猫を見上げている。

 持ち上げられた子猫はさすがに目を覚ましていて、ターニャを見つめて『ほっほっほっ!』と鳴いている。

 ターニャは子猫を胸に抱いて『おかえり、ジロウ』と声を掛け、ジロウと呼ばれた子猫は『おほほ~!』と喜色満面の笑顔でターニャの顔にじゃれついている。

 そんな光景を見ていると、まるで二匹のネコが遊んでいるようにしか見えなかった。

「ターニャ。そのネコは?」

「んにゃ? ああ、こいつはジロウだにゃ」

「ターニャが飼ってるの?」

 俺の問いかけにターニャは首を小さく横に振り、

「いんにゃ。飼ってる訳じゃないにゃ。一年くらい前に家に迷い込んできてそれからずっと定期的にやってくるのにゃ。にゃー? ジロウ」

 ジロウと呼ばれた子猫は目を閉じて、鼻先をターニャの下顎のラインにつけてじゃれている。

 羨ましいな。

 アイラはついに我慢出来なくなったのか、椅子から立ち上がって『抱かせて下さい!』と言い出した。

 アイラが立ち上がったのでおのずとチキはテーブルに倒れ込む。

 ターニャはジロウをアイラに手渡す。

 アイラの胸に抱かれたジロウは目を閉じて、鼻先をアイラの下顎のラインにつけてじゃれている。

 くすぐったいのか、アイラは顔をぴくぴくさせそして、ジロウへ頬擦りを始めた。

「可愛い! ジロウちゃん可愛い! ほらほらっ! すりすりしちゃうぞ~!」

 すりすりされるジロウは『おほほほ~!』と鳴き、一層元気にじゃれついていた。

 ジロウにメロメロになったアイラを見て、俺は逆に落ち着いていたのでターニャに質問をしてみた。

「ターニャ、ジロウってさネコだよね?」

「そだにゃ」

「鳴き声、変じゃない?」

「ん~。個体差って奴だろうにゃ」

 個体差って……。

 そんな問題?

「そう……なんだ。そっか。じゃあ、ジロウってもの凄く表情豊かじゃない? 普通のネコってだいたい無表情だと思うんだけど」

 まあ、怒ってる時は表情も出てくるけどさ。

 基本は嬉しくても無表情だ。

 笑ったりしない。

「ん~。それもやっぱり、個体差の問題かにゃ~」

 そうなのかにゃ~……。

 何か違う気がするけどにゃ~……。

 まあ、いっか。可愛いし。

 していると、ようやくチキも起き上がり辺りを見回して状況を把握したらしく、

「わ~! 僕、ネコ大好きなんだよ~! ほらっおいでおいで!」

 さっそくジロウにメロメロである。

 俺達四人にテーブルを囲まれて、四方から伸びる八本の手が容赦なくジロウの身体を撫でまわす。

「おほほほ~! ほっほっほっ! しゅっ! しゅっ! ほっほっほっ!」

 今日一番の大興奮である。

 それから俺達はしばらくの間、ジロウと遊ぶ事になった。

 エルフの森の朝はこんなにも清々しい。





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