《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

しみずん

10 子猫の楽しみ方

 あれから何時間経ったのか、あるいは数十分か。

 俺が再び目を開けた時には、アイラは目を覚ましていた。しかし、まだ起きて間もない虚ろな瞳で、じぃっと俺の様子を伺っていた。

 俺の寝顔がそんなに見たかったのかと思い、内心照れてしまう。

 アイラは両のまぶたをゴシゴシと擦って、目を何度もパチパチさせて、食い入るように俺を見つめる。

 アイラ、いつ見ても美人だなあ。

 そんなアイラが訝しげな表情で言う。声量はかなり小さめだ。

「カミュ……」

「……ん?」

「それは……何ですか?」

「…………ネコです」

 やっぱり。といった様子で納得するアイラ。正体が知れた次は、事の成り行きを聞いてきた、

「なぜ……ネコが……」

「……何でだろう?」

「今は、何をしているのでしょう?」

「……鼻を頬に突き刺して、寝てる」

「そう……ですか」

 アイラは右手を唇に当てて、部屋の中を見回し開いたままの窓を見つめてから、窓を指差し指先をついっとテーブルの方へと動かしてネコを指差した。

 恐らくネコの侵入経路を辿ったのであろう。

 そしてアイラは再び右手を唇に当てて熟考する。

「痛みは、ないですか?」

「うん。冷たくて気持ちいい」

 子猫の寝息が頬に当たって、ぷしゅ、ぷしゅん、と音をたてる。

 子猫が首を動かした事で、頬と鼻の間に一瞬隙間が生じたが、子猫は横向きに素早く鼻をねじ込んでその隙間を埋めた。

 何ともアクロバティックな格好だが、やはり密着していないとダメらしい。

 恐らくは母親のオッパイを咥えて寝てるって感覚なのだろう。

 アイラは投げ出された子猫の左前足の肉球を慈愛に満ちた瞳で見つめて、やがて、指先でつんつんと突きだした。

 肉球を触るアイラの表情は恍惚の境地といった感じで、もはや幸せそうだった。

 子猫は肉球がくすぐったいのか、身体を僅かに揺らした。

 俺の頬は冷たくて、

 アイラは幸せそうで、

 子猫はまだ、起きない。

 

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