《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

しみずん

8 もう夜も遅いにゃ

 語り尽くし部屋の中に静寂と虫の鳴き声が戻った。

「にゃはははは。ごめんにゃ~初対面の人間にこんな夜更けまで長々と変な話して。反省。ターニャ反省にゃ」

 言って、テーブルに頭から突っ伏した。

 すると、

「にゃは、にゃはは、にゃっははははははははははははははは!」

 突如として、ターニャが笑い出し俺とアイラは訳も分からず取り乱す。

 泣いたり、笑ったり。忙しい子だな。

「やめるにゃ~! にゃはは、はははにゃ、にゃにゃにゃははは」

 どうにも様子がおかしかったのでテーブルの下を覗いて見ると、チキがテーブルの下からターニャの脇腹に手を差し込んでいるのが見えた。

 なるほど。

 チキはテーブルの下から這い出て、ターニャの横にちょこんと立って言う。

「こうやるとね、可笑しくてたまらなくなるんだよ。そうするとね、笑顔になって嫌な事を忘れちゃうんだよ。あ、これねカミュが教えてくれたの」

「にゃははは……はぁ、はぁはぁ……確かに嫌な事なんて吹っ飛んだーーーーーーにゃあ!」

「きゃきゃきゃきゃきゃ!」

 どうやら攻守が入れ替わり、今度はターニャが攻める番のようだ。

 疾風の如きスピードでチキの脇腹に差し込まれたターニャ右手は艶めかしい動きでチキのウィークポイントを容赦なく攻め立てる。

 チキはたまらずターニャの魔手から逃れようと試みるが、ターニャの信じられないような素早い動きによってそれを封じられてしまう。

「きゃきゃきゃ……はきゃ……きゃ……」

 容赦ないターニャの攻めにチキの腹筋は限界を迎えつつあった、筋繊維がこれでもかと収縮運動を繰り返し少しずつ破壊されていった。呼吸がまともに出来ない、苦しい、負けてたまるもんか、僕はいつもカミュとの特訓で鍛えているんだ、それに僅かだけど腹筋も割れて来たんだ。く……これ以上守ってちゃダメだ、僕も、僕も、攻めに転じる! そんなチキの心の声がありありと聞こえた気がした。

 チキは今現在可能な限りの酸素をその小さな身体に取り込んで、両の脇腹を守る両の手を遂に解き放ちターニャへの攻撃へと転じた。

「ーーーーにゃっ ︎」

 勝利を確信をしていたターニャの脇腹は誰がどう攻めても崩せるくらいにガラ空き状態で、ましてチキの小さな細腕である、ターニャの両の手の隙間を縫って脇の下の限りなく奥深くに突き刺さった。

「にゃはははははははははは!」

「あっきゃきゃきゃきゃきゃ!」

 互いが互いの脇腹に両の手を差し込んでの熾烈きわめる戦いは床に身体を投げ出しての大乱闘にまで発展しかけたので、俺とアイラはさすがに見兼ねて二人の間に割って入った。

 俺はチキの身体を抱きかかえて引き離す。

 アイラはターニャに手を差し伸べて椅子へと導く。

「いーーーーーーーーーーっ!」

「しゃーーーーーーーーーっ!」

 俺とアイラは苦笑いを浮かべて威嚇しあう二人をなだめる。

「はぁはぁ……やるにゃ、お前」

「はぁはぁ……君もね」

 二人は熾烈きわめる戦いを繰り広げたおかげで、なんだかよいライバルとなったようで互いに認めあっているようだった。

「にゃはははは……楽しいな~。誰かとこんな風に話して、遊んで、笑うだにゃんて初めてだにゃ。にゃはははは」

 ずっとハーフエルフとして迫害を受けてきたターニャにとっては、誰かとじゃれ合うといったこんなにも当たり前の出来事が全て初めての経験で、全てが新鮮なのだ。

 そんなターニャの弾ける笑顔を見ていると、俺はハーフエルフへの理解のない世の中に対しやり場のない怒りを覚えた。

 何でこんなにもいい子がハーフエルフだからって理由だけで、酷い扱いを受けなければいけないんだ。

 何をどうやって考えても俺には答えが解からなかった。

 というか、解かる筈がない。

 ターニャが迫害を受けるにたる正当な理由なんて、この世界にある筈がないのだから。

 俺の胸の中では、怒りや憎しみといった負の感情が渦を巻いてドス黒い底なし沼の中に沈んでいくのを感じた。

 すると、突然ターニャはいい事思いついたとばかりに立ち上がって、

「そうだにゃ! みんな今日はもう、ターニャの家に泊まって行くにゃ! そうだ、それがいいにゃ! にゃっははははははは!」

 なぜか大興奮のターニャである。

 まあしかし。確かにその申し出は、ありがたい所ではあった。話し込んでいるうちにすっかり夜も更けてしまったし、俺一人ならまだしもアイラとチキを野宿させるのは忍びない。

 なので俺達は、ターニャのお言葉に甘える事にした。

「みんな一緒にベッドで寝るにゃ!」

「やっほーう!」

 ターニャに感化されたチキが叫ぶ。

 いや、どう考えても無理だろう。あのベッド、シングルタイプだし。

 それに色んな面でマズイだろう。

 結局、ターニャとチキがベッドで眠り、俺とアイラはテーブルに突っ伏して眠る事にした。

 ゆっくりと目を閉じて今日一日を振り返る。

 はあ……なんだかんだと本当に色んな事があった一日だった。

「にゃははは」

「あきゃきゃきゃ」

 ベッドで騒ぐ二人の声を聞きながら、俺の意識はすぐに夢の中へと溶けていった。
 

「《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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