冒険者の日常
帝都への招待状
「……なんか、どっと疲れた」
ギルドの扉をくぐったところでやっとアイシャが手を離してくれた。というかユニに連行されて行ったのだ。
なんでユニがここに居るんだろうか、まだ昼前なんだけど。そう思っていたら僕の前にはカサエラーが立っていた。だからなんでここに居るんですか?
「とりあえず回復おめでとうと言わせてくれ、よう頑張ったわ」
「……あ、ありがとうございます、それよりも僕が傷つけてしまった冒険者達は?」
これが本当に気がかりだった。これで死んでしまっていては僕は取り返しのつかないことをしたことになる。3年前と何も変わらない……いや、とてつもなく大きな違いがある。今回は僕が殺戮者になりかけていたということ、そこが大きな違い。
「……ん?」
そこで何かとてつもないつっかかりを覚えた。何か忘れている、違う。気がつけそう、思い出せそう?
いや、それも違う。
なんだろう、この違和感は……
「そこにおる」
カサエラーが指すのはギルドの食堂の席。こちらに向かって手を振る5人組。そんな彼らは傍から見てもわかるほどの重症だった。あれだけの怪我をさせてしまったということ、その怪我が冒険者家業にどれほどの影響、いやそれだけではない、あの怪我では日常生活にも影響が出てくるだろう。とてつもない罪悪感と自己嫌悪が沸き起こる。僕がしたことはあの怪物と何も変わらなかった。死人は出ていないものの怪我を負わせている。
僕はその机まで行き頭を下げる。
「本当にすいません。僕のせいで皆さんに怪我を……」
「頭を上げてくれや、ネロ。こりゃ別に治らないわけじゃない、医者が言うにはしっかり直せば元通りになるそうだ、な? だから頭を上げてくれ」
「本当に……」
言いかけて思いっきり肩を叩かれる。突然のことに驚いていると「辛気臭い顔をするな、こっちの手はこんなに元気なんだぜ。あ、それよりもとんでもねぇ話があるんだ」と、高らかに笑いながら冒険者同士で顔を見合わせる。そして口を開きかけた時だった。
「そのお話は私からさせていただきます」
いつの間にかギルドマスターのシャルティアが冒険者達の後ろに立っていた。
「うおっ!! シャルさん、心臓に悪いからもっと気配を出してくれ……」
同様に椅子から飛び上がったほかの4人が首を縦に振る。かく言う僕も相当に驚いている。何とか表情には出ないようにしているが、なんとも言えない恐ろしさを感じていた。
「いえ、これでも出してるんですよ、結構頑張って」
それでも簡単には捉えられない、僕ですら意識しないと感じられない気配そもそもそれだけ気配が消せるなら暗殺者《アサシン》として活躍出来るんじゃないだろうか。
「はい、私も一応元冒険者ですよ。そこまでレベルは高くないですけどね……」
心を読まれたのだろうか。顔に出ていたのだろうか、それともよくある質問なのだろうか。どれにしてもとてつもない観察眼であることは否定のしようがない。
「それで、話というのは」
何故か止まらない冷や汗を拭きながら、話を逸らす。普段は温厚で優しい人ほど裏があったりする。その裏には触れない方が身のためだ。
「あっ、そうでした。お話というのはこの手紙に書かれています」
そう差し出された手紙を見て、いや正確にはそこに押されている印を見て膠着《こうちゃく》した。それはほかならないこのアンティライカ帝国の印だった。
「ど、どういうことですか?」
「中を見てからどうぞ……」
まだこれ以上に驚くことがあるのだろうか。そもそも帝国印が押された書状など滅多にお目にかかれるものではない、そもそも国交で使われるものだからだ。あとあるとすれば……
「……………………」
考えていなかった訳では無いが、言葉を失うとはこのことだ。
「……叙勲?」
帝国印が押された書状が出るのはこの国交の場そして叙勲の知らせ。国を上げての事柄であるこの2つのみで帝国王自ら押捺をするそうだ。
「えぇ、ドラゴンロード討伐の褒美、との事です。3日後に出発です」
もちろんの如く僕に拒否権はないようでもう既に帝都までの手配がされている。もとより僕に断らせる気は無いということがヒシヒシと感じられる。
そもそも帝国王直々の呼び出しだ、断ったら最悪この国にいられなくなる。
「さぁ、ネロの回復祝いだぁ!!」
誰かが声を上げ、ギルド内は祭り騒ぎとなった。
ギルドの扉をくぐったところでやっとアイシャが手を離してくれた。というかユニに連行されて行ったのだ。
なんでユニがここに居るんだろうか、まだ昼前なんだけど。そう思っていたら僕の前にはカサエラーが立っていた。だからなんでここに居るんですか?
「とりあえず回復おめでとうと言わせてくれ、よう頑張ったわ」
「……あ、ありがとうございます、それよりも僕が傷つけてしまった冒険者達は?」
これが本当に気がかりだった。これで死んでしまっていては僕は取り返しのつかないことをしたことになる。3年前と何も変わらない……いや、とてつもなく大きな違いがある。今回は僕が殺戮者になりかけていたということ、そこが大きな違い。
「……ん?」
そこで何かとてつもないつっかかりを覚えた。何か忘れている、違う。気がつけそう、思い出せそう?
いや、それも違う。
なんだろう、この違和感は……
「そこにおる」
カサエラーが指すのはギルドの食堂の席。こちらに向かって手を振る5人組。そんな彼らは傍から見てもわかるほどの重症だった。あれだけの怪我をさせてしまったということ、その怪我が冒険者家業にどれほどの影響、いやそれだけではない、あの怪我では日常生活にも影響が出てくるだろう。とてつもない罪悪感と自己嫌悪が沸き起こる。僕がしたことはあの怪物と何も変わらなかった。死人は出ていないものの怪我を負わせている。
僕はその机まで行き頭を下げる。
「本当にすいません。僕のせいで皆さんに怪我を……」
「頭を上げてくれや、ネロ。こりゃ別に治らないわけじゃない、医者が言うにはしっかり直せば元通りになるそうだ、な? だから頭を上げてくれ」
「本当に……」
言いかけて思いっきり肩を叩かれる。突然のことに驚いていると「辛気臭い顔をするな、こっちの手はこんなに元気なんだぜ。あ、それよりもとんでもねぇ話があるんだ」と、高らかに笑いながら冒険者同士で顔を見合わせる。そして口を開きかけた時だった。
「そのお話は私からさせていただきます」
いつの間にかギルドマスターのシャルティアが冒険者達の後ろに立っていた。
「うおっ!! シャルさん、心臓に悪いからもっと気配を出してくれ……」
同様に椅子から飛び上がったほかの4人が首を縦に振る。かく言う僕も相当に驚いている。何とか表情には出ないようにしているが、なんとも言えない恐ろしさを感じていた。
「いえ、これでも出してるんですよ、結構頑張って」
それでも簡単には捉えられない、僕ですら意識しないと感じられない気配そもそもそれだけ気配が消せるなら暗殺者《アサシン》として活躍出来るんじゃないだろうか。
「はい、私も一応元冒険者ですよ。そこまでレベルは高くないですけどね……」
心を読まれたのだろうか。顔に出ていたのだろうか、それともよくある質問なのだろうか。どれにしてもとてつもない観察眼であることは否定のしようがない。
「それで、話というのは」
何故か止まらない冷や汗を拭きながら、話を逸らす。普段は温厚で優しい人ほど裏があったりする。その裏には触れない方が身のためだ。
「あっ、そうでした。お話というのはこの手紙に書かれています」
そう差し出された手紙を見て、いや正確にはそこに押されている印を見て膠着《こうちゃく》した。それはほかならないこのアンティライカ帝国の印だった。
「ど、どういうことですか?」
「中を見てからどうぞ……」
まだこれ以上に驚くことがあるのだろうか。そもそも帝国印が押された書状など滅多にお目にかかれるものではない、そもそも国交で使われるものだからだ。あとあるとすれば……
「……………………」
考えていなかった訳では無いが、言葉を失うとはこのことだ。
「……叙勲?」
帝国印が押された書状が出るのはこの国交の場そして叙勲の知らせ。国を上げての事柄であるこの2つのみで帝国王自ら押捺をするそうだ。
「えぇ、ドラゴンロード討伐の褒美、との事です。3日後に出発です」
もちろんの如く僕に拒否権はないようでもう既に帝都までの手配がされている。もとより僕に断らせる気は無いということがヒシヒシと感じられる。
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