冒険者の日常
本当の戦い
「いい、魔術はだめ。全部吸われて強化されるわ。注意を引くだけでいい、そして誰も欠けないこと……」
ユニは冒険者達にそう告げる。
場は異様な程に重い空気が漂っている。更にはネロが今もなお放っているプレッシャーにはカサエラーですら1歩引く程だ。
「……本当に、こんなのとやり合うのですか……」
ユニは今すぐにでもここから逃げ出したかった。冒険者の自覚や認識、プライド……そんなものよりも命の方が大事だ。
「これはもう、人間の領域じゃない……」
ここにいる誰もが早くこの場から離れたいと思っていた。まともにやり合えば命がいくつあっても足りないことを本能的に理解していたから。手足は震え腰は引け汗が至る所から出てくる。それでも黒い瘴気は止まることなく空を染めていく。真っ黒くどす黒く空と彼らの体と心を蝕んでいく。
「……行くぞ」
カサエラーの掛け声で冒険者は震える足と怯える心に鞭を打って一斉に散らばった。程なくしてネロを囲むように円形の陣形が形成される。
「……アイシャ、絶対に死んじゃダメよ」
ユニは念を押す。
彼女は理解していた。理論や概念そんなものではなく本能的に何故かそう思った。
『ネロを止められるのは他の誰でもない。彼女一人しかいないのだと』
故に何度でも例えしつこかったとしても何度でも言うのだ。
「死んじゃダメ……」
「わ、分かってます……」
彼女の声は震えている。不安だろうか緊張だろうか、しかし確かな揺るぎのない決意を感じられた。
迷いを捨てる、自分の中の弱さを捨てる。自分が出来ることをするしかないのだ。
「よし、行ってらっしゃい」
アイシャが駆け出す。
「初撃、初め!!」
同時に前後左右4方向から冒険者がネロに襲いかかる。
金属同士がぶつかる甲高い音が響く。ネロはまるで予想していたかのように1本の刀と強化した腕で全ての剣を受け止めていた。
「くっ、何とか抑え込め……あの嬢ちゃんが、頑張れるように……」
「はっ……言われなくても、そのつもりだよおお!」
冒険者は冒険者達は自分がいかに無力かを知ることになる。4人ですらネロには勝てない、少しの間鍔迫り合いを続けることしか出来ない。
次元が違う。強さも気持ちも何より覚悟が違う。何もかもが違う。
「だから……だからなんだ、それでも俺は冒険者だ!!」
押し返されていた剣が踏みとどまる。
「嬢ちゃん……今だぜ」
アイシャは静かに頷き、ネロの前に立つ。
パチーン
乾いた音が戦場に響く。
「……えっ?」
それは誰があげた声だったろうか、ユニだろうか、カサエラーだろうか、ほかの冒険者だろうか。一瞬にして戦場は静寂と混乱が生まれる。混乱ゆえの静寂とも言うかもしれない。
「いい加減にしてください、お兄ちゃん。私は怒っています。とてもすごく怒っています」
「……アイシャちゃん?」
4人のひとりが声を上げる。
「静かにしてください」
「あ、はい。すいません」
瞬間的に黙らされていた。いつものアイシャとは違う雰囲気に皆が驚き声を失っている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは強いんですよね。闇だかなんだか知らないけどそんなのに負けてないでよ、いつもの優しいお兄ちゃんに戻ってよ……」
アイシャの声は段々と弱々しくなっていく。
「やだよ……こんな、こんなことでお兄ちゃんがいなくなっちゃうなんて……嫌なのぉ〜〜」
青い瞳からは涙がポロポロと流れている。そして、そのままネロの胸に抱きつく。
「負けないで……私をひとりにしないで……」
左手が動き受け止めていた剣が受け流される。そのままネロの左手がおもむろに動く。
まずい、誰もがそう思った。ユニも咄嗟に走り出した。誰もが間に合わないと分かりながら必死に動いた。
しかし、動いた手はアイシャの頭を軽く撫でただけだった。
「……泣か、ないでよ……アイシャ……僕はちゃんと……」
  黒い瘴気は霧散し、ネロは気を失った。
ユニは冒険者達にそう告げる。
場は異様な程に重い空気が漂っている。更にはネロが今もなお放っているプレッシャーにはカサエラーですら1歩引く程だ。
「……本当に、こんなのとやり合うのですか……」
ユニは今すぐにでもここから逃げ出したかった。冒険者の自覚や認識、プライド……そんなものよりも命の方が大事だ。
「これはもう、人間の領域じゃない……」
ここにいる誰もが早くこの場から離れたいと思っていた。まともにやり合えば命がいくつあっても足りないことを本能的に理解していたから。手足は震え腰は引け汗が至る所から出てくる。それでも黒い瘴気は止まることなく空を染めていく。真っ黒くどす黒く空と彼らの体と心を蝕んでいく。
「……行くぞ」
カサエラーの掛け声で冒険者は震える足と怯える心に鞭を打って一斉に散らばった。程なくしてネロを囲むように円形の陣形が形成される。
「……アイシャ、絶対に死んじゃダメよ」
ユニは念を押す。
彼女は理解していた。理論や概念そんなものではなく本能的に何故かそう思った。
『ネロを止められるのは他の誰でもない。彼女一人しかいないのだと』
故に何度でも例えしつこかったとしても何度でも言うのだ。
「死んじゃダメ……」
「わ、分かってます……」
彼女の声は震えている。不安だろうか緊張だろうか、しかし確かな揺るぎのない決意を感じられた。
迷いを捨てる、自分の中の弱さを捨てる。自分が出来ることをするしかないのだ。
「よし、行ってらっしゃい」
アイシャが駆け出す。
「初撃、初め!!」
同時に前後左右4方向から冒険者がネロに襲いかかる。
金属同士がぶつかる甲高い音が響く。ネロはまるで予想していたかのように1本の刀と強化した腕で全ての剣を受け止めていた。
「くっ、何とか抑え込め……あの嬢ちゃんが、頑張れるように……」
「はっ……言われなくても、そのつもりだよおお!」
冒険者は冒険者達は自分がいかに無力かを知ることになる。4人ですらネロには勝てない、少しの間鍔迫り合いを続けることしか出来ない。
次元が違う。強さも気持ちも何より覚悟が違う。何もかもが違う。
「だから……だからなんだ、それでも俺は冒険者だ!!」
押し返されていた剣が踏みとどまる。
「嬢ちゃん……今だぜ」
アイシャは静かに頷き、ネロの前に立つ。
パチーン
乾いた音が戦場に響く。
「……えっ?」
それは誰があげた声だったろうか、ユニだろうか、カサエラーだろうか、ほかの冒険者だろうか。一瞬にして戦場は静寂と混乱が生まれる。混乱ゆえの静寂とも言うかもしれない。
「いい加減にしてください、お兄ちゃん。私は怒っています。とてもすごく怒っています」
「……アイシャちゃん?」
4人のひとりが声を上げる。
「静かにしてください」
「あ、はい。すいません」
瞬間的に黙らされていた。いつものアイシャとは違う雰囲気に皆が驚き声を失っている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは強いんですよね。闇だかなんだか知らないけどそんなのに負けてないでよ、いつもの優しいお兄ちゃんに戻ってよ……」
アイシャの声は段々と弱々しくなっていく。
「やだよ……こんな、こんなことでお兄ちゃんがいなくなっちゃうなんて……嫌なのぉ〜〜」
青い瞳からは涙がポロポロと流れている。そして、そのままネロの胸に抱きつく。
「負けないで……私をひとりにしないで……」
左手が動き受け止めていた剣が受け流される。そのままネロの左手がおもむろに動く。
まずい、誰もがそう思った。ユニも咄嗟に走り出した。誰もが間に合わないと分かりながら必死に動いた。
しかし、動いた手はアイシャの頭を軽く撫でただけだった。
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