nox-project 姉妹の奇妙な学園生活
11.Red fraction
クマガワさんの部屋を探索中。違和感を覚えつつも必要なものとそうでないものを二人で分けています。
「キルメア、これはー?」
「魔法薬用の材料のひとつですわね。アンドラス叔母様ならともかく、私たちは別に薬学知識もありませんし放置しときましょう?」
「はーい」
ということの繰り返し。
ここにはコルセアだけで判断できるようなものは少ない。
前に訪れた時には気付きませんでしたが、あまり娯楽品はありませんね……。
嗜好品として、紅茶の葉やカップは見付けられましたが……いったい、どんな毎日を送っていたのでしょうか。
先に訪れた他の方々の部屋には、それなりに娯楽品はありました。
というより娯楽品のひとつやふたつ、在って然るべきに思いますが。
それに、写真も見当たりません。
勿論、私の写真や二人で撮影した写真は確かに見付かっています。
同じく、同じ学友である人物との写真も見付かっています。
しかし、自分のルーツとも言える家族の写真が1枚も見付かってないのですわ。
私たちの部屋には、御父様との写真や他の親族との写真も普通に飾られています。
流石に飾ってるのは御父様と私たち姉妹のみが映った写真で、他の親族との写真はアルバムに仕舞っていますが。
そうしないと、部屋中が写真だらけになりますので。
そんなことを考えていると、表紙が灰色の厚めの本のようになっているものをコルセアが持ってきた。
しかし、表紙にはなにもない。
ノート……にしてはしっかりし過ぎてますわね。
でしたら、長年経過しても読み直すことができる個人的なものでしょう。
といえば、やっぱり……
「キルメアー、これはー?」
「これは日記帳、ですの?」
「みたいだね。机の一番下の引き出しから見付けたんだー」
机の方を見ると、かけられていたらしい南京錠が壊されていた。
「コルセアが鍵を壊しましたの?」
「いんやー?初めから壊されてたよ?」
確かに南京錠を壊すような音も聞こえてませんでしたし、コルセアにパイモン叔母様のような解錠技術があるとも思えません。
なら、誰が?本人ならわざわざ破壊する必要もありませんわよね。
少し気になりつつも、日記帳を読むことにします。
「あまり良いこととは言えませんが、仕方ありませんわよね?」
そう、自分に言い訳をしながら日記帳を捲った。
日記帳にあったのは、学園に入る前の話から今に至るまでの話が記載されていた。
読みやすく正確に書かれている為、私は感心しました。
「随分とマメに日記をつける方だったのですね」
「日記帳かー」
「あら、コルセアも日記とか書く気がありますの?」
「3日間で飽きる自信があるよ」
「あらあら」
飽きっぽい妹と談笑しながら日記を読む。
学園に入る前の彼女の日記によると、彼女の一族はある世界でまるで魔王のように扱われて君臨する《球磨川鬼》という一族のひとりだったみたい。
そこでは魔王軍ではなく百鬼夜行という集団を持ち、有象無象の魔物を従えさせて生きていたとか。
しかし、それも長男、長女が継ぐ話。
日記によると、彼女は6番目の子。
つまり、それこそ上の兄や姉が居なくならない限りは百鬼夜行を継ぐなんて事は出来ない。
とはいえ、彼女にそんなものに興味がなかった様で、学園を卒業したら細々と田舎で薬屋や医師として働くつもりだったみたいです。
「アンドラス叔母さんと話が合いそうな人だったんだね」
「何事もなかったら、の話ですが」
それから暫くは、平凡な日常が書かれていて更に日記帳を読み進めると、ここ1年分の日記にたどり着きました。
そこには悲惨な話がありました。
彼女の兄や姉たちが次々、殺されていったこと。
交流があった家族とは、疑心暗鬼が基で絶縁になってしまったこと。
それにたいして、彼女は深い哀しみに陥っていたこと。
「身内の死亡かぁ……」
「恐らくは、同じ家族による殺人でしょう」
「え?家族が家族を殺すの?なんで?」
嗚呼、コルセアにはそんな考えはまったく無かったのですね。
「こういう権力がある一族には、よくある話ですわよ?いいえ、権力が無くても大きな遺産とかがあればあり得ない話でもありません」
「そうなんだ……」
「私たちノックスには、あまりピンと来ない話でしょうけどね。確かにおばあ……いえ、アンヘルちゃんの権力は恐ろしいものでしょうけど、継げるものでもありませんし……」
「それに、アンヘルちゃんをどうこうするなんて、まさに無理ゲーだからね。同じ理由で叔父さんや叔母さんたちが争っても無駄なことにしかならないよ」
まぁ、私たちの場合、家督争いじゃなく思想の違いで争う血族も実は居るみたいなんですけどね?
成る程。こんな状況だったから、彼女が行方を眩ましても他の肉親が来なかったのですね。
更にページを捲ると、私の話が出てきました。
「あー、これがキルメアとあの人が会ったときの話だね?」
「ええ。これを見る限りは、確かに好感は高いのでしょうけど、あくまでも友人って感じに見えますが。如何に自分に置かれた環境が劣悪でも始めから人に依存するって訳じゃないみたいですわね」
「前にアンドラス叔母さんから聞いた、極度の依存症とかのある人じゃ無かったんだね」
日記を見ると、肉親と絶縁関係になりながらも、その哀しみを持ちつつも必死で生きようともがいている彼女の強さが見えました。
「なら、どうして……」
疑問に思いながらも、ページを捲る。
6か月前程のページにたどり着きます。
そこには、こんな内容がありました。
『友達と遊びにいった帰り、幼い子供に声をかけられた。
その子は泥だらけで、話を聞くと家がないみたい。
ホームレスとか、そういう子かな?
心配だし、暫くウチに泊めようと思う。
他の人にバレないよう、来客があったときはクローゼットに入ってもらえば大丈夫だよね?
あ、そうそう。その子の名前は○○○=○=○○○○。これからよろしくね?』
「あれ?名前が……」
「ええ。インクで消されてますわね」
「魔法で修復できないの?」
「少しやってみますわ」
魔力を指に込め、インクの箇所に触る。
本来なら浮かび上がって消えるはずなんですが……
「無理みたいですわね。何か特殊な薬剤が塗られているのかもしれません」
「自分で消したのかな?」
「いえ、鍵を壊した人物……恐らくは、その名前の主が意図的に消したのでしょう」
「幼い子供?」
「ええ。尤も、本当に幼い子供なのかは怪しいですが。その気になれば見た目を変える魔法なんて少なくもないでしょうからね」
「確かに。それか、アンヘルちゃんみたく見た目だけが幼いだけの超高齢者って可能性もあるからね。若作りオババー!」
「ま、まぁ、それについての発言は控えさせて戴きますわ」
突然の妹の暴言に冷や汗をかきつつも、ページを捲る。
やはり、その子の名前は消されている。
更に、何日目かのページに至っては完全にインクで読めなくなってるものもありました。
「恐らく、その1日分のページにはその人物の個人が特定されるようなことが書かれていたのかもしれません」
「誰なんだろう……」
とりあえず読める部分だけ、読みましょう。
『今日は○○○と遊ぶことにした。
○○○はときに、凄く賢いことを話すことがある。
私が学校の宿題をしていると、ちょっとした間違いをしてしまい、それに気付いた○○○が指摘してくれたりする。
もしかしたら、私より魔法の知識があるのかもしれない。
そんなときは、ご褒美に彼女の好物であるプージャを淹れてあげると喜ぶ。
やっぱり子供なんだね。こんなにはしゃぐなんて。可愛い』
「プージャ……テーブルにあったバター茶はその子のものだったみたいですわね」
「ってことは、もしかしたらこの部屋にひとりで残されていたのかな?」
「いいえ。それならアンドラス叔母様が気付かないわけがありません。少なくても私とアンドラス叔母様が部屋から出るときは居なかった筈です。それこそ、その子自身が意図的に魔法を使い、気配を消してれば別ですが……」
「アンドラス叔母さんが気付かないレベルの魔法なんて、かなり上級の魔法でないと無理ってこと?」
「ええ。だから、クマガワさんを逃がした人物がその子である可能性の方が高いかと思われますわ。そして、今度はその子だけが一旦、部屋を訪れて日記を改竄しバター茶を飲んでから部屋を去ったって所でしょう」
更にページを捲り、読み進めると、気になるワードが度々出てきた。
『最近、キルキルっちが遊んでくれない。
やっぱ○○○の言うとおり、私を嫌いになって避けてるのかな?』
『キルキルっちの妹さんが私の悪口を言ってたって、○○○が暇潰しで探索魔法を使ってたら耳にしたみたい。なんで……』
『○○○が私の友達が、私の居ないところで話してるのを聞いたみたい。私と遊んでくれているのはキルキルっちと御近づきになりたいからって……』
『キルキルっちが居るから皆、私と遊んでくれているんだ……だから、キルキルっちを失うと私は独りぼっちになっちゃう』
『キルキルっちの妹さんが私からキルキルっちを離そうとしてる。なんとかしないと……』
「ね、ねぇ、これって……」
「地道に洗脳していたみたいですわね。クマガワさんの友達がそんなことを考えてるわけがありませんもの。前に二人きりで勉強をしたこともありましたが、普通に学友と絡むような会話しかしてませんでしたし」
「それに、確かに私はヤキモチ妬きだけど、友人関係の妨げを画策したりはしないよ」
「やはり、クマガワさんの暴走はその子の仕業に依るものだったみたいですわね」
目的はわからない。でも、私たちにもクマガワさんにもよくない思想を持っていたのは確かのようです。
「さ、続きを読もう?何かヒントがあるかもしれないし」
「そうですわね」
『最近、○○○が薬を調合している姿をよく見る。やっぱり魔法薬をつくる技術があるみたい。
そんな彼女からプレゼントを貰った。
媚薬だ。
今度、チャンスがあったらキルキルっちの食べ物に混ぜよう……そうすれば、私は独りぼっちにならない』
「媚薬?そんなの飲んだの?大丈夫?なにもされなかった?」
うん。恐らく、これを見たらコルセアのことだから捲し立てられると思いましたわ。
「恐らく、前にクマガワさんから戴いたパンに盛られていたのでしょうけど、発動した風には感じ取れませんでしたが……」
「効果がなかった?失敗作だったのかな?」
「えぇと、確かに続きの日記には効果がなかったことを失敗作だったと書かれてますが……」
そう言って、私は少し思案する。
「どうしたの?」
「いえ、もしもの為に媚薬、またはそれに関する材料の味は敏感に分かるようにしてるのですが……あのとき、食べたパンからは変な味こそしましたが、媚薬らしい味はまったくしませんでしたって思いまして」
「んー、なら、薬を間違えてたのかな?」
「それか、また違う目的でもあったのか、ですわね。私はどうも、この日記に出てくる子供……いいえ、恐らくは子供じゃないのでしょうけど。この人物は、成り行きで寮に訪れたようには思えないんですよね」
「つまり、はじめから拾わせるように仕組んだってこと?」
「ええ。偶然に拾った子が偶然にも同じく薬学に精通したクマガワさんに拾われるなんて時点で怪しいと感じるのは不思議ではないかと思えますわよ?」
尤も、クマガワさん自身は違和感こそ感じても最後までその人物を疑わなかったみたいですが。
それから、私たちは日記を読み進め、何も書かれてない箇所が隣にある最後のページにたどりついた。
恐らく、これがあの日。私がクマガワさんに対峙をして、行方を眩ませる前日の日記です。
『死んだ。お父さんとお母さんが死んだ。
殺したのは、一番私と仲が良かったひとつ上の兄だ。
これで私は完全に天涯孤独。
○○○が私に言った。
『家族が居ないなら作ればいいじゃな~い?』って。
その吊り上がった赤い目は全てを見抜いてるようにも感じた。
○○○は、愉しげに眼を模した刻印のようなものが浮かぶ舌を出して苺をなぶった。その姿に私は恐れすら覚えた。
でも、○○○の言うとおりにした方が色々上手く行くから結局、私は彼女から離れられないんだけどね……。さぁ、明日は計画を実行する日だ。早く寝よう』
「…………眼を模した刻印のようなもの」
「うん。馬鹿な私でも、少し分かったかもしれない。その子の正体が」
そりゃそうですわよね。眼を模した刻印のようなものなんて、私たちはほぼ毎日見ているものですもの。
私たちが知る限り、そんな形の刻印なんてひとつしかありません。
だって、それは______
______私たちノックスの証なのですから。
「キルメア、これはー?」
「魔法薬用の材料のひとつですわね。アンドラス叔母様ならともかく、私たちは別に薬学知識もありませんし放置しときましょう?」
「はーい」
ということの繰り返し。
ここにはコルセアだけで判断できるようなものは少ない。
前に訪れた時には気付きませんでしたが、あまり娯楽品はありませんね……。
嗜好品として、紅茶の葉やカップは見付けられましたが……いったい、どんな毎日を送っていたのでしょうか。
先に訪れた他の方々の部屋には、それなりに娯楽品はありました。
というより娯楽品のひとつやふたつ、在って然るべきに思いますが。
それに、写真も見当たりません。
勿論、私の写真や二人で撮影した写真は確かに見付かっています。
同じく、同じ学友である人物との写真も見付かっています。
しかし、自分のルーツとも言える家族の写真が1枚も見付かってないのですわ。
私たちの部屋には、御父様との写真や他の親族との写真も普通に飾られています。
流石に飾ってるのは御父様と私たち姉妹のみが映った写真で、他の親族との写真はアルバムに仕舞っていますが。
そうしないと、部屋中が写真だらけになりますので。
そんなことを考えていると、表紙が灰色の厚めの本のようになっているものをコルセアが持ってきた。
しかし、表紙にはなにもない。
ノート……にしてはしっかりし過ぎてますわね。
でしたら、長年経過しても読み直すことができる個人的なものでしょう。
といえば、やっぱり……
「キルメアー、これはー?」
「これは日記帳、ですの?」
「みたいだね。机の一番下の引き出しから見付けたんだー」
机の方を見ると、かけられていたらしい南京錠が壊されていた。
「コルセアが鍵を壊しましたの?」
「いんやー?初めから壊されてたよ?」
確かに南京錠を壊すような音も聞こえてませんでしたし、コルセアにパイモン叔母様のような解錠技術があるとも思えません。
なら、誰が?本人ならわざわざ破壊する必要もありませんわよね。
少し気になりつつも、日記帳を読むことにします。
「あまり良いこととは言えませんが、仕方ありませんわよね?」
そう、自分に言い訳をしながら日記帳を捲った。
日記帳にあったのは、学園に入る前の話から今に至るまでの話が記載されていた。
読みやすく正確に書かれている為、私は感心しました。
「随分とマメに日記をつける方だったのですね」
「日記帳かー」
「あら、コルセアも日記とか書く気がありますの?」
「3日間で飽きる自信があるよ」
「あらあら」
飽きっぽい妹と談笑しながら日記を読む。
学園に入る前の彼女の日記によると、彼女の一族はある世界でまるで魔王のように扱われて君臨する《球磨川鬼》という一族のひとりだったみたい。
そこでは魔王軍ではなく百鬼夜行という集団を持ち、有象無象の魔物を従えさせて生きていたとか。
しかし、それも長男、長女が継ぐ話。
日記によると、彼女は6番目の子。
つまり、それこそ上の兄や姉が居なくならない限りは百鬼夜行を継ぐなんて事は出来ない。
とはいえ、彼女にそんなものに興味がなかった様で、学園を卒業したら細々と田舎で薬屋や医師として働くつもりだったみたいです。
「アンドラス叔母さんと話が合いそうな人だったんだね」
「何事もなかったら、の話ですが」
それから暫くは、平凡な日常が書かれていて更に日記帳を読み進めると、ここ1年分の日記にたどり着きました。
そこには悲惨な話がありました。
彼女の兄や姉たちが次々、殺されていったこと。
交流があった家族とは、疑心暗鬼が基で絶縁になってしまったこと。
それにたいして、彼女は深い哀しみに陥っていたこと。
「身内の死亡かぁ……」
「恐らくは、同じ家族による殺人でしょう」
「え?家族が家族を殺すの?なんで?」
嗚呼、コルセアにはそんな考えはまったく無かったのですね。
「こういう権力がある一族には、よくある話ですわよ?いいえ、権力が無くても大きな遺産とかがあればあり得ない話でもありません」
「そうなんだ……」
「私たちノックスには、あまりピンと来ない話でしょうけどね。確かにおばあ……いえ、アンヘルちゃんの権力は恐ろしいものでしょうけど、継げるものでもありませんし……」
「それに、アンヘルちゃんをどうこうするなんて、まさに無理ゲーだからね。同じ理由で叔父さんや叔母さんたちが争っても無駄なことにしかならないよ」
まぁ、私たちの場合、家督争いじゃなく思想の違いで争う血族も実は居るみたいなんですけどね?
成る程。こんな状況だったから、彼女が行方を眩ましても他の肉親が来なかったのですね。
更にページを捲ると、私の話が出てきました。
「あー、これがキルメアとあの人が会ったときの話だね?」
「ええ。これを見る限りは、確かに好感は高いのでしょうけど、あくまでも友人って感じに見えますが。如何に自分に置かれた環境が劣悪でも始めから人に依存するって訳じゃないみたいですわね」
「前にアンドラス叔母さんから聞いた、極度の依存症とかのある人じゃ無かったんだね」
日記を見ると、肉親と絶縁関係になりながらも、その哀しみを持ちつつも必死で生きようともがいている彼女の強さが見えました。
「なら、どうして……」
疑問に思いながらも、ページを捲る。
6か月前程のページにたどり着きます。
そこには、こんな内容がありました。
『友達と遊びにいった帰り、幼い子供に声をかけられた。
その子は泥だらけで、話を聞くと家がないみたい。
ホームレスとか、そういう子かな?
心配だし、暫くウチに泊めようと思う。
他の人にバレないよう、来客があったときはクローゼットに入ってもらえば大丈夫だよね?
あ、そうそう。その子の名前は○○○=○=○○○○。これからよろしくね?』
「あれ?名前が……」
「ええ。インクで消されてますわね」
「魔法で修復できないの?」
「少しやってみますわ」
魔力を指に込め、インクの箇所に触る。
本来なら浮かび上がって消えるはずなんですが……
「無理みたいですわね。何か特殊な薬剤が塗られているのかもしれません」
「自分で消したのかな?」
「いえ、鍵を壊した人物……恐らくは、その名前の主が意図的に消したのでしょう」
「幼い子供?」
「ええ。尤も、本当に幼い子供なのかは怪しいですが。その気になれば見た目を変える魔法なんて少なくもないでしょうからね」
「確かに。それか、アンヘルちゃんみたく見た目だけが幼いだけの超高齢者って可能性もあるからね。若作りオババー!」
「ま、まぁ、それについての発言は控えさせて戴きますわ」
突然の妹の暴言に冷や汗をかきつつも、ページを捲る。
やはり、その子の名前は消されている。
更に、何日目かのページに至っては完全にインクで読めなくなってるものもありました。
「恐らく、その1日分のページにはその人物の個人が特定されるようなことが書かれていたのかもしれません」
「誰なんだろう……」
とりあえず読める部分だけ、読みましょう。
『今日は○○○と遊ぶことにした。
○○○はときに、凄く賢いことを話すことがある。
私が学校の宿題をしていると、ちょっとした間違いをしてしまい、それに気付いた○○○が指摘してくれたりする。
もしかしたら、私より魔法の知識があるのかもしれない。
そんなときは、ご褒美に彼女の好物であるプージャを淹れてあげると喜ぶ。
やっぱり子供なんだね。こんなにはしゃぐなんて。可愛い』
「プージャ……テーブルにあったバター茶はその子のものだったみたいですわね」
「ってことは、もしかしたらこの部屋にひとりで残されていたのかな?」
「いいえ。それならアンドラス叔母様が気付かないわけがありません。少なくても私とアンドラス叔母様が部屋から出るときは居なかった筈です。それこそ、その子自身が意図的に魔法を使い、気配を消してれば別ですが……」
「アンドラス叔母さんが気付かないレベルの魔法なんて、かなり上級の魔法でないと無理ってこと?」
「ええ。だから、クマガワさんを逃がした人物がその子である可能性の方が高いかと思われますわ。そして、今度はその子だけが一旦、部屋を訪れて日記を改竄しバター茶を飲んでから部屋を去ったって所でしょう」
更にページを捲り、読み進めると、気になるワードが度々出てきた。
『最近、キルキルっちが遊んでくれない。
やっぱ○○○の言うとおり、私を嫌いになって避けてるのかな?』
『キルキルっちの妹さんが私の悪口を言ってたって、○○○が暇潰しで探索魔法を使ってたら耳にしたみたい。なんで……』
『○○○が私の友達が、私の居ないところで話してるのを聞いたみたい。私と遊んでくれているのはキルキルっちと御近づきになりたいからって……』
『キルキルっちが居るから皆、私と遊んでくれているんだ……だから、キルキルっちを失うと私は独りぼっちになっちゃう』
『キルキルっちの妹さんが私からキルキルっちを離そうとしてる。なんとかしないと……』
「ね、ねぇ、これって……」
「地道に洗脳していたみたいですわね。クマガワさんの友達がそんなことを考えてるわけがありませんもの。前に二人きりで勉強をしたこともありましたが、普通に学友と絡むような会話しかしてませんでしたし」
「それに、確かに私はヤキモチ妬きだけど、友人関係の妨げを画策したりはしないよ」
「やはり、クマガワさんの暴走はその子の仕業に依るものだったみたいですわね」
目的はわからない。でも、私たちにもクマガワさんにもよくない思想を持っていたのは確かのようです。
「さ、続きを読もう?何かヒントがあるかもしれないし」
「そうですわね」
『最近、○○○が薬を調合している姿をよく見る。やっぱり魔法薬をつくる技術があるみたい。
そんな彼女からプレゼントを貰った。
媚薬だ。
今度、チャンスがあったらキルキルっちの食べ物に混ぜよう……そうすれば、私は独りぼっちにならない』
「媚薬?そんなの飲んだの?大丈夫?なにもされなかった?」
うん。恐らく、これを見たらコルセアのことだから捲し立てられると思いましたわ。
「恐らく、前にクマガワさんから戴いたパンに盛られていたのでしょうけど、発動した風には感じ取れませんでしたが……」
「効果がなかった?失敗作だったのかな?」
「えぇと、確かに続きの日記には効果がなかったことを失敗作だったと書かれてますが……」
そう言って、私は少し思案する。
「どうしたの?」
「いえ、もしもの為に媚薬、またはそれに関する材料の味は敏感に分かるようにしてるのですが……あのとき、食べたパンからは変な味こそしましたが、媚薬らしい味はまったくしませんでしたって思いまして」
「んー、なら、薬を間違えてたのかな?」
「それか、また違う目的でもあったのか、ですわね。私はどうも、この日記に出てくる子供……いいえ、恐らくは子供じゃないのでしょうけど。この人物は、成り行きで寮に訪れたようには思えないんですよね」
「つまり、はじめから拾わせるように仕組んだってこと?」
「ええ。偶然に拾った子が偶然にも同じく薬学に精通したクマガワさんに拾われるなんて時点で怪しいと感じるのは不思議ではないかと思えますわよ?」
尤も、クマガワさん自身は違和感こそ感じても最後までその人物を疑わなかったみたいですが。
それから、私たちは日記を読み進め、何も書かれてない箇所が隣にある最後のページにたどりついた。
恐らく、これがあの日。私がクマガワさんに対峙をして、行方を眩ませる前日の日記です。
『死んだ。お父さんとお母さんが死んだ。
殺したのは、一番私と仲が良かったひとつ上の兄だ。
これで私は完全に天涯孤独。
○○○が私に言った。
『家族が居ないなら作ればいいじゃな~い?』って。
その吊り上がった赤い目は全てを見抜いてるようにも感じた。
○○○は、愉しげに眼を模した刻印のようなものが浮かぶ舌を出して苺をなぶった。その姿に私は恐れすら覚えた。
でも、○○○の言うとおりにした方が色々上手く行くから結局、私は彼女から離れられないんだけどね……。さぁ、明日は計画を実行する日だ。早く寝よう』
「…………眼を模した刻印のようなもの」
「うん。馬鹿な私でも、少し分かったかもしれない。その子の正体が」
そりゃそうですわよね。眼を模した刻印のようなものなんて、私たちはほぼ毎日見ているものですもの。
私たちが知る限り、そんな形の刻印なんてひとつしかありません。
だって、それは______
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