nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

10.バターの香り

アンドラス叔母さんが解剖報告を済ましてから3日が経った。
私たち姉妹にも、報告書がミラ王国のクレアから手紙という形で届いた。
世界を跨いでるから私たちにとっては、あんまり必要な情報とは思えないけどね?

ミラ王国のある世界での事件だと思うし。

そうそう、キルメアの風邪は完全に完治して今は学業に精を出してるよ。
なんでも風邪のとき、暇だったから魔法のことを考えてて新しい理論を思い付いたとか言ってたっけ。
凄いよねー。

私の方は、普通に授業を受けてもあんまり獲るものがないから授業を受けずに此処、学園にある巨大な図書館に居るんだ。

既に色々な魔法の本を読んでみたけど、あんまり今は何も掴めてないなぁ。

本当、なにもかもが《あんまり》だよー。

この間、パイモン叔母さんから教わったのは私が適性のある可能性がある亡くなったママの魔法について教えてくれたんだぁ。

元々は魔王であるパパを抹殺しにきた暗殺者だったんだけど……まぁ、よくある政治的な謀殺ってやつだね?あんまりよく解らないけど。

そんなパパを暗殺するために、孤児だったママに禁術をたくさんたくさん身体に宿して《完全なる異端の最強にして最弱の暗殺道具》って呼ばれる存在にして殺しにかかったわけ。

……まぁ、詳しくは知らないけどそれから色々あって恋愛関係になって私たちが産まれたみたいだけどね?

ただ、ママはノックスとかじゃなくあくまでもただの悪魔。
そんな禁術を大量に身に宿して、身体が持つわけないよね?
結局、私たちを産んでから直ぐに亡くなっちゃったわけ。
ノックスの秘薬を使って、後天的な不死にしようともしたんだけど……才能が無かったらしく効果がなくてね。

あ、話が脱線してるね。

とにかく、私はそんなママが使ってた禁術に相性が良いのがあるのかなって考えたパイモン叔母さんが調べて教えてくれたんだ。

ノックスの身体を以てしてなら、禁術を使ったところで影響はあんまりないからね。

結果は、少し反応があったものはあったけど使うには至らなかったんだ。

残念だったけど、でも、これは大きな収穫になるよ。

反応がなかった禁術に関連する魔法は除外できるし、逆に少し反応があった禁術に関連する魔法のみに絞りやすくなるんだし。

「そう、私は今度こそちゃんとした魔法使いになるんだ!!!!」
「図書館ではお静かにしなさい!!」
「あ、ゴメン。ってキルメア?なんでいるの?今、授業中じゃん?」
「今の時間、受ける予定だった先生が急な頭痛で空いてしまいまして。暇になりましたから図書館で論文に使える本でも探そうかと思いまして」
「急な頭痛?風邪かな?最近、流行ってるから気を付けないと」
「そうですわね。治ったとはいえ、また別の型の風邪に掛かっては困りますし手洗いうがいはしっかりしませんと……」

そんな話をしていると、後ろから見知った顔が歩いてきた。

「ん?あれ、君は確かキルメアの友人だったよね?」
『うん……ごきげんようコルセア、キルメア……』

消え入るような小声で話すのは、実習で一緒だったモース=ハルトマン。

「ごきげんよう、モースさん」
「ごっきげんよー!!」
「コルセア、しー」
『キルメアに先生から連絡があって……』
「あら、何ですの?」
『はい、これ……』

羊皮紙に書かれた用紙を渡した。

「えーと……簡単に言いますと、サイ=クマガワの部屋が未だに片付かない……というより、本人は勿論、関係者からも私物の回収がされない上、連絡すら取れない為に処分に困った学校側がサイ=クマガワを死亡扱いにしたから従来通りそれに関わった私たちに処分を任されたってことですわね」
「成る程?」
「そして、その期日が本日限りみたいですわね?」
「速っ!?」
「よっぽど部屋の占領に痺れを切らしていたのでしょう。実際、部屋の数は多いとはいえ、この寮に入りたがる生徒は少なくないですし」
『まぁ、理由は部屋の代金が極端に安いことと……ご飯が無料になるから……なんだけどね……?あんまり……拘った味じゃ……ないけど』

そう言えば、水道代とかも掛かってないな……そう考えたら、良い寮なのかな。
私たち姉妹にとっては、あんまり美味しくないご飯は良くないけどね。

『あ……バンシュウが呼んでる……それじゃ、またね?』
「はい、わざわざ届けてくれてありがとうございますわ」
「あっりがとー!」
「コルセア、しー」

手を振りながらモースさんは帰っていった。

「さて、さっさと部屋漁りに行こー!!」
「コルセア、わざと大声を出してませんか!?」
『図書館ではお静かに!!』
「「すいません!!」」

図書館の司書さんに怒られてしまいました。

__________

私たちは部屋の前に居ました。
ネームプレートには、《サイ=クマガワ》。
前に、コルセアの虐めの件で来たことを思い出しますが、今回は私の隣にコルセアがいる。

「さて、開けますわよ?」
「蹴破る?」
「なんで急に!?鍵はありますわよ!?」
「そこに、ドアがあるから!!」
「何でですの!?何でカッコよく言いましたの!?やってることは、ただ乱暴なだけですのに!!」
「ワイルドだよ!!」
「ワイルドさは不要ですから、大人しくしといてくださいませ!?」
「はーい」

マスターキーで鍵を開け、ドアを開けて部屋に入った。
そこは前に訪れた時のまま、何も変わっていない。
私が飲んでたお茶のカップもテーブルに…………あれ?

《『ささっ、そこのソファーに座って?今、お茶を淹れるね?』
「いえ、お茶は結構ですわ。それよりお話をしましょう」》

私はあのとき、お茶を出されてません。
だからテーブルにお茶があるわけがない筈。

「キルメア?どうしたの?」

コルセアの質問には答えず、私はお茶のカップを手に取り様子を見る。
半分だけ残っていて、お茶は冷めきっている。
色はミルクティーによく似た白茶色……いえ、素色に当たりますわね。
香りは……バターの香りがしますわ。

確か、アンドラス叔母様から聞いた事がありますわ。
人間たちの一部が好んで飲むお茶で、煮だした茶葉にバター、クルミ、松の実、ゴマ、卵と塩を加えて、専用の「ドンモ」という撹拌機で脂肪分を分解させて作る……確か、名前はそのまんま、バター茶。
現地の言葉では、プージャ、もしくはスーヨウチャーなどと呼ばれるお茶でしたわね。

クマガワさんが、あのあと再び部屋へ戻った?
いえ……確か、彼女はお茶だけを言った場合の話ですが、極端な程のダージリン好き……こんなマニアックな飲み方をするとは思えませんし……

「何か、ないかなー」

コルセアは気にしないで、調査を始めてますわね。

とにかく、クマガワさんが居なくなったあと、そして私がこの部屋から去ったあとにこの部屋へ訪れた人物が他にも居るって事になりますわね。
鍵はクマガワさんが持っていったものと、私が開ける際に使った寮官さんが保有しているマスターキーの合計2本。

ノックスの秘術を使ってピッキングをしたなら未だしも、複製品を作って開けたりピッキングをしたりしたら寮官さんに気付かれてしまう筈。
そうなれば、少し騒ぎもある筈ですし……そんな可能性は無いでしょう。

でしたら、クマガワさんの所有している鍵を奪ったか借りたか、ですか?
何のため……?
まさか、ただバター茶をこの部屋で飲みたかったからなんて理由なわけ……ありませんわよね。

開けっ放しにしていてもドアを閉めた状態で3時間過ぎれば、自動で鍵が閉まるのですから開けっぱなしだったわけでもありませんし……

「キルメアー?椅子に腰掛けて何を悩んでるの?」
「少し気になることがありまして。それで、なにか良いものは見付かりましたの?」
「んー?キルメアの写真や使用済みの道具とかしかないかな?あと、オルゴール?」
「…………聞き捨てならないことを言われた気もしますがそれは置いといて、オルゴールですか……」
「なにか思い出でもあるの?」

私はオルゴールをコルセアから受け取り、ゼンマイを巻いて鳴らしながら過去の話を始めた。

「これは、私がまだ学園に入ったばかりの時、私とクマガワさんが会ったばかりの時にプレゼントしたオルゴールなんですわよ」

オルゴールから音楽が奏でられる。

「ほら、学園に入ったとき、初等部の頃ですわよね。近くの店とか見て回ろうって探検をしましたわよね?」
「うん。色々とふざけながらね?」
「途中ではぐれたのは、覚えてますの?」
「うんうん。というか、私が迷子になってただけなんだけどね?」
「その時に、路地に面したお店のショーケースを眺めていたのがクマガワさんでした。私は道を尋ねたく彼女に声をかけ、無事にはぐれたら集まる場所へと至る道を知ったわけですわ」
「私は先に道に気付いて、待ってたけどねー」
「その感謝の気持ちとして、ショーケースの中、彼女が見ていたオルゴールをプレゼントしたのが、このオルゴールって訳ですのよ」

そう。つまり、クマガワさんから見たらお宝みたいなものなのでしょう。
現に、あれから10年近く過ぎてますのに手入れをされて未だに綺麗なままです。

これを見ても、彼女が部屋に戻ったとは考えにくい。
やっぱり別の誰かが部屋に入ったと見るべきですわね。
とりあえず、そのことは用事を済ましたら考えるとしてとりあえず集中しましょうか。

少し不気味な気配を感じつつ、私たち姉妹は部屋漁りをさっさと済ますことにしました。

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