その弾丸の行先

須方三城

第16話 お姫様



 自分の生命より大切な物が出来ると、死ぬ時にしんどい思いをする。


 ジアはそう言っていた。


 ガツィアにも、なんとなくその言葉の意味は理解できていた。


『自分が死ぬ時』、未練が胸の内を焼き焦がし、死の刹那まで苦しみもがく事になる。


『相手が死ぬ時』、終わりの見えない葛藤が心臓を握り潰そうとする。


 今まさに、ガツィアは後者の状況に置かれている。


 ベッドに全身を投げ捨て、彼は悩み続ける。


(…………クソッタレ)


 サーニャやハイネが大切な人であるという事実は否定しない。何故かはわからないが、否定したくない。


 修道院の連中も、ハトマの従業員も、失って何も感じ無い様な存在では無い。


 そういう想いを封殺できる程の時間は、まだ経っていない。


 ふと、スマホが鳴った。キリトからだ。


「…よぉ、仕事か」
『ああ……だが、何かあったのか?エラく元気が無さそうだな』
「……どぉでも良ぃだろぉが。さっさと本題を言えクソッタレ」
『……まぁ良い。結構大口の依頼主からだ。っても、依頼自体はおそらく大した事無い』
「あぁ?」


 大口なのに大した事無い。しかも「おそらく」。


 いつもとは何やら毛色が違う様だ。


『簡単に言えば、お子様の送迎だ。……「魔王」のな』
「!」


 魔王、それはつまり、戦争を起こした張本人。


『アビスクロックの王の娘さんが、社会勉強だか何だかでクロウラに留学してるんだそうだ。勿論お忍びでな。それを、魔国まで護送して欲しいそうだ。万が一が有り得るから、腕の立つ者で。それと、可能なら急いで欲しいそうだ』
「魔国の王族が何で共生国家にいんだよ」
『知らん。あの魔王の考えてる事はよくわからんからな。……あの依頼を蹴ったら、こんな小間使いを……』
「あの依頼?」
『ん?あ、こっちの話だ』
「……つぅか、急げって何かあったのかよ」
『連絡が付かなくなったそうだ。昨日突然にな』


 一応魔国にも携帯電話の技術はある。機器自体は基盤にGMを含まない独自の物。まぁ通信技術は人間の丸パクリだし、人間の作った電波塔を勝手に中継点に出来る様に調整してたりする。


「連絡が途絶えたって、それヤベェんじゃねぇのか?」
『いや、今までに何度かこんな事があったらしいんだが、今の所100%スマホをぶっ壊したってだけだったらしい。画面が汚れたからって洗濯機にかけたりした事もあるらしいぞ。GM製ならともかく、魔国製のじゃ耐えられんわな』


 流石姫様というか何というか、結構なアホらしい。


 でもまぁそれでも万が一って事があるから、腕の立つ者を急ぎ目で向かわせたいのだろう。


『だから、安否確認のついでに、時期も時期だし魔国に連れ戻そうって事だ。それに、そろそろお前も魔国に避難すべきだろ。お姫様送るついでにお前もアビスクロックに亡命しとけ』
「…………そぉだな」


 どの道、ここに居続けたって何も出来はしない。


『詳しい内容はいつも通りメールする』
「あぁ」
『あ、そうそう。途中で「麗しの壊し屋バスタードレス」も拾ってやってくれ。奴の亡命の手筈も任されててな』
「あのガキを?……超メンドくせぇ……」
『まぁそう言うな。向こうは結構お前の事気に入ってるみたいだぞ』


 だから何だ、とガツィアは溜息。


『ま、頑張れ。それじゃあ、またな』








 ✽






 クロウラ全土を網羅する国内鉄道。
 夏休みシーズンである現在、例年通りならこの鉄道は連日ビジネスマンや旅行者でごった返しになっている。


 しかし、子犬入りバスケットを抱えたガツィアが乗った車両はそうでは無かった。ほとんど乗客がいない。


 まぁトレフ大陸の人間はラトイ大陸に、魔人は魔国にどんどん流れて行ってるのだ。


 目に見えて人が少なくなっているのは別段おかしな事では無い。


(しっかし、またこいつと顔を突き合わす事になるたぁな…)


 ガツィアと対面式の座席で相対するのは、ゴスロリファッションで派手に決めた魔人の少女。外見の年齢は実年齢通り中学生成り立てくらい。尾の色は赤。


 少女はピコピコと最新のゲーム機を操作する事に没頭している。


 ガツィアはこの派手な少女と面識がある。


 シルヴィア=バスタードレス。
 超一流の『壊し屋』。


 人でも物でも、とにかく『破壊作業』のみを請け負う傭兵。
 その華奢な体に反する膂力を誇る、訳では無い。彼女の膂力自体は見た目通りのひ弱な物。彼女はただただ破壊向きの強烈な魔能サイがあるのだ。


 付いた異名は『麗しの壊し屋バスタードレス』。キリトの傘下の傭兵。つまり、ガツィアの同僚。


 つい最近、キリトからの仕事で一緒に大暴れする機会があり、それで面識を持った。


 現在、シルヴィアがガツィアと共に行動しているのは、ガツィア同様お姫様と一緒に魔国行きの船に乗るため。


「……つぅか、テメェもこの国にいたんなら、テメェがこの仕事やりゃ良かったじゃねぇか」
「シルヴィアは壊し屋なの。それ専門。それ以外絶対受けない。知ってる?ポリシーって言うんだよ、こういうの。シルヴィアのポリシーなの」


 ピコピコとゲームを進めながら子供らしく無い淡々とした口調で語るシルヴィア。


「そぉかよ……」
「……ところで、ガツィアは『モンスターバスター』買わないの?これはシルヴィアも圧巻の良ゲーなの」
「ゲームにゃ興味が向かねぇ。食えねぇからな」
「むぅ、シルヴィアもローカル通信プレイしたいのに、傭兵仲間は誰も持ってないの」


 そりゃあそうだろう。ゲームなんぞしなくても日夜色々とバスターしてる奴ばっかなんだから。


 食傷気味って事だ。娯楽にならない。仕事とする事が大して変わらないのだから。
 むしろ何故シルヴィアはこんなにゲーマーなのかが傭兵達は理解できない。


「魔国にはそもそもこっちのゲームはハード自体無いから、期待できないの」
「あーあー、そぉですねぇ……」
「子供のお喋りに付き合うのは大人の義務だと思うの」
「巨漢の群れをまとめてぶっ飛ばす様なガキはガキじゃねぇよ」


 ガツィアは彼女の魔能サイを間近で見た事がある。


 殺傷力で言えばガツィアの魔能サイに分があるだろうが、純粋な破壊力だけならシルヴィアの魔能サイは他の追随を許さない域だろう。


「ところで、依頼のお姫様ってどんな人なの?可愛い系?綺麗系?シルヴィアは女の子だから、その辺ちょっと興味ある」
「どぉせもぉすぐ面拝める」


 目的地はもうすぐそこ、タストタウンだ。


 シルヴィアを迎えるために寄り道をしたため、出発点が隣町のハッジタウンだったにしては時間がかかった方だ。


「写メくらい見せてくれても良いと思うの」
「……へいへい」


 ガツィアは犬のストラップ付きのスマホを取り出し、キリトからのメールに添付されていた画像を表示する。


(しっかし……)


 スマホをシルヴィアに渡しながら思う。


 まさかあんな少女が魔国のお姫様だったとはな、と。ガツィア的には非常に予想外だった。


「んー、将来的には綺麗系の可愛い系!シルヴィアみたい」
「……そら良かったな」
「うん」


 シルヴィアの見ている写メは、桃色の髪色をした1人の少女が写っている。


 その少女の名は、アピア=ウィズライフ。


 魔王、アロン=ウィズライフの1人娘。


「何がハイドアウトだ…クソ桃毛」


 それは、ガツィアがコンビニ店員時代に面識を持った少女、アピア=ハイドアウトそのものだった。










 ✽






 昼頃。


 未だ爆睡中の子犬が入ったバスケットをぶら下げたガツィアとおまけの同伴者シルヴィアが訪れたのは、小さなボロアパート。


「……お姫様の割にゃ随分なお住まいだな」
「シルヴィアが思ってたのと違うの……」
「住所の201ってのはこういう事かよ」


 てっきり高級マンションか何かだと思っていた。


 まぁ、姫と言っても魔国の姫だ。いくら共生国家とは言え留学はお忍びという話だし、金持ち丸出しの生活してる方がアホ丸出しか。


 それに、クロウラじゃ魔人が金を持っていたらすぐに何者かと怪しまれる。


(……つぅか、何で他の共生国家じゃなくて、ここなんだ?)


 何故わざわざ魔人差別が残る国に留学したのだろうか。


 本人に聞いてみない事にはわからないか。
 とりあえず件の201号室へ。


「…………」


『インターホンは壊れてます。ノックでお願いします』


 ドアに押しピンで貼り付けられた貼り紙に、可愛らしい丸みを帯びた文字でそう書かれていた。


「とことんボロだなおい……」
「シルヴィアの予想を遥かに越えていくの……」


 とりあえず貼り紙の指示通りにドアをノック。


「はーい」というどこか間の抜けた少女の声。ドアが開き、件のお姫様アピア=ウィズライフが姿を見せた。


「あ、ガツィアさん!お久しぶりです」
「……よぉクソ桃毛……いや、アピア=ウィズライフ様だっけか」


 ひくっ、とアピアの笑顔が引き攣る。


「ち、ちちちち、ちっが…違いますよ?わ、私は……」
「隠さなくて良ぃ。俺ぁテメェの親父の依頼で来たんだっつぅの」
「……え?お父様の?」
「あぁ?聞いてねぇのか?……って、あぁ、そぉいや連絡が付かねぇっつってたな……」
「はい……昨日、スマホを車さんに潰されてしまって……」
「王様の予想通りだったって訳か」


 本格的にガツィアが駆り出された意味が無くなってしまった。


「ちぇっ、何か事件が起きてたら暴れられるとシルヴィア期待してたのに」
「アテが外れてくれて何よりだ」


 面倒は少ない方が良い。


「とりあえず…立ち話もなんですし、どうぞ」


 姫様の無事は確認できたし、後は魔国へ送り届けるだけだ。魔国行きの船は今晩から明日の昼まで停泊しているという話だ。現在時刻はそろそろ日が沈み始めるかなーというくらい。


 少し、ここで時間を潰させてもらって、それからタクシーで港に向かうくらいのスケジュールで良いだろう。


「おう」
「お邪魔しまーす」


 4畳半のワンルーム。すごい老朽感が感じられる。かろうじてユニットバスが付いてる事が救いに思える。


 部屋の隅にはあの黒猫も。


「あれ、クロちゃん?何でそんなに警戒してるの?」
「……まぁ、予想はしてたよクソ黒猫」


 今回は逃げていないだけマシという事にしておこう。


「っていうか、ねぇねぇお姫様。早速だけどシルヴィアは質問があるの」
「アピアでいいですよ。何ですか?」


 アピアは小さな冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出し、3つのコップに注いでゆく。


「何でアピアちゃんは、こんなボロアパートに住んでるの?」
「この国では、魔人が金銭的に優れていると怪しまれる、との事だったので……それに、元々お城は広過ぎて、好きじゃなかったんです」
「ふーん…でも、何でわざわざこの国?」


 それはガツィアも気になっていた事だ。


 何でわざわざ魔人差別の残る国を選んだのか。


「父の判断です。ただ受け入れてくれる者達だけを相手にしていても仕方無い、って。魔人を拒む者にも触れてみて、知るべきだと言ってました。そう、最近では学校で尻尾の無いお友達だって出来たんですよ!」


 全ての人が自らを受け入れてくれるとは限らない。それは、王としての経験か。


「……戦争をおっ始めた連中のトップのセリフたぁ思えねぇな」
「お父様は、違いますから」
「……あぁ?」
「世間では、きっとお父様もハンクおじ様と同じで、尻尾の無い方々を忌み嫌っていると思われているのでしょうが……お父様は違います」


 アピアの表情は、どこか悲し気だった。


 今、この大陸で起きている戦争について、思う事が山ほどあるのだろう。


「お父様…アロン=ウィズライフは、共生派なんです」
「……何でそんな奴が魔国の王なんざやってんだよ」
「王族だから、逃げるのでは無く戦う、と。魔国による他国家への攻撃を出来るだけ抑制しながら、融和を目指していたんです」
「あれ?でも戦争って今バリバリやってるんじゃないの?」


 シルヴィアの言う通りだ。現に戦争は始まっている。
 魔国から仕掛ける、という形で。


「…………あぁ、成程な。止められなかった、って事か」


 それもそうか、と思う。


 ガツィアにだって、それくらい想像出来る。魔国の中で、「戦おう」という気運と「戦いを先延ばしにしよう」なんて気運、どちらが強く、激しいかなど。


 そしてその事実に対し、「くだらねぇ」という評価を下す。


「……電話が壊れる前、お父様と連絡を取った時に言っていました。やっぱり、自分は弱い王だと。最後の望みだった者にも、協力を断られたって」
「王の頼みを断るたぁな。とんでもねぇ野郎も……ん?」


 ちょっと待て。少し、何かが引っかかった。


『……あの依頼を蹴ったら、こんな小間使いを……』


「まさか……」
「どうしたんですか?あ、そういえばお父様の依頼って、何なんですか?」
「あぁ、それはこのクソガキから聞いてくれ」
「え、何で?」
「そんくらい説明出来んだろ」


 よっこらせ、とガツィアは立ち上がり、麦茶を一気飲み。コップを置き、彼はスマホを取り出した。


「俺ぁちょっと電話しなきゃいけねぇ用事が出来た」










 アピアの部屋を出て、ガツィアはある人物に電話をかけた。


 その人物とは、キリトだ。ガツィアからかける事など滅多に無い。


 3コール目、キリトが電話に出た。


『よう…………まさか、お姫様に何かあったのか?』
「いんや、あんのクソ桃毛はピンピンしてやがるよ。…想定外のボロアパートでな」
『驚くよな。俺も渡された住所の建物調べた時は何の冗談かと思ったぞ』
「……あぁ。俺もどっかの誰かさんが魔王サマの最後の望みだったとは驚いたよ」
『っ!』
「しかもその頼みを断ったと聞いた時ぁ、何の冗談かと思ったぜ」


 キリトが、黙る。


「お姫様から聞いた。王の頼みを断った馬鹿がいるってな。テメェ、ボソッと言ってたよな。王の依頼を一つ蹴ったって。随分なご身分じゃねぇか」
『…………それが今、お前と何の関係がある』


 ガツィアが笑う。


 そりゃ愉快だろう。こんな近くに、自分が求めていた『術』の可能性があったのだから。


「その依頼、俺が受ける」
『なっ…」
「その依頼ってのぁ、今起きてるクソみたいな戦争を止める関係のモンなんだろ?」


 戦争を止めるための最後の望み、それがキリトだと言うのなら、キリトはこの戦争を止める術を知っている、という事だ。


『……何故だ』


 キリトの問い。当然だ。キリトの知っているガツィアなら、そんな事を言うはずがない。


 キリトの知っているガツィアなら、戦争なんぞくだらねぇと吐き捨てて、自分からそれを止めようとなんてしないはずだ。


『…………お前のいた、修道院か?』
「…なっ…知ってんのか!?」
『……俺を誰だと思っている。情報のスペシャリストだぞ。……まぁいい。修道院の人々の安全は確保する。だから考え直せ。この依頼は成功率を高く望めない。しくじれば、その時死を免れても生き場を失う。そんな仕事だ……!』
「素敵な提案だな。でも、断らせてもらう」
『……!』
「院の連中をどっかに逃がそぉと、このまま行きゃ世界は魔国のモンになるんだろ?……それじゃ、意味がねぇんだ」


 サーニャ達が魔人に怯え、影の中に隠れて生きる様など、想像したくもない。だってそれは、ガツィアの望む世界では無い。


「俺ぁな。今の傭兵生活に満足してる。だからそれ以下は望む訳ねぇし、それ以上も今んとこ望まねぇ」


 それが、ガツィアの人生観。


「確かに過去の生活にゃ未練があるっちゃあるが、戻りたいたぁ思わねぇ」


 そこに、ガツィアの居場所は無い。ガツィア=セントカインは、もう生きては行けない。サーニャの元でも、ハイネの隣でも。


「……もぉ一度言う。俺ぁ、今以下の生活を望まねぇ」
『……』
「テメェに理解できるかは知らねぇが、俺ぁこの星のあの場所で、あいつらが生きてるっていう『今の生活』が気に入ってんだよ」


 例え、思い出の中のあの人達と、もう話す事はできなくとも。


 そう、この世界には、あの素晴らしい2人と、それを取り巻く小さくとも素晴らしい世界がある。それが存在すると思っているだけでも、このくだらねぇ世界にも光がある様に感じられる。


 帰れようが帰れまいが関係無い。あの場所を、あの場所で笑う者達を、失いたくは無いのだ。


 ガツィアが裏で生き、サーニャがあの修道院で笑い、ハイネがあの店で笑っているであろうこの現状以下を、決して望まない。


「意味がねぇんだ。あいつらが、生きてるってだけじゃ」


 あの2人が、その周りの者が、いつどこで魔王軍に殺されるかもわからない世界なんて、最悪だ。


 くだらな過ぎる、そんな世界。


「俺ぁ、俺の理想の世界を守りてぇ。これ以上に、生命張る理由があんのか」


 それが、ガツィアの閉じ込めていた想い。


 戦争を止める術は無いのだと、押し殺してきた願望。


『…………』


 沈黙。


 何かを考えている。いや、迷っている。


『……お前1人では到底こなせない仕事だ。他の者達が受けるか次第だ。構わないな』
「……さぁな」


 この戦争を止める術は、確かに存在する。


 それがわかった以上、そう簡単に諦めてやるつもりは無い。


 アロン自身もその術を知っているのなら、そちらから動くという手もある。


『…………』


 キリトが黙ったまま、通話が終了する。










 ✽










「そうかよ…まぁ、お前ならそう言うと思った」


 暗い部屋の中、キリトは通話を切った。


「……どいつもこいつも大馬鹿ばっかりか……」


 まぁ、命知らずな奴らばかり選んでスカウトしてきたし、当然か。


 金のためなら何でもする者、暴れたいだけの者、自分が気に入らない事をブチ壊したいだけの者。そんな奴らばかりだ。


(……必要な人員、揃っちまったな……)


 考え方によっては、これで良かったのかも知れない。


 例えこちらで人員を揃えきれず、話が破談しても、ガツィアの馬鹿はアロンの指揮下で動きかねない。


 どうせあの馬鹿を止められないのなら、こっちで準備を整えてやる方が成功率は高い。


「最後は、あいつか」


 キリトが続けて電話をかけたのは


「よぉ、魔王サマ」
『キリトか。アピアの件で、何かあったのか?」
「娘さんは特に問題無いそうだ」
『そうか……』


 アロンの声色に混ざる安堵。


 我が子の安全が確信出来たのだから、そりゃあそんな声にもなるだろう。


「羨ましいね。一児の父として、お前が滅茶苦茶羨ましい」
『……?何の話だ?』
「喜べ魔王サマ。俺の部下は、馬鹿しかいねぇよ」


 息子を、高確率で死が待つ戦場へと送り出すなど、到底親の所業では無い。


 ……まぁ、考えてみれば、元々親としては落第点だったのだ。もういっそ、親の義務だの何だのは全部忘れて、馬鹿息子の一世一代の我侭に付き合ってやるのも良いかも知れない。


「魔王ハンクの暗殺依頼、やってやろうじゃねぇか……だとよ」






 


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