スチームマン
スチームマン
木条瞬助、その小学生時代。
彼はチョコが大好きだった。
「食い過ぎだ」
そう咎める祖父の声も効かず、彼は毎日の様にチョコを喰らい続けた。
ついにブチ切れた祖父は、ある物を取り出した。
それは、杖。
実はこの祖父、天才と呼ばれる程の腕を持った、『呪術師』だったのだ。
紅蓮の装甲を纏った男が、夜闇を切り裂く様に駆け抜ける。
全身に纏ったその装甲は、実に機械的デザイン。
要するにロボットっぽい。
フルフェイスマスクの目に当たる部分は緑光を放ち、彼が高速で移動する度、光の尾を描く。
「何なんだテメェは!」
ロボットスーツの男が追い詰めるのは、頭にパンツを被っている一風変わった感じの男。
『怪盗下衆仮面』を名乗るちょっと有名な下着ドロ、らしい。
ロボットスーツの男に取って、そいつの罪状はどうでもいい。
重要なのは、この変態に「困らされている人がいる」という事、ただそれだけ。
困らされている人を救うという「善行」、そこにしか、興味が無い。
「くっ……馬鹿な……覗きの前科さえなけりゃオリンピック金も夢じゃ無いと言われた俺に…足で追いつくなんて……!」
『うっせぇんだよ変態野郎!』
シュコーという音と共に、ロボット男の装甲の隙間という隙間から熱い蒸気が吐き出される。
行き止まりの路地裏。
完璧に追い詰めた。
『覚悟は出来てるんだろうなぁ…!』
「く、クソ……!テメェアレだろ…噂の『スチームマン』とかいう……何なんだよ!?悪党捕まえて、お前になんのメリットがあるんだよ!?」
『うっせぇって言ったろうが!』
蒸気を吐き出しながら、スチームマンと呼ばれたロボット男は拳を構える。
『俺はただ、チョコが食いたいだけだぁぁぁぁぁ!』
「聞いた瞬ちゃん。また出たらしいよ、『スチームマン』」
「あぁ、知ってる」
大学の講義には、卒業単位のために仕方なく取らざる負えない、全く興味の無い物がいくつかある。
木条瞬助に取って、現在聞き流し状態のこの地域史はそれにあたる。
なので、友人達と最後尾の席を陣取り、バレない程度にスマホをいじっている。
「今度は怪盗下衆仮面をボッコボッコにしばき倒して、警察署の前に吊るしてったらしいよ」
瞬助の友人、それなり美人な女性、珠代陽菜は『スチームマン』の大ファンだ。
スチームマンとは、所謂『正体不明のヒーロー』。
瞬助がこの街に引っ越してきた丁度6年前から話題になり始めている。
「かっけぇよな、正義のヒーローって感じで、男らしい!」
何て言いだしたのはいっつも熱血臭い体育会系のテンプレの様な男、信里豪。
「……別に正義のヒーローやりたくてやってる訳じゃねぇけどな」
「…?何?もっかい言って」
「何でもねぇよ……」
はぁ、と重い溜息をこぼす瞬助。
「あー、…チョコ食いてぇ」
「いつも言ってるよねそれ。あ、私チョコボール持ってるよ?期間限定青汁風味!」
珠代の言葉にピクンと反応した瞬助。
しかし、顔を手で覆い、深く呼吸して、平静を装う。
「いらない」
「えー?食べたいんじゃないの?」
「そうだぞ木条。欲求への我慢は男らしくない」
人の気も知らずに好き勝手言いやがる…と口に出しそうになるが飲み込み、瞬助は「いらない」と繰り返す。
「えー、えぇー、もう食べちゃいなよー楽になるよ~うりうり、私のチョコが食えねぇってかー」
「そうだそうだ食っちまえ!男らしく箱ごと行け!」
「お前ら一応今講義中なの忘れてないか」
ちょっと騒ぎ過ぎた。
白髪だらけのアラフォー講師は平然と講義を勧めているが、視線はしっかりこっちを睨み付けている。
「むぅ、でも何で食べないの?チョコを欲してるんでしょ?」
「……事情があんの、色々」
「何だ?糖尿の気でもあるのか?」
「…………」
もうそういう事にしておこう。
という訳で瞬助はコクリとうなづく。
「その歳で!?ダメだよ瞬ちゃん!私は瞬ちゃんの将来がすごく不安になってきたよ!」
「欲望のままに糖をかっ喰らうからだ!自律する事も男らしさの秘訣だぞ!」
パンッ!という大きな手拍子音が一拍。
その発信者である講師はにこやかに笑いながら、声を出さずに口だけを動かす。
だ・ま・れ。
と。
今日は災難だった。
しかしまぁチョコが食いたい。
「あー…」
しかし、食ったら食ったで面倒な事になる。
祖父、あのクソジジィにかけられた、『呪い』のせいで。
夕焼け空を見上げながら、瞬助は帰路に着く。
向かうは、クソジジィが所有するボロアパートであり、瞬助の家でもある場所。
その途中、知っている顔を見かけた。
「おや……出来の悪いお孫様」
「……出会い頭に人を不快にしてくれてんじゃねぇぞ、サタナキア」
コンビニのビニール袋を持った全身ジャージ姿の小柄な女性。
深海の様な黒髪は、何故か美しさより不気味さを煽る不思議な感覚を植え付ける。
「ナキアと呼べと、言っているでしょう……気に入ってるんですこの愛称」
「へいへい……で、何してんだって」
「……主様のお遣いです。お釣りで好きな物を買っていいと言われたので、好物のアメリカンドッグも少々……何か問題が?」
「ねぇよ。聞いただけだよ」
ナキアの言う主とは、瞬助が言うクソジジィの事だ。
「しっかし……『悪魔』がジャージ姿でコンビニまでパシってるとは、世も末だよな」
「パシリではありません、特命です。何より、この身は主様のために粉となるべく存在しています。世はまだイケます」
そう、このナキアという小柄なジャージ部は、所謂『悪魔』だ。
人間より遥かに優れた肉体と知恵を持つ怪物。
見た目では判別不能だが。
「そうそう、それとこんな物も買ってみました」
ナキアがスっと取り出したのは…
「……本当、お前嫌な性格してるよな」
チョコボール。
しかも瞬助の大好きなピーナッツ味。
「あとジャイアントカプリコも……しかも…なんと2本です」
「結構お釣りあったんだなこの野郎!」
「私は一応女なので、『この野郎』では無く『この女』という表現が的確ですね」
ああクソ、むかつく。
「別に食べたいなら食べてしまえば良いじゃないですか。ほーら欲望のままにむしゃぶり付いてはいかがですか?」
「テメェ……」
人の気を知ってる上で好き勝手言うからこいつはタチが悪い。
丁度その時だった。
少し離れた場所で、悲鳴が聞こえた。
「「!!」」
瞬助とナキアが同時に反応する。
悲鳴の方角、少し先のT字路の方だ。
目をやると、丁度一台のバイクがすごい速度で走り抜けていった。
乗っていたのはフルフェイスのメットで顔を隠した大柄な人物。
手にはひったくった様に女性物のカバンを掲げていた。
いや、様にでは無く、ひったくった、のだろう。
「ちぇっ」
ナキアはつまらなそうに舌打ち。
逆に瞬助は満面の笑みを浮かべた。
「んじゃ、有り難くいただくぜ、ナキア」
チョコボールを奪い取り、瞬時に開封。
神業懸った開封速度だ。
そして、その中身の球状のチョコレートを、一気に口内へと流し込む。
「ぅ…うぅめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
抑圧から解放され、咆哮を上げる瞬助。
チョコまじウメェ!と連呼する。
そして、連呼しながらその体がまばゆい光を放つ。
「……相変わらず、ヒーローらしさの欠片も無い変身シーンですよねー」
幼い頃より、チョコを暴食する生活を送っていた瞬助。
そんな瞬助の身を案じ、瞬助の祖父は、彼にとある呪いをかけた。
それは、「チョコレートを摂取すると、ド派手なヒーローに変身してしまう」という呪い。
ヒーロー時は全身をロボットの様な鎧が覆うため、食事は愚か排泄すら不可能になってしまう。
変身を解除する条件はただ1つ、「良い事をする」事。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!チョコ最高!最高だこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
未だチョコの味に歓喜しながら、瞬助は光を裂いてその姿を現す。
それは、全身にロボット然とした紅蓮の装甲を纏った、ヒーロー。
噂の、『スチームマン』。
「な、何だぁ!?」
バイクのミラーが映す光景。ひったくり犯は自身に迫る異常事態を悟る。
背後から、どこの蒸気機関車だよとツッコミたくなる様な程に莫大な蒸気を撒き散らす何かが迫ってくる。
「ま、まさか…噂の……」
全身から蒸気を吐き出しながら、あらゆる悪を追い詰める、紅蓮のヒーロー。
「スチームマンって奴か!?」
『その通りだこの野郎!そして一言言わせてくれ!ありがとう!!そして観念しろ!』
二言叫び、スチームマンが迫ってくる。
「ぐっ…冗談じゃねぇ!」
ひったくり犯はバイクを全速力で走らせる。
『!』
不味い。
あの速度では、交通事故に繋がりかねない。
さっさと止める。
『丁度良いぜ…今日は色々あってイライラしてっからなぁ!派手にブチかましてやる!』
走る足を止めずに、スチームマンは『必殺技』の使用モードへと移行する。
『スチームチャージ……!』
スチームマンの全身から排出されていた蒸気が、止む。
そして、スチームマンは華麗に身を翻し、ひったくり犯へと背を向けた。
『喰らえ!必殺の、「スチーム鉄山靠」!!』
スチームマンの両手首部分と口にあたる部分、その三箇所から、勢い良く蒸気の塊が噴射される。
絶え間無くこの装甲から溢れ出すスチームを溜め込み、それを一気に噴射する事で、超加速する。
「なっ……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ひったくり犯が意識を失う前に見たのは、目前に迫る紅蓮の背中だった。
「あー疲れた……」
ひったくり犯を警察署の前に放り投げ、再度帰路に着く頃にはもう日が落ちかけていた。
ナキアは「主様が待ってるので」とあっさり先に帰ってしまった。
(本当、1チョコ1善とかしんどいったらありゃしねぇ……)
それでも、チョコは大好きだ。
軽いチョコ中毒な瞬助に取って、祖父にかけられた変身の呪いはとてつもない足枷である。
しかし、あの頑固な祖父だ。解いてくれとどれだけ頼んでも、解いてくれはしないだろう。
「仕方無ぇ」
面倒だが、チョコを食うため、スチームマンは善行を重ね続ける。
そう、ただ、チョコを食いたいがために。
これは、そんな我欲に塗れたヒーローまがいな男のお話。
 
彼はチョコが大好きだった。
「食い過ぎだ」
そう咎める祖父の声も効かず、彼は毎日の様にチョコを喰らい続けた。
ついにブチ切れた祖父は、ある物を取り出した。
それは、杖。
実はこの祖父、天才と呼ばれる程の腕を持った、『呪術師』だったのだ。
紅蓮の装甲を纏った男が、夜闇を切り裂く様に駆け抜ける。
全身に纏ったその装甲は、実に機械的デザイン。
要するにロボットっぽい。
フルフェイスマスクの目に当たる部分は緑光を放ち、彼が高速で移動する度、光の尾を描く。
「何なんだテメェは!」
ロボットスーツの男が追い詰めるのは、頭にパンツを被っている一風変わった感じの男。
『怪盗下衆仮面』を名乗るちょっと有名な下着ドロ、らしい。
ロボットスーツの男に取って、そいつの罪状はどうでもいい。
重要なのは、この変態に「困らされている人がいる」という事、ただそれだけ。
困らされている人を救うという「善行」、そこにしか、興味が無い。
「くっ……馬鹿な……覗きの前科さえなけりゃオリンピック金も夢じゃ無いと言われた俺に…足で追いつくなんて……!」
『うっせぇんだよ変態野郎!』
シュコーという音と共に、ロボット男の装甲の隙間という隙間から熱い蒸気が吐き出される。
行き止まりの路地裏。
完璧に追い詰めた。
『覚悟は出来てるんだろうなぁ…!』
「く、クソ……!テメェアレだろ…噂の『スチームマン』とかいう……何なんだよ!?悪党捕まえて、お前になんのメリットがあるんだよ!?」
『うっせぇって言ったろうが!』
蒸気を吐き出しながら、スチームマンと呼ばれたロボット男は拳を構える。
『俺はただ、チョコが食いたいだけだぁぁぁぁぁ!』
「聞いた瞬ちゃん。また出たらしいよ、『スチームマン』」
「あぁ、知ってる」
大学の講義には、卒業単位のために仕方なく取らざる負えない、全く興味の無い物がいくつかある。
木条瞬助に取って、現在聞き流し状態のこの地域史はそれにあたる。
なので、友人達と最後尾の席を陣取り、バレない程度にスマホをいじっている。
「今度は怪盗下衆仮面をボッコボッコにしばき倒して、警察署の前に吊るしてったらしいよ」
瞬助の友人、それなり美人な女性、珠代陽菜は『スチームマン』の大ファンだ。
スチームマンとは、所謂『正体不明のヒーロー』。
瞬助がこの街に引っ越してきた丁度6年前から話題になり始めている。
「かっけぇよな、正義のヒーローって感じで、男らしい!」
何て言いだしたのはいっつも熱血臭い体育会系のテンプレの様な男、信里豪。
「……別に正義のヒーローやりたくてやってる訳じゃねぇけどな」
「…?何?もっかい言って」
「何でもねぇよ……」
はぁ、と重い溜息をこぼす瞬助。
「あー、…チョコ食いてぇ」
「いつも言ってるよねそれ。あ、私チョコボール持ってるよ?期間限定青汁風味!」
珠代の言葉にピクンと反応した瞬助。
しかし、顔を手で覆い、深く呼吸して、平静を装う。
「いらない」
「えー?食べたいんじゃないの?」
「そうだぞ木条。欲求への我慢は男らしくない」
人の気も知らずに好き勝手言いやがる…と口に出しそうになるが飲み込み、瞬助は「いらない」と繰り返す。
「えー、えぇー、もう食べちゃいなよー楽になるよ~うりうり、私のチョコが食えねぇってかー」
「そうだそうだ食っちまえ!男らしく箱ごと行け!」
「お前ら一応今講義中なの忘れてないか」
ちょっと騒ぎ過ぎた。
白髪だらけのアラフォー講師は平然と講義を勧めているが、視線はしっかりこっちを睨み付けている。
「むぅ、でも何で食べないの?チョコを欲してるんでしょ?」
「……事情があんの、色々」
「何だ?糖尿の気でもあるのか?」
「…………」
もうそういう事にしておこう。
という訳で瞬助はコクリとうなづく。
「その歳で!?ダメだよ瞬ちゃん!私は瞬ちゃんの将来がすごく不安になってきたよ!」
「欲望のままに糖をかっ喰らうからだ!自律する事も男らしさの秘訣だぞ!」
パンッ!という大きな手拍子音が一拍。
その発信者である講師はにこやかに笑いながら、声を出さずに口だけを動かす。
だ・ま・れ。
と。
今日は災難だった。
しかしまぁチョコが食いたい。
「あー…」
しかし、食ったら食ったで面倒な事になる。
祖父、あのクソジジィにかけられた、『呪い』のせいで。
夕焼け空を見上げながら、瞬助は帰路に着く。
向かうは、クソジジィが所有するボロアパートであり、瞬助の家でもある場所。
その途中、知っている顔を見かけた。
「おや……出来の悪いお孫様」
「……出会い頭に人を不快にしてくれてんじゃねぇぞ、サタナキア」
コンビニのビニール袋を持った全身ジャージ姿の小柄な女性。
深海の様な黒髪は、何故か美しさより不気味さを煽る不思議な感覚を植え付ける。
「ナキアと呼べと、言っているでしょう……気に入ってるんですこの愛称」
「へいへい……で、何してんだって」
「……主様のお遣いです。お釣りで好きな物を買っていいと言われたので、好物のアメリカンドッグも少々……何か問題が?」
「ねぇよ。聞いただけだよ」
ナキアの言う主とは、瞬助が言うクソジジィの事だ。
「しっかし……『悪魔』がジャージ姿でコンビニまでパシってるとは、世も末だよな」
「パシリではありません、特命です。何より、この身は主様のために粉となるべく存在しています。世はまだイケます」
そう、このナキアという小柄なジャージ部は、所謂『悪魔』だ。
人間より遥かに優れた肉体と知恵を持つ怪物。
見た目では判別不能だが。
「そうそう、それとこんな物も買ってみました」
ナキアがスっと取り出したのは…
「……本当、お前嫌な性格してるよな」
チョコボール。
しかも瞬助の大好きなピーナッツ味。
「あとジャイアントカプリコも……しかも…なんと2本です」
「結構お釣りあったんだなこの野郎!」
「私は一応女なので、『この野郎』では無く『この女』という表現が的確ですね」
ああクソ、むかつく。
「別に食べたいなら食べてしまえば良いじゃないですか。ほーら欲望のままにむしゃぶり付いてはいかがですか?」
「テメェ……」
人の気を知ってる上で好き勝手言うからこいつはタチが悪い。
丁度その時だった。
少し離れた場所で、悲鳴が聞こえた。
「「!!」」
瞬助とナキアが同時に反応する。
悲鳴の方角、少し先のT字路の方だ。
目をやると、丁度一台のバイクがすごい速度で走り抜けていった。
乗っていたのはフルフェイスのメットで顔を隠した大柄な人物。
手にはひったくった様に女性物のカバンを掲げていた。
いや、様にでは無く、ひったくった、のだろう。
「ちぇっ」
ナキアはつまらなそうに舌打ち。
逆に瞬助は満面の笑みを浮かべた。
「んじゃ、有り難くいただくぜ、ナキア」
チョコボールを奪い取り、瞬時に開封。
神業懸った開封速度だ。
そして、その中身の球状のチョコレートを、一気に口内へと流し込む。
「ぅ…うぅめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
抑圧から解放され、咆哮を上げる瞬助。
チョコまじウメェ!と連呼する。
そして、連呼しながらその体がまばゆい光を放つ。
「……相変わらず、ヒーローらしさの欠片も無い変身シーンですよねー」
幼い頃より、チョコを暴食する生活を送っていた瞬助。
そんな瞬助の身を案じ、瞬助の祖父は、彼にとある呪いをかけた。
それは、「チョコレートを摂取すると、ド派手なヒーローに変身してしまう」という呪い。
ヒーロー時は全身をロボットの様な鎧が覆うため、食事は愚か排泄すら不可能になってしまう。
変身を解除する条件はただ1つ、「良い事をする」事。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!チョコ最高!最高だこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
未だチョコの味に歓喜しながら、瞬助は光を裂いてその姿を現す。
それは、全身にロボット然とした紅蓮の装甲を纏った、ヒーロー。
噂の、『スチームマン』。
「な、何だぁ!?」
バイクのミラーが映す光景。ひったくり犯は自身に迫る異常事態を悟る。
背後から、どこの蒸気機関車だよとツッコミたくなる様な程に莫大な蒸気を撒き散らす何かが迫ってくる。
「ま、まさか…噂の……」
全身から蒸気を吐き出しながら、あらゆる悪を追い詰める、紅蓮のヒーロー。
「スチームマンって奴か!?」
『その通りだこの野郎!そして一言言わせてくれ!ありがとう!!そして観念しろ!』
二言叫び、スチームマンが迫ってくる。
「ぐっ…冗談じゃねぇ!」
ひったくり犯はバイクを全速力で走らせる。
『!』
不味い。
あの速度では、交通事故に繋がりかねない。
さっさと止める。
『丁度良いぜ…今日は色々あってイライラしてっからなぁ!派手にブチかましてやる!』
走る足を止めずに、スチームマンは『必殺技』の使用モードへと移行する。
『スチームチャージ……!』
スチームマンの全身から排出されていた蒸気が、止む。
そして、スチームマンは華麗に身を翻し、ひったくり犯へと背を向けた。
『喰らえ!必殺の、「スチーム鉄山靠」!!』
スチームマンの両手首部分と口にあたる部分、その三箇所から、勢い良く蒸気の塊が噴射される。
絶え間無くこの装甲から溢れ出すスチームを溜め込み、それを一気に噴射する事で、超加速する。
「なっ……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ひったくり犯が意識を失う前に見たのは、目前に迫る紅蓮の背中だった。
「あー疲れた……」
ひったくり犯を警察署の前に放り投げ、再度帰路に着く頃にはもう日が落ちかけていた。
ナキアは「主様が待ってるので」とあっさり先に帰ってしまった。
(本当、1チョコ1善とかしんどいったらありゃしねぇ……)
それでも、チョコは大好きだ。
軽いチョコ中毒な瞬助に取って、祖父にかけられた変身の呪いはとてつもない足枷である。
しかし、あの頑固な祖父だ。解いてくれとどれだけ頼んでも、解いてくれはしないだろう。
「仕方無ぇ」
面倒だが、チョコを食うため、スチームマンは善行を重ね続ける。
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