黒翼戦機ムルシェ・ラーゴ

須方三城

★第1回クラコ先生の解説コーナー



「はい、どうも。鬼狩り機士団ハウンドナイツ副司令、クラコ・アンドウです」
「もう知ってるけど……」
「さぁ、クラコ先生の解説コーナー、第1回目ですよ。覚悟は良いですか、サイファーさん」
「何の事だかよくわかってねぇ人間を半ば拉致気味に連れて来といてよく言うよ……」
「さて、という訳で、記念すべき初回のゲストは異世界からの来訪者、サイファー・ライラックさんです」
「……さっきからどこに話しかけてんだよ……」




「そうそう、ところでサイファーさん、コタロウさんと随分仲良くなったそうですね」
「いきなりなんだよ」
「世間話です。コタロウさん、良い人でしょう」
「……ああ、まぁな。面倒見の良い兄貴的な感じの、良い人だな」
「腹筋もサイファーさん程ではありませんが中々……じゅるり」
「腹筋?」
「ほああっ!? い、いえいえ! な……何でも無いですよ!?」
「腹筋と言えば……」
「え、何ですか? 何か耳よりな腹筋情報が……?」
「腹筋情報って何だよ……そういや、リウラさんも腹筋バッキバキだって言ってたなーと思って」
「!!!!!!!!!!」
「まぁ実際には見た事無いんだけど、さっきリウラさんと世間話で筋トレの話になって……」
「ふふふ……ふふふふふふふふ……」
「お、おい、どうしたんだよ?」
「いえいえ……次回のゲストが決まっただけですよ……ふふふふ……」
「?」






「で、結局なんなんだよ、クラコ先生の解説コーナーって」
「このコーナーは、機士や鬼の情報とこの世界の細かい情勢を私が解説する、という企画です。異世界人であるサイファーさんには、まだこの世界について疑問が多いでしょう。ここで解決しちゃってください」
「配慮は嬉しいけど……拉致る必要なくね? 普通に言えば付いて……」
「さぁさ。とにかくちゃちゃっと行きましょう。初回だけあって解説すべき事柄が溜まってるんです」
「……まぁいいけどさ」






「さて、まずは基礎知識面。鬼のランクについてです」
「C級だF級だって色々言ってた奴か」
「はい。我々は覚醒磁気の強度から、大体の鬼の強さをランク付けします。特S級というのが最大ランク、F級が最低ランクです。我々が『ラーナス』と名付けた先日のカエル型鬼。あれはC級に相当します」
「確か、C級だと機士1機で対処できるんだよな?」
「はい、良く覚えていてくれました。仰っしゃる通り、C級は単機での対処が可能なランクです。B級からは複数機が必要、A級以降は総司令の出撃が前提となります」
「総司令の機士ってそんな強いのか?」
「ぶっちゃけ規格外ですね。いずれ見れると思います。お楽しみに」
「へぇ」
「このランク分けは非常に信頼度の高い物ですが、ムルシェちゃんの様な例外も希にいますね」
「あいつが例外?」
「ムルシェちゃんの覚醒磁気は『F級相当』でした。しかし実際の戦闘能力はC級を軽くあしらう程。完全覚醒後はランク測定の基準が無いのではっきりとは言えませんが、A級相当だと私は思いました」
「ふぅん……」






「あ、そうだ少し質問していいか?」
「はい、というか、そういうコーナーですから」
「機士って6機しかいない訳じゃん?」
「はい。残念ながら、我々には0から機士を開発する技術はありませんので」
「だったら、あのカエル鬼の死骸とか、改修して使えねぇの?」
「良い着眼点ですが、それは不可能です」
「何で?」
「鬼には『心臓』があります。我々人間と違い、当然これも無機物で構成され、朽ちる事はありません」
「ふんふん」
「機士は、これを少しだけ改良して『エンジン』として活用しているんです。鬼の体を動かすには、かなりの量のエネルギーがいるので、並大抵のエンジンでは出力不足なんです」
「鬼の心臓を、エンジンに……」
「はい。そして、残念な事に、心臓を破壊せず鬼を仕留める方法は今の所ありません」
「成程な……鬼を倒すためには心臓を潰さなきゃだし、潰したら改修は不可能、と」
「はい。なので、仕留めた鬼の装甲等は、機士用の追加武装や装甲に活用する訳です」
「そうだったのか……」
「機士の元になった鬼の様に、何らかの事情により心臓が無傷の状態で死骸と化した鬼が現れれば、新たな機士を開発する事もできますが……期待しない方が良いでしょう」








「さて、続いては機士について解説して行きましょうか」
「お、そうそう。『マリアポッサ』、だっけ? あの忍者娘の機士。それとさっき言ってた総司令のとか、気になってたんだよ」
「ネタバレになるのでそこら辺は説明しません」
「ネタバレって何が!?」
「という訳で、今回は『アギラヴァーラ』オンリーでお送りします」
「……まぁいいけどさぁ……」




「まぁアギラヴァーラの説明の前に、機士の基本知識から」
「ほいほい」
「機士のパイロットは、誰でも良いという訳ではありません。元が生物だった事もあってか、『相性』があるんです」
「相性?」
「まぁ好き嫌いみたいなモンです。この乗り手は嫌いだから100%のパフォーマンスを発揮しない、って感じですかね」
「じゃあパイロットはほとんど固定って訳か」
「一応、現状全ての機士に、メインパイロットが不調や事故で動けなかった時のためのサブパイロットも選出してはいますが……」
「あんまり相性が良いサブパイロットってのはいない、と」
「はい」






「という訳でアギラヴァーラの詳細に入っていきましょう」
「おう」
「さて、このアギラヴァーラですが、中々武装が多彩なんですよ。まぁ空戦特化という事もあって射撃系に突出してはいますが」
「何かビーム式のピストルとかあったよな」
「大体ビーム系がメインですが、一応肩の付け根にある機関銃は実弾式です。羽先にはビーム射出用の銃口がありますし、指先からも小威力ですがビームを撃てます」
「俺らの世界じゃ、ビーム兵器なんてつい最近開発されたばっかだってのに……そんな気軽に……」
「脚部にビームピストルが4丁、腰部に組立式のビームライフルが1丁収納されていますね。それと手首部分には仕込みナイフもありますし、肩部にも小型ダガーが収納されています。鳥を模している脚部の爪も充分武器として扱えますね」
「本当に武装が多いな」
「ふふふふふ……」
「な、何だよ……」
「感心するのはまだ早いですよサイファーさん。アギラヴァーラには、まだ『とっておき』があるのです」
「とっておきっつぅと……まさか、必殺技か!?」
「その通りです! その名も『ヴァーラ・ヒガントゥス』!」
「おお、何か知らんがかっけぇ!」
「アギラヴァーラの胸部は装甲が開閉する様になっていて、専用の砲身が収まっているんです。その砲身から放たれる超出力極太ビームキャノン。それが『ヴァーラ・ヒガントゥス』なのです!」
「ご、極太……」
「威力は保証します。…なので、使用には少し慎重にならざる負えませんが、まぁ奥の手、ですよ。ちなみに先日もムルシェちゃんの乱入が無ければ使用していました。自然を損なわずに済んで良かったです」
「そら何より」




「ではでは、最後はあのカエル鬼、『ラーナス』についての報告書レポートです」
「レポート?」
「鬼には同一の種類というかタイプの者もいるので、次に同型種が現れた時、よりスムーズに対処できる様、細かく解析してレポートにまとめてあるんです」
「つまりあのカエル鬼と全く同じのが今後も出てくるかも知れない、って事か」
「という訳で、解析班から上がってきたレポートでお勉強です」
「了解」
「では基本情報から。ラーナスはC級の鋼機鬼バッドスティル。脊椎動物亜門両生綱カエル目、まぁ要するにカエルに近い外観ですね」
「鬼って、基本どっかで見た事ある動物に近い外観なんだな、蝙蝠とか鷲とか……」
「まぁたまに元がわからないのもいますし、必ずしも『動物』モチーフでは無いですがね」
「そういやあのカエル、何か触手無限に湧いてたけど、あれ質量保存の法則とかどうなってんだ?」
「さぁ?」
「さぁって……」
「ムルシェちゃんのマントも原理わからないじゃないですか。鬼の武装って超常過ぎて……まだ解析し切れていないんですよね」
「ふぅん……」
「戦闘手段は、次々に口内から発生する触手による打撃がメインの様です。他に目立った武装は見当たりませんでした。それと驚異的な跳躍力を持っている様です」
「ああ、えらい勢いで跳んで来たしな」
「まぁ武器種は少ない様ですが、触手はアギラヴァーラを圧倒する程の物量押しが可能、しかも再生機能付き。C級の中では中々厄介な部類ですね」
「そうなのか」
「心臓の位置は胸部中心。これが一番重要な情報です」
「心臓さえ潰せば勝てる訳だしな……って結構エグい会話だなコレ……」
「まぁあんな人外にまで情けを掛けちゃいられませんよ。サイファーさんは、その辺よくわかっているでしょう」
「……まぁな。でもムルシェの件があるから、少し考えた方がいいかな、とは思う」
「厳しい言い方になるかも知れませんが、鬼との対話を図るのは無駄だと思いますよ。半世紀前、人間に味方した鬼達が何故『絶対防御システム』を強制起動させる事でしか他の鬼を止められなかったか……考えてみる事です」
「………………」
「ムルシェちゃんの様な例は、億分の一のラッキーだったと考えるべきでしょう」
「……だな」
「……まぁ、少し引っかかりを覚えるのでしたら、私に案があります」
「案……?」
「私としても、少し『調べてみたい事』があるので……ただ、そのためには、ムルシェちゃんに確認すべき事項があるので、この話はまた今度にしましょう」








「さて、いかがでしたか、クラコ先生の解説コーナー」
「まぁ、結構役に立ったよ。ありがとう」
「あ、では……その……お、お礼代わりにその……ふっ……」
「ふっ?」
「い、いえ、やっぱり何でも無いですよ! それでは皆さんまた次回!」
「皆さんって何だよ……」



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