黒翼戦機ムルシェ・ラーゴ
プロローグ
僕達の住む世界には、『鬼』がいる。
50年前、唐突に現れた、機械の体を持つその『鬼』。
鬼達は今、『鋼の繭』の中で眠りに就いている。
しかし、眠りとは永遠では無い。
時がくれば、鬼達は目覚める。
その目覚めた鬼を『狩る』のが、僕の創設した『鬼狩り機士団』の仕事だ。
「……アンドウ副司令。今回は、誰が出撃かな?」
『サイファーさんとムルシェちゃんです。っていうかセンドウ総司令、今どこに……』
通話を切り、ゆっくり辺りを見渡してみる。
人気の無い浜辺。
季節柄、初夏もまだなので人がいないのも当然だろう。
まぁ今が例え夏まっさかりだとしても、人はいないだろうが。
何せ、僕の立つこの浜辺から100メートルも離れていない海の中に、鬼の揺り篭とも言える『鋼の繭』が沈んでいるのだから。
いつ起爆するか定かでない爆弾が、この海には沈んでいる。
そして、それは今まさに起爆の時を迎えていた。
「さて、『覚醒予測時間』より大分早いけど……もう『来る』ね」
鬼が目覚める、独特の感触。
僕にはそれがわかる。
そして、海が弾けた。
海面という膜を破り、天へと向かう巨大なシルエット。
鬼、だ。
機械的な紅い装甲を全身に纏った、まるでドラゴンの様な形状の鬼。
鬼と呼ぶに相応しい2本の剛角を振り上げ、その鬼が雄叫びを上げる。
鬼が飛翔の際に巻き上げた海水が、雨となり砂浜を濡らす。
「やれやれ。最近、予測が大幅に外れるのが多くなってきたね」
鬼は僕に気付き、さらにもう一叫び。
僕を殺す気だろう。
それもそうだ。
それが、鬼の目的なのだから。
人間だけでは無い。草や木。大気中の微生物に至るまで。全ての『有機生命体』が、鬼の殺戮対象なのだ。
「……悪いけど、君の相手は僕じゃない」
ほら、来た。
漆黒の風と見紛う様な速度で、黒い巨体がドラゴン型の鬼へと突進する。
「ゴアッ!?」
鬼は不可解な声を上げる。
まぁ混乱もするだろう。
何せ、その黒い巨体は、その鬼と『同類』なのだから。
全身が漆黒の装甲で覆われた、人型のシルエット。
風になびく漆黒のマントで身を覆っている。
背中からは飛膜の張ったヤケに有機物地味た黒い巨翼。
その頭部には、コウモリの耳にも似た装飾、そして、1本の角。
漆黒の巨人は鋭い爪を振りかざす。
その爪が、紅く染まる。
そして、それをドラゴン型の鬼の胸部へ、容赦無く突き立てた。
ドラゴン鬼の装甲が食い破られ、粘着質な体液が溢れ出す。
『ネイル・ヴァイブレイト!』
巨人から聞こえた、幼い少女の声。
その声の直後。
鬼が、体内から弾ける。
その紅蓮の爪から放たれる超音波の振動で、体内の機官を破壊されたのだろう。
「……ムルシェ・ラーゴ」
黒翼を広げ、空を切り裂く者。
その黒き巨人は、現在、唯一『人類に味方する鬼』。
「…………」
あの鬼に『乗る』青年の様に、僕も戦っていた。
でも、それは過去の話だ。
「やはり……歳は取りたくないね」
歳を取ると、利口な自分に逆らう気力が無くなってしまう。
若い頃の自分が唾棄した様な選択を、平然と選んでしまう様になる。
そして、それに対する自己嫌悪すら、放棄する。
「……ねぇ『ディオウス』……僕も、随分と『大人』になってしまったよ」
最低だ。自分達さえ良ければ、それで良いのか?
そう罵られる様な方法で、僕は今、この世界を『戦いから隔離する』ために動いている。
これは利口な選択なんだ、そう自分に言い聞かせて。
「……君の言う通り、僕は最低なんだろうね。サイファー君」
黒翼の戦機に背を向けて、海岸を後にした。
50年前、唐突に現れた、機械の体を持つその『鬼』。
鬼達は今、『鋼の繭』の中で眠りに就いている。
しかし、眠りとは永遠では無い。
時がくれば、鬼達は目覚める。
その目覚めた鬼を『狩る』のが、僕の創設した『鬼狩り機士団』の仕事だ。
「……アンドウ副司令。今回は、誰が出撃かな?」
『サイファーさんとムルシェちゃんです。っていうかセンドウ総司令、今どこに……』
通話を切り、ゆっくり辺りを見渡してみる。
人気の無い浜辺。
季節柄、初夏もまだなので人がいないのも当然だろう。
まぁ今が例え夏まっさかりだとしても、人はいないだろうが。
何せ、僕の立つこの浜辺から100メートルも離れていない海の中に、鬼の揺り篭とも言える『鋼の繭』が沈んでいるのだから。
いつ起爆するか定かでない爆弾が、この海には沈んでいる。
そして、それは今まさに起爆の時を迎えていた。
「さて、『覚醒予測時間』より大分早いけど……もう『来る』ね」
鬼が目覚める、独特の感触。
僕にはそれがわかる。
そして、海が弾けた。
海面という膜を破り、天へと向かう巨大なシルエット。
鬼、だ。
機械的な紅い装甲を全身に纏った、まるでドラゴンの様な形状の鬼。
鬼と呼ぶに相応しい2本の剛角を振り上げ、その鬼が雄叫びを上げる。
鬼が飛翔の際に巻き上げた海水が、雨となり砂浜を濡らす。
「やれやれ。最近、予測が大幅に外れるのが多くなってきたね」
鬼は僕に気付き、さらにもう一叫び。
僕を殺す気だろう。
それもそうだ。
それが、鬼の目的なのだから。
人間だけでは無い。草や木。大気中の微生物に至るまで。全ての『有機生命体』が、鬼の殺戮対象なのだ。
「……悪いけど、君の相手は僕じゃない」
ほら、来た。
漆黒の風と見紛う様な速度で、黒い巨体がドラゴン型の鬼へと突進する。
「ゴアッ!?」
鬼は不可解な声を上げる。
まぁ混乱もするだろう。
何せ、その黒い巨体は、その鬼と『同類』なのだから。
全身が漆黒の装甲で覆われた、人型のシルエット。
風になびく漆黒のマントで身を覆っている。
背中からは飛膜の張ったヤケに有機物地味た黒い巨翼。
その頭部には、コウモリの耳にも似た装飾、そして、1本の角。
漆黒の巨人は鋭い爪を振りかざす。
その爪が、紅く染まる。
そして、それをドラゴン型の鬼の胸部へ、容赦無く突き立てた。
ドラゴン鬼の装甲が食い破られ、粘着質な体液が溢れ出す。
『ネイル・ヴァイブレイト!』
巨人から聞こえた、幼い少女の声。
その声の直後。
鬼が、体内から弾ける。
その紅蓮の爪から放たれる超音波の振動で、体内の機官を破壊されたのだろう。
「……ムルシェ・ラーゴ」
黒翼を広げ、空を切り裂く者。
その黒き巨人は、現在、唯一『人類に味方する鬼』。
「…………」
あの鬼に『乗る』青年の様に、僕も戦っていた。
でも、それは過去の話だ。
「やはり……歳は取りたくないね」
歳を取ると、利口な自分に逆らう気力が無くなってしまう。
若い頃の自分が唾棄した様な選択を、平然と選んでしまう様になる。
そして、それに対する自己嫌悪すら、放棄する。
「……ねぇ『ディオウス』……僕も、随分と『大人』になってしまったよ」
最低だ。自分達さえ良ければ、それで良いのか?
そう罵られる様な方法で、僕は今、この世界を『戦いから隔離する』ために動いている。
これは利口な選択なんだ、そう自分に言い聞かせて。
「……君の言う通り、僕は最低なんだろうね。サイファー君」
黒翼の戦機に背を向けて、海岸を後にした。
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