JOKER~生身で最強だけど、たまにはロボットに乗りたい~

須方三城

12,ジョーカーの日々

「ギギギギ! 自身の肉体を持ったのは久しぶりだ!」


 シャンバラの格納庫内に、心底楽しそうな馬鹿デカい声が響く。


「うるせぇぞ、クソインバーダ。図体デカいんだから、小声で喋る様に意識しろっつったろ」
「ギッギッギッ、すまんなぁ、ジョーカーよ」
「ったく……」


 ズラリと並ぶGG達の前、のそのそと動き周る、黒い巨体。
 翼の無いタイプのドラゴン型インバーダだ。全長は40メートル程。


「あの、ジョーカーさん、本当にこれ……大丈夫なんですか……?」


 格納庫でゴロンと横になりくつろぎ始めたインバーダを見て、ジャックが青ざめている。
 まぁ、気持ちは容易に察する事ができる。


「ああ。まぁ何か理事会うえの連中はゴタゴタ文句言ってるらしいけど、大丈夫だよ」


 インバーダを飼うなんて正気か、と各国支局の代表方から飽きるくらいにクレームの嵐を頂いている。
 主に、バージャスさんが。


 本当、バージャスさんには申し訳無いが、これで地球の戦力事情は一気に好転するだろう。


「あいつ、人間の不利益になる様な事はしねぇから」
「信用できるんですか……?」
「信用云々じゃねぇよ。……言い方が悪かったな。あいつ、人間の不利益になる様な事、『できねぇ』から」
「え……?」


 先日の超巨人型G・インバーダ。
 アレは、確かに知性が高い部類だった。
 敵わない相手からは逃げると言う判断を下せる程度には、知性があった。
 だが、その程度だ。
 アレがインバーダ達と戦っている様は、まるで幼児が虫を追い掛け回す様な印象を受けた。
 それくらい、行動が本能的で、幼かった。


 そんな程度の知性で、5つの分身体を、自在に操れる物だろうか。
 否。そんな訳が無い。
 だから俺は、推測した。


 奴は、分身体に『プログラム』を組み込んだのでは無いか、と。
 分身体の一挙手一投足を自身が操作するのでは無く、大まかな方針プログラムを与え、自動でその行動を取らせてたのでは無いか、と。
 つまり、あのボール達は『生命体を追い掛け回し、食らいつけ』と言う単純命令以外は与えられておらず、その命令に沿って、自動で動いていた可能性が高い。


 だったら、俺にもできるんじゃないか、と思った訳だ。
 分身体への、プログラムの付加。


「あいつには、行動制約プログラムを組み込んである。人間や、人間の施設等に危害を加えようとしたら、あいつは全身が動かなくなって、指先から1メートル四方ずつ粉微塵に吹き飛んでいく」
「え、エグい……!」


 ちなみに、正常にプログラムが稼働するかも検証済みだ。
 試しに此処で暴れさせてみたら、すぐに動けなくなって爆裂四散し始めたから。
 途中でプログラムを止めてやったから存命しているが、あのまま頭部が吹き飛んでたら死んでしまう事は充分理解したはずだ。
 つぅ訳で、このクソインバーダも下手な真似はしないだろう。


 そういや、いつまでもクソインバーダじゃ呼び辛いな……
 何か適当な名前、考えとかないと。3文字か4文字くらいが良いかな。
 アヴァさん辺りに頼んだら、何かカッコイイ名前を考えてくれそうだな。


「んじゃ、俺は地球に帰りますかね……」


 G・インバーダへの対策は、こいつさえいれば、どうにかなるだろう。
 こいつは甲殻こそ黒い物の、G・インバーダ以上の戦術展開を行える知性がある。


 割と短い期間ではあったが、これでシャンバラでの生活も終わりだ。


 おかげで、夏輪の文化祭はフルで通える。
 これからは、あのクソインバーダにも少しは優しくしてあげよう。






 久々の地球。


 喫茶店、クライマックスおじさん。


「もうすぐだな、文化祭」
「うん!」


 生クリームをほっぺに引っ付けながら、夏輪が無邪気に笑う。
 ああ、もう「天使の様な」と言う例えすら生ぬるい。俺にはもう神々しく見える。


「お兄ちゃん、どの日に来るの?」
「毎日行くけど」
「じゃあ、2日目は一緒に回れるね」


 ああ、そうか。
 そりゃ毎日クラスの出し物に出てたら、文化祭を満足に楽しめないしな。
 非番の日はあるに決まってる。


「楽しみだな、文化祭」
「うん! ウチの学校のは凄いんだよ! 全力でおもてなしするから、覚悟してね!」


 ああ、幸せの余り死んでしまう覚悟と準備はできている。
 対G・インバーダの後任にはあのクソインバーダがいるし。


「それと、今夜はちょっとした鍋パーティやるんだけど、釜尾さん家、来るか?」
「鍋!?」
「蟹やら肉やら、結構豪勢にやってくれるらしい」
「蟹……!?」


 夏輪の目の色が変わる。もう何かキラキラしてる。
 最早「うん」と言うまでもないよね! と言わんばかりに強い意思の篭った目をしている。
 本当に食いしん坊だな。


「でも、何で急に豪勢な鍋パーティ? 私としてはすんごく非常にとっても最高に嬉しいけど」
「俺の地球暮し再開を祝しての鍋パーティだって」
「地球暮し再開……って、今まで宇宙の方に行ってたの?」
「ああ、諸事情あってな。でももう問題は大体片付いたから、戻って来た」
「そうなんだ」


 よかったね! と夏輪はまるで自分の事の様に喜んでくれた。
 本当、兄冥利に尽きる妹を持って、俺は幸せである。


「……幸せか……」
「どうしたの?」
「いや、本当に俺、ツいてんな、と思ってさ」


 普通か普通じゃないかで言えば普通寄りの……悪い言い方をすれば、退屈な人生を送っていた。
 それが3年前、事故みたいな形で化物になって、世界が終わってしまえば良いと思える様な絶望を味わった。
 それでも、それはほんの一時的な、通り雨みたいな物だった。


 その後に待っていたのは、ちょっとドタバタし過ぎて疲れる事もあるけど、面白い人達に囲まれた、楽しい毎日。


「これでロボットにも乗れりゃ、言う事無しなんだけどなぁ……」
「お兄ちゃん、ロボット好きだもんね」
「ああ」


 俺より強いGGなんて、あと何世紀待てば開発されるのやら……


 ……ん? 待てよ。


「クソインバーダを使えば……」


 そうだ、クソインバーダの形状は自由自在。
 あいつをGG型にして、コックピットもそれっぽく仕上げて、俺の意思とリンクさせて思い通りに動かせる様にすれば……
 ロボットっぽい物のコックピットに乗り込んで、自分の意思で動かせる……うん、良い。良いぞこれ。


 早速、上の方々に掛け合ってみよう。
 無論、夏輪との時間を存分に満喫した後で。






 この後、俺のアイデアは「えー、馬鹿なの? 別々に戦った方が効率良いじゃーん。もう2回聞いて良い? 馬鹿なの? 馬鹿なの?」と却下される事になる。





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