長政前奏曲~熱烈チョロインと一緒に天下布武をお手伝い~

須方三城

18.5,弥助、茶柱を知る

 尾張、長政に与えられた屋敷。


 その居間にて、弥助は1人の少女と向かい合いながら、茶を啜っていた。


「暇ですねぇ」


 そう呟いた少女。
 その真珠の如く美しい髪は頭頂部で結われ、髪房が馬の尻尾の様になっている。


 長政のために信長が手配してくれた女中、名は早苗さなえ
 年齢は長政より2つ下、お市と同い歳である。
 歳こそ若いが、この屋敷の家事炊事全般を1人で立派に務め上げる実に有能な少女である。


 有能過ぎる余り、その日はもうする事が無いと言う状態に陥る事がよくある。
 それが、今である。


「邸内の掃除・洗濯・買い出し・晩御飯の仕込み……うーん、やはり全部終わってますね。暇です弥助さん」
「ウルセェナ、暇、ナラ、寝ル、カ、帰レ」
「雇い主様の屋敷で寝るなんてできません。長政様がお帰りになったら晩御飯の支度をするので、帰る訳にも行きません」
「ソォカヨ……ナラ、モウ、1杯、クレ」
「はい」


 弥助が湯呑を早苗に渡すと、早苗は「仕事だ」とちょっと嬉しそうにおかわりを注ぎ始めた。


「あ」
「ン?」
「弥助さん、茶柱ですよ」
「チャバシラ?」
「知らないのですか?」


 弥助が湯呑を覗き込むと、茶の真ん中に何やら短い棒の様な物が浮いている。


「ンダコレ、ボウフラ、カ?」
「茶柱だと言っているでしょう。茶葉に混じった小さな茎が、稀にこうやって茶の中に浮く事があるのです」
「ホォー」
「希な物なので、茶柱が出た日は自分や自分の周りの者に幸運があるとされます」
「幸運、ネェ……特ニ、何モ、ネェゾ」
「これからあるかも知れませんし、もしかしたら周りの誰かに良き事があったのかも知れません」
「フゥン、誰カニ、ネェ……」
「長政様に何か吉報があったのかも知れませんよ」
「奴ガ、帰ッタ、ラ、聞イテ、ミル、カ」
「そうしましょう」




 ………………。




「茶柱のおかげで少しは紛れましたが、やはり暇ですねぇ……」
「ジャア、漫画コレデモ、読ンデ、ロヨ」
「書物はあまり……」
「コレハ、絵バッカ、デ、読ミ、ヤスイ、ゾ」
「左様ですか? では、少し失礼して……」



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