長政前奏曲~熱烈チョロインと一緒に天下布武をお手伝い~
7,長政、楽市を見る
尾張、清洲城。
織田家の居城。
俺とお市ちゃん、そして俺の世話役兼今後のお供1名は、3日間の旅の末、ようやくその城門にたどり着いた。
ハヤテから降りながら、城門の奥に見える城郭を眺めてみる。
「何か、思ってたほど……デカくないな」
織田家は日ノ本で1・2を争う富豪貴族。
もっとド派手な城に住んでいる物かと思ったが……
近江の小谷城と余り大差は見受けられない。
むしろ、清洲城の方が小さめなくらいでは無いだろうか。
「祖父様の建てた城ですから。この城を建てた頃は、今ほどの財は無かったそうです」
「へぇー……」
じゃあ、親父さんと信長の2代で、尾張を大発展させた訳か。
「若、これから仕える方の居城にケチを付けるなど、失礼千万ですぞ」
俺をそう嗜めたのは、俺の世話役を勤めていた…そして今後は、俺の家臣として従ってくれる中年。
名は遠藤直経。
筋骨隆々としており、立派な無精髭を生やしている。まさしくおっさん。
かなりの剣術の使い手だが、居合抜刀術馬鹿なので居合以外の技術は余り日の目を見ない。
「いや、別にケチは付けてないけど……」
お市ちゃんがハヤテから降りるのに手を貸しつつ、反論しておく。
ケチでは無く、ただの意外だと思っただけの感想である。
「若、良いですか。ここは近江とは違います。小谷城での様に身勝手な振る舞いや言動は許されません。あなた様はこれから人に仕えるのです。その辺りは、きちんと認識してください」
「へいへい……」
わかり切った事をグチグチと……これだから、遠藤をお供にするのは嫌だったのだ。
まぁ、小言が多いのはそれだけ俺を気遣っての事なのだとはわかっちゃいるが……何と言うか、煩わしい。
「お」
そんなやり取りをしていると、目の前で城門の戸が開き始めた。
「よう、長政、お市」
「兄上!」
俺達を出迎えてくれたのは、簡素な着物の上から虎皮の外套を羽織った信長。
そして……
「ヨウ、コノ、野郎」
首に包帯を巻いた、弥助。
……あれからまだ10日とちょっとなのに、もうその程度の処置で良いのか。
あの時と違って弥助の両肩から両腰にかけて、交差する形で幾重にも鎖が巻かれている。
あれが、件の『隷属の鎖』と言う奴か。
あの鎖が巻かれてる状態だと人は襲えないらしいが……若干警戒してしまう。
だって、俺は下手したらこいつに首をへし折られて死んでたんだぞ。
「ほう、見た事の無いモノノ怪ですな。人語まで操るとは」
弥助の脅威を知らない遠藤が、ややワクワクした感じで言う。
そういや遠藤も、姉上と同じで好奇心旺盛な部類だった。
「南蛮のモノノ怪らしいぞ」
「ぬぬ、尾張は南蛮との貿易が盛んだとは聞いていましたが、まさかモノノ怪まで仕入れているとは……」
「んで、そっちのおっさんこそ見た事無ぇ面だが」
「む、申し遅れた。某は長政様の守役、遠藤直経。以後、若の家臣として共に織田家に力添えする形になります」
「そうか。俺様は織田信長。以後、しばらくはテメェの主君の主君だ」
「はっ、領主自らのお出迎え、感謝致します」
お互いに挨拶を終えた所で、信長が踵を返す。
「とりあえず上がれ。細けぇ話は、それからだ」
テメェの家は用意してある。家臣の分も用意するから、それまではそこで2人で暮らせ。
そう指示を受け、俺と遠藤はその借家へと向かった。
「やっぱ、尾張ってすごいな……」
道中、町の市場は人ごみに溢れていた。
ハヤテ達は城に預けて正解だったかも知れない。
こんな場所を馬で通れる訳が無い。
「信長殿は農民や職人への税金を軽くしていると聞く。それが生産者の意識向上につながり、質は良きままに生産が増える。良き品が多く出回れば商売人も増える。減税された者達は金銭の余裕ができて消費も増す。そうして市場が活性化してゆく、と言う感じでしょうな」
「ふぅん……」
「それだけにございません。増えた生産物を他の領や外国への輸出する事で、尾張内は更に潤沢になっていくのでしょう」
税を減らすと言う、一見税収を減らすだけの行動が、回り回って領そのものを潤しているのか。
領民の財政が豊かになれば、税率を下げたって税収は維持できる。むしろ増やせる、と。
それが、織田家の財力を支える物の一端か。
商品を眺める人々の顔は、楽しそうだ。
買い出しは日々の業務では無く、楽しみ。
そんな雰囲気が、この市場にはある。
買い物を楽しめる程に、領民達の生活に余裕があると言う事だ。
「早速、尾張の領地経営の良い所を学べたな」
「一時的に税収は減るのです。悪戯に真似すれば良い物ではありません。地が潤沢した経済であったが故にやれた政策でしょう」
まぁ、尾張と近江は良くも悪くも違う。
単純な繰り返しで上手く行くとは限らない、か。
それでも、成功例である事に変わりはない。
生産者への厚遇処置……頭には入れておく。
「長政様、あそこのお団子はとても美味しいのですよ!」
「ところで、何でしれっと居るのかな、お市ちゃん」
城を出た時は、俺と遠藤しかいなかったはずだが。
「っていうか、よくこの人ごみの中から俺達を……」
「レーヴァテインの力があれば造作も無い事です」
自慢気に黒塗りの懐刀を取り出したお市ちゃん。
その鞘先から、何か薄ら黒い糸の様な物が見える。
その糸は、俺の足元の影につながっている。
「運命の赤い糸です!」
「……いや、薄黒いけど」
「ちなみに不可視化もできます」
すー……っと薄黒い糸が消えて……いや、透明化しているだけか。
これもレーヴァテインの魔法って奴か。
尾行の際には便利だな……何故それを俺に施すのか、全く理解できないが。
「これで長政様をいつでもどこまでも追えます!」
追ってどうする。
……この子、ちょいちょい不可解な行動を見せるよな。
お市ちゃん的には何か意味があるのだろうか。
あるとしたら、どんなんだろう。
俺を尾ける事でこの子に生じる利益……思い当たらない。
……まぁ、すごく楽しそうだし、俺には今のところ不利益は出てないし。放って置いてもいいか。
「と言う訳で、お団子を買って長政様の新しいお家に行きましょう!」
この子、人の家を見学するの好きだな。
京に隣接する領地、大和と河内。
その2領の狭間に建つ城。
大和の領主、松永家の居城、信貴山城。
その城の手狭な一室に集う、4つの影。
僅かな灯りが照らし出すのは、主格と思われる上座に座した男。
やたら白髪の目立つ頭髪のせいで老人の様にも見えるが、違う。
その男の年齢は、まだ30にも満たない。
華奢を通り越え、顔も体も骨格が浮き出ている。
骸の様な男だ。
「あは……最近さ、夢を見るんだぁ」
骸の様な男が静かに口を開く。
その顔に刻まれるのは満面の笑み。
「日ノ本のそこら中で、大火が燃え盛る。血の池を死に損ない共が這い回る。皆が皆、眼前の絶望から逃げるために血走った目で明日を見据える」
一音を発する度に、男の口角はつり上がって行く。
「ねぇ、三好のお三方。素敵な戦乱は、いつ来るの?」
「……次代に期待できる大将軍はおらぬ。現大将軍、義輝公が死去すれば、遠からず世は乱れよう」
男の前に並ぶ3つの影の1つが、そう答えた。
「先の長くない老体故、あと10年すればこの世を去ろう。そこから2年もすれば……」
「遅いよぉ」
影の言葉を、男が遮る。
「12年も待ったら、僕はもうおじさんだよぉ? 老いた体じゃあ、せっかくの乱世を楽しめないじゃん」
「しかし……」
「ねぇ、殺しちゃおうよぉ」
「……は……?」
「義輝公を、殺しちゃお」
男の言葉に、3つの影が狼狽え始める。
「し、しかし、愚でも無い君主を殺しては、日ノ本中の反感を買います。諸領の者達に、総攻めを受けますぞ……!?」
「……いや、そうでもない」
影の1つが、何かを思いついた。
「抱き込むのだ。天下を狙うためなら手段を選ばぬ、狡猾な領主達を」
「……ふむ、今川や朝倉などは、乗ってくれるやも知れんな。奴らは古武士。天下への憧れは若き領主共より激しいはず」
「そして古き者故に、一刻も早い乱世の到来を望んでいる事も確かであろう」
「もし、大将軍暗殺と同時に戦を起こさせる事ができれば……即日で世は乱れ狂うであろうなぁ」
「そうだ、尾張の織田は将軍家との交流が深いと聞く。きっと京が攻められていると聞けば、大軍を率いて京へ出るぞ」
「さすれば、尾張の守る力は無くなる」
「尾張と隣り合う駿河の今川が攻め入るには、好機となる訳だ」
「今川を蹴しかけ、戦乱の口火を切らせる事ができれば……」
「泰平は、終わる」
1領が国取りに動き出せば、もう止まらない。
我も我もと立ち上がる。そして、侵略と防衛が繰り返される。
それを制止するだけの力を持つ名君でも現れぬ限り、世は荒れ、乱れ続ける。
「あっはぁ」
3影のやり取りを聞き、男が笑う。
「じゃあ、今川さん家への根回しが終わり次第、殺っちゃおっか。義輝公」
「……しかし、それ以前の問題として、我々で大将軍を討てるのか?」
「そうだ、河内と大和の戦力を合わせても、あの『武神』に敵うかどうか……」
「大丈夫だよぉ」
笑いながら、男は腰の刀を抜いた。
それは柄も鍔も黄金で作られた、両刃の剣。
鍔の中心には、血だまりの様な紅蓮の宝玉が嵌め込まれている。
「おお、それが噂の、『双極聖剣』がひと振り……!」
「そぉだよぉ」
男は純白の刀身に舌を這わせていく。
愛おしく、愛撫する様に。
「この松永久秀と、『万象廻天・アロンダイト』が……億の戦力差さえ、ひっくり返してあげるよ」
織田家の居城。
俺とお市ちゃん、そして俺の世話役兼今後のお供1名は、3日間の旅の末、ようやくその城門にたどり着いた。
ハヤテから降りながら、城門の奥に見える城郭を眺めてみる。
「何か、思ってたほど……デカくないな」
織田家は日ノ本で1・2を争う富豪貴族。
もっとド派手な城に住んでいる物かと思ったが……
近江の小谷城と余り大差は見受けられない。
むしろ、清洲城の方が小さめなくらいでは無いだろうか。
「祖父様の建てた城ですから。この城を建てた頃は、今ほどの財は無かったそうです」
「へぇー……」
じゃあ、親父さんと信長の2代で、尾張を大発展させた訳か。
「若、これから仕える方の居城にケチを付けるなど、失礼千万ですぞ」
俺をそう嗜めたのは、俺の世話役を勤めていた…そして今後は、俺の家臣として従ってくれる中年。
名は遠藤直経。
筋骨隆々としており、立派な無精髭を生やしている。まさしくおっさん。
かなりの剣術の使い手だが、居合抜刀術馬鹿なので居合以外の技術は余り日の目を見ない。
「いや、別にケチは付けてないけど……」
お市ちゃんがハヤテから降りるのに手を貸しつつ、反論しておく。
ケチでは無く、ただの意外だと思っただけの感想である。
「若、良いですか。ここは近江とは違います。小谷城での様に身勝手な振る舞いや言動は許されません。あなた様はこれから人に仕えるのです。その辺りは、きちんと認識してください」
「へいへい……」
わかり切った事をグチグチと……これだから、遠藤をお供にするのは嫌だったのだ。
まぁ、小言が多いのはそれだけ俺を気遣っての事なのだとはわかっちゃいるが……何と言うか、煩わしい。
「お」
そんなやり取りをしていると、目の前で城門の戸が開き始めた。
「よう、長政、お市」
「兄上!」
俺達を出迎えてくれたのは、簡素な着物の上から虎皮の外套を羽織った信長。
そして……
「ヨウ、コノ、野郎」
首に包帯を巻いた、弥助。
……あれからまだ10日とちょっとなのに、もうその程度の処置で良いのか。
あの時と違って弥助の両肩から両腰にかけて、交差する形で幾重にも鎖が巻かれている。
あれが、件の『隷属の鎖』と言う奴か。
あの鎖が巻かれてる状態だと人は襲えないらしいが……若干警戒してしまう。
だって、俺は下手したらこいつに首をへし折られて死んでたんだぞ。
「ほう、見た事の無いモノノ怪ですな。人語まで操るとは」
弥助の脅威を知らない遠藤が、ややワクワクした感じで言う。
そういや遠藤も、姉上と同じで好奇心旺盛な部類だった。
「南蛮のモノノ怪らしいぞ」
「ぬぬ、尾張は南蛮との貿易が盛んだとは聞いていましたが、まさかモノノ怪まで仕入れているとは……」
「んで、そっちのおっさんこそ見た事無ぇ面だが」
「む、申し遅れた。某は長政様の守役、遠藤直経。以後、若の家臣として共に織田家に力添えする形になります」
「そうか。俺様は織田信長。以後、しばらくはテメェの主君の主君だ」
「はっ、領主自らのお出迎え、感謝致します」
お互いに挨拶を終えた所で、信長が踵を返す。
「とりあえず上がれ。細けぇ話は、それからだ」
テメェの家は用意してある。家臣の分も用意するから、それまではそこで2人で暮らせ。
そう指示を受け、俺と遠藤はその借家へと向かった。
「やっぱ、尾張ってすごいな……」
道中、町の市場は人ごみに溢れていた。
ハヤテ達は城に預けて正解だったかも知れない。
こんな場所を馬で通れる訳が無い。
「信長殿は農民や職人への税金を軽くしていると聞く。それが生産者の意識向上につながり、質は良きままに生産が増える。良き品が多く出回れば商売人も増える。減税された者達は金銭の余裕ができて消費も増す。そうして市場が活性化してゆく、と言う感じでしょうな」
「ふぅん……」
「それだけにございません。増えた生産物を他の領や外国への輸出する事で、尾張内は更に潤沢になっていくのでしょう」
税を減らすと言う、一見税収を減らすだけの行動が、回り回って領そのものを潤しているのか。
領民の財政が豊かになれば、税率を下げたって税収は維持できる。むしろ増やせる、と。
それが、織田家の財力を支える物の一端か。
商品を眺める人々の顔は、楽しそうだ。
買い出しは日々の業務では無く、楽しみ。
そんな雰囲気が、この市場にはある。
買い物を楽しめる程に、領民達の生活に余裕があると言う事だ。
「早速、尾張の領地経営の良い所を学べたな」
「一時的に税収は減るのです。悪戯に真似すれば良い物ではありません。地が潤沢した経済であったが故にやれた政策でしょう」
まぁ、尾張と近江は良くも悪くも違う。
単純な繰り返しで上手く行くとは限らない、か。
それでも、成功例である事に変わりはない。
生産者への厚遇処置……頭には入れておく。
「長政様、あそこのお団子はとても美味しいのですよ!」
「ところで、何でしれっと居るのかな、お市ちゃん」
城を出た時は、俺と遠藤しかいなかったはずだが。
「っていうか、よくこの人ごみの中から俺達を……」
「レーヴァテインの力があれば造作も無い事です」
自慢気に黒塗りの懐刀を取り出したお市ちゃん。
その鞘先から、何か薄ら黒い糸の様な物が見える。
その糸は、俺の足元の影につながっている。
「運命の赤い糸です!」
「……いや、薄黒いけど」
「ちなみに不可視化もできます」
すー……っと薄黒い糸が消えて……いや、透明化しているだけか。
これもレーヴァテインの魔法って奴か。
尾行の際には便利だな……何故それを俺に施すのか、全く理解できないが。
「これで長政様をいつでもどこまでも追えます!」
追ってどうする。
……この子、ちょいちょい不可解な行動を見せるよな。
お市ちゃん的には何か意味があるのだろうか。
あるとしたら、どんなんだろう。
俺を尾ける事でこの子に生じる利益……思い当たらない。
……まぁ、すごく楽しそうだし、俺には今のところ不利益は出てないし。放って置いてもいいか。
「と言う訳で、お団子を買って長政様の新しいお家に行きましょう!」
この子、人の家を見学するの好きだな。
京に隣接する領地、大和と河内。
その2領の狭間に建つ城。
大和の領主、松永家の居城、信貴山城。
その城の手狭な一室に集う、4つの影。
僅かな灯りが照らし出すのは、主格と思われる上座に座した男。
やたら白髪の目立つ頭髪のせいで老人の様にも見えるが、違う。
その男の年齢は、まだ30にも満たない。
華奢を通り越え、顔も体も骨格が浮き出ている。
骸の様な男だ。
「あは……最近さ、夢を見るんだぁ」
骸の様な男が静かに口を開く。
その顔に刻まれるのは満面の笑み。
「日ノ本のそこら中で、大火が燃え盛る。血の池を死に損ない共が這い回る。皆が皆、眼前の絶望から逃げるために血走った目で明日を見据える」
一音を発する度に、男の口角はつり上がって行く。
「ねぇ、三好のお三方。素敵な戦乱は、いつ来るの?」
「……次代に期待できる大将軍はおらぬ。現大将軍、義輝公が死去すれば、遠からず世は乱れよう」
男の前に並ぶ3つの影の1つが、そう答えた。
「先の長くない老体故、あと10年すればこの世を去ろう。そこから2年もすれば……」
「遅いよぉ」
影の言葉を、男が遮る。
「12年も待ったら、僕はもうおじさんだよぉ? 老いた体じゃあ、せっかくの乱世を楽しめないじゃん」
「しかし……」
「ねぇ、殺しちゃおうよぉ」
「……は……?」
「義輝公を、殺しちゃお」
男の言葉に、3つの影が狼狽え始める。
「し、しかし、愚でも無い君主を殺しては、日ノ本中の反感を買います。諸領の者達に、総攻めを受けますぞ……!?」
「……いや、そうでもない」
影の1つが、何かを思いついた。
「抱き込むのだ。天下を狙うためなら手段を選ばぬ、狡猾な領主達を」
「……ふむ、今川や朝倉などは、乗ってくれるやも知れんな。奴らは古武士。天下への憧れは若き領主共より激しいはず」
「そして古き者故に、一刻も早い乱世の到来を望んでいる事も確かであろう」
「もし、大将軍暗殺と同時に戦を起こさせる事ができれば……即日で世は乱れ狂うであろうなぁ」
「そうだ、尾張の織田は将軍家との交流が深いと聞く。きっと京が攻められていると聞けば、大軍を率いて京へ出るぞ」
「さすれば、尾張の守る力は無くなる」
「尾張と隣り合う駿河の今川が攻め入るには、好機となる訳だ」
「今川を蹴しかけ、戦乱の口火を切らせる事ができれば……」
「泰平は、終わる」
1領が国取りに動き出せば、もう止まらない。
我も我もと立ち上がる。そして、侵略と防衛が繰り返される。
それを制止するだけの力を持つ名君でも現れぬ限り、世は荒れ、乱れ続ける。
「あっはぁ」
3影のやり取りを聞き、男が笑う。
「じゃあ、今川さん家への根回しが終わり次第、殺っちゃおっか。義輝公」
「……しかし、それ以前の問題として、我々で大将軍を討てるのか?」
「そうだ、河内と大和の戦力を合わせても、あの『武神』に敵うかどうか……」
「大丈夫だよぉ」
笑いながら、男は腰の刀を抜いた。
それは柄も鍔も黄金で作られた、両刃の剣。
鍔の中心には、血だまりの様な紅蓮の宝玉が嵌め込まれている。
「おお、それが噂の、『双極聖剣』がひと振り……!」
「そぉだよぉ」
男は純白の刀身に舌を這わせていく。
愛おしく、愛撫する様に。
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