第35話 Baby Rainy

　グリーヴィマジョリティのボス、アリアト・ビルクダンテ。
　諸悪の元凶であるその女と対峙し、俺はコクトウを構える。


「コクトウ、あいつの魔力、どのくらいだ」
「……比べるのもおこがましいな」
「……え？」
「お前が豆粒だとすれば、あの女は山だ」
「……は……？」


　ちょっと待て、俺の魔力量って、常人の数十倍……


「だから言ったろうが、あのクソ女、強いぞってな」
「…………」


　ビビるな、まだ、魔力上限値の拡張と言う術の１つが封じられただけだ。


「あの魔力量は、どう考えても人間じゃねぇ……下手すると、『魔女』だ」
「……禁断魔法を持ってるって事か……！」


　それも、『極めた禁断魔法』を。
　待てよ、もしかして……


「まさかあんた……精神操作魔法を使えるのか……？」
「……？　いきなり何を言っているのかしら。私が使う魔法は、『リベリオン』だけよ」
「リベリオン……？」


　何にせよ、この女は精神操作魔法の使い手では無いと言う事か。


「……コクトウ、１発勝負で行くぞ」
「応よ。流石に、まともに闘り合うのぁ危険だ」


　イビルブーストを全開にして、あの女の鳩尾に全力のエルボーをねじ込んでやる。


「イビルブースト！」


　風の重量感が増す。
　木々の揺れが、動いてるかどうか判別するのが難しいくらいゆっくりになる。


　真っ直ぐに、俺はアリアトの懐へ向けて走る。
　彼女が指先を動かす間に、俺は目的地に達した。


「らぁッ！」


　肘鉄で、アリアトの胸を抉ると同時、俺はイビルブーストの出力を弱める。
　ずっとフル稼働してたら、すぐに反動で動けなくなるからな。


　肘から骨伝導で俺の耳に伝わる鈍い音。
　確実に、アリアトの肋骨を砕いた。そんな感触だ。
　……いや、今の感触、肋骨どころか胸骨も……


　やばい、やり過ぎたかも知れない。
　殺してでも、とは思ってたが、本当に殺してしまったら話を聞けな……


「っ」


　肋骨・胸骨の粉砕骨折。
　常人なら、ショック死する事だって充分あるはずだ。


　なのに、アリアトは、笑った。
　頬の肉が裂けそうなくらい、口角を吊り上げて。


　悪寒を感じ、急いで後方へ跳び退く。
　アリアトが腕を振るったのに合わせて、俺がさっきまでいた地点の地面から、無数の刃が吹き出した。


「あ、ぎ、ぶふぅ、ぁ、あら、勘が良っげは、…勘が、良いのね」
「っ……！？」


　呼吸の度、砕けた骨が肺を抉るのだろう、アリアトはその口から滝の様に血反吐を流している。
　それでも、彼女は笑っている。


　不気味…と言うか、グロい。軽いスプラッタ映画を見ている気分だ。
　ユウカがサーガの目を覆い隠してくれてるのはナイス判断だと思う。


「あーあー、服が汚れちゃった」


　自身の血反吐で汚れた服を、アリアトは軽く指先で撫でる。
　すると、その服が一瞬だけ粒子の様に散り、そしてまた、全く同じデザインの服として再構成される。
　シミ１つない、新品同然の状態で。


「なっ……」
「容赦が無いのは素敵よ。でも、女性を大切にできない男はモテないわよ、少年」


　滑らかに語るその口から、もう血液は流れない。
　アリアトは、まるでさっきの俺の一撃なんて食らっていなかった様な、そんな振る舞いを見せる。


「あら、何をドン引きしてるの？」


　そらドン引きもするだろう。
　確実に、胸骨を粉砕した。
　証拠に、アリアトはかなりの量の血を吐いた。口の中を切った、程度ではありえない吐血量だ。
　体内から来る吐血ってのは、臓器に甚大なダメージを負っている証拠だ。


　そんなダメージの中、平然とするどころか、笑って、饒舌を振るうアリアト。
　引くと言うか、戦慄する。


　それに、今の服を分解して再構築した魔法は一体……


「一体、何しやがったんだ、あのクソ女……」
「さぁな……とりあえず、厄介な魔法を使えるって事は確かだ……！」
「心外ね、この素敵な魔法リベリオンを、厄介な魔法なんて表現で括られるのは」


　さっきからちょいちょいリベリオンリベリオンうるせぇな。
　アリアトが使った魔法の名前らしいが……『反逆リベリオン』って名前に相応しい様な現象は起きてない様に見えるが。


「つぅか、何が『私が使うのはリベリオンだけよ』だ……！」


　テレポートだったり爆発する鳥籠召喚したり地面から刃生やしたり、挙句、着せ替えカメラの真似事までやりやがった。
　何個魔法使えんだよ羨ましいなチクショウ。


「……？　私の発言に、何かおかしい所があったかしら？」


　そう言いつつ、アリアトが手を振るう。
　虚空に出現した巨大なハンマーが、俺に向かって振り下ろされる。


「言ってる傍からまた別の魔法かよ！」


　瞬間的にイビルブーストの出力を上げ、ハンマーを躱す。
　しかし、ハンマーは止まらない。また浮かびあがり、俺を狙う。


「別の魔法……？　ああ、そういう事」


　納得した様に、アリアトが手で槌を打つ。


「勘違いしている様だけど、私は今の所、『リベリオン』以外は使っていないわよ」
「嘘つけ！」


　ハンマーの連撃を躱しながら、あまりにも堂々たる嘘に思わずツッコミを入れてしまう。


「嘘じゃないわ。リベリオンは、『世界に抗う魔法』だもの」


　世界に抗う……？


　不意に、ハンマーが消えた。


「リベリオンは、世界の法則に反逆する」


　アリアトが手を振るうと、その足元に色とりどりの花々が顔を出す。
　ただ、質感が妙だ。おそらくは、造花。


「『現実を改変する魔法』と言えば、わかりやすい？　……ま、『完成形』の話だけどね」
「改変って……」
「あらゆる世界の法則を捻じ曲げて、私の思い通りの現象を、具現化する」


　その言葉を証明する様に、またアリアトは手を振るった。
　何度も振るう。その手が虚空を切る度、彼女の周囲に様々な物が出現する。
　雪だるまやジャングルジム、鉄製のベンチ、ド派手な装飾の剣と盾、本当に、その場で思い浮かんだだけの様な、適当な物が、虚空からポコポコと湧き出してくる。
　そして、雪だるまが踊る。ジャングルジムとベンチが捻れ、絡み合う。剣が盾に襲いかかる。足元の造花達も、それぞれが滅茶苦茶に揺れだした。


「私の望む『設定』を持ったあらゆる物体を、リベリオンは創造する」


　中の物をテレポートさせるボックス。
　望めばいつでも爆破できる鳥籠。
　地面から生える無数の剣。
　指でなぞればいつでも新品に戻る衣類。
　敵をオートで襲い続ける巨大ハンマー。


「ただ、残念な事に、『私のリベリオン』は不完全。改変できる現象も、顕現させられる物も、付加できる設定も、かなりの制約がある」


　かなりの制約か。
　確かに、リベリオンとやらがアリアトの言う通りの代物で、それを存分に振るえるのなら、こいつに敵はいない。
　世界を改変して、敵の存在その物を都合の良い存在に書き換える、なんて芸当もできるはずだから。


　俺がこうしてアリアトと敵対できている時点で、それはできないと言う事が証明されている。


　これでも大分制限を外せたのよ？　と自慢気にアリアトは笑う。


「これ以上、制限を解除するために魔法式を弄るのは不可能…つまり、人智を以てリベリオンを完成させるのは、不可能」
「……そういう事かよ……」


　こいつらが、伝説の魔剣シラヌイを求める理由は、それか。
　合点が行った。


「その魔法を完成させて、世界を思い通りにするってか」
「正解」


　……随分と、スケールのデカい話だな、おい。
　だって、「世界征服します」って言ってる様なモンだろ、それ。


　……まぁ、わからなくはない。
　誰だって、１度は思い描くだろう、何でも自分の思い通りになる世界を。
　その世界を作りたいって願望は、否定しない。
　人の夢なんてその個人の物だ。好きな夢を描けば良い。


　だが、その夢の過程で他人の人生を踏みにじるなんて真似が、許されるはずが無い。
　その夢が、姉貴に妙な魔法をかけた事を正当化する理由にはならない。
　少なくとも、俺は許さない。


「疑問は解消された？　じゃあ、続…」


　わざわざ俺のために魔法を解説してくれた事には、感謝する。
　そして、そのために隙を晒してくれた事には、もっと感謝しておこう。


　イビルブーストを再度トップギアまで持っていき、俺はアリアトの懐へ潜り込んだ。
　そして、横一閃に振るう。
　漆黒の刃を。


　アリアトの腹を、かっ捌く。
　人の肉を斬る、嫌な感触が手を伝う。
　考えてみれば、人を思い切り斬り裂くのは、初めてだ。


　斬撃の軌道上にあったアリアトの両腕、その肘から下が落ち、深く斬り込まれた腹から臓器が覗く。
　鮮血が、急速に赤い水たまりを形成していく。


　もう、やり過ぎたとは思わない。
　胸骨を砕いても平気な面して解説かます様な奴だ。
　常軌を逸している。
　これくらいヤらなきゃ、戦闘不能には持ち込め…


「本当に、私の事が憎いみたいね」


　アリアトの笑みは、崩れない。
　切り落とした両腕が、俺の足を掴む。


「なっ……っ！？」


　異変はそれだけじゃない。
　アリアトの腹の傷が、急速に塞がっていく。
　その手も、にょきにょきと、冗談の様な速度で生えそろう。トカゲの尻尾が復元する様を超倍速で見せられている気分だ。


「私のリベリオンの制約の１つとして、『私以外の生体』に、この魔法は適用できないわ」
「っ……」
「でも残念、『私の体』なら、適用できるのよ」


　つまり、そういう事か。
　こいつは、胸骨を砕かれても平気だった訳じゃない。
　砕かれた後、再生したから、平気だったんだ。


　こいつは、ハナっから自分の体を作り変えていたんだ。
　何度でも再生できる、不死身の肉体に。


「クソッ！」


　苦し紛れに振るった一撃。
　しかし、イビルブーストの解けた状態での一撃だ。
　アリアトを斬り裂く前に、手を掴まれ、止められる。
　異常な腕力だ。振りほどける気がしない。


「私の血肉は、魔力を元に何度でも生成される。そういう風に改変してあるの」
「ぐっ……」


　早くイビルブーストの出力を上げて、振りほどかなければ……


「魔力が尽きない限り、私は不死身よ」


　そこから先の彼女の言葉を、俺は聞いていられなかった。


　俺の体内に響く、鈍い音。
　音にやや遅れてやってきた、激痛。


「っぁ、がぁあぁああぁぁぁぁぁああぁっ！？」


　情けないくらいの悲鳴を上げながら、俺は理解した。
　右手首の骨を、握撃で砕かれた。
　俺の手から、コクトウが滑り落ちる。
　手首が潰されたせいで、指に力が……


「クソガキ！」
「ロマン！」
「だぼん！」
「っぎ、ぁ……て、めぇ……！」
「仕返しよ」


　鳩尾に、鉄球がめり込む。


「き、ぁ……！？」


　眼球の奥で、火花の様な物が散った様に見えた。


　激痛の割に、声は出ない。
　何故なら、肺の中の空気を全て吐かされたから。
　悲鳴を紡ごうにも、空気が足りなかった。


　ダメだ、意識が、切れる。


「っ、ぐぅ……！」


　ギリギリの所で踏みとどまったが、その場に膝を着いてしまう。


　左手は、動く。
　コクトウを……


「はい、もう１発」








　一瞬、意識が飛んだ。
　多分、ドタマを鉄の棒か何か…とにかく鈍器でぶん殴られて、吹っ飛ばされた。


　力無く手足を放り投げる俺に、足音が近づいてくる。
　おそらく、アリアトだ。
　首を動かして確認する余力も無いが、そのくらいはわかる。


　……ああ、ダメだ。
　これ、本当にダメだ。


　全身の感覚が、鈍い。
　右手首の痛みも、余り感じ無い。
　意識が途絶えかけなのもあるだろうが、多分、俺の脳が許容できる痛覚刺激を超えてるんだ。


　……ユウカ達の声が、聞こえる。
　ヤケに、遠くから。
　そんなに吹っ飛ばされたのか……？　それとも、意識が遠のいてるのか……？
　多分、後者だな。
　アリアトの足音まで小さくなってきた。


　……我ながら、馬鹿な事をしたと思う。
　アリアトが、こんな化物だったとは……


　いや、想定すべきだったんだ。
　何せ、相手は一武闘派組織のボスで、未知数な存在だったのだから。


　完全に、俺の判断ミスだ。


　……自惚れも、あったのかも知れない。
　今まで、どんな強敵が相手でも、全力で闘えばどうにかなってきたから。
　今回も全力でやれば勝てると、心のどこかで、確証の無い理屈に絶対の信頼を置いてしまった。


　結果がこれか。


　悔しい、情けない。


「さて……動けない相手を嬲るのは趣味じゃないんだけど」


　アリアトの声だ。
　俺の視界に、彼女の姿が映る。


「力を誇示する必要がある。私達に逆らうとどうなるか、『見せしめ』を用意する必要が」


　アリアトの手の中に、ある物が出現する。
　それは、先端が真っ赤に変色する程に熱を持った、鉄の焼きゴテ。


　血の気が引いていくのが、自分にもよくわかった。
　アリアトが何をする気か、簡単に想像が付いたからだ。


　でも、動けない。
　指先１つ、動かす事ができない。


「悲鳴って、あんまり好きじゃないの。だから、できれば静かにしててね」








　……サーガが、泣いてる？
　珍しい事も、あるモンだ。


　って、おい、結構マジ泣きだな。
　どうしたんだよ、ほれ、お前の大好きなクマさんのガラガラだぞ？


　……効果無しか……


　腹が減ってる…訳でも無さそうだな。
　なんつぅか、そういうんじゃなくて、すごく悲しそうだ。


　何がそんなに悲しいんだよ？
　意味わかんねぇ。


　何で俺を見て、そんなボロっボロ泣くんだよ。


　ああ、もしかして、俺の面が問題なのか？
　確かに、今は何となく気分が悪くて、表情が暗いかも知れない。


　じゃあこれでどうだ、ほれ。


　……おい、俺的には最上級のスマイルだぞ。


　どうすりゃ泣き止んでくれんだよ……
　うーん……とりあえず物理的な手段に出るか。


　頭をふんわり優しく撫でてあげよう。
　赤ん坊はそうすると落ち着くらしい。
　実際、今までもサーガが中々寝付けない時、頭を撫でてやるとすぐに眠ってくれた。


　ほら、よしよ……え……？


　……何だよ、これ……！？


　俺の手が、どんどん崩れて……！？


　っ！？　何だ、この黒いの……！？
　引っ張られる……！？
　何だよ、これ、何なんだよ！？


　わかんねぇ、わかんねぇけど、この黒いのが連れて行こうとする方向に、何かとても冷たい物を感じる。
　そして、そこに連れて行かれたら、２度と戻って来れない、そんな気がするんだ。


　……戻れないって、どこに？
　それすらわからない。
　とにかく恐い。
　あそこには行きたくない。


　でも、黒い何かが絡みついて離れない。
　このままじゃ、俺は……


「諦めろよ」


　え……


「イイじゃねぇか、戻って、どうすんだよ？」


　俺の、声……？


「こっちに来れば、楽できるぜ。もう何も考えなくて良い。何もしなくて良い。最高だ」


　……そう、なのか。
　そうだ。俺が言ってるんだ。そうに決まってる。


　―――ダメ―――


　！


　―――そっちは、ダメ。ロマンちゃん、こっち―――


　姉貴……？


「『最悪の運命』を検知したのニャ」


　こ、今度は何だ……！？
　聞き覚えの無い、間抜けな語尾の声が……って、のわ！？　何この猫の手みたいなの！？


「お仕事するのニャ」


　おい！？　俺をどこに連れてく気だ！？　おい！？
　さっきの黒いのとは違う意味で不安だぞこれ！？


「暴れないで欲しいニャ」


　うごふっ！？


「テメェらは何だ！？　邪魔すんじゃねぇ！」
「邪魔なのはそっちなのニャ」
　―――そうよ！　私のロマンちゃんを誑かしてんじゃないわよ！　―――
「うるせぇぞカス共が！　こいつは死…」
「その運命は認めないのニャ」
　―――やっちゃえ猫ちゃん！　―――
「言われなくてもやるのニャ」
「って、おい？　ちょっ……むごっふぅ！？」


　う、ぅうぅ……何か、もう１人の俺的なのが……猫パンチでぺしゃんこに……


「さぁ、行くニャ。流石に『こんな所』に『招く』のは無理なのニャ。なので、ご主人様の方を連れてくのニャ」


　ご、ご主人様って……一体……ってか、さっきから何なの……ぐふぅ……


　―――ああ、ロマンちゃん……ぐったりしてても可愛い……！　ハァハァハァ……―――






　……ここはどこだ。


　猫の手に運ばれていた俺は、いつの間にか草原に寝転がっていた。
　……雨が、降り注いでいる。土砂降りだ。
　でも、冷たくない。何も感じ無い。
　何故だかはわからない。


「うぅん……」


　何か、妙な夢を見ていた気がする。
　サーガが泣いてて、俺の声が聞こえて、何か姉貴と変な猫が……


　つぅか、感覚が無いって事はこれも夢か。


「って、ん？」


　左目が、見えない。
　瞼が、開かない。
　何か妙なモンで接着させてる様な……


　一体何なんだ、と触って確かめようとした時、更なる異変に気付く。


「うわっ……何だこの黒いの……？」


　俺の手に…いや、全身至る所に、黒いモヤみたいなのが纏わり付いている。
　左目を塞いでいるのもこいつか。


「肉体のダメージが、魂魄こんぱくにフィードバックされてるだけだ」
「！」


　不意に聞こえた、声。
　地響きの様な、屈強そうな大男をイメージさせる声だ。


　その印象は間違いでは無く、実際、声の主はまさしく屈強な大男だった。
　褐色の肌に、角と尻尾。魔人だ。ブロンドの髪色をしている。結構歳もいっている様に見える。


　……なんつぅか、風格のあるおっさんだな……王様みたい、っつぅか。


「まさか、君と直接話せる日が来るとは、思わなかったぞ」
「……俺の事、知ってんの？」
「知ってるとも。ロマンくん。サーガが世話になってるな」


　確かにサーガの世話はしてるけど……
　何か、その言い方だと、サーガの保護者みたいな……


「…………」


　待てよ、サーガも、ブロンドの髪だよな。
　そんで、このやたら威厳が漂うおっさんも……


「……まさか……あんた……」


　俺が言いたい事を察してか、おっさんがうなづく。


「うむ。我輩の名はアルヴェルト」


　大男は、やわらかな微笑みを浮かべ、こう名乗りを続けた。


「『魔王』と呼ばれていた、愚かな男だ」