とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

11,乱入、青翼の麗人



「どうも、龍宮四天王の1人、ツナーでーす」
「同じく、ホエルだ」
「……どーでもいいけど、何であんたら玄関から普通に来るんだ?」


 ある昼下がり。
 ウチにやって来たのは優形の青年と大柄なおっさん。
 2人ともガルシャークと同じ白い軍服風のコートを着ている。


 名乗りに寄ると、青年の方がツナー、おっさんの方がホエル。


「いやー、でも、皇子様だっていきなり殴り込まれたら困るでしょ?」
「まぁ、それは……」
「では、問題あるまい」


 ……何か釈然としねぇ。


「……え、ってか、2人?」
「だってガルシャーク卿を負かす様な相手だしねー」
「遠慮はいらんかなと」
「こっちとしては遠慮して欲しいんですが……」
「あ、と言ってもあれだよ? 2対1で闘う訳じゃないよ? あくまで1対1の2連戦ね」
「うむ、いくら勝てそうに無いとは言え、流石に多勢無勢の勝負はしたくない」


 いや、1対1の2連戦も充分エグくね?


「んじゃ、浜で待ってるよー」
「充分に支度して来られよ」
「はぁ……」


 四天王と連戦か……ツナーとやらの口ぶりからして、2人共ガルシャークさんよりは弱い様だが……






 という訳で、トゥルティさんとBJ3号機と共に、ガルシャークさんと闘ったあの砂浜へ。


 砂浜でツナーとホエルは2人がかりで砂の巨城を建設していた。
 ……四天王って砂浜遊びが好きなのか。しかしまぁ上手いモンだな。


「お、来た来た」
「では早速」


 ツナーとホエルが2人揃ってその手を天へと掲げる。


「おいで、『マッハダンガン』!」
「来い、『ビッグプレッサ』!」


 海面を突き破り、飛び出したのは2つの巨影。


 ツナーの背後に降り立ったのは、全高3メートル程。ただし、横に長い。人型から大きく離れた流線型のフォルムは、今まで見たBSMよりも魚らしさが際立っている。
 装甲のカラーは藍色で、魚の中でもどことなくマグロっぽい。
 巨大な機械のマグロに、機械の獣の四肢が取り付けられている、と言う感じだ。


 対して、ホエルの背後に降り立った影はひたすらデカい。
 全高軽く20メートルはある。そして真ん丸だ。
 あれは本当に機械か? と思えるくらい、全体的に丸みを帯びており、何か見た感じの質感もプニプニしてそうだ。
 蹴っ飛ばしたらバインバインと跳ね回りそうな、そんな印象。


「陸・海に置ける高機動戦特化BSMマッハダンガン、重白兵戦・及び敵拠点破壊作戦特化型BSMビッグプレッサ……ギャングファングの様に万能な立ち回りができる訳ではありませんが、各々の土俵ではギャングファングよりも厄介ですよ」
「そりゃまた強そうな肩書きだな……」


 特に拠点破壊作戦特化ってあんた……拠点制圧特化とかなら聞いた事あるけど破壊って……
 何か戦闘規模が違い過ぎませんかね……通りでやたら太ましい訳だ。


「じゃあ、まずは僕から相手をしてもらいますよ」


 そう言い放ち、ツナーがマグロ型ロボット、マッハダンガンに乗り込んだ。


「んじゃ、こっちも……よろしくね、トゥルティさん、BJ」
「お任せを」
『はい。……ジョーカーシステム、起動確認ドライブオン


 スマホ端末型コントローラーを操作し、BJ3号機のジョーカーシステムを起動する。
 BJ3号機が10メートル級の人型機動兵器と化し、ワープ機能で俺達をコックピットへと転送。


「いだっ」


 転送自体はもう流石に慣れた……のだが、やはり雑だ。ケツが痛い。


 何でトゥルティさんはケツからシートに落下しても涼しい顔でいられるのだろう。
 鍛えてるとは言っていたが、ケツ筋も鍛錬済みと言う事だろうか。


「……3度目ですが……この転送方法はもう少しふんわりできないモノですかね……」


 ……どうやらきっちり毎回痛かったらしい。我慢していただけの様だ。


「今度から、クッション持参した方がいいかもな」


 そんな感じに適当な事を言いながら、コントローラーをセット。
 飛び出して来たハンドルパイプを握る。


「じゃ、改めてお願いします」
「了解しました」
『さぁ、行きますよ!』


 トゥルティさんの操作を受け、BJ3号機がファイティングポーズ……を取った時には、もう目の前にマグロロボが迫っていた。


「うぉおう!?」
「くっ、高機動戦特化は伊達では無いと!」


 騒ぐ俺とは逆に、トゥルティさんは冷静に行動した。


 バリアを精製している暇は無いと判断したらしく、回避行動に出る。
 BJ3号機の腰と太腿の装甲が開き、中から飛び出したのはロケットブースター。
 そのブースター出力に任せて、上空へと跳び、マグロロボの拳撃を回避。


 速さは大したモンだな、あのマグロロボ。名前にマッハを冠しているのは伊達じゃない。
 でも、速く動けてはいても、その挙動のぎこちなさは実に機械的。
 相対的に、ガルシャークさんの鮫頭ってやっぱすごい技術が投入されてたんだな、と実感する。


 って、そんなどうでも良い事に感心してる場合じゃないか。


 BJ3号機は今、あくまでブースターの出力任せに跳んでいるだけ。
 一応飛行はできなくは無いそうだが、かなり燃費が悪く、長くは持たないと言っていた。
 あのデカ物との戦いも控えている現状、無策に飛び回る事……考え無しのエネルギー浪費は避けなければいけない。
 つまり、砂浜に着地しなければならない。


 だが、着地した瞬間をあの速度で狙い打ちにされるのは目に見えている。
 トゥルティさんはBJ3号機に指示を送り、空中でバリアを全方位展開。
 全方位展開も長くは持たないと前回言っていたが、着地の一瞬をカバーするだけなら大丈夫だろう。


 そして着地の瞬間、


「……あれ?」
『……いない……?』


 俺達がマグロロボから目を離したのは一瞬だった。
 なのに、俺達が跳んだ地点に大量の砂塵だけを残し、マグロロボは姿を消していた。


 まさか目にも止まらぬ速さで移動……いや、それは無いか。
 だったらあの一点にしか砂塵が舞っていないのはおかしい。
 砂浜を超速で駆け抜ければ、その軌道を追いかける形で砂塵の尾が形成されるはずだ。


 つまり……


「トゥルティさん! 地…」


 俺が叫ぶ前に、マグロロボが姿を現した。
 俺の予想通り、地中から、その両腕部の先をドリルの様に超速回転させながら。


『よっし! もらったぁぁ! って、あれ?』


 まぁ残念なのは、地中に潜っていたがために、こちらがバリアを全方位展開している事に気付けなかった事か。


 斥力のバリアと腕ドリルが勢い良く衝突。
 ギャヒン、と言う怪音。そして、ドリルの回転が止まった。


『………………』
「………………」
「………………」
『………………』


 砂浜から上半身だけを出し、停止した腕ドリルを眺めるマグロロボ。
 何か黒い煙が立ち上り始める。


『……この日のために……地中戦にも対応できるようにカスタムしてもらったのに……』
『何かごめんなさい』
「とりあえず、とうっ」
『ぎにゃんっ!?』


 カスタムしたばかりの兵器が壊れたショックに打ちひしがれるマグロロボに、トゥルティさんの指示の元、BJ3号機の蹴りが炸裂する。
 すっぽーん、とマグロロボがすっ飛び、砂浜を転がっていゆく。


「切り札的なモノを早速打ち破れた様ですね」
「……何か、ちょっと可哀想だったけどな」
『仕方ありません、切り札を温存しない方が悪いんです』


 ハナっから切り札ジョーカーシステム全開のお前がそれ言うのもどうなんだ。
 一応バスターナックルとかいう更なる奥の手はあったけどさ。


『ぐぬぬ……こうなったら正攻法で行く……! 僕の「段階加速ギアアッパー」とマッハダンガンの機動性、その合わせ技を見せてあげるよ!』


 お、向こうも向こうでまだ奥の手があるっぽいな。
 口ぶりから察するに、おそらく龍宮人の超能力とマシン性能の合わせ技……ガルシャークさんもやってた戦法だ。


 丁度良い、俺のアレも、戦闘に活用してみよう。


「BJ、外部スピーカーってオンになってる?」
『はい、大丈夫ですよ』


 では……絶対問答インペリアル・アシック、発動。


「おいツナーさん、あんたのそのギアアッパーっての、一体何なんだ?」
『いくら皇子の質問とは言え、バカ正直に答えると思ってるの?』自身に関わる物体の移動速度をどんどん加速させていく僕特有の能力さ。これで、ただでさえ機動力の高いマッハダンガンは更に速くなるのさ!


 へぇ、単純な加速能力か。シンプルなだけに中々厄介そうだ。


「ちなみに弱点とかあんの?」
「鋼助様、答えてくれる訳ないですよ」私は耳が弱いです。特に右。
『そうですよ』僕はゴキブリが嫌いです。飛ぶ奴とかマジ無理です。


 お宅らには聞いてねぇ。
 そしてトゥルティさんは弱点の意味をちょっと曲解してる。


 つぅかロボットのくせにゴキブリ駄目ってどうなんだ。
 今は冬だからゴキブリの出現率も低めだが、夏の亜熱帯の本気を垣間見たらこいつ、どうなってしまうのだろうか。


『そうだよ、答える訳ないじゃん』30秒ごとに3秒間の能力完全停止……休憩が必要なとこかな。


 解説サンクス。
 ふむ、中々付け入る隙のありそうなデカい弱点だな。
 これだったらどうにか対処できそうだ。


「なぁBJ、さっき腰とか足とかから出てたブースター、方向って変えられるのか? こう、横向きにして、平面の動きの加速に使えたりとか……」
『え? あ、はい。そういう使い方も可能ですよ』


 よし、ならこっちも多少は素早く動ける訳だ。
 じゃあ早速、この能力の事をトゥルティさんに伝えて対策を……
 と、1人黙々と考えていた時だった。


 それは、突然舞い降りた。


「……え?」


 BJ3号機とマグロロボの間に、降り立った1つの影。
 人間大……にしても、小柄めなそのシルエットは、翡翠色の豪壮なドレスに身を包んでいた。
 そしてその背中には澄んだブルーの巨翼が左右2枚ずつ、合計4枚。


「翼……? って言うか……」


 荘厳なドレスに4枚の青翼……と言うだけでも大分印象的なのだが……
 その顔は、フルフェイスヘルメットに覆われており、更にその頭頂部に孔雀の羽が満開と言う、衝撃的なファッションだった。
 ヘルメットの後部から溢れている、ふんわりウェーブのかかった髪は、真緑色。葉緑素たっぷりっぽい。地毛だろうか……?


『……何ですか、アレ』
「……さ、さぁ」
「な、何やら怪しい雰囲気ですが……」


 などと談義している間に、孔雀ボンバーヘルメットの翼ドレス麗人が動いた。
 4枚の青い翼を振るい、自身が巻き起こした突風に乗り、砂浜を駆け抜ける。


『え?』


 突然の飛来者に、マグロロボ内で呆けた声を上げたツナー。
 直後、ドレスの人が、シルクの手袋に包まれたその掌を広げた。
 その先に、緑色の五芒星が浮かび上がる。


「何だあれ……!?」


 絵に描いた様な魔法陣、そんな感じだった。


「……『登龍巻ドラゴンフラップ』」


 静かな声で、ドレスの人がその技名を呟いた。


 ……ん? 何か今の声、聞き覚えが……


『ど、わぁぁあああああぁぁぁあああぁぁ!?』
「つ、ツナー!?」


 魔法陣から吹き出したそれを、肉眼で捉える事はできなかった。
 なぜならそれは、透明な力の濁流だったから。


 砂を巻き上げ、内部に大量の白砂を巻き込んだ状態を見て初めて、それが竜巻状の衝撃波である事が視認できた。


 砂を纏い白く染まった竜巻が、マグロロボを飲み込み、持ち上げ、天へと向かってゆく。
 そして竜巻が、雲と共に散った。


 竜巻が去ったその場所に、マグロロボの姿は無い。


「え……」


 それから3秒程経ってから、何か沖の方で大きな水飛沫が天高く上がった。


「まさか……今の一瞬で、あそこまで吹っ飛ばしたのか……!?」


 なんつぅ竜巻だ。


「アレは、一体……!?」
『こちらの敵を倒してくれたとは言え……味方と断定できそうには無いですね。もしかしたら僕ら全員ターゲットかも』


 と、とりあえずアレだ、こういう時こそ絶対問答インペリアル・アシックの出番だろう。


「あ、あんた何者だ?」


 俺の質問に対し、孔雀ボンバーなヘルメットの翼ドレス麗人はゆっくりとこちらへ振り返り、


「……私は魔法の国、『ワクワクホリックランド』より召喚されし正義のヒロイン……」


 少し溜めて、


「マジカル暴風戦士・風神天女カジウカミ!」あんたのクールビューティな幼馴染、霊代悠葉よ。


「………………おい悠葉、お前何やってんだ」
「!!?!?!??!!??」


 つぅかお前その翼どうなってんの?
 めっちゃ飛び回ってたけど……え、それマジモン?


『え、悠葉って確か……』
「昨日、図書館で会ったあの大人しそうな少女ですか?」
「ゆ、ゆゆゆ、ユーハとは誰の事でしょう……」何でこんな速攻でバレたし。
「いや、普通に声とかまんまだし……」


 何より俺の能力で裏取れたし。


「つぅかワクワクホリックランドって何だよ……」


 適当に命名するにも、もうちょっとマシな名前を付けろよ……
 ワクワク中毒ってなんだよ。ゴロリかよ。


「わ、ワクワクホリックランドに付いては私の責任じゃ……」だって本当にそういう名前の国なんだもん。


 マジですか。


「……まぁ、何だ、とりあえずもうお前、何があったんだマジで」
「そ、そういう無駄話は後にしましょう少年!」何か私、ワクワクホリックランドのお姫様が転生した存在らしくて……この姿は、ワクホリから私を見守りに来た風の妖精から魔法の力を借りてるだけ。


 ………………お前、いきなり何か濃ゆい設定ブッ込んで来たな。
 俺の能力で聞こえるって事は、マジなんだろう。
 少なくとも、悠葉はそれが真実だと思っているって事だ。


 何かもう内容がぶっ飛び過ぎてて理解が及ばない。
 きっちり口で説明してもらいたい。


「とにかく今は、目の前の悪を倒す事が先決でしょう! ね! ユーハがピーヒャラとか意味のわからない話は終わり!」
『悪、か。酷い言われようだ』
「!」


 俺らが悠葉と揉めている間に、ホエルは既にあの真ん丸巨大ロボ、ビッグプレッサに搭乗していた。


『ワシらは仕事だから止むなくやっているだけなんだがな。確かに正義では無いだろうが、悪と呼ばれるつもりも無い』
「私の個人的な裁定よ、そっちの都合なんて知らないわ」


 おい、正義のヒロインとか言ってたくせに、その言動はどうなんだ?


「さて少年、そこで大人しく見ていなさい」
「え、お前、まだ闘る気なの?」
「悪を駆逐し、掃滅し、根絶し、その断片を塵芥1つ残さずこの世界から抹消する、それが正義の使命よ」


 恐ぇよ正義。
 何がお前をそこまで駆り立てるんだ。


「……ちゃんとその目で見て、知りなさい」


 4枚の青翼を広げ、悠葉は自身の10倍は大きいビッグプレッサと対峙する。


「あんたを守る存在は、そこの女騎士だけじゃないって事を」



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