拷問部屋とヘタレと私

須方三城

三日目。兄妹が似るとは限らない。

「おはようございまぁす! 朝御飯なのですよー!」


 狭い拷問部屋に、ちょっと元気が過ぎる少女の声が響き渡る。


 声の大きさに反して、少女の身体つきは非常にちんちくりん。防寒具として大きめのポンチョなんて採用してるモンだから余計に身体の小ささが際立つ。
 その小柄さと茶色の毛並みから、動物に例えるならリス辺りが妥当だろうか。おにぎりを両手で持って食べる姿が非常に似合いそうだ。


 彼女の名はギャンパニーナ・ブルーブロッド。
 こう見えて、もう生誕から二二年目と言う立派なレディ。彼女の自己紹介を聞いた者は皆最初は虚偽を疑い、免許証を見て生命の神秘を垣間見る。
 肩書きは特務刑務官。現在はとある拷問吏の補佐をやっている。
 愛称はギャパ奈。


 人生が楽しくてしょうがないのか何なのか、常に笑顔が弾け過ぎている事に定評あり。
 仕事中にうたた寝してる時も笑顔なので手に負えない。


「ほらほらほらー! エミリナさーん! 朝! まごうことなき朝と私と朝御飯がやって来たのですよー! つまり地球の裏側では今は夜なのです! 地球は丸いって事なのですよー!」


 ブルーブロッド家で恐れられるイベントの一つ、『ギャパ奈モーニング』。
 起床した瞬間から異様なテンションの高さを誇るギャパ奈が、その有り余る元気を強制的にお裾分けしてくる。


「んー……あと五分……」


 しかし、エミリナの自堕落さを舐めてはいけない。
 ギャパ奈モーニングを「うるさいなぁ」程度の感想で一蹴し、枕代わりの畳んだバスタオルに顔を埋める。


「わーお! 新鮮なリアクションなのです! 『あと五分……』って、漫画フィクションでしか聞いた事無い台詞いただいちゃいましたーッ! ビックリ仰天くしゃみが出ちゃう! フィックション! なんつってー!」


 そりゃあ、常人ならギャパ奈モーニングを食らっても尚、二度寝願望を意地し続けるなど到底不可能だ。
 彼女に起こされて『あと五分』を行使できる余裕がある人間なんてそうはいない。
 エミリナはそんな一摘みの逸材なのである。


「まぁまぁ、私としてはですよ? エミリナさんの意思を尊重したい所! でもでも~、この朝御飯は今が一番ホットなのですよ~? 五分も寝てたらすっかり…そうCOOL! なんてこと! 台無し! 台無しなのです! なんのためにスクランブルしたんだとエッグが嘆いてるZE!?」
「……………………」
「あるぇぇぇ!? 卵の嘆き届かず!? 存外、人でなしなのかなエミリナさん! ……ううん! 私、信じてる! エミリナさんは決して卵を見捨てたりしないのです!」
「……………………」
「起きるのです! 起きるのです! 卵は今、泣いてるんだ! ……わかりました! 今起きたら、良い子で賞の特典としてこの私が朝食中に歌いますですよ! これでも昔、チビッ子歌自慢大会で優勝した事あるのです! ん? 今でもチビッ子だろって? バレました!? 隠してるつもりなんですけどねーえへへのへー!」
「……………………」
「ちなみに起きなくても歌っちゃいますですよ! 何故なら今日は喉の調子がすこぶる良いから! もうね、とにかく歌いたい! そんな日ってありませんか!? 私、今日はそう言う日なのです! なので仕事終わったらカラオケ直行のつもりだったんですよー! ヒトカラですヒトカラ! ヒトカラだと大人数で行くより歌える回数が増えますし、最近はヒトカラ割引ーなんつってフードが安くなったりするんでお得マシマシなのですよ~!」 
「……………………」
「では、聞いてくださいなのです! バイビーベイビークライシスで、『走れ乳児』!」








 五分後。


「……で、バビベビ最高! と言う話なのです! ちなみにさっき歌った『走れ乳児』はバビベビ三枚目のベスアル収録曲でシングルカットはされていないのです! なので知名度的には比較的マイナークラス…名曲なのに勿体無いと思いませんか!? マイナーで終わらせてはいけないと思うのですよ私! だからこうして事ある事に歌ってやるのです!」
「ふぁーあ……おはよう……」
「お! 起きましたね寝坊助マイフェアレディ! 宣言通り五分とは中々やりますですな!」
「うーん……至近距離だと声圧しゅごい……昨日、お昼持ってきてくれた時にも思ったけどー……ギャパ奈ちゃん、すごく元気よねー……」
「よく言われるでーす☆ たまに、元気それだけが取り柄って言われちゃったりもするんですけど、酷い偏見ですぜよ! 私は歌はもちろん他にも色々と才気に溢れていると自負してますですよ!?」
「はいはい、すごいすごーい。お、今日の朝御飯は無難に洋テイストすな」


 ギャパ奈は昨日の昼食からギルエスの代理として食事を運んでくれている。
 まだ三回目の接触だが、エミリナは完全にギャパ奈のあしらい方をマスターしていた。


 エミリナは元々が堕落した人間だ。面倒くさい人間もそうでない人間も、適当に流す術は心得ている。


「あ、ちょい待ちエミリナさん! 冷めちゃってると思うんで温め直してきますです! 愛情をたっぷりマイクロウェーブに込めてチンしてやりますですよ! これでもかって程に! 気分的には倍増し! チンでは無くチンチ…」
「大丈夫。それに私、猫舌だからちょっと冷めてるくらいが丁度良いし」
「猫舌とな! お兄ちゃんと同じなのですねー! お兄ちゃんがクラムチャウダー食べてる所って見た事あります!? 超ウケますですよ! 誕生日ケーキのロウソクでやたら火が消えにくい奴を吹き消そうとする時よりもフーフーするんです! ぶふぉっ! 思い出しただけで爆ウケ! たまらず私『クラムチャウダーに何の恨みがあるんやねんですよ!』って思わずツッコミ炸裂なのですよ! そしたらお兄ちゃんは私のツッコミのキレ具合に驚いてクラムチャウダーを卓上にぶちまける…ってのがいつもの流れ! いわゆるテンプレ展開!」


 ちなみに、ギャパ奈の言う「お兄ちゃん」とはギルエスの事である。
 そして補足しておくと、ギルエスがいつも驚くのはギャパ奈のツッコミのキレでは無く、ただ単純にその声の大きさに対してだ。


「そろそろ『!』マークが過労死しそうね……」
「!マーク無しでは語れない女! それが私ギャンパニーナ! ……って名乗りにしたらカッコヨイと思わぬですか!?」
「うーん…微妙かな。ところでさ、ギッさんは?」
「お兄ちゃんは昨日の晩に一睡も出来ず、今朝早くにブッ倒れて病院にえんやこらさっさされたのです! ドナドナとも言う!」


 朝見たチープなホラー映画のせいで夜も眠れず、しかもたった一晩の不眠でブッ倒れた……と言う事か。


「……ギッさんって、本当に繊細なのね……」
「まるで小動物なのです! 例えるなら…リスですね! どんぐりッ!」


 あなたがその見た目でそれを言う? とエミリナは思う。


「私が悪戯でホラー画像とかシュメール人が作った像の写真とか見せる度にトイレと疎遠になるし、蓮コラ画像なんて見せた日には脊髄反射で吐くんですよお兄ちゃん! 超ウケるです! 癖になりますよあの反応! ぶぶふぉっ!」
「……………………」


 何と言うか、ギャパ奈の方は良い拷問吏になりそうである。









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