BLACK・LIKE
15,黒い二人は十字架を背負う。
白区定召と言う人物は、極めて普通の男だった。
聖務捜査官としての能力は可も無く、不可も無く。
人間としての諸々も、凡庸の一言で大抵が片付いた。
ただ、ちょっと魔物が見える特別な体質を持って生まれた事以外、特筆する事を持ち合わせない男だ。
特別な騒動も無く安産で生まれ、乳児期を暖かな家庭で過ごし、すくすくと小学生して、中学で反抗期を迎えて、高校入ったらデビューして、ちょっと補導されちゃったりして、聖務捜査官だった母に「根性叩き直して来い貧弱メンタル野郎」と聖務学校に叩き込まれた。
白区が四等聖務巡査として本署所属の聖務捜査官になってから三年が過ぎ、早くも遅くも無い平均的ペースで三等聖務巡査になった頃。
彼は、その年に配属された後輩、黒斑 右柚と恋に落ち、二年程の交際期間を経て結婚へと至る。更に一年後には、子宝にも恵まれた。
彼と彼を取り巻く世界を眺めれば、誰もが知るだろう。
普通であると言う事ほど、無難な幸せも無いのだな、と。
だが、突然、白区の世界は狂い出した。
まず最初の変化は、妻、右柚の死。
魔物との戦闘で重傷を負い、それが原因でこの世を去った。
結婚から一〇年後、旦那とまだ小学生だった息子を残し、早逝してしまった。
そして、彼女の最期の言葉を聞いたと言う白区も、その頃から何かがおかしくなっていた。
何かを知り、何かを必死に調べ回っていた。同僚の赤杜了膳にも、何かを手伝わせていたそうだ。
その調べモノの課程で何を知ったか、赤杜は異動願いを提出し、地域安全課から福祉課へと転属している。
やがて白区は本署から第三支署へと所属を移されるが、その後も色々と調べ続けていた。
だが、どれだけ調べても、確信を得られるだけの何かが足りなかったらしい。
妻の最期の言葉から、五年後。聖務捜査官になって、二一年目のある日。
白区は、赤杜に「直接、確かめてくる」とだけ告げ、最悪の夕暮れを迎える事になる。
―――あの男の事を思い出す度に、黒斑右之定は喉に圧迫感を覚える。あの日、魔物に取り憑かれたあの男に、首を掴み上げられた感触が、僅かにフラッシュバックする。
全身がほんのりと生暖かい感覚に包まれる。あの男から奪った聖刃で、あの男の首を掻き切った時に全身に浴びた血の温度が、蘇る。
……そして、汚泥の様に鼓膜にへばり付いて離れない、あの男の最期の言葉。
―――馬鹿な親父で、ごめんな。
「……嫌な夢見たなぁ……」
第三支署、薄暗い廊下を歩きながら、黒斑は深い溜息を吐いた。
黒志摩の家に突撃してから三日目。あの日からずっとこの調子である。
黒志摩を窘めるためとは言え、妙な事を思い出したせいだろう。
おかげで最悪の目覚め。全然眠った気がしない。
深く寝付けず、無意味に早起きして時間を持て余し、こんな早い時間に出勤して来たが……
(黒志摩ちゃんもいないだろうし、結局、独りで時間を持て余す事になりそうだねぇ……)
黒志摩は、いつもこの時間にはオフィスに入っていたらしい。
黒斑が普段出勤する時間より二〇分も早い。一体、独りで何をしていたんだか。
……まぁ、思いを馳せても、本人に確認する事は無いだろう。
最悪、彼女はもう二度と地安課のオフィスに訪れる事は無いだろうから。
「おはざーっす」
毎度の適当な調子の挨拶で、オフィスのドアを開けると……
「ッ! お、おはようございます、黒斑聖務巡査長」
「……え?」
そこには、黒志摩の姿があった。私服では無く、いつもの勤務時コーデだ。
そして何故か、黒斑のデスクの前で突っ立っていた。
何やら「私は何も触れてません、何も触れてませんし撫で回してもいません。ましてや頬ずりなんてするはずがない」と主張する様に両手を上げているが……あのポーズに何の意味があるのだろう。
「お、おはよう黒志摩ちゃん……風邪、治ったんだ」
「はい。誰かと違って若いので、すぐに」
……三日前の時点で既に一週間以上こじらせてなかったか。
まぁ、その辺は置いといて。
「どうしたの、こんな時間に」
灰堂に辞表なり何なりを渡すだけなら、もう少し時間を見ても良かっただろうに。
「私はいつも、この時間には出勤しています。知っていますよね? ……年齢から来る記憶の欠落ですか?」
「痴呆する程の歳じゃないよ!?」
……ん? って言うか、んん?
「……あれ? 黒志摩ちゃん? 何かおかしくない?」
「? 私は極めていつも通りですが」
だから、おかしいんだ。
いつもの業務通りの出勤に、朝っぱらから多少の毒を含んだ黒斑への言葉。
まるで、二週間と少し前、あの象型魔物の一件より以前と何ら変わらない様子だ。
三日前は、あんなにも憔悴している感じだったのに。
「……ああ。成程。黒斑聖務巡査長、さては、私が辞表か何かを提出するためだけにここに来たと思い込んでいませんか?」
「え、いや、違うの?」
「その御年で妄想と現実と区別が付かないのは、流石に引きます」
全く…、と呆れる様に、黒志摩は溜息。
「私は、捜査官を辞めるつもりは欠片もありません」
「はぁ……? でも……」
「私は、魔物を撃てます」
「ッ!」
「勘違いしないでください。撃ちたい訳ではありません。でも、撃てます。撃ちます」
本音を言えば、そりゃあ嫌だ。
でも、黒志摩はまた引き金に指をかける覚悟をした。
「じゃあ、何で……」
聖務捜査官は特別人材不足と言う訳でも無い。代わりはいる。
知ってしまった黒志摩が無理をしなくても、何も知らない誰かが気軽に代役をこなしてくれる。
それくらいの事もわからない黒志摩では無いだろう。
「……三日間、ほとんど寝ずに考えました。ですが、どれだけ考えても、私には、黒斑聖務巡査長が間違っているとは思えない」
「!」
黒斑は理屈も理由も教えてくれなかったが、それでも思う。
きっと、黒斑は間違った事をしていない、と。
「黒斑聖務巡査長。あなた自身は、どうですか。ご自身の行動が、選択が、間違っていると思った事が、ありますか?」
「いや、無いよ、当然」
間違っていると思うなら、やらない。続けない。
黒斑が捜査官を続けるのは、決して間違っていないと判断しているからだ。
「そうですか。安心しました。なら、やはり問題はありません」
「ちょ、ちょっと待った黒志摩ちゃん! そ、そんなんで本当に大丈夫なの!?」
形式上は『魔物の駆除』とは言え、実質は人を殺す行為だ。
その理由を、他人に依存するなんて、正気の沙汰では無い。
「私は、未熟者です」
私は、黒斑さんの信者です。
「先輩であるあなたが間違っていないと断言するのなら、それを信じます」
黒斑さんがそれを正義と言うのなら、私はそれに従じます。殉じても良い。
「あなたを信じる事が、間違っているとは、思えないので」
黒斑さんを信じる事が間違っているなど、有り得ません。有り得させません。
「ッ……!」
言い切った黒志摩の目には、寸分の迷いも躊躇いも無い。
本気で、「黒斑を信じて捜査官を続ける」と言っている。
この目は、本当に有言実行してしまう目だ。
きっと黒志摩は、この理由で本当に魔物を撃つ。
そんな、半ば狂気染みたモノに満ちた目をしている。
「……後悔は、しない?」
「しますよ。多分」
いくら黒斑を熱狂的に支持していても、やはり、魔物の生命を奪う事に少しは思う事もあるだろう。流石に、そこまで盲目になれる自信は無い。
「でも、反省だけはしません」
後悔したとしても、反省だけはしない選択を。
苦しくとも、胸を張っていられる道を進め。
以前、黒斑が言っていた事だ。
「あなたが魔物を殺す事を是と言い続ける限り、私は付いていきます。後輩ですので。……これが、私が『間違っていない』と胸を張れる選択です」
一生付いていきます。叶うなら、墓の中まで。
「黒志摩ちゃん……」
黒志摩自身、自分がどれだけ狂気的理由で恐ろしい選択をしようとしているか、自覚している。
でも、やはり、だ。狂気的だろうと恐ろしかろうと「間違っている」とだけはどうしても思えないのだ。
黒斑がそう言っているから、と言うのは当然。
捜査官が魔物を駆除しなくなったらどうなるか、想像が付くから。
どうせ誰かがやらなきゃいけないなら、自分がやる。
そうすれば、黒斑の傍に居続ける公的な理由にもなる。
理に適った選択だろう。
「……そうか。わかった」
これだけハッキリと宣言されては、黒斑も野暮な事も言えない。
本当に大丈夫か、と思う気持ちはあるが……どんな理由だろうと、黒志摩が強い意志を以て選択した事なら、尊重したい。
そんな理由で、続けられるなら、続けられる所まで続ければ良い。先輩として、可能な限りは支援しよう。
「じゃあ、黒志摩ちゃん。改めて、よろしくね」
「はい。こちらこそ」
再会したあの日の様に、黒斑の方から握手を求め、黒志摩がそれに応じる。
「…………で、満足ですか。クロムラムーラ性欲巡査長」
「黒志摩ちゃんッ!? いきなり何…あ、違うぞ!? 別に君のゴワゴワお手手を嗜みたくて握手を申し出た訳じゃないからね!?」
「………………………………」
「えぇいッ! 定期的に見せるその懐疑的ジト目はやめなさいって言ってるよね!? 違うってば! 黒斑さんは必死に無実を訴え続…」
「見苦しい」
「黒志摩ちゃんッ!?」
聖十字警察隊。通称エスケー。
魔物を葬ると言う、十字架を背負った正義の組織。
その十字架の重みに耐えかね、職を辞する者は少なくない。
それでも、今の世の中には必要なお仕事だ。
◆二人の関係はこれからも大体こんな感じ◆
「さて、じゃあ復帰祝いも兼ねて…今夜こそ飯行こう!」
「承知しました」(ヒャッホウ)
「どこが良い? 居酒屋? ラーメン屋? あ、いっそ奮発して回らない寿司とか行っちゃう!?」
「……中年」(ラインナップが渋い。流石は黒斑さん)
「黒志摩ちゃんッ!?」
聖務捜査官としての能力は可も無く、不可も無く。
人間としての諸々も、凡庸の一言で大抵が片付いた。
ただ、ちょっと魔物が見える特別な体質を持って生まれた事以外、特筆する事を持ち合わせない男だ。
特別な騒動も無く安産で生まれ、乳児期を暖かな家庭で過ごし、すくすくと小学生して、中学で反抗期を迎えて、高校入ったらデビューして、ちょっと補導されちゃったりして、聖務捜査官だった母に「根性叩き直して来い貧弱メンタル野郎」と聖務学校に叩き込まれた。
白区が四等聖務巡査として本署所属の聖務捜査官になってから三年が過ぎ、早くも遅くも無い平均的ペースで三等聖務巡査になった頃。
彼は、その年に配属された後輩、黒斑 右柚と恋に落ち、二年程の交際期間を経て結婚へと至る。更に一年後には、子宝にも恵まれた。
彼と彼を取り巻く世界を眺めれば、誰もが知るだろう。
普通であると言う事ほど、無難な幸せも無いのだな、と。
だが、突然、白区の世界は狂い出した。
まず最初の変化は、妻、右柚の死。
魔物との戦闘で重傷を負い、それが原因でこの世を去った。
結婚から一〇年後、旦那とまだ小学生だった息子を残し、早逝してしまった。
そして、彼女の最期の言葉を聞いたと言う白区も、その頃から何かがおかしくなっていた。
何かを知り、何かを必死に調べ回っていた。同僚の赤杜了膳にも、何かを手伝わせていたそうだ。
その調べモノの課程で何を知ったか、赤杜は異動願いを提出し、地域安全課から福祉課へと転属している。
やがて白区は本署から第三支署へと所属を移されるが、その後も色々と調べ続けていた。
だが、どれだけ調べても、確信を得られるだけの何かが足りなかったらしい。
妻の最期の言葉から、五年後。聖務捜査官になって、二一年目のある日。
白区は、赤杜に「直接、確かめてくる」とだけ告げ、最悪の夕暮れを迎える事になる。
―――あの男の事を思い出す度に、黒斑右之定は喉に圧迫感を覚える。あの日、魔物に取り憑かれたあの男に、首を掴み上げられた感触が、僅かにフラッシュバックする。
全身がほんのりと生暖かい感覚に包まれる。あの男から奪った聖刃で、あの男の首を掻き切った時に全身に浴びた血の温度が、蘇る。
……そして、汚泥の様に鼓膜にへばり付いて離れない、あの男の最期の言葉。
―――馬鹿な親父で、ごめんな。
「……嫌な夢見たなぁ……」
第三支署、薄暗い廊下を歩きながら、黒斑は深い溜息を吐いた。
黒志摩の家に突撃してから三日目。あの日からずっとこの調子である。
黒志摩を窘めるためとは言え、妙な事を思い出したせいだろう。
おかげで最悪の目覚め。全然眠った気がしない。
深く寝付けず、無意味に早起きして時間を持て余し、こんな早い時間に出勤して来たが……
(黒志摩ちゃんもいないだろうし、結局、独りで時間を持て余す事になりそうだねぇ……)
黒志摩は、いつもこの時間にはオフィスに入っていたらしい。
黒斑が普段出勤する時間より二〇分も早い。一体、独りで何をしていたんだか。
……まぁ、思いを馳せても、本人に確認する事は無いだろう。
最悪、彼女はもう二度と地安課のオフィスに訪れる事は無いだろうから。
「おはざーっす」
毎度の適当な調子の挨拶で、オフィスのドアを開けると……
「ッ! お、おはようございます、黒斑聖務巡査長」
「……え?」
そこには、黒志摩の姿があった。私服では無く、いつもの勤務時コーデだ。
そして何故か、黒斑のデスクの前で突っ立っていた。
何やら「私は何も触れてません、何も触れてませんし撫で回してもいません。ましてや頬ずりなんてするはずがない」と主張する様に両手を上げているが……あのポーズに何の意味があるのだろう。
「お、おはよう黒志摩ちゃん……風邪、治ったんだ」
「はい。誰かと違って若いので、すぐに」
……三日前の時点で既に一週間以上こじらせてなかったか。
まぁ、その辺は置いといて。
「どうしたの、こんな時間に」
灰堂に辞表なり何なりを渡すだけなら、もう少し時間を見ても良かっただろうに。
「私はいつも、この時間には出勤しています。知っていますよね? ……年齢から来る記憶の欠落ですか?」
「痴呆する程の歳じゃないよ!?」
……ん? って言うか、んん?
「……あれ? 黒志摩ちゃん? 何かおかしくない?」
「? 私は極めていつも通りですが」
だから、おかしいんだ。
いつもの業務通りの出勤に、朝っぱらから多少の毒を含んだ黒斑への言葉。
まるで、二週間と少し前、あの象型魔物の一件より以前と何ら変わらない様子だ。
三日前は、あんなにも憔悴している感じだったのに。
「……ああ。成程。黒斑聖務巡査長、さては、私が辞表か何かを提出するためだけにここに来たと思い込んでいませんか?」
「え、いや、違うの?」
「その御年で妄想と現実と区別が付かないのは、流石に引きます」
全く…、と呆れる様に、黒志摩は溜息。
「私は、捜査官を辞めるつもりは欠片もありません」
「はぁ……? でも……」
「私は、魔物を撃てます」
「ッ!」
「勘違いしないでください。撃ちたい訳ではありません。でも、撃てます。撃ちます」
本音を言えば、そりゃあ嫌だ。
でも、黒志摩はまた引き金に指をかける覚悟をした。
「じゃあ、何で……」
聖務捜査官は特別人材不足と言う訳でも無い。代わりはいる。
知ってしまった黒志摩が無理をしなくても、何も知らない誰かが気軽に代役をこなしてくれる。
それくらいの事もわからない黒志摩では無いだろう。
「……三日間、ほとんど寝ずに考えました。ですが、どれだけ考えても、私には、黒斑聖務巡査長が間違っているとは思えない」
「!」
黒斑は理屈も理由も教えてくれなかったが、それでも思う。
きっと、黒斑は間違った事をしていない、と。
「黒斑聖務巡査長。あなた自身は、どうですか。ご自身の行動が、選択が、間違っていると思った事が、ありますか?」
「いや、無いよ、当然」
間違っていると思うなら、やらない。続けない。
黒斑が捜査官を続けるのは、決して間違っていないと判断しているからだ。
「そうですか。安心しました。なら、やはり問題はありません」
「ちょ、ちょっと待った黒志摩ちゃん! そ、そんなんで本当に大丈夫なの!?」
形式上は『魔物の駆除』とは言え、実質は人を殺す行為だ。
その理由を、他人に依存するなんて、正気の沙汰では無い。
「私は、未熟者です」
私は、黒斑さんの信者です。
「先輩であるあなたが間違っていないと断言するのなら、それを信じます」
黒斑さんがそれを正義と言うのなら、私はそれに従じます。殉じても良い。
「あなたを信じる事が、間違っているとは、思えないので」
黒斑さんを信じる事が間違っているなど、有り得ません。有り得させません。
「ッ……!」
言い切った黒志摩の目には、寸分の迷いも躊躇いも無い。
本気で、「黒斑を信じて捜査官を続ける」と言っている。
この目は、本当に有言実行してしまう目だ。
きっと黒志摩は、この理由で本当に魔物を撃つ。
そんな、半ば狂気染みたモノに満ちた目をしている。
「……後悔は、しない?」
「しますよ。多分」
いくら黒斑を熱狂的に支持していても、やはり、魔物の生命を奪う事に少しは思う事もあるだろう。流石に、そこまで盲目になれる自信は無い。
「でも、反省だけはしません」
後悔したとしても、反省だけはしない選択を。
苦しくとも、胸を張っていられる道を進め。
以前、黒斑が言っていた事だ。
「あなたが魔物を殺す事を是と言い続ける限り、私は付いていきます。後輩ですので。……これが、私が『間違っていない』と胸を張れる選択です」
一生付いていきます。叶うなら、墓の中まで。
「黒志摩ちゃん……」
黒志摩自身、自分がどれだけ狂気的理由で恐ろしい選択をしようとしているか、自覚している。
でも、やはり、だ。狂気的だろうと恐ろしかろうと「間違っている」とだけはどうしても思えないのだ。
黒斑がそう言っているから、と言うのは当然。
捜査官が魔物を駆除しなくなったらどうなるか、想像が付くから。
どうせ誰かがやらなきゃいけないなら、自分がやる。
そうすれば、黒斑の傍に居続ける公的な理由にもなる。
理に適った選択だろう。
「……そうか。わかった」
これだけハッキリと宣言されては、黒斑も野暮な事も言えない。
本当に大丈夫か、と思う気持ちはあるが……どんな理由だろうと、黒志摩が強い意志を以て選択した事なら、尊重したい。
そんな理由で、続けられるなら、続けられる所まで続ければ良い。先輩として、可能な限りは支援しよう。
「じゃあ、黒志摩ちゃん。改めて、よろしくね」
「はい。こちらこそ」
再会したあの日の様に、黒斑の方から握手を求め、黒志摩がそれに応じる。
「…………で、満足ですか。クロムラムーラ性欲巡査長」
「黒志摩ちゃんッ!? いきなり何…あ、違うぞ!? 別に君のゴワゴワお手手を嗜みたくて握手を申し出た訳じゃないからね!?」
「………………………………」
「えぇいッ! 定期的に見せるその懐疑的ジト目はやめなさいって言ってるよね!? 違うってば! 黒斑さんは必死に無実を訴え続…」
「見苦しい」
「黒志摩ちゃんッ!?」
聖十字警察隊。通称エスケー。
魔物を葬ると言う、十字架を背負った正義の組織。
その十字架の重みに耐えかね、職を辞する者は少なくない。
それでも、今の世の中には必要なお仕事だ。
◆二人の関係はこれからも大体こんな感じ◆
「さて、じゃあ復帰祝いも兼ねて…今夜こそ飯行こう!」
「承知しました」(ヒャッホウ)
「どこが良い? 居酒屋? ラーメン屋? あ、いっそ奮発して回らない寿司とか行っちゃう!?」
「……中年」(ラインナップが渋い。流石は黒斑さん)
「黒志摩ちゃんッ!?」
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