B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~

須方三城

11,海の記憶。



祝福の輝剣ハピネスシャイニーソード
 サイズM。種別【近接武器/剣/聖剣/光器】。
 物理攻撃値+五(LV一)~五五〇〇(LV九九九)。
 付加効果【祝福(戦闘中、あらゆる要素の発生率が上昇する)〈中級〉】。
 特殊属性【聖輝】+五~五〇〇。
 BLO一周年記念ログインボーナスで配られた武器の一つ。
 見た目は剣士初期装備の【下級鉄キロメタルの凡剣】にキラキラしたエフェクトが追加されただけ。
 性能も凡剣に付加効果と特殊属性を足しただけ。
 新規さんでもすぐに使わなくなるレベルのまさしく記念品。


 ハッキリ言って、何そのゴミって言いたくなる代物。
 光のオーブに呼び戻されたビーくん似アバターの凡剣が、光のオーブにより祝福された結果、このゴミに進化した。


 腐っても記念品であり、武器進化で作れるモノでは無いはずなんだけど……まぁ、そもそも光のオーブが直接手を貸してくれる時点で元のBLOでは有り得ないし、野暮かな……


『祝福が完了しましたよ』
「おお……これが【祝福】された武器……すごく強くなれた気がしますッ!!」


 ほとんど気のせいだと思うよ、ビーくん似アバター。
 やれやれ……キラキラエフェクトを纏った刃を、まるで新しい玩具を買ってもらった子供みたいに目をキラキラさせながら眺めてるよ……


『さぁ、次はヴラド・レイサーメル。貴方の武器を祝福しましょう』
「……………………」
『……? なんですか、何やら、嫌そうな顔をしている様に見えますが……』
「……その祝福とやらを受けると……私のマサクゥルもあんな感じでキラキラしちゃう感じだったり……?」
『ええ、まぁ、祝福のわかりやすいアイコンとして意地でもキラキラさせますが……』
「……………………」
『……あの、一応、聖なる祝福の輝きですよ? そんな露骨に眉間のシワを濃くしなくても……』
「……………………」
『いや、そんなピーマンをあーんされた子供みたいにそっぽを向かれましても……祝福しないと【歪みの魔王】へ有効打を与えられませんし……』


 むぅ……めっちゃ嫌だ。
 何が悲しくてあんなラメ入り折り紙みたいな安っぽいキラキラを纏った武器を振り回さなきゃいけないんだ。
 私のセンスとしては非常にナンセンスにも程がある。
 闇を纏う、とかならカッコ良くて非常に大歓迎なんだけど……そうだ。


「……あのキラキラの代わりに、闇のエフェクトを出すって言うのは無理?」
『光のオーブに何をさせようとしてるんですか!? 無理に決まっているでしょう……?』


 ……仮にも世界の管理者的なモノだと言うのであれば、それくらい出来て当然じゃないだろうか、まったく……
 ヤダなー……本当にヤダなー、キラキラ……ダサい。


 ……いや、わかってる、わかってるよ?
 あの【歪みの魔王】とやらはこのBLO世界に取って異質な存在であり、祝福と言う名の対応アプデを当てた武器じゃないと倒せないって事なんでしょ?


 ……【歪みの魔王】が生まれたのは私がこの世界に転生したせい……放置すればこの世界もろとも私も死ぬ……拒否権も逃げ場も無い……うぅ……うぅぅ……


「……くッ……わかった……ぉ、お願い……」
『そんなオークの群れに捕まった女騎士みたいな苦悶の表情を浮かべるくらい嫌なんですか……!?』
「うん」
『やだこの子すごく素直』
「…………あの……【歪みの魔王】を倒したら、元に戻してくれるよね……?」
『どんだけ嫌なの!? ねぇ!? ビギャン・ホームーガーほどではないにしても、もうちょっと有り難がられるモンだと想定して出てきたからビックリが隠せないよ!?』


 …………こうして光のオーブによる陵辱…じゃなくて祝福を受けた結果。
 マサクゥルに【祝福〈中級〉】と特殊属性【聖輝+五】、そしてキラキラエフェクトが追加された。
 まぁ、ヴッさんは元々【祝福のシルバーネックレス】装備してて【祝福〈極級〉】付いていたので、実質追加されたのは【聖輝+五】とキラキラだけ。


 ……得たモノに対して、背負わされたモノが重過ぎる……




  ◆




 フィールドマップ【ビギニング草原】には、三つのスポットマップがある。
 一つはビギニングタウンから真っ直ぐ北上した所にある森林地帯、カピバラ紳士が狩り得な【ビギニング森林】。
 二つ目は、ビギニングタウンから真っ直ぐ西に行った所にある海岸地帯【ビギニング海岸】。
 そして三つ目は、ビギニング海岸の最奥から直通している洞窟地帯【ビギニング洞窟】。


 本来、ビギニング森林の最奥で【第一の魔王・貴獣カピバラ男爵】を倒さないとビギニング海岸への道は謎岩石が塞いでいて通れないのだが……


 私とビーくん似のアバターがビギニング海岸へ向かった所、謎岩石は既に取り払われていた。
 光のオーブ様の配慮だろう。まぁ、人の武器を穢してくれたのだ。これくらいの協力は当然至極。


 ちゃっちゃと進もう。【歪みの魔王】が待っているだろうビギニング洞窟最奥まで。そして一刻も早くマサクゥルをキラキラの呪縛から解放しよう。


「……にしても妙ですね、ヴラドさん」
「何が?」
「ここまで、一匹も魔物と遭遇していない……」
「! ……それは確かに」


 ついさっきまで獲物には困らなかったビギニング草原を、西に結構な距離横断したと言うのに。
 これも【歪みの魔王】とやらの影響?


「慎重に進んだ方が良さそ…ってヴラドさん!? 何でそんなにスタスタと!?」
「ごめん、私、急いでるから」
「それは俺もそうですけど!?」


 なら急ごうよ。
 魔物が見当たらないから、何?


 あの【歪みの魔王】が移動中に片っ端から轢き殺したか。
 それとも奴を恐れて皆どこかへ身を潜めたか。
 はたまた奴に先導されて組織的に団体行動をしているか。


 考えられる可能性はこの三つくらいでしょ?


 一つ目なら、何の問題も無い。【歪みの魔王】を倒す頃には流石に再発生リポップしているだろうから、その時に楽しめば良い。
 二つ目なら、今はわざわざ探し出して狩り立てる必要が無い。後でゆっくり楽しめば良い。
 三つ目なら、この先にボーナスステージがあると言う事だ。見つけ次第、手近な個体から順に楽しんでいけば良い。


 歩みを鈍くする理由にはなり得ない。


 私はとっとと【歪みの魔王】を潰してマサクゥルを元に戻したい。あと私のせいでBLO世界がヤバいと言う現状を打破して僅かながら胸中に渦巻く罪悪感の様なものを払拭したい。


「……流石ヴラドさんッ!! 恐るものなんて何も無いんですね!! かっちょ良い!!」


 はいはい、さすヴラさすヴラ。
 何でここまで懐かれてんだか……


 お、とかなんとかやってる間に白い砂浜と青い海が見えてきた。


 海、かぁ……久々に来た気がする。
 まだまだ視界に入っただけで距離はあるんだけど、深く息を吸えば潮の匂いを感じる。


 懐かしいなぁ……パソコンを買い与えられてオンゲー文化と出会う前……小学生くらいの頃は、毎年毎年バカみたいに足繁く通ってたっけ、海。


 海の奥底には深海と言うとても暗い場所がある。
 そう聞いて、昔から暗い場所が好きだった私は深海を夢見た。海を眺めて、深海を想像して、楽しんでいた。


 小六の時、深海を目指して海難事故に遭った事もあったなぁ。
 あの時は参ったね。流石に死を感じた。ビーくんがライフセーバーのお兄さんを連れてきてくれなかったらヤバかったかも知れない。


 ……そう言えば、海に行く時は毎回一緒だったっけ、ビーくん。


 当時、幼気の至りで色々と浅慮な行動を繰り返していた私に対し、両親はすっかりハンズアップで、頼んでも「不安だから」と私を遠出させてはくれなかった。
 なので、お隣さん幼馴染のビーくん家で夏休みの宿題をやると嘘を吐き、ビーくんと一緒に海に行った。


 毎年毎年、黙って海を眺める私に、よくもまぁ長々と付き合ってくれたものだ。
 毎度毎度、私が海を眺めている間、ずーっと黙って私の隣りで待機してくれていた。
 今の落ち着き皆無人間なビーくんからは想像もできない我慢強さだと思う。


 あ、でも……一回だけ、海を眺めている最中に、ビーくんが話しかけてきた事があった。


 確か、「海は好きか?」的な問いかけだった気がする。すごくぼんやりとした記憶だけど、薄らと覚えている。


 ……それと……あの時、何か【約束】した様な……? 何だっけか。


「海、ですね」


 ん? 何? いきなりどうしたのビーくん似アバター。


「……海がどうかしたの?」
「生で見たのは初めてです」


 ああ、まぁ、BLOの世界観じゃ【魚系の魔物が出る危険な水溜り】って概念だろうからね。
 一応中盤以降にいくつか港町は出てくるけど……それ以外の町の出身だと、海を拝む機会に恵まれてなくても不思議は無……ん?


 いや、おかしくない?


 ビーくん似アバターはあくまで【設定上】、「ビギニングタウンで生まれ育ち、光のオーブに選ばれて戦士になった者」だよね?
 アバターって事は、現実世界に操作してる人間プレイヤーがいるはずだよね?
 ビーくん似アバターの発言は、その人のチャットが音声化されてるものだと思ってたんだけど……思考と発言もゲーム世界観に合わせる本格ナリキリさんなのかな?
 楽しんでますな。


「キラキラしてて、すごく綺麗ですね……モヤシーヌの家で読んだ本に書かれていた通りだ……」


 そう? ごめん、ちょっとわかんない。海に関しては深海以外興味無い。


「……俺、昔モヤシーヌと約束してたんです。いつか、俺が人一人守りながらでも余裕綽々と魔物を蹴散らして海岸まで辿り着けるくらい強い大人になったら、一緒に海へ行こうって」
「……ふぅん……」


 ……至極どうでもいい話が始まった。
 ここまでの道中でも思ったけどさ、君、定期的にどうでもいい話をし始めるよね。黙ってたら死ぬのかな?


 しかも昔って……過去まで捏造するタイプのナリキリさんなの……?
 そこまで行くと流石に少し狂気を感じるよ……


「そしたら…………」
「…………? そしたら?」
「……あッ。ぃ、いえ、その、まぁ個人的に……色々と、モヤシーヌに言いたい事がありまして……あ、あはは」


 ……? 何その動揺。どう言う感情?
 わざわざ海に呼び付けて何を色々言うんだろう……


 ……あ、そうだ。思い出した。
 それだ。私がビーくんとした【約束】。


 ビーくんも、私に何か言いたい事があるって言ってた。


 でも、それを言うのは勇気が要るから、中学生になったら言う。その時は自分の方から海に誘う。その時は、ちゃんと聞いてくれ。


 確か、そんな感じの内容だったはず。


 …………あー……あーあーあー……少し納得が行った。
 中学に入ってから毎年毎年飽きもせず、サマーバケーション引き篭り中の私にビーくんから送られてきていたお誘いメール……そして私がこの世界に来るキッカケになった襲撃時に、ビーくんがやたら海に拘っていた理由。
 全部、あの【約束】か。


 つまり何? 私の愛刀マサクゥルが光のオーブに呪われた原因を辿りに辿ると、幼い私が浅慮にビーくんと【約束】を交わした事にそもそもの原因があると……?
 自業自得の因果応報……恨むぞ幼女な私……!!


 ……ん? で、結局、ビーくんは私に何を言いたかったんだろうか。
 私を殺す直前、二人きりで出かけて最後は夜の海がどうこう言ってたよね……


 二人きり、夜の海で言う、勇気が要る様な事……何かあれだね、一昔前のラブコメだったら愛の告白が飛んできそうなフラグびんびんだね。


 ………………………………………………ん?


「……ビーくん(似アバター)、ちょっと良いかな……」
「はい? なんでしょう、ヴラドさん」
「もしかして、モヤシーヌちゃんの事、好きなの?」
「ひょぇ」


 何か変な声出たね。
 ビーくん似アバターの顔が茹でたタコみたいに真っ赤になって固まってしまった。
 これはまぁ、わかりやすい図星と見て良いだろう。


 ………………………………いや、でもアレじゃん?
 奇跡的に約束の内容が被っただけで、ビーくんとビーくん似アバターが同様の思考回路で動いているとは限らな……


「な、なな、何でわかッ……ッ、お、思い返してみれば我ながらわかりやすい事この上無い……【幼馴染を二人きりの海に誘ってわざわざ改めて言いたい事なんて言ったら、愛の告白以外に無い】ですもんね……!! どこの世界の誰がそうしようと【それ以外に有り得ません】!!」


 断言やめて。


「逆にそこまで聞いてそれ以外の用件があると思うなら、とんだ鈍感ニブチン野郎だッ!!」
「…………ごめんなさい…………」
「何でヴラドさんが謝るんですか!?」


 …………うん。何て言うかね、それを前提に考えると心当たりがあると言うか……今まで不可解の権化でしかなかったビーくんの発言と情緒の大半に納得が行くから、多分そうなんだろうなー……とか思っちゃって。
 そしてそうだとするとね……知らなかったとは言え、私は色々と酷い奴だなと。さっさと気付いて、こちらにそのつもりは皆無であるとキッパリ伝えてあげれば……彼はこの四年ほどの青春を無駄にせずに済んだろうに……


 にしても、もし私の身に起きた現象が前に仮定した通り【死亡からの転生または憑依】だとすると、だ。
 ビーくんは、事故の様な形とは言え好きな娘を自らの手で殺した事になるのかぁ……


 トラウマもんだね、可哀想に。


 …………うーん……しかし、何故だろう。一応私、当事者のはずなんだけど、どうしてだか……他人事感が拭えない感想しか出て来ない。


 何と言うか……状況証拠は揃ってるんだけど、未だに「腐ってもイケメンであるビーくんが喪ッサリ女子である私を……?」と言うハイパー違和感満載の現実味の無さ故に、この件に関する思考がぼんやりしてる。
 柄にも無く、私は今ちょっとテンパっているのかも知れない。フワフワしてる感が否めない。


 ……この感覚……もしかして私……若干、嬉しい?
 はッ(笑)んな訳ない。ビーくんは最早私の天敵だよ? 鬱陶しいしうるさいしウザいし面倒臭いしキッズだしイケメンな所以外は全然良い所無いんだよ幼馴染だから存在を許容してるけど本来なら首から上以外は私の人生に置ける邪魔物でしかない人種だよそんな奴に少しばかり特別な感情寄せられた所で嬉しい喜ばしいなんて私が思う訳ないって言うか私は無類のイケメン好きではあるけど生きた人間が好きな訳ではないしまずそもそもな話からして二,五次元ならともかく三次元にはあんまり興味なんてないからビーくんにいくら擦り寄られようと嬉し恥ずかしもどかしいなんて感情を抱くはずがない訳でとにかく有り得ない話だよこれは有り得ない絶対に有り得ない。


 …………ダメだ、落ち着け。ちょっと思考をズラそう。
 全く別の話題にすると負けを認めた感出るから、ちょっとだけズラそう。


 …………ま、まぁアレだね。とりあえずだよ?
 もし本当にそうだとしたら……ビーくん趣味悪くない? ゲテモノ好きなの? 大丈夫? 流石にちょっとビーくんの将来が心配だよ? ろくでもない女に引っかかり倒して身も心もズタボロになり精神の病んだイケメンになりそう。


 ……病んで大人しくなったビーくんなら、非常にアリかも知れない。
 …………いや、ビーくんは病んでも一定水準の鬱陶しさをキープしてそう。ある意味その辺は信頼と安定のクオリティだと思う。


「……ビーくん(似アバター)、モテたいなら大人らしいアダルティクール系になろうね」
「ァ、アドバイスッ!! あァりがとうございまァァァすッ!! クールですね!! わかりました!! 俺もヴラドさんの様にクゥゥルにキメまァァァすァッ!!」


 君もクール路線は無理そうだね。



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