B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~

須方三城

10,世界を脅かす歪み。



 うぷ……まだちょっと【回復酔い】の余韻が……


「ぅ、うう……モヤシーヌ……モヤシーヌがァァァッ!!」


 ごめんビーくん似のアバター。今近くで大声出さないで。頭にガンガン響く。なんだこれ。二日酔いってこんな感じなのかな。誰か水持ってきて。聖なる黄金水以外で。


 あー……もう。本当に最悪……喉や口の中がピリピリムカムカする……草原でチマチマ喰べてたミンチ全部吐いたわ……
 と言うか、なんで排尿・排便器官は設定されてないのにきっちりゲロは出る訳……?


「追いかけなきゃ、追いかけなきゃあダメだァァァッ!!」


 あ、ビーくん似アバター、追いかけるのは良いけどその方向は聖なる黄金水の毒沼……


『ビギャン・ホームーガー、状態異常【回復酔い】発生』


「うぉえろろろろろろろろォォォォォォーーーッ!?」


 ……馬鹿なのかな?
 やっぱその見た目の人は総じて馬鹿なのかな?
 もうゲロはさっきので吐き尽くしたのか、胃液が出てますよ彼。あれは吐いた後のピリピリムカムカ感すごいだろうなー……


 にしても、今の所、百発百中で【回復酔い】が発生してるね、この黄金水。私は【バーサーカー】があるからわかるけど……何でビーくん似アバターまで?
 ……もしかして、この体感型BLOではHP満タン状態で回復すると確定で発生するのかな?
 だとしたら本当に毒沼だよ、このおしっこの水溜り。


「も、モヤシーヌ……モヤシーヌゥ…………モヤ……し、死ぬぅ……ゲボろォ……」


 うん、多分これ以上【回復酔い】喰らったら次は胃袋吐きそうな顔してるもんねビーくん似アバター。
 一旦こっち戻って来ようか。流石に知ってる顔に目の前でそんなグロ死されたらしばらくトラウマになりそう。


「ぅぅうう……一体、一体何がどうなってるんですか!! この町が襲われた事も……モヤシーヌが拐われた事も……意味がわからない……そして何より意味がわからないのは……この聖なる黄金水は俺達に一体何の恨みがッ!?」
「私に聞かれても」
「そうですよね!! ごめんなさいッ!! 一体何がどうなっているんだァァァーーーッ!!」


 まるで世界に問いかける様に、ビーくん似アバターが大空へ向かって声を張り上げた。
 うるさい至極。さっきのブライオンの咆哮と良い勝負だ。


 まったく、無駄な事はやめてよね。
 そんな風に叫んだって、こんな状況、誰に説明できる訳でもな……


『……戦士達よ。説明しましょう』


 ……どうやら、天の声が説明してくれるみたいだ。


 え? って言うか天の声と会話って成立するの?


「こ、この声は……光のオーブの導き!?」
『イエス。我こそ貴方達が【光のオーブ】と呼ぶ高次元思念体。半ばこの世界の管理者の様なモノです』


 それはご苦労様で……


『低次元世界の問題は【可能な限り】低次元を生きる生命体で解決すべき、と言う考慮から過干渉を避け、普段私の方から戦士に語りかけるのは業務連絡のみに終始していますが……今は少々風雲急を告げてます。故にヴラド・レイサーメル、ビギャン・ホームーガー。貴方達に【特命】を与えたいと思います』
「特命……?」


 何それ……光のオーブから直接特命が下るって、イベントでも聞いた事が無いんだけど……


『特命とは、【特別な使命】の略です』


 いや、別にそこに疑問を挟んだ訳じゃあない。少し考えればわかるでしょうに。お茶目さんか。


『貴方達二人には、これより先程この町を襲撃した魔物……いえ、魔王、【黒獣ブライオン】……【だったもの】の討伐に至急向かってもらいます』
「ま、魔王!? さっきの魔王だったんですか!?」
『イエス』
「…………? 待って。黒獣ブライオン……だったもの?」
『……先に言いましたね。事態は風雲急を告げる状態であると……周りを見てご覧なさい。私の加護により、本来魔物や魔王は近寄りすらしないはずの人類種生存領域が……このザマです』


 風雲急を告げる……このザマを以てしても、まだ「大事件が起きそうな状態」だと言うの?
 これ、充分、大事件が起きてない?


 …………もしかして……この惨状が事件とも呼べないくらいの【大事件】が起きそうって事?


『貴方達が遭遇し、吐瀉物による威嚇行為で追い払ったのは、ただの魔王ではありません。【進化した】……いえ、【歪んでしまった魔王】です』


 なんか重要な話をされている気がするんだけど、一言物申したい。
 あのゲロに威嚇の意図は無かった。純粋なゲロだった。上手く策略に嵌めたみたいに言うのやめて。流石に色々と恥ずかしい。


『……今、この世界には無数の【歪み】が発生しています』
「【歪み】!? 【歪み】ってなんですか!?」
『人体で例えるなら……【怪我】の様なものですね。【別の世界】からこの世界に【強い干渉】があり、その影響でこの世界がダメージを受けているのです。街角で強く肩と肩が衝突したら骨折したりするでしょう。あんな感じです今』
「……へ?」


 ……【別の世界】からの【強い干渉】……?


「あ、あの……ちょっと良い?」
『はい、なんでしょう?』
「その【強い干渉】と言うのは……」
『簡単に言うと、別の世界から【本来この世界に来るべきでは無いモノ】がこの世界に流れ込んでいる様です。紙袋の中にすごい勢いで栗を投げ入れたら破れるでしょう。大体そんな感じです』
「……………………」


 さっきから光のオーブの例え話チョイスが何故それ感否めないのは今は置いといて……


 ……本来この世界に来るべきでは無いモノ……ど、どうしよう。身に覚えがあると言うか……それってもしかして、ズバリ私の事なんじゃあ……?
 え、じゃあ……私がこの世界に転生した事で、この世界がダメージを受けたって事?


『この世界に生じた【歪み】……ズバリそれはイレギュラーです。【歪み】に接触すれば、何が起こるかは未知数……そしてあの魔王は……』
「あ、わかった!! その【歪み】に触れてしまった魔王なんですね!?」
『イエス。あの魔王は【ビギニング洞窟】の最奥を住処にしていました……そして、丁度そこに【歪みの核】と呼べるモノがあり、あの魔王はそれに接触した』
「……結果、あの魔王は【進化】……貴方の言葉を借りれば【歪んで】、町を守っていた光のオーブの加護を破れる様になった……」


 成程……天の声によるコールがなんか壮絶に舌噛んだみたいになってたり、私が記憶していたよりもLVが高かったりしたのも、その影響か。
 あのブライオンは、ブライオンであってブライオンではない。
 私の知らない、歪んでしまったブライオン……


『便宜上、私はあの魔王を【歪みの魔王】と名付けました』


 まんまッ。


『どうも、あの魔王は【歪みの核】を体内に取り込んでいる様です。あの魔王を討伐するしか、【歪みの核】を破壊して世界の【歪み】を取り除く術はありません』
「……ちなみに、その【歪み】を取り除かないと、結構ヤバい感じになったり……?」
『ズバリ、この世界が崩壊・消滅するでしょうね』
「ッ!!」
『先に言いましたが、世界の【歪み】は人体で言えば【怪我】です。そして【歪み】は現在進行形で広がっている……【怪我】が重傷悪化すれば人は死に至る。失血死か、それとも破傷風などの副次的なものかはさておき……このままだとそれと同じ事がこの世界に起きます』


 …………要約すると、つまり…………私がこの世界に転生した反動の様なもので生じたダメージが、このままだとこの世界を滅ぼしてしまう、と?


『【歪みの核】を破壊できれば、【歪み】の拡散は止まります』


 傷口を塞いで出血を止める様な感覚だろうか。


 ……私を消すとか言う話にならなくて何より……と言うか、光のオーブは私の存在に何か違和感を覚えたりしないのかな?
 何かさっきから普通の住人として接されてる感がある。


 もしかして……【歪み】を【怪我】に例える話の延長で考えると、【私の転生】が【怪我のキッカケ】になっただけで、今の【私の存在】自体は【歪み】とは切り離されていて何も関係が無いって事なのかな?


 ナイフで斬られた怪我は、ナイフをへし折ったって治らない。
 私はそのナイフ的存在であり、怪我を治したい光のオーブとしてはもうどうでも良い存在なのかも。
 だとしたらすごく助かる。「世界を道連れに死ぬか、世界のために死ぬか選べェェェーーーッ!!」とか言われたら二択が二択になってなさ過ぎて泣く所だよ。


『そして、その【核】は【歪みの魔王】の中に在る……』


 だからあの歪んだブライオン……【歪みの魔王】を討伐しろ、と言う特命を下した訳……と。


『これから貴方達の武装に【特別な祝福】を施し、【歪み】を修正するワクチンプログラム的なモノを組み込みます。どうか、その刃でこの世界を救って欲しい……!!』


 イレギュラーである【歪みの魔王】を倒すための専用プログラムの付与……つまり、【祝福】と言う名のアプデって感じかな?


『お願いできますか?』
「モチロンです!!」
「…………うん」


 この世界が消えてしまったら、今度こそ私はどうなってしまうかわからない。
 それも、世界消滅の原因は私にあると言う……こんなの、断れる訳が無い。
 悪質な追い込み漁めいている。もし本当に神様とやらが運命の手綱を握っていると言うのなら、神様は絶対に性格が歪んでる。


「……あ、でも、その【歪みの魔王】はどこへ行ったかわからないんじゃあ……」
『それならば把握しています。今はビギニング海岸をビギニング洞窟方面へ向けて移動中……おそらく、住処へ帰るつもりでしょう。歪んだとは言え、根っこはブライオンのままです。獣系の魔物や魔王は縄張りを決めて活動するモノ……【歪みの魔王】の活動拠点は、ブライオンと同じ【ビギニング洞窟最奥】と考えてほぼほぼ問題無いはず。もし万が一、イレギュラーな移動があれば、すぐに報せます』


 おお、伊達に「半ばこの世界の管理者の様なモノ」と名乗った訳ではない様だ。


『では早速……これより【祝福】を……』
「あ、光のオーブ!! 一つだけ聞きたい事があります!!」
『なんでしょう、ビギャン・ホームーガー』
「何で……何で【歪みの魔王】はモヤシーヌを……俺の幼馴染を拐ったんでしょうか!?」
『モヤシーヌ・クライシンカイスキー……彼女が何故【歪みの魔王】に囚われたのか、具体的な理由はわかりかねます……が、一つ、彼女には特別な要素がありました……それは【戦士】の素養があったと言う事です』
「! モヤシーヌも、光のオーブに選ばれた戦士だった……?」
『まぁ、「家から出たくない。働きたくない」と言う理由の一点張りで、私の導きを全て完全拒絶していましたが』
「あんの引き篭り……!!」


 わー、なんか親近感……
 ヴッさんの鍛え抜かれた身体と整った装備が無かったら、私も多分そのルートだわ。


『もし【歪みの魔王】が【あえて彼女を選んで連れ去った】のであれば、その【素養】が理由だと思われます。正直、それ以外に彼女が特別視される謂れは無いはずです』
「そうですか……」
『……心配する気持ちは察します。ですが、目的が不明瞭だとしても、わざわざ拐ったと言う事は何か【目的】があると考えるべきでしょう。その【目的】の内容は定かではありませんが……すぐに彼女の生命に危険が迫る可能性は低い……気休めでしかないですが、そう考えても良いと思います。急ぐべきである、と言う事は確かでしょうが』
「わかりました!! 気休めでもありがとうございます!! では、めちゃんこ至急急いで可及的速やかに早くスピーディに行ってきます!! 待ってろモヤシーヌゥゥゥッ!!」
『いや、ちょ、まずは【祝福】ゥ!! ストップですビギャン・ホームーガー!! カムバァァァック!!』


 こうして、私とビーくん似アバターは【歪みの魔王】を討伐する事になったのだった。



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