B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~
07,世界を歪ませる声とその使者。
光のオーブ。
跋扈する魔の者達から人類種を保護し、そして戦う力を与えた高次元の存在。
BLOの世界に置いて、【神】に等しきモノ。
名前の通り、その姿は光の玉響……定形を持たない、光の群れ。
『この世界が、歪み始めている』
光のオーブは、イレギュラーを悟った。
『【外の世界】から、何者かがこの世界に干渉している』
光のオーブは知っている。
自分がいるこの世界の他に、別の世界がある事を。
『【外の世界】からの干渉など、今までにも途方も無くあったはずだ』
『しかし、何の問題も無かった』
『何故、それが今更、世界を歪める?』
光のオーブは自我をいくつかに分割し、【思考】ではなく【議論】する。
『今までにあった無数の干渉は、全て【特定のツール】から【一定のプロセス】を踏んだ適切なモノであった』
『だが今回の干渉は、違う。何もかもが違う』
『まるで力づくに、法則や空間が歪められている様な感触だ』
『そしてノイズが聞こえる。悲痛な祈りの様なノイズだ』
ラジオの砂嵐の様な音が響く。
ザーザーザーと言う雑音の合間に、微かに……聞こえる。
それは、少年の声。
―――……目を覚ませ……―――
―――……戻ってこい……―――
―――……あいつを返せ……―――
―――……こんなの、認めない……―――
『外の世界の何者か……その【強い意思】…【願い】が、この世界に流入し、歪めている』
『ツールを使わずプロセスも省き、本来は不可能な方法で、強制的に二つの世界を繋げようとしている様だな』
『まるで感情任せに菓子箱の蓋を無理にこじ開けようとする子供の様だ』
『この【歪み】はその負荷によるモノ』
『……【想いの力】か。外の世界の住人はこれだから恐ろしい』
『不正なアクセス……【この世界に入ってくるべきでないモノ】……』
『対策を講じなければ……』
『この世界は、【歪み】に飲まれて消えるだろう』
『どう対策する』
『【歪み】…その【核】を直接叩き、破壊する。無理な繋がり、その接続部を強制的に切り離す』
『で、その【核】はどこにある?』
『【歪み】は世界中に少しずつ小さく拡散し始めているが、【起点】…【核】は一つ。一番大きく広がっている【歪み】を特定してしまえば良い』
『今は小さな【歪み】は無視しろ』
『…………特定。ビギニングエリア、スポット【ビギニング洞窟】、最奥……ぬ……』
『どうした』
しばらくの沈黙の後、光のオーブは【それ】を観測した。
『……【歪みの魔王】……』
◆
「駆逐してやる……!!」
光のオーブに選ばれた新米戦士、ビギャン・ホームーガー。一六歳。
当然ながらLV一。職業:剣士(職業LV一)。
特筆点は、中肉高背なモデル体型にイケメンを兼ね備えた素晴らしき容姿と、上半身丸出しの半裸うほほ状態である事。
かつて光のオーブに選ばれた戦士として戦っていた父(膝に矢を受けてしまい現在隠居中)から譲り受けた下級鉄の凡剣を振りかざし、陽光に照らされた草原を駆ける。
「俺だって光のオーブに選ばれた戦士なんだッ!! はァァァ!!」
ビギャンが勢い良く剣を振り下ろした先にいたのは……
「モグッ!!」
【ビギナーモーグラーLV二】×一。
「モギュッ……!!」
「よしッ!!」
刃は見事、ビギナーモーグラーの茶色い毛皮に覆われた頭部へ。
頭をかち割ってやったぞ、と、ビギャンがガッツポーズを決め様とした瞬間。
「モギュルッ!!」
「なッ……く、駆逐できてない!?」
そう、彼の裸体(上半身)の微妙な中肉感から見て取れる通り、その筋力は微妙。
光のオーブの加護によって多少はブーストされてはいるが、凡剣を以て魔物の頭蓋を穿てる程ではなかったのだ。
「モギュギュイ!!」
やってくれたな小僧。無論、覚悟は良しと見たぞ。
ビギナーモーグラーが吠え、その鋭い爪を剥いた。
「ひッ……」
来る、ぶっちゃけ恐い。
ビギャンは思わず短い悲鳴を上げ、へっぴり腰で身を引いた。
もし相手が気高き騎士様とかだったなら、ビギャンの情けない姿に「……希に見る痴れ者だな。貴様の様な者の血を浴びるのは御免被る」と剣を引いてくれたかも知れない。
しかし、相手は下級の魔物。その凶爪には美学も容赦も無い。ただ目の前の敵を屠る事しか眼中に無い。
「モギュァアァアアッ!!」
死ねェェェ、的な雄叫び。
「ぅ、うぁ…」
あぁんもうダメだぁ、とビギャンが現実からどうにか逃れよう様と瞼を閉ざそうとした、その刹那。
「ヒャッハァァァァァァッ!!」
聞こえたのは、ドスのきいた重低音。まるで獣の咆哮。
その咆哮に続いて、ギュァァァァンッ!! と言う駆動音。
「モ、ぎゅぱむっ」
そして、ビギャンの目の前で、鮮血と挽肉が散った。
「これでェ、五〇三五匹目ェァッ!!」
やたら刃幅の太い黒刀…いや、黒いチェーンソーが横合いから飛び出し、ビギャンの眼前にまで飛び掛っていたビギナーモーグラーの側頭部に食い込んだのだ。
「へ……?」
突然現れ、ビギナーモーグラーを屠り、ビギャンを救ったのは……一人の男性。
外見から察せる年齢帯としては【青年】と表現すべき層だろうか。
陽光に煌く綺麗な銀髪とは対象的な浅黒い色合いの褐色肌、そしてやたらに尖った耳……【ダークエルフ】だ。
ビギャンと同じく上半身は裸だが、手甲を装着しているし、何より筋肉量の差が天と地だ。マッチョガイ。ビギャンよりも一回り…いや、二回りは大きい体格。
興奮して体内温度が半端無い事になっているのか、裂け上がった口角からは白い蒸気の様な物が漏れている。
その紅く光る両眼は、ビギャンなど欠片も映してはいない。
ただ、己が仕留めた獲物だけを真っ直ぐに見据えていた。
そして、すぐにビギナーモーグラーは事切れた。
「くっはァ……」
ダークエルフ青年が愉快そうに広げた大きな口から、ぶあッと白い蒸気の塊が霧散する。
霧散した蒸気を追う様に這い出した肉厚の舌が向かったのは、自身の頬に付いた返り血。
その血を慣れた感じで一舐めで拭い取り、舌は口内へと戻っていった。
「……ァァ、やっぱ、このモグラがこの辺の魔物じゃあ一番美味ァァ……」
「ひ、ひぃッ……!?」
何だこの完成された化物は。
そう思ってすぐに、ビギャンはある噂を思い出した。
二日ほど前から、ビギニングタウンで話題になっている、とある人物の噂。
光のオーブに選ばれた戦士として、魔王と魔物を駆逐する旅に出た後、数年経って突然帰ってきた謎の男。
戦士だってたまには帰省するだろうに、一体何が謎と呼ばれる要因になっているのか。
その男は、帰ってきた理由も、その後、再出立しない理由も誰にも明かさないのだ。ただ寡黙に、町の日陰に佇む。
しかし、その実力だけは折り紙付きであり、常に周囲を警戒するその眼光は逃げ帰った者のそれでは決してない。
一体その男は何故帰ってきたのか、そして何を【待っている】のか……謎だらけの戦士は、今日も静かに日陰に立っている……と思いきや。
なんと、二日ほど前の夜に、その男は再び町を出たと言うのだ。
そして、忘れていた戦闘勘を取り戻すためか、町の周辺の魔物達を夜通し狩り倒しているらしい……と。
その男の名は、
「……ヴラド・レイサーメル……!!」
きっと間違い無い。
この化物の様な青年が、噂の戦士、ヴラド・レイサーメル。
寡黙な男と言う風聞だったが……さながら狂戦士だ。
恐ろしい……その戦慄と同時に、ビギャンは別種の震えを自覚した。
その感情は、憧憬。即ち、最高に痺れた。
圧倒的力による即行駆逐。
化物然としたその姿に【戦士】としての一つの完成形を見た。
正確無比に一撃で、ただただ魔物を屠る。屠れる力がある。
ビギャンは真っ直ぐな少年であり、光のオーブに選ばれた戦士として魔物・魔王と戦う事に誇りすらいだいている。
優れた先達を前に、畏敬するなと言うのが無理な話。
―――……見つけたぞ……―――
「え……?」
不意に、ビギャンの脳内に響いたのは、【誰か】の声。
たまに聞こえる【光のオーブの導き(俗称:天の声)】とは違う声だった。
天の声は事務的な語調でどちらかと言えば女性的な声色なのだが、今のはビギャンと同年代くらいの少年の……と言うか、ビギャン自身の声によく似ていた気がする。
「………………、……?」
しかし、その声はもう聞こえなかった。
なんだったんだ今の……とビギャンが小首を傾げていると、
「次ィ……ふふふ、ふはははあはは……」
「あ」
ヴラドが、ビギャンの存在に気付きすらしないまま、次の獲物を求めて歩き出したのである。
マジで獲物以外認識領域に入っていない感じだ。戦闘狂にも程がある。
「ちょッ、すみません! ヴラド・レイサーメルさん、ですよね!?」
今まさに憧れの人トップワンの座に君臨した御仁が、行ってしまう。
礼を言いたい、あわよくば名前と顔を覚えてもらいたい。
そんな衝動から、ビギャンは声をかけたのだった。
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