B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~
06,覚醒の狂戦士。
……あれ?
気が付いたら、日が昇っていた。
それも、頭の真上にまで来てる。要するに、正午。
……記憶が曖昧だ。
確か……そう、空が白みを帯び始めた頃に【マッドネス】がLV三〇を越えた辺りまでは漠然と記憶がある。
そこからその……恥ずかしながら、魔物をミンチにする度にこう身体の芯からその……
……端的に言うと、【性的な興奮】に近いモノを覚える様になって……魔物を一匹殺すごとに、股座を指で弄り回すよりも数倍強い快感に脳を揺さぶられて……何回か、絶頂に達した。
四・五回目の絶頂辺りから頭が真っ白になり……現在に至る。
記憶にある限り、とても遠くに見えていたはずのビギニング森林のすぐ近くまで来ている事から考えて……記憶が飛んでる間も、私はほぼ無意識で活動していたらしい。
…………恐ッ。
え、何? 本当に恐い。も、もしかして……ASが実際に私の精神に作用しておかしくなってるとか……?
ッ……ちょ、ちょっとステータスを確認しよう。
画面を開くと、相変わらず一ページ目のプロフや装備一覧は×の嵐。
何度かLVアップの天の声を聞いた記憶があるが、どれくらい上がったか把握するのは無理そうだ。
二ページ目のステ値一覧も同様。
そして、問題の三ページ目、スキル一覧。AS詳細一覧をタップ。
ローディング時間無しで、習得済ASが全て習得順に表示される。
【マッドネス LV一〇〇】
クリティカル発生率が上昇。
(LV上限ボーナス:クリティカル発生率が更に上昇)
【ブレイブハート LV一〇〇】
全ての魔王・魔物に対して与ダメージが微上昇。
(LV上限ボーナス:SP【ブレイブストライク(自身の前方へ高威力で多段ヒットする衝撃波を放出する。使用後一定時間、自身の全パラメーターが微上昇)】が使用可能になる)
【ブレイブラッシュ LV一〇〇】
ターゲットロックした魔物・魔王へ向かってダッシュする時、スタミナ消費量が軽減。
(LV上限ボーナス:スタミナ消費軽減率が更に上昇)
【ソードマスター LV一〇〇】
種別に【剣】を含む武器による通常攻撃での与ダメージとクリティカル発生率が上昇。
(LV上限ボーナス:SP【剣武一念(自バフ。種別に【剣】を含む武器装備時のみ使用可能。一定時間、与ダメージとクリティカル発生率が上昇。攻撃をガードされた場合、ガードによる与ダメージ減少率が大幅軽減され、更にクリティカル発生率が大幅上昇)】が使用可能になる)
【インファイター LV一〇〇】
種別に【近接武器】を含む武器による通常攻撃での与ダメージが微上昇。
(LV上限ボーナス:種別に【近接武器】を含む武器による通常攻撃でのクリティカル率が大幅上昇)
【ビーストハンター LV一〇〇】
獣系の魔物・魔王に対して与ダメージが微上昇。
(LV上限ボーナス:SP【狩人の呼吸(自バフ。一定時間、獣系の魔物・魔王に対してクリティカルと付加効果全般の発生率が超大幅上昇)】が使用可能になる)
【ザ・キラー LV一〇〇】
クリティカル発生率が微上昇。
(LV上限ボーナス:クリティカル発生時に付加効果【即死(攻撃ヒット時に超低確率で発生し、ヒットした魔物のHPをゼロにする。魔王には無効。ガードされると発生しない)】を追加)
【クイックキラー LV一〇〇】
最初の一撃から一〇秒間、クリティカル発生率が上昇。
(LV上限ボーナス:最初の一撃のみ付加効果【即死】を追加)
【オーバーキラー LV一〇〇】
攻撃した魔物・魔王の残HPが少ないほど与ダメージが上昇。
自身のHPが一〇分の一以下になると物理攻撃値と物理耐性値が一〇分の一になる。
(LV上限ボーナス:攻撃した魔物・魔王の残HPが少ないほどクリティカルと付加効果【即死】の発生率が微上昇)
【ブルータルキラー LV一〇〇】
自分よりもLVが低い魔物・魔王に対しての攻撃のクリティカル発生率が上昇。
(LV上限ボーナス:自分よりもLVが低い魔物・魔王に対しての攻撃に付加効果【ガードバング(ガードされた際の与ダメージ減少率を軽減)】を追加)
【パワフルキラー LV一〇〇】
全ての攻撃に付加効果【ガード破壊(攻撃ヒット時に超低確率で発生。ヒットした魔物のスタミナが残っていてもガード体勢を強制解除させてのけぞらせる。魔王には無効)】を追加。
(LV上限ボーナス:クリティカル発生時に付加効果【ガード完全破壊(小型魔王になら有効なガード破壊)】を追加)
【プロフェッショナルキラー LV一〇〇】
クリティカル発生時に付加効果【完全即死(小型の魔王にも発生する即死)】を追加。
自身の持つ【ヘイト(自分に魔物・魔王の注意を引き付ける効果)系のスキル・SP】が全て無効化。
怨霊系の魔物・魔王に認識されると全ステータスが減退。
呪い系の状態異常を受ける確率が超大幅上昇。
呪い系の状態異常を受けた時、通常復帰までの時間が一〇秒延長。
呪い系の状態異常を受けた時、その効果(ダメージ・ステータス減退など)が超大幅上昇。
(LV上限ボーナス:SP【仕事人〈殺〉(範囲バフ。一定時間、範囲内にいるアバター全ての【即死】系付加効果の発生率が上昇)】が使用可能になる)
あかん。
関西圏の住人じゃないけどこれはあかんとしか言えない。
一二個しかないスキルの内、半数の六個がキラー系(しかもLV上限)て。
上の方のスキル群……【ブレイブハート】は戦闘回数に応じてLVが上がる基本的なASだからLV一〇〇もわかる。
続く【ブレイブラッシュ】もエンカウントの度にただ敵に向かって走ればLVアップポイントが貯まるからわかる。【ソードマスター】と【インファイター】もマサクゥルを振り回してた訳だから当然。獣系しか出て来ないビギニング草原で暴れてれば【ビーストハンター】が極まるのも自然至極。
でもそれ以降はヤバいでしょ。
【ザ・キラー】は特定の武器(猟奇系武器)を装備していて、トドメの一撃がクリティカルだったらポイントが貯まる。
【クイックキラー】は他にキラー系ASを習得している状態で、エンカウント後一〇秒以内に敵を倒すとポイントが貯まる。
【オーバーキラー】はキラー系ASを二つ以上習得している状態で、オーバーキルするとそのオーバー値に応じてポイントが貯まる。
【ブルータルキラー】は自分よりLVが低い敵を連続して倒すとポイントが貯まる。
【パワフルキラー】は敵がガードしている状態のまま敵を倒すとポイントが貯まる。
【プロフェッショナルキラー】はキラー系のASを五つ以上習得している状態で【即死】が発生するとポイントが貯まる。
……つまり、何?
私は無意識の状態で、クリティカルを乱発しながらオーバーキル&ワンキルを、自分よりも弱い敵相手に繰り返してたって事?
敵が死にたくねぇと必死にガード体勢を取っても、それを無視して無慈悲かつ理不尽な刃を振り下ろして即死させていたと?
しかも【ブレイブラッシュ】がきっちりLVアップしている事から鑑みて、その殺傷行為に臨む際、私は全速力で獲物に突進していただろうと予想できる。
獲物を見つける度に猛烈突進して惨殺すると言う流れを、時間を忘れるくらい興奮しながら朝まで延々とループしていた……?
……現実にいたら完全にアウトな奴じゃあないですか……
まさか【マッドネス】を極める事でこんな恐ろしい副作用が出るなんて……流石は人類未知の体感型BLO……
……なんだろう。
なんか「このままだと、私、どうなっちゃうんだろう(怯え)」と言う感情と同時に「このままだと、私、どうなっちゃうんだろう……あはァ(ゾクソク感)」みたいな感情がある。
こ、これも【マッドネス】の副作用……?
や、ヤバい。
これはアレだ、早くスキル消去アイテム【バニシングオーブ】を入手して【マッドネス】を消さないと、【開けてはいけない扉】がフルオープンしてしまう気がする。
残念ながら【バーサーカー】獲得プロジェクトは中止だ。
名実ともに狂戦士になってしまったりしたら、洒落になってない。
戦闘だけが悦び。返り血の温もりだけが快楽。
寝ても覚めても肉裂き骨砕く感触が両の手から抜けない。
戦場の臭い空気でないと肺が満足に膨らまず息苦しさが抜けない。
そんなの素敵……じゃあなくて!!
そんなの御免だから……!!
私は純粋にBLOを楽しみたい。
擬似的な殺戮行為を嗜むなんて、BLOの楽しみ方じゃあ……
…………待って。
私が今やっているのは、【ただのBLO】じゃあないよね?
未知なる体感型BLO……未来SF代名詞の一つ、VRゲームの亜種。
VRゲームの醍醐味・本懐の一つは【現実では絶対に体験できない事をリアル感覚で疑似体験できる】事では?
チェーンソーを振り回して化物を心ゆくまで八つ裂きミンチにできる。
そんなの、絶対に現実では体験できない事。
……つまり、このBLOの楽しみ方として……魔物と魔王をひたすら蹂躙する事に快楽を見出すのは、アリ? 合法?
…………そうよ、そうよね。そうだよね。
現実じゃあできない事を楽しむ。それがゲーム。
みんな言うじゃん。「現実とゲームは混同すべきではない」って。
ゲーム内では、現実での常識は捨てるべき。
ゲーム内では、ゲーム内の常識にだけ従えば良い。
そしてBLO世界観に置いて、魔物や魔王を大量に討伐するのは、光のオーブに選ばれた戦士に取っては半ば義務の様なモノ。
メタ的に考えても、元々、BLOはスキルをガン積みして雑魚狩り無双するのを楽しむ側面を持ったフィールドやスポット、クエストが多く存在するんだ。
これは、その延長線にあるとも言えるんじゃあないかな?
無双を楽しむにあたって、実際に肉裂き骨砕く感触と返り血の温度が追加されただけじゃん。
……何を遠慮する必要があるんだろう。
私は、何も間違っていない……むしろ、優秀、賞賛されるべき類なのではないか。
現実世界では、たまにふと妄想してみる事はあっても、絶対に手を出してはいけない領域だと自戒してきた事。
現実世界では、決して開けてはいけないと、堅く守り閉ざしていた【開けてはいけない扉】。
この世界では、【開けていい扉】なんだ。
「ッ……」
なんだろう、いきなり背筋をゾクゾク感に襲われ、思わずビクンと跳ねてしまった。
決して、不快な感触じゃあなかった。
脊髄を直接かつ優しく舐め上げられた様な、「ぁひゃぁあッ…!?」ってなる感じのゾクゾク感。
要するに、快感。
ぷつんッ……と言う、小さな音が聞こえた、気がした。
…………ああ、ダメだこれ。
もうダメな感じだ。すごくダメ。ほんとダメ。
今、私、多分めちゃくちゃ良い笑顔してる。
口角が、耳に届くまで裂けてしまいそうだ。
おそらく、さっき一瞬聞こえた気がした小さな音が、漫画とかでよく言う【何かが切れる音】。
そして現在進行形で聞こえるこの胸の高鳴りがきっと、今まで必死に守ってきた【扉】が崩壊していく音の代弁。扉の悲鳴。
その断末魔と共に、私はある【声】を聞いた。
『ヴラド・レイサーメルがアクティブスキル【バーサーカーLV一】を習得』
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