食卓の騎士団~竜の姫君に珍味を捧げよ~
五品目【ギガミノタウロスの手ごねハンバーグ】
マルイデスク騎士団に所属する騎士は、皆、思い思い、自身のパーソナルカラーである鎧を纏う。
おかげで月に一度の団員集会は、色取り取りの宝石見本市めいた光景になる。
――だが、そんなマルイデスク騎士団にて唯一【鎧を着用しない騎士】がいる。
その特異な騎士は今、王宮の中庭にて着々と【探索】の準備を進めていた。
黒寄りの暗い灰髪……その前髪を天然由来の整髪料で高く上げ、まるで棒パンの様な形状に仕上げたポンパドゥール髪。
そのトンガリに意味はあるの? そう問いただしたくなる程に両端がとんがった黒いサングラス。
口角を上げれば獰猛なサメを思わせるギザギザの歯が覗く。
地肌の上から獣皮で仕立てた黒いロングジャケットを纏い、ズボンも同様の素材でダボダボゆったりな感じに仕立てた一足。
無軌道な若者・行状不良な輩を思わせる格好だが、彼は決してヤンキーではない。
マルイデスク騎士団、【迫激】のヴォルス。
見た目は粗暴な感じの仕上がりだが、そのハートはマジ爆熱人情。騎士団の若い衆には【兄貴】と呼ばれて慕われている。
そして、ガラハードやガヴェイン達と同様【七色の神亀】の一亀を継承した選ばれし騎士でもある。
ヴォルスが継承したのは、その名も【鉄亀の単車】。
今、彼が黙々と整備している鋼色の魔導走行式二輪車(複座付き)の事である。
昨今ではすっかり馬車に並ぶ普及率を誇る様になった魔導走行式二輪車の元祖にして頂点。言わばバイクオブバイクだ。
各所のライトランプが全て亀甲型なのと、後部座席に搭載された半馬身ほどのサイズがある巨大な鉄匣【破羅龍嵐音響弾集束房射出砲台】が特徴的だ。表には見えないだけで、実はこのポッド以外にも様々な内蔵武装も備わっている。
「ふん、今日もバリバリにピカイチだなぁ、【愛富龍】よぉ」
愛富龍とは、ヴォルスが【鉄亀の単車】に付けている愛称である。
元々は【鋼鉄の翼】だったが、長くて面倒だったので略してワオッてした結果こうなった。
巷で有名な金融業の者達とは何の関係も無い。
「これから行くのは【ダンジョン】……バリ凄まじくインキくせぇ場所らしいが……今日もバリピカイチなテメェなら余裕そぉだな」
よっしゃァメンテ終わりィ!! と、ヴォルスが大袈裟派手にジャケットを翻しながら立ち上がる。
地肌に直接羽織っているため、そんな派手に揺らすと乳首がチラリと見……いやん。
「俺の気合ヘアも湿気でヘコたれねぇ様にいつもの三倍の整髪料をバリぶっこんだ……つまりどう言う事かわかるか? 愛富龍。俺の愛車ならわかるよなぁ……そう、バリッバリに準備バッチシって事だァァァ!!」
「わぁ、ヴォル兄、いっつも通り元気だね!!」
そこへ現れたのは【飛炎】のパルシーバル。即ちパル子だ。
童顔には不似合いなゴツい紅蓮の鎧と、背に負った自身の倍近い丈のある十字槍【赤亀の槍】が特徴的。
実に女児らしい見た目をしているし性器の形状も女性型、最近は胸の張りも気になってきたりしているが、立派な男子である。
「おぉうパル子。テメェもいつも通りバリ良い笑顔じゃあねぇか。体調良いのか? 体温は何度だ?」
「三六度六分」
「平熱ッ。問題ねぇコンディションだな。やるじゃあねぇか。テメェみてぇなバリバリの健康優良児には飴玉をくれてやるぜ。喉に優しいハチミツ入りのなぁ」
「健康でも風邪予防は欠かさずにって事だね!!」
「その通りだ。この世に【風邪を引かねぇ人間】なんていねぇ。風邪を引かずに健やか和やかできんのは【風邪を引かねぇ様に努力している人間】だけだ。つぅ訳で俺もバリバリ舐める」
今、二人並んでハチミツ飴を口の中で転がしているこの凸凹コンビこそが、今回のダンジョン探索者。
ガラハードとガヴェインは現在、療養休暇中である。
「にしてもヴォル兄、相変わらずおしゃれさ番長さんだけど軽装だね」
「こいつがバリお気になんでな。最高のタイマンを張ってくれた獣の魂が宿った革の一着……バリバリ一張羅って奴だ」
「メモリアルな一着なんだね!!」
「おうよ!! こいつを着た俺の気合にゃあ、鎧なんて不要だァァ!! こいつを着てると思うぜ……むしろ鎧なんぞブクブク着込んだ所で何が守れんだ、ってなぁ」
普通に生命だろう。
「……ん? ところであのバリ気合の入ったマブいライオン、今日はいねぇのか?」
「ディンドリャンは昨日ね、今年分の十種予防接種を受けたばっかりだから。しばらく激しい運動は禁止なんだ。だから今回はボクだけだよ!! よろしくね、ヴォル兄ィ!!」
「そう言う事情か。おう、バリバリよろしくしてやるぜ」
ヴォルスは飴玉をゴリゴリと噛み砕いて飲み下すと、親指で愛車を指差し、
「んじゃあ、手始めに愛富龍の複座に乗せてやんよ。ダンジョンまでバリバリっとトばすぜ」
「わーいッ!! ボク愛富龍の複座大好き!! ディンドリャンの背中の次に好き!!」
「ハッ、言うじゃあねぇか。確かにあいつの毛並みはふっかふかだからなぁ……俺も好きだぁ、あの背中……だぁが……そのランキング、今日この時を以てバリッと塗り替えてやると前もって宣言するぜ」
「え……? ッ! ま、まさか……こ、このシートは……!? ヴォル兄!! このシートはッ!!」
「そうだ……ついに俺は買ったのさ!! 複座に敷く用の【魔導ビーズクッションシート】をなァ!!」
◆
と言う訳で、ダンジョン。
普段は薄緑色のコケ光だけが頼りの薄暗い洞窟道を、眩いハイビームライトが斬り裂く。
「ハッ。ここがダンジョンかよ。聞きしに勝るバリバリジメジメシットリ感じゃあねぇの!!」
既に汗だくなヴォルスのゴキゲンそうな叫びに続き、まるで大型獣の咆哮の様な……具体的に文字にすると「ドゥルンドゥルンヴォオオオオオオオオッ!!」的な轟音が響き渡る。
ヴォルスとパル子が乗る大型魔導走行式二輪車、【鉄亀の単車】こと愛富龍の雄叫びである。
流石は【七色の神亀】と言った所か。
鉱石やコケが散乱し、凸凹だらけのダンジョン洞窟道も、整備された道路と差異の無い様子で走行している。
「ヴォル兄、すごいね……!! この湿気でも全然髪の毛が……ポンパドゥールがヘタレてない……!!」
「バッチシにバリ対策してきたからなぁ……このポンパは俺のプライドポリシー……怠る訳がねぇだろう?」
「ほぁぁ……!! すごいなぁー……!! ボクもポンパしちゃおっかな!? ヴォル兄みてると【大人の髪型】って感じで格好良いし!!」
汗で額に張り付く朱色の前髪を払いながら、パル子がそんな血迷った発言をする。
「やめとけやめとけ。言う通り、こいつぁ大人のヘアスタイルだ。テメェにゃあ【まだ】似合わねぇよ。背伸びしたくなる気持ちはバリバリわかるが、ちゃあんと地に足付けて歩かねぇとスッ転んじまうぜ」
「うーん……あとどれくらいしたら似合う様になるかな!?」
「そぉさなぁ……とりあえず、まず間違いなく【ニンジンを食える様になる】のが先だろぉな」
「うッ……険しい道のりだね……」
「なぁに。テメェは幸いニンジンみてぇな色の髪の毛してんだ。すぐにバリバリっと食える様になるさ」
ヴォルスがとてもとても説得力ある理屈でパル子を励ましていると……
(――しゅき)
「……ん? なんだぁ?」
「………………声? でもなんか変な感じだったよ? こう……」
「ああ、鼓膜じゃあねぇ……脳を揺らされた気分だ……!!」
警戒し、ヴォルスは一旦ブレーキを作動させて愛富龍を停める。
「もしかして……今のが、ガラくんやカフェイン卿が言ってた……」
(――だいしゅき――)
愛富龍のハイビームが照らす闇の向こうから、【奴ら】は洪水の様に溢れ出してきた。
紫色のゲルで構築された、ひとつひとつが成人の頭くらいの大きさのプルプル球体。
――だいしゅきスライムだ。
闇から雪崩る様に現れただいしゅきスライムの大群は、土煙を上げながら、真っ直ぐにヴォルス達の方へ、来る!!
明らかなるロック・オンッ!!
ヴォルスとパル子は既に狙われている!!
(だいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅき)
「ひゃわあ……た、確かにこれは強烈な声だよぉ……!!」
だいしゅき攻撃初体験なパル子、余りのやかましさに耳をついつい覆うが、意味など無い。
だいしゅきスライムの声は念話だ。その声は鼓膜を無視して直接脳へと叩き込まれる。
補足されれば、その声からは逃げられない。
流石のパル子も、笑顔が消えかけた……その時。
「……足りねぇ」
(だいしゅきだいしゅきだいしゅきだいしゅき)
「そんなチンケな言葉の羅列じゃあ……ハートに響かねぇぞゴルァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!」
「ほわぁ!?」
(――!?)
人間の声量とは思えないヴォルスの叫びが、洞窟内に乱反響。
その余りに強烈な叫びに、隣の複座に座るパル子が驚愕でひっくり返り、だいしゅきスライム達が思わず進行と念話を止めてしまう。
「いいかァ、スライム共ォォォ!! 言葉ってのはなぁ……特に愛の言葉って奴はなぁ……鼓膜や脳に響かせるだけじゃあ足んねぇんだよォ!! テメェらその辺がまぁったくわかっていやがらねぇッ!!」
(!? !? !?)
「バリバリとよく聞けェ!!」
愛富龍のシートの上に立ち上がり、ハンドルを踏みつけて、ヴォルスが更に声を張り上げるッ。
「大好きだだいしゅきだと騒ぎ立てるだけなら毛虫にもできらぁ!! テメェら腐っても上級モンスターじゃあねぇのかァ!? アァ!? んなもんで満足しちまって良いのかよ!? なァァァ!? もっとバリれやァァァ!!」
(――!)
「テメェらが伝えたいのはなんだ? ただの【音】じゃあねぇだろ? そうじゃあねぇだろ!? そうじゃあねぇはずだぁ!! 【サウンド】じゃねぇ【メッセージ】ッ!! 相手のハートに届けたいたぁ思わねぇのかァァァ!?」
(――メッ――セージ――?)
「そぉだ!! メッセージ……愛のメッセェェェジッ!!」
ヴォルスが、その両手を使って胸の前にハートマークを作る。
「テメェらの念話は本当に獲物を狩る為だけの道具だと思ってんのか!? だったら念話である必要がねぇだろぉがタコスケェ!! 狩りするだけなら御親戚のドクスライムよろしく毒魔法でも使えりゃあバリバリに事足りるはずだ!! だぁがテメェらは念話が使える様に進化したぁ!! この事に意味がねぇと本気で思うか!?」
(――?? ――!? ――!! ――?!)
だいしゅきスライムの大軍勢にヴォルスの声が浸透していく様に、どんどんどんどんとザワめきが伝播していく。
「す、すごい……スライムを声だけで制してる……!」
パル子は感心する。
これが、【鉄亀の単車】の加護か、と。
確かに、ヴォルス自前の声はよく通り、かなりの気合が込められている。
だが、それだけでは本来、スライムやモンスターの思考やハートに届くはずがないのだ。
なにせ、モンスターにはまず、人語が通じないのだから。
しかし、ヴォルスには【鉄亀の単車】の加護がある。
それは【加速】と【誠実】。
アクセルを踏み込めば踏み込んだだけ【鉄亀の単車】が際限無く速く走る【加速】。
そして、乗り手に【絶対に嘘を吐けなくなる】と言う制約を課す代わりに、【発する言葉の重みが半端無く増す】、【誠実】。
今、だいしゅきスライム達は人語を理解できてはいない。
だが、ヴォルスの【重みが加算された半端なく魂に響く言葉】を浴びて、なんとなくそのニュアンスを理解しつつあるのである。
加護によって強化された彼の言葉が持つ【激しい迫力】には、モンスターの心すら揺り動かす力が付随する!!
ヴォルスが【迫激】の異名を取った所以!!
端的簡易にわかりやすく言うならば……「例え知らぬ異国の言葉で紡がれた唄でも、名唄ならば雰囲気だけでなんとなく心揺さぶられる」……そんな感覚に陥るのだ。
そして今、だいしゅきスライム達はそんな感覚に陥っているのだッ!!
「テメェらは他のスライムとは違う……本当の愛で、相手のハートを震わすために進化した、バリッバリの【愛のスライム】なんだよォォォーーーッ!!」
(――! ――!! ――!!!!)
「つまり……どう言う事かわかるか? 【愛の言葉】を理解してねぇテメェらは【半端物】……至極バリバリ【半端物】だ」
(…………………………)
「よぉぉぉく考えて喧嘩を売りな。……この俺に、半端で挑んで勝てると思うか?」
(!!!!!)
「俺のハートにミリも届かねぇそのしょっぺぇただのサウンドで……この俺を捩じ伏せられると、バリ本気で思ってんのかって……聞いてんだァァァーーーー!! 悪い事は言わねぇぞ!! バリバリ出直して来いやァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!」
(……………………だいしゅき……………………)
「あ、スライム達が退いていく……」
ヴォルスの言葉に納得した様に、ぞろぞろと、だいしゅきスライム達が元来た方向へと引き返していく。
「ハッ。まだ半端物だが、馬鹿じゃあねぇらしい」
それを満足気に……いや、まるで大敗を喫した少年野球団の背中を「テメェらにゃあ伸び代がある、諦めんなよ」と見守るコーチの様な優しい目で、ヴォルスが見送っている。
「や、やっぱヴォル兄はすごいね……声だけで追い返しちゃった……遭遇したモンスターを倒さなくて済むなんて初めてだよ、ボク……」
「件のドラゴン娘は、だいしゅきスライムは食わねぇってもぉハッキリしてんだろ。なら、お互いにこれがバリベストな決着だ。俺達は余計な労力を使わねぇ、連中は余計な犠牲を払わねぇ……そんで」
あわよくば、
「ただのモンスターで終わらねぇ……そんな自分達の可能性に、バリバリっと気付いてくれりゃあ、万々歳だ」
「ヴォル兄はスライムにも優しいんだね」
「あん? 別に、俺は優しくなんてねぇさ。殺さなきゃあなんねぇ相手はキッチリ殺すしな。……ただ、余計な事と中途半端がバリ嫌いってだけだ」
ヴォルスがシートに座り直し、ハンドルを握る。
「さ、仕切り直しと行こうぜ。バリバリ探索続行……」
「ヴモォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ッ!? なんだ、今のバリバリしてやがる咆哮は……ッ、不味い!!」
「え、何、きゃあ!?」
危険を察知したヴォルスが、愛富龍を緊急発進させる。
その直後、数瞬前まで愛富龍が停車していた地点、その床が、爆ぜる様に砕け散った。
「えぇ!? いきなりえぇ!?」
「おうおうおうッ、なんだなんだァ!? バリバリしてんなァ!?」
ヴォルスは持ち前の走行テクで愛富龍の車体を捻らせ、車向を一八〇度ぐるりと切り返す。
そして、床が爆ぜた場所……立ち込める土煙のカーテンの奥に蠢く巨大な影を、その目で捉えた。
「ハッ……成程、下の階層から天井をブチ抜いてご登場って訳かよ……!! バリ派手にかましてくれやがる」
「うわぁ……すっごいムキムキなのがいる……!!」
パル子の感想通り、そこにいたのは至極筋骨隆々な巨獣。
鼻先から爪先まで焦げ茶色の剛毛皮で覆われたその巨躯は、ヴォルスがパル子を肩車したって到底及ばない。
肉の厚みも相当。ヴォルスが二人並んだってその厚みには太刀打ちできない。
「ヴモモモ……」
ヴォルス達を見下ろすギョロギョロ目玉。そのすぐ上、人間ならば眉がある位置から剛毛皮を穿って生えだしているのは、ツルハシを思わせる黒鉄の剛角。
「間違いねぇ……ミノタウロス。それもおそらくバリバリの強烈種……【ギガミノタウロス】だ」
■ギガミノタウロス■
ミノタウロス種の上級モンスター。
通常のミノタウロスより強烈に発達した筋肉を持っている。
確かな筋肉密度がもたらす攻撃力と防御力はハイパー級。
肉が堅過ぎて食用には全く向いていないが、よく繊維を砕き尽くしてぐっちゃぐちゃの挽肉にしてからなら食べれない事もない。
ただ、挽肉にするにもかなりの威力を出せる武器や魔法が必要になるので、そこまでしてでも食べたいと言う情熱があればの話だが。
必殺技は全力パンチ【ギガ牛パンチ】。
「ヴモォォオオオオオッ!!」
「ハッ!! わざわざバリ派手に俺に会いに来てくれたってかッ!! こいつァバリバリと感じるぜ、【運命】をよォ!!」
愛富龍のエンジンを一際蒸かし、ヴォルスが口角をあげる。
「それにあの気合の入ったバリ咆哮にバリ筋肉ッ……どこまでもバリってやがる……!! バリ気に入った、そして決めたァッ!! 今日ッ!! 俺が持ち帰るのァ、テメェの御肉だ、ギガミノタウロスゥ!! 俺とバリッバリの勝負をしやがれィ!!」
「食べ応えありそうだし、ドラゴンのお姫様も気に入るかもだね!」
「おォうよ!! あいつは俺がタイマンを張る!! テメェは手出し無用で頼むぜ!! 大人しく複座で座って見てろや、パル子ォ!!」
「がってん!!」
ヴォルスがアクセルペダルを短く三連続で踏み込む。
すると、愛富龍の後部、ミサイルポッドからガギンッと言う怪音が響いた。
怪音から数瞬置いてスッポーンと飛び出したのは、愛富龍や他の神亀と同じく【亀跡の金属】でできた金属バット。
それは【鉄亀の単車】に搭載されたオプション兵装のひとつ【葬武乱伐翔】である。
「まァずはバリっとカマすぜ【武衣刕威・梵覇唖】ァァァをよォォォーーー!!」
「いえーい!! いっちゃえヴォル兄ィ!!」
「言われずともに決まってんだろォォォがァァァーーーッ!!」
愛富龍の前輪を高々と跳ね上げさせたまま、つまりウィリー走行状態で、ヴォルス達はギガミノタウロスへ突っ込んでいく。
「特攻ファイアァァァ!!」
「ヴルモモモォォォオオオオオオオ!!」
高速回転を続けていた愛富龍の前輪と、ギガミノタウロスのギガ牛パンチが衝突する。
火花を通り越して紫電が散る程の激突ッ。
ギガミノタウロス……流石は強烈種と言った所かッ。
伝説の神亀である愛富龍を正面から相手にしながらも、全く引けを取らない様相ッ!!
前輪と拳のせめぎ合いが、バッチバッチバッチと紫電を撒き散らすッ!!
「おうおうおうおうおうおう!! 俺と愛富龍のブッコミと互角たァ、バリバリ期待通りで嬉しくなんぞテメェッ!!」
「ヴヴゥゥゥ……!!」
「だがァ、愛富龍のバリ全力はこんなもんじゃあねぇと知れェェェーーーッ!!」
「ヴゥ!?」
ヴォルスが、半ば蹴りつける様な勢いでアクセルペダルを踏む。
ブバァン!! と爆裂する様なエンジン音と言う唸りを上げ、愛富龍の出力が上昇。
すると一秒と待たず、ギガミノタウロスの拳は愛富龍のパワーアップに耐え切れなくなり、グシャグシャに砕け散ってしまったッ!!
「ヴルモァァアアアッ!? ギィガアアアア!!」
「!!」
拳を砕かれて多少怯むかと思いきやッ!!
ギガミノタウロスはなんと、その丸太の様にぶっとい脚を振り上げて、蹴りを放ち、ヴォルスを狙ってきたッ!!
「胆力バリってんなァおい!!」
肉を散らされ骨を砕かれても、毛一本分も退いたりせずに攻撃を続ける。
目を見張る胆力、今まで戦った事のあるどのミノタウロスよりも雄々しく気高いッ!!
ヴォルスは正直、惚れッ惚れしたッ!!
それと同時に強く思ったッ!!
こいつは最高に気に入ったッ!!
もうこいつ以外を持ち帰るなんて有り得ねぇッ!!
そう思ったァァァーーーッ!!
「うるァァァ!!」
ギガミノタウロスの蹴りを、ヴォルスは葬武乱伐翔で迎え打つ。
葬武乱伐翔は愛富龍の出力にリンクして、威力が増す。
そこにヴォルスの腕力も加わるので、その破壊力は絶大ッ!!
葬武乱伐翔を下方一直線振り下ろした一閃は、まるでクラッカーを叩き割る様な気軽さで、ギガミノタウロスの脚をへし折り、砕き飛ばした。
「ヴォッ、モ、グ……!!」
「うるァうらうらうらうらうらうらうらうらうらァァァーーーッ!!」
ヴォルスが葬武乱伐翔を乱打ッ!!
そのラッシュスピードはまさしく疾風怒濤ッ!! さながら鋼色の嵐ッ!!
「ヴォ、モッ、ギ、ヴォ、ァ、バァァアアアアアーーーッ!!」
ギガミノタウロスの巨体が、一打ごとに大きく変形していく。
一打一打が普通なら一撃必殺級の一撃なのだ。それがラッシュ。
いくら頑強タフネスの塊の様なギガミノタウロスと言えど、これは堪らんッ!!
「バリバリにトドメだァァァッ!! その前に誓うぜ!!」
「ヴモモ!?」
「テメェの御肉は、繊維一本に至るまで無駄にはしねぇとォォォーーーッ!!」
「ヴ……モォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「激しく……バリバリと眠れェェェーーーッ!!」
――その後、ギガミノタウロスの肉もドラコ姫の口には合わなかったので、ヴォルスが全部食べた。
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