悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R87,恵方巻きってなんか卑猥くない?(エロくない?)



「知っていますか? ガイア氏。遥か東の【東洋諸島連合国家群】、通称【極東島連ぐらん・いぃすと】では極太の【恵方巻】を【男性器】に見立てた上で風俗嬢に頬張らせて楽しむと言う非常にユーモアに富んだ文化があるそうですよ」
「ああ、知らなかったよ。ありがとな、カゲヌイ。そしてこの野郎」


 ガイア宅のボロアパートにて。
 突如天井から現れた真のくノ一・カゲヌイのおかげで一つ賢くなったガイアは、今まさに頬張ろうとしていた恵方巻を静かに皿に戻した。


「で、急にどうしたんだよ。わざわざウチに来るなんて。たまには文明人的な事をしようと珍しく恵方巻なんぞ買ってみた俺への無意味な嫌がらせのためだけに来たのか?」
「まぁ、ぶっちゃけそれだけのためですね」


 ああ、このくノ一はそう言う奴だ。


「と言うか、文明人を謳うのであれば、売れ残りの値引き品ではなく、節分当日に恵方巻を買ってくるべきだったのでは?」
「そこまでの情熱と金銭的余裕は無ぇ。苦学生ナめんな」


 大体、前提が違う。
 ガイアが「たまにはそう言うのも良いか」と恵方巻を手に取る気分に至ったのは、恵方巻のパッケに貼り付けられて燦然と輝いていた半額シールを見たからだ。


 経済的に豊かと言う訳でもないのに、誰が好き好んでフルプライスの恵方巻なんぞと言うコスパゴミ虫な商品を買うものか。
 ※誰のとは言いませんが個人の感想です。


「あ、そうそう。ちなみに恵方巻の起源も極東島連ぐらん・いぃすとであり、諸説ある様です。例えば一説では、元々は船乗り達が船旅の安全祈願のために始めた儀式にルーツがあり、太巻を切らずに丸かぶりするのは【陸に残す者達との『縁』が『切れる』のを嫌ったから】だとか」
「へぇー……そらまた割とロマンチックと言うか、良い感じの話だな」


 素敵な文化じゃあないか。


「それが今では、太巻をペ●スに見立てて女性に丸かぶりさせると言う面白おかしくも如何わしい遊びが一部で流行っていると。嘆かわしい。確かに太くて黒い棒状のモノと言う点ではチ●ポに非常に酷似していると言えますが。最早半ばチ●コ…デミおチン●ンと言っても過言ではありませんが」
「そろそろ勢い付けて殴るぞ」


 わざわざ恵方巻の起源の話す事で【恵方巻を切って食べるのは縁起が悪い】と言うイメージを与え、その上で【切ってない状態の恵方巻】=【男性器に非常に酷似している】と言う偏見を執拗に植え付けようとする悪趣味行為。
 もうガイアは、目の前の恵方巻をどう処理すれば良いかわからない。


 ……時期的に、もうすぐ恵方巻を食べる予定の方も多いだろうに、クレームが着たらどうしてくれる。


「ちなみに私は風俗嬢は風俗嬢でもS嬢専門なので咥えさせたり捩じ込んだりする側です」
「そう言やそんなバイトしてたなお前……って言うか、え? もしかして何? 今回ひたすらお前が恵方巻と男性器について語る回なの? すごく嫌なんだけどそれ。やるならせめて他所でやってくれ」
「私はやぶさかではありません。我、常在性のワンダーランド。何時如何なる状況でもBPOの神経を逆撫でしてやりませう」
「俺は嫌だねつってんだよ」
「おー恐い恐い。なんたるワガママボーイ。ガイア氏、成人してそのワガママ具合はあれですよ、コンビニでおでんツンツンとかしてSNS炎上しないか不安になる精神レベル」
「ここ、俺が借りてる部屋なんだが?」
「あらあらもー。ガイア氏が屁理屈人間まっしぐら。ママン悲し」
「正当な理屈だと確信してるが? そして俺にはお前の股座から生まれた記憶は無ぇぞ」
「ああ言えばこう言う」
「それが会話ってもんだ」
「ほほう。ごもっともです。その見事な返しに免じてご要望通り【恵方巻と男性器】の話は切り上げてあげませう。では、続いては【恵方巻とブラックバイトと販売ノルマ】なんて話題はどうでせう?」
「その辺はYah●o!ニュース辺りに任せとけ。つぅかマジでお前、時事ネタぶち込みまくんのやめろ。一応ファンタジーだぞこれ。TPO考えろ」
「まったく……あれも嫌これも嫌……自分の知らない所で勝手にやれと……まるで社会まわりに何の興味も無い無気力人間ッ!! ガイア氏は一体いつからそんな人間に!? ダメ、そんなのダメよ! もっと熱くなれよ! 高校生にもなって勇者に憧れ、自称勇者なんて痛々しい一団の一員としてドラゴンと戦ったりしてたあの頃の気持ちを思い出すのです!!」
「できれば思い出させて欲しくないんだが」


 まぁ、そう言うガイアの気持ちも汲んだ上でそう言う事ばっかり言う奴である。


「と言うか、先程からつれない対応ですねぇ。ガイア氏。もしやまさかそんな馬鹿なって感じですが、私と戯れる気ゼロなのでせうか?」
「よくわかったな。流石は真の忍者」
「ふむふむ……して、ガイア氏。ちなみになのですが、こちらにあります【写真】は【テレサ氏が無垢な笑顔で恵方巻にかぶりつく瞬間を切り取った一枚】です。はい注目」


 そう言って、カゲヌイは突然自らの谷間に手を突っ込み、一枚の写真を取り出した。
 そこに写っていたのは、宣言通りの像。何の悩みも無さそうな実に羨ましい笑顔で恵方巻を頬張る阿呆姫テレサ


 ……先程のカゲヌイの弁のせいで、何だかイケない一枚に見えてしまう。


「追加情報ですが、これは商会でガイア氏に支給されているノートPCにデータを移してからプリントアウトした一枚なので、【ガイア氏のノートPCにこの画像が保存され、そこから出力された痕跡】はばっちり」
「……何が言いたい?」
「でれででん。ここで問題です。これを【ガイア氏の私物】として第一王子辺りに渡してみたら、どうなるでせうか?」
「よしわかった。どんな話題でも付き合ってやるから、その危険物を今すぐ抹消しろ」


 あの王子の事だ。何の裏取りもせずにガイアに暗殺者を差し向けるに決まっている。
 仮に、奇跡的に裏取りをしてくれたとしても、先程の口ぶりからしてこのくノ一が偽装工作を首尾しくじるとは思えない。


「物分りが良くて嬉しい至極。では、早速その恵方巻をしゃぶりながら『ふぇぇ…こんなにおっきいの(お口に)入らないよう』と上目使いで言ってもらいませうか。それが嫌ならこの写真はひらりひらり舞い遊ぶ様に姿を見せた胡蝶の如く第一王子の執務室へ」
社会的死デッドエンドor物理的死デッドエンド!? 悪魔かテメェ!?」
「真の忍者です☆ あ、それと今年の恵方はみずのえ、北北西ですが……正確には北北西よりやや右、北寄りですので、限りなく北な北北西、即ちデミ北北北ほくほくほくです。作法正しくデミ北北北に向かって媚びる様にふぇぇするのです」
「……待て。作法うんぬん言い出したら、恵方巻って無言で静かに食うもんだろ?」
「この世界はファンタジーなのでその辺のルールは存在しません」
「汚ぇぞテメェッ!!」
「真の忍者なので☆」


 このあと滅茶苦茶ふぇぇした。

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