悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R67,爆ぜろリア充(爆ぜろ)《後編》

「にしても、何故この場所なんでしょうか」


 夜の大通りを散策しながら、シェリーはふと疑問に感じた事を口にしてみる。


「件の『一つ目暴露マン』なる不審者は、どう考えても『カップルを妬んで、その仲を引き裂こう』…と言うクチですよね?」
「まぁ、そうだろうな」


 そうとしか思えない犯行だし、実害も多く出ているらしい。
 確実に、それを目的としているだろう。


「だったら、何故に周囲に商店街くらいしか無い場所で活動しているんでしょうか?」


 もっと、雰囲気のある公園とか展望台とか、カップルの巣窟的な所を狙うのが筋では無いではないか。とシェリーは思う。


「まぁ、あんまり人気が多くてもってのもあるんだろうが……」


 ガイアはスマホを取り出し、ある画面を開いてシェリーに見せる。
 煌々と光る画面に映し出されているのは、この一帯のマップ。


「多分、犯人は『ある程度の段階』に進んだカップルを狙ってんだと思う」
「?」
「調べてみたら、一つ目暴露マンの出現ポイントは商店街周辺の道でも、この方向の路地や通りに集中してたんだ」


 ガイアが指差すのは、オーロラ商店街とは逆側に抜けていく道。
 ガイアがここに来る前にツイッター等で目撃情報をパッと調べた所、一つ目暴露マンの出現ポイントはこの方向の道に固まっていた。


「この方向に進んで行くと……」


 ガイアが、ゆっくりとマップをスクロールしていく。
 すると、


「……成程」


 その方向に進むと、そう遠くない場所に、ちょっと特別な用途のホテルが何件か。
 密集、と言う程では無いがそこそこの数があり、その向こうには繁華街。
 人が集まる賑やかな場所から少しだけ外れた場所……まぁ、妥当な立地だ。


 そんな場所に向かって行くカップル…となると、その目的は大抵お察しだろう。


 一つ目暴露マンは、デートを終え、行き着く所に行き着こうとしてるだろうカップルを集中的に狙っている訳だ。


 繁華街側で張らないのは、先程ガイアが推測した通り、おそらくは人目の問題だろう。


「これは邪魔したくもなりますね」
「お前な……」


 目がマジだ。


「あなたは邪魔したいと思わないんですか?」
「いや、普通に思わねぇよ。大体、人の恋路なんて邪魔してどうすんだ……」


 それで自分に何かしらチャンスが巡ってくると言うなら、まだ理解できなくは無い話だが……大抵の場合はそうでも無いだろう。


「……前々から疑問だったのですが……ガイア・ジンジャーバルト、あなたは恋人もいないのに、何故そうもリア充に肯定的なんですか? 馬鹿なんですか?」
「え? 何? この場合は俺がおかしいの?」
「はい」


 何の躊躇いも無く言い切られてしまった。


 納得が行かねぇ、とガイアが不満気に口をへの字に曲げた、その時、


「サッ、トリィィィィィィィン!」
「ッ!?」


 突如響いた奇声。
 共に、黒い影がガイア達の前方に舞い降りた。


 おそらく電柱の頂辺にでも立っていたのだろうその人物の顔は白基調のマスクで覆われ、フード付きの黒いロングコートで足元まで隠している。
 マスクには大きく、一つ目の装飾が刻まれていた。


「ヒヒヒ! リア充はっけーんッ!」


 マスクにボイスチェンジャー機能が付いているらしく、その声はやたら高い機械音風に加工され、老若男女の区別が付かない。


「出た……」


 うわぁ、とガイアは若干引く。
 外見と声とテンション、どれも予想以上の不審者感だ。


「……あなたが例の一つ目暴露マンですか。心中お察しします」
「って、おい」
「ヒヒ? なんかよくわからんけど、とーりーあーえーずー……」


 一つ目は両手の人差し指同士の指先と親指同士の指先をそれぞれ合わせ、大きめの円を作り出す。
 それを、マスクの前に持ってくると、


「見えたッ! よく聞けそこの女!」
「はぁ、私でしょうか」
「あぁそうだ! 良いか、お前の隣りにいるその男は……昔、重度のシスコンを拗らせ、姉モノのAVに傾倒してた時期があるらしいゾ!」
「………………」
「…………知ってますが」
「えぇッ!? え、あ、じゃあ……おい、男の方!」
「俺か?」
「よく聞け! お前の隣りにいるその女は……高校時代、半ばお前のストーカーの様な真似をしていたゾ!」
「………………」
「…………知ってるけど」
「えぇッ!? えぇぇぇぇぇッ!?」


 ガイアが昔、気の迷いからお姉ちゃん大好き期に突入し、姉モノのAVに傾倒していた事。
 シェリーが昔、ガイアに声を掛けたいけどその勇気とタイミングが見つからずに半ばストーカー紛いな状態だった事。


 両方とも、かつて『絶対悪の根城アーリマハル』にてガイアとシェリーが繰り広げた暴露大会(強制)でぶっちゃけられた事実である。


 お互いに知ってるし、知られてる事も知ってる事だ。


「にしても、話にゃ聞いてたが……読心術か。カゲヌイみたいな真似しやがって」
「読心術? ヒヒヒ! そんな高等なモンじゃないやい! 私のは未熟者の『サトリ』! ただ『人の失態や後ろ暗い過去が見える』だけだい!」
「威張る事ではありませんね……まぁ、どちらにせよ、私達の取り合わせの前では無力も良い所ですが」


 と言う訳で、早速二人は目的を果たすための体勢に入る。


 ガイアは、テレサから絶賛借りパク中の魔法の指輪から木槍型の対竜兵装『まぁまぁ平和的な木槍グングネイル・アーティミシア』を取り出した。
 アスファルトの上ではただの木槍だが、対竜兵装と言うだけで脅しの道具になる。


 シェリーは、アンラから与えられた権限を利用し、亜空間へアクセス。そこに収納していた二対一式の投擲輪チャクラム型対竜兵装『逃がす気の無い光輪ウロボロス・シャルンガ』を取り出す。
 投擲輪チャクラムと言っても、一般的なそれに比べてとても大振り。魔宝玉の埋め込まれた円刃全体が金箔で装飾されており、グリップ部分だけが黒色と言うデザインになっている。


「……あんまやり過ぎるなよ」
「ええ、まぁ」


 逃がす気の無い光輪ウロボロス・シャルンガは、その金色の円刃を振るう度「ターゲットに命中するまで絶対に消えずに追尾し続ける光輪」を放つ対竜兵装だ。
 放たれる光輪は霊物に近い構成で「物理的な破壊力を持たない代わりに、物理的な攻撃により撃ち落とされる事が無い」と言う性質を持つ。


 物理的な破壊力が無いなら当たったって大した事無いじゃん、と思うかも知れないが……対竜兵装開発者の性格の悪さを舐めては行けない。
 その光輪は対象に命中すると、対象の神経に侵入し「激痛」を錯覚させるのだ。


 相手のドラゴンがどれだけ厚い鱗や肉を持っていても、神経に作用するから何の関係も無い。
 相手のドラゴンがとても俊敏で光輪を避け続けても、避けてる間にどんどん光輪が追加され、最終的には光輪に全包囲、飲み込まれる。


 その名の通り、どんな相手だろうと逃がす気など皆無の兵装だ。


「ぬ、ぬぬぬ! 何か恐い! でもリア充を前に逃げるなんてプライドが許さない!」


 謎のプライドで、一つ目はガイア達と正面から対峙する。


「こうなったら、意地でもお前達の仲を裂いてやるゾ! おい男! その女は『腋毛にはフェロモンを飛ばす機能がある』と聞いて、一時期腋毛の育毛に没頭していたらしいゾ!」
「知ってる」
「無駄だとわかったんで、根こそぎ剃りましたけどね」


 現代人はフェロモンを嗅ぎ取る器官が退化しており、腋毛での効果は大きく望めないそうだ。


「ぬぐぅ……じゃあ、おい女! その男は日常的に幼女を虐めて楽しんでいるゾ!」
「知ってます」
「まぁ、そら知ってるわな……」


 ガイアがテレサを弄り倒して遊んでいるのは周知の事実だ。


「げぶぁッ! おい男ォ! その女は暇な時間は『華麗に活躍する私が世界を救う妄想』をしているゾ!」
「知ってる」
「ぶほぁッ! お、おい女……その男は、風呂に入る時はまず最大フルパワー時のチン長を測定するのが日課だった時期が…」
「知ってます」
「はぁんッ! お、おぉ……その、女は、ペットのオコジョをバタ○犬代わりにしようとして失敗…」
「知ってる」
「……そ、その男は、高校時代…授業中に居眠りして、寝言で『お姉ちゃん大好き』と連呼……」
「聞いてました」
「何だこの変態夫婦ドメスティックッ!?」


 大体が暴露大会でぶっちゃけられた内容だ。
 今更暴露された所で、大した事は無い。
 だが……


「……俺は寝言でそんな事を……」
「ええ、そりゃもうはっきりと」


 把握していなかった自身の失態を知り、ガイアだけが地味にダメージを負う。


「で、もう満足ですか、一つ目暴露マンとやら」


 シェリーが金色のチャクラムを構える。
 これ以上、過去の失敗をほじくり返されても気分が悪いし、万が一、お互いにまだ知られてない失敗でも掘り当てられたら気不味い。


 猶予は充分に与えたし、さっさと処分しよう。とシェリーは判断した。


「く、クソッ……まさかこんなイカれたカップルがこの世にいるなんて…! って、ん?」


 ここで、一つ目が何かに気付いた。


「……まさか、S・K氏?」
「…………!」
「へ?」


 ピクッ、とシェリーが反応する。


「ですよね!? 仮面が無いから気付かなかったけど、その馬鹿みたいな三つ編み……やっぱりS・K氏ですよね!?」
「……シェリーカトレア……?」
「な、何の話でしょう……?」
「背格好もそうだ! やはり! 一昨年のクリスマスに『ワンソロぼっちの会』が主催した『リア充なんてみんな自爆前のセルみたいな体型になって爆ぜれば良いセミナー』でゲストとして講演したS・K氏ですよね!?」
「……………………」
「……お前、そんな活動まで……」
「何故……あんな魂のこもった演説を行ったあなたが、何故にリア充側の人間に!? 嘘だッ! マスク越しでもわかる鬼の形相でリア充達を呪っていたあなたが、こんな…」
「……喋り過ぎですよ。何のためにマスクをして出たと思っているんですか?」
「え?」


 流石に、そこまで積極的に反リア充活動をしていると、公的には知られたくなかった。
 あの暴露大会でも、運よく隠し通せた秘密だった。


「だのに……あなたは……」
「え、あ、その……ちょ」


 シェリーの無表情と反比例する様に、その手に持ったチャクラムが激しく煌く。


「……『逃がす気の無い光輪ウロボロス・シャルンガ』、全開稼働フルドライブ


 一つ目暴露マンの断末魔が、三日月の空に響き渡った。








「……南無三」
「……ガイア・ジンジャーバルト……」
「ひぇっ、ぁは、はい。なんでしょうか!」
「今日はエイプリルフールです。あの一つ目は、嘘を言っていた……良いですね?」
「……い、イエス・サー……」


 一つ目と邂逅した時にはもう日付が変わっていたのだが、それは言わない方が良さそうだ。





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