悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R65,さらバンバ(一身上の都合でバニッシュ)

 夕暮れ時。
 魔地悪威絶商会オフィス。


「くっ……どうやら限界が来てしまった様だンバ……!」
「昨日の今日で!?」


 と言う訳で、昨日魔地悪威絶に入ったばかりの天才科学ルンバ、バンバが何やら限界のご様子。
 全身のあちこちからバチバチと漏電し、ゴミを吸引する口から赤い何かしらを吐き散らしていた。


「え? って言うか何!? 唐突過ぎてもう意味わからんぞ!?」
「嘆くなンバ、ガイア…笑って別れる様と誓っただろうンバ……」
「どうしよう、嘆いてないし誓ってないッ!」
「ね、ねぇガイア! バンバ助からないの!?」
「そこの所どうなんですかガイアさん!」
「え、えぇと……その……ガイアさん……」
「知らんわッ! つぅかまず何がどうしてどう限界なんだよ!?」


 すがり付くテレサとアシリア、そしてガイアと同じく色々と置いていかれてヘルプを求めてるコウメ。
 とりあえずガイアは、瀕死のバンバ自身に状況説明を要求する。


「おそらく……世界が俺を拒絶しているンバ……」
「世界規模の話なの!?」
「『ルンバ』は円盤型自動掃除機の総称と思われがちンバが…実はアイ○ボット社の商標ンバ……俺がレギュラーとなる事で、それを作中で連呼する様になるのは流石にアレと言う判定と思われるンバ……!」
「まさかのジャッジキル!?」
「ふふ……俺も、もう少しお前達との時間を楽しみたかったンバ……」
「え、あ、あぁ……ぉう……」


 どうしよう、理由がアレ過ぎるのと付き合いが短か過ぎるのとで、ガイアは全く感情移入ができていない。


「えぇと…あ、あの……難しい話はわからないんですが……要するに、バンバさんがルンバをベースにしてるのが問題なんですよね……?」
「ああ、確かにそう言う話だな」


 コウメの言う通りである。


「じゃあ…別れを惜しんでないで…早く何かルンバ以外の代わりの機械に電脳を移せば良いのでは……」
「それンバァ!」
「ひぃっ!? ごめんなさい……!」


 なんだかんだコウメだって魔地悪威絶商会の一員。
 ガイア同様、この手の珍事にもある程度耐性が出来ているらしく、要点はきっちり理解している。


「ぐ、ぐふぅンバ!? 叫んだら一気にッ…ヤバいンバ! 早く、早く新しい器をンバ!」
「アシリアちゃん! バンバさんを救うために何か代わりの機械を探しましょう!」
「うん! ……あ、冷蔵庫は!?」
「…………白物家電は汚れが目立つし膨張色だから太って見えて嫌ンバ」
「お前、実は結構余裕あるだろ!?」


 思春期女子みたいな事を言ってる場合か。


「できれば汚れが目立ちにくくてシュッとして見える黒系の機械が良いンバ」
「黒系……テレビはどうだ?」
「……その……俺ちょっとシャイルンバだからンバ…常に皆の視線を集めるのはキツいンバ」
「あー、じゃあ給湯室のポットは? アレ確か黒だったよな? コウメ」
「あ、はい。黒いです……」
「熱いのは苦手ンバ……CPUに熱は大敵ンバ」
「……じゃあもうアレだ! 俺のデスクのノートパソコン! 黒だぞ!」
「知ってるンバ? 一般的にキーボードって公衆便所の便器並に雑菌が居るンバよ? 週一で除菌ティッシュで拭いてる程度じゃあ……ねぇ?」
「もう死ねよお前!」
「が、ガイアさん……気持ちはわかりますが……あ、私なんかが同情してごめんなさい。でも、とにかく流石にそれは可哀想かと……」
「ぬぐぅ……」


 もう少しでバンバに蹴りを入れそうだったガイアを、コウメがどうにか制する。
 一方、テレサとアシリアは代わりの機械を探してオフィス中を引っ掻き回していた。


「バンバ! これは!? パカパカする人形!」
「マトリョーシカは木製ンバ。ちょい厳しいンバ」
「じゃあこれ! アヒル!」
「お風呂で使うアヒルさんはゴム製ンバ。割と厳しいンバ」
「あ、後で食べようと思って忘れてた個包装のパイ○実を見つけました!」
「良かったンバね」
「リスかお前は」


 この様子では、お子様二名には余り期待できそうにない。


「つっても…もうこの馬鹿学者の要望に添えそうな機械は……あ、一応俺のスマホは黒だけど……」
「スマホの画面もキーボードと同じで嫌ンバ」
「つぅかお前、元々ゴミを吸う機械だよな!?」
「……お前達人間は知らないンバ……ルンバ達がどんな気持ちでゴミをんでいるか……! 目視できるゴミは自分で拾えンバァァァ! ブルァ!?」
「ああ! シャウトしたせいかバンバさんが一気に壊れ始めた!」


 一気に左半身が崩れ落ちたバンバ。
 しかし尚も、拘りを捨てるつもりは無いらしい。


「持って来い……! 俺を助けたいならシャレオツな機械を持って来い……!」


 もう語尾にンバを付ける余力も無い様だ。


「クソッ……あ、そうだ! こう言う時は!」
「真の忍者の出番でせう?」


 ガイアが呼ぶまでも無く、カゲヌイが天井からスタッと降り立った。


「カゲヌイさん!」
「やれやれ、私がいないと何もできないのですね。今後は『魔地悪威絶商会のドラ○もん』と呼んでくれても良いですよ」
「お前、今バンバがなんでバニッシュされかけてるか、わかって言ってんの?」


 まぁ、カゲヌイの事だからわかって言っているんだろう。


「で、ご注文は『黒くてシュッとしててシャレオツな機械』でしたね」
「ああ。つぅか、いつから天井裏にいたのお前。いや、今更だけどさ」
「当然、最初からです。……さて、注文を精査した結果ですが……」


 ここでカゲヌイが取り出したのは、クナイ。


「クナイ以外に無いでせう」
「機械じゃなくね?」
「どうせ鉄です」


 超大雑把にくくりやがった。
 まぁ、真の忍者が出来ると言っているんだし、出来るんだろうが。


「いやぁー、俺的にクナイはちょっと…」
「そいっ」
「ほぎゃあッ」


 バンバの意見を完全に無視し、カゲヌイがバンバの単眼モノアイにクナイをブッ刺した。


「って、お前、えぇ!? 何トドメ刺してんの!?」
「トドメではありません。こう見えてデータ移行中です。少々お待ちを。容量が大きいので少し時間がかかりませう」
「どれくらいかかりそうですか?」
「予想時間は残り二分…あ、三分に増えた。ガッデム忍者」
「ダウンロードあるあるかよ!」


 こうして、バンバは天才科学ルンバから天才科学クナイへと進化(?)したのだった。



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