悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R58,くノ一のミッション(覗き)

 うたかた霊園。
 忍者の里を一望できる高地に設けられた墓園だ。


 忍者なれど、所詮は人。
 死すればその肉体は泡沫うたかたの如く。


 どれだけ体を鍛えようが、細胞を進化させようが、結局、人は土へと還るのが道理だ。


 少し肌寒い早朝。
 血族の途絶が危惧されている『トゥルー忍者』一族の青年、カゲロウはうたかた霊園へと足を運んでいた。


 肩に花束を担いでいる。どこからどう見ても墓参り……だろうか。
 何か、花束が余りにも豪快過ぎる。
 もう、街を闊歩すれば光の速さで職質を受けても仕方無いレベルで馬鹿デカい花束を担いでいる。
 こんなもんを墓に添えたら、確実に墓石が花に埋まる。


 そんな馬鹿みたいな花束を担いだカゲロウが目指すのは、母、ミカゲ・ニンジアの墓。


「む?」


 目的の墓の前には、既に先客がいた。


「……おや、不愉快な」
「それが一週間ぶりに兄に会った妹の第一声か」


 先客の正体は、カゲロウの妹、カゲヌイ。
 兄妹揃っていつもながらあからさまに忍者な格好をしている。


「何をしに来たんですか」
「今日は母の月命日だ。お前も知っていて来たんじゃないのか?」
「……毎月、花を添えに来ていたんですか」
「真の忍者だからな」


 よっこらせ、とカゲロウは担いでいた阿呆みたいな花束を墓石に覆い被せた。
 ずもっ、と墓石がカラフルな花の海に消える。


「…………………………」
「お前も、ようやく母に花を手向ける気になったか」
「ええ。ですがせっかく手向けた花も、たった今あなたの愉快な花束に押し潰されましたけどね」
「ふっ、俺の勝ちだな」
「…………………………」
「忍者ジョークだ。お前の花は回収している。流石にそこまで阿呆な真似はしないぞ」


 カゲロウはいつの間にか回収していた一輪の花を、自身が手向けた花束の上にそっと添えた。


「……カゲヌイ。ここに来る気になったのは、精霊の女王の話を聞いたからか?」
「……ええ、まぁ」


 ミカゲの事件のあと。
 グラはカゲロウたちに悪霊について詳しく説明してくれた。


 悪霊とは、負の感情をこじらせた霊物。その精神状態は常に負の方に傾いたグズグズの状態。
 精神が極端に不安定になれば、思考パターンにも綻びが生じる。
 例え生前は慈愛に満ちた聖母の様な人物でも、悪霊化すれば狂人と成り果てることがザラにある。


 つまり悪霊のほとんどは、生前の人物とはほぼ別物の思考パターンに従って行動している、と。


「……ぶっちゃけ、少しだけ、安心した私がいます」


 アレが母の本性と言う訳では無い。
 アレは母が歪んでしまったモノ。


 他人からすれば、些細な差異なのかも知れない。
 でも、カゲヌイからすればとても重要なことだ。


「私が愛した母は、ちゃんと死んでいた」


 だからカゲヌイは、ようやくこの墓に花を手向けに来ることが出来た。


「そうだな……これでようやく、兄妹揃って母に手を合わせることが出来る」
「…………………………」


 カゲロウがしゃがみ込み、花に埋もれた墓へ向けて手を合わせる。
 カゲヌイもそれに続いてしゃがみ、手を合わせた。


 黙祷を終え、二人は静かに立ち上がる。


「……ふっ。さて、真の忍者にシミッたれた空気は似合わん。母も俺達の真面目な顔など見たくあるまい。気を取り直して、お兄ちゃんと著作権関係に手厳しい夢の国にでも行くか!」
「断固として拒否します。それに、そんな馬鹿げたことをしなくても、今日は笑える日になりそうですしね」
「?」
「何やらホタっちが激しく動揺している姿が見れる気がするのです。超絶楽しみ」


 カゲヌイは薄い笑みを浮かべながら、胸元から忍者デジカメを取り出した。


「……お前とホタルビは、親友では無かったのか」
「親友と書いて、玩具と読む文化もあります。素敵☆ きゃぴっ☆」
「…………………………」


 母よ。真の忍者な俺ともあろうものが、妹の育て方を間違えたやも知れん。


 カゲロウは謝罪の意を込めて、もう一度、手を合わせることにした。














 どうも。真の忍者、ホタルビ・ランパです。


 え? 画面が暗い?
 申し訳ありません、今、ちょっと忍者亜空間に身を潜めているもので……


 忍者亜空間は忍者だけが入れる亜空間のことです。
 私、これでも真の忍者なので。


 何で忍者亜空間に身を潜めているのか?
 それはですね、重要なミッションを遂行するためです。


 私は少し前に、ガイア・ジンジャーバルトと言う青年とお見合いの話が出ていました。
 しかし、当のガイア氏はお見合いを前に逃走。
 その理由はなんと、私を『大魔王ヌイちゃんより少しマシなだけの魔王の様な女だと思っていたから逃げた』と言うのです。


 有り得ない。
 ヌイちゃんを大魔王とするなら、私は魔王の部下の四天王の中でも最弱な奴か後々仲間になる奴ですよ。


 そこは村人とか序盤のドラゴンに捕まってるお姫様とか言わなくて良いのかって?


 ……まぁ、真の忍者とは言え忍者ですからね。
 無駄な殺生はしませんが、金の沙汰次第では…って感じですからね。一般カタギの方から見たら恐怖の対象であることはしっかり自覚しています。
 しかも私の実家であるランパ家は、裏社会でも名の通った『ヤツザキ堂』の経営者家系。
 わかりやすく言えばヤクザ界のヤクザの様なモノ。


 でも、絶対に魔王だけは無い。私はそこまで酷く無い。
 身も心もド外道なヌイちゃんと≒で結ばれる謂れはありません。


 この不名誉な誤解、なんとしても解かねば。真の忍者の誇りにかけて。


 と言う訳で、私は誤解を解く方法を探るべく、ガイア氏をストーキングすることにしました。


 獲物を知らずに狩りに臨むなど愚行。
 ガイア氏を徹底的に解析してやるのです。


 と言っても、自宅にまで忍び込むなんてことはしません。
 ヌイちゃんと違ってその辺りの分別は付きます。


 私が追うのは、あくまで公共の場でのガイア氏。
 つまり、覗き見ても問題は無い非プライベートなシーンです。


 手始めに、ガイア氏の職場。
 魔地悪威絶商会と言いましたか。何の会社か存じませんが、個性的な社名ですね。


 同僚の女性との接し方から、好みのタイプなんかも探れるやも知れません。
 好みのタイプの相手に、悪い印象を持つ方はいないでしょう。
 ガイア氏に良い印象を与え、誤解を解くには、リサーチ必至な絶対必要な情報です。


 さて、では忍者亜空間に覗き穴を開けて、ガイア氏の働く姿を少し覗いてみませう。




「お久しぶりですね、グラさん、グリムさん!」
「グリム、材質変わった? 前よりムニムニする」
「おいクソ猫耳。腹を揉むな。その耳食い千切んぞ」
「こらっ、そんなこと言っちゃ駄目ですよグリム。良いじゃないですか少しくらい。それにこんなにムニムニなグリムにも責任があります。ほらこんなにムニムニして! けしからんグリムたんはすはす!」
「え? グリムさんってそんなにムニムニなんですか!?」
「だぁぁぁあぁぁぁ! ちびっ子が寄ってたかって鬱陶しいぞクソが!」




 ……幼女とぬいぐるみ(?)しかいない。


 肝心のガイア氏は、今いない様ですね……


 と言うか、え? 
 ここ、会社ですよね?
 えーと……まじわるいぜ商会、っと…あ、ホームページヒットした。


 ……便利屋…………?




「あ、知ってますか、テレサさん。二日酔い予防になると言われているウコンですが、ウコンの花言葉は『あなたに酔いしれる』なんですよ」
「えぇっ!? ウコンさんはそんな矛盾を抱えて……!?」




 ……女子小学生が『昨日テレビでやってた豆知識』で盛り上がっている様にしか見えない……




「ちなみにゴボウの花言葉は『私をいじめないで』です」
「ゴボウさんの身に何が……!?」
「グリム、羽もムニムニ」
「……もう好きにしやがれ……」




 と言うか、花言葉トーク自体は女子っぽいんですが、ピックアップしてる内容が……




「あ、あの……遅くなってごめんなさい……お茶です……」




 あ! 幼女じゃない!
 何か甲羅背負ってるけど幼女じゃない人が!
 それでも女子高生くらいだけど! でも合法な年齢っぽい! 幼女じゃない!
 普通の女の人が出てき…




「お姉様ァァァァァァァァ!」
「ほきゃぁぁああぁぁぁあああああぁぁぁぁ!? どぅ、ドゥル子さん…ッ!?」
「!? コウメさんが突如現れたアーリマンに押し倒された!?」
「お姉様ァァァ! お姉様ァァァ!」




 特殊な性癖の方だったーッ!?


 あ、いや、でもあの褐色の子が一方的に百合百合してるだけの可能性も……




「お姉様ァァァ! あの夜の様に滅茶苦茶にして!」
「あ、あの時は夜ではなく夕方だった気が……」




 事後だったーッ!?
 相思相愛!? 相思相愛なの甲羅の人!?
 嫌よ嫌よもベッドイン!?


 もう駄目……! ホタルもうプチパニック……ッ!
 真の忍者なのに……! なんなの、この空間は……!?




「アァアアァァ……お姉様ァかぐわしいんじゃァァアアァァ……」
「ひぃっ…!? み、耳の裏の匂いを嗅がないでください……!」
「と言うかドゥル子さん、何故ここに!? あなたはカゲヌイさん&カゲロウさんコンビと火山で死闘を繰り広げた末、噴火に巻き込まれて宇宙空間に投げ出されたはずでは!?」
「愛の力で帰って来たのよォォォォ! お姉様ァァ! お姉様ァ! ァァアアァァアァァァアァ!!」
「ひゃわぁぁぁぁっ!?」
「あっ! あのアーリマン何の躊躇いも無くコウメさんの着物の中に顔を突っ込みましたよ!」
「こんなお子様だらけの空間で何しようとしてやがる!?」
「な、なんの……っ!」
「ここでコウメさんが甲羅の中に身を隠した!」
「ナイス判断だ甲羅!」
「どぅるぁぁぁッ!」
「ああぁっ!? でもドゥル子さんが空間を歪めて甲羅の中に入ろうとしている!?」
「逃がすかお姉様ァァァアアァァァアァアアァアァ!! って、ッ!? 馬鹿な!? 私の空間操作術でも干渉できない!?」
「わ、私の甲羅は乙姫様特製です……! いくらドゥル子さんでも、あの人の術には勝てないかと…」
「きぃぃぃぃぃぃいいいい! お姉様が私以外の女の話してるぅぅぅぅぅぅ! もう決めた! どれだけ時間をかけてでも、このフザけた防御プログラムをブチ抜い手やる!」
「グリム! アーリマンと戦う事情はもうありませんが……あの人はここで仕留めないといけない気がします!」
「俺様もそんな気がするぜ…! ヴォオオォォオォォオォォォォォォッッ!」
「アシリアもコウメ助ける!」
「チィッ! トカゲと猫如きが私の邪魔をする気かァアアァアァァァァァ!!!!」




 …………………………


 今回確認できたガイア・ジンジャーバルトの同僚。
・幼女×3(内猫耳1)。
・ぬいぐるみ。
・甲羅を背負った特殊性癖の少女。
・テンションがイカれてる特殊性癖の少女。


 …………………………この中に、ガイア氏の好みのタイプはいないと信じたい。



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