悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R55,変態は一種の天才(つまり生まれつき)

「ガイアさん、もっとお正月っぽいことしたいです」


 自分のデスクでお餅を食べながら、テレサが思い出した様につぶやいた。


「……今更なに言ってんだお前」


 週刊誌を読みながら、ガイアは呆れ顔。


 ガイアの言う通り、もう一月終盤も終盤。
 アメフトで言えば、第四クォーター残り一分って所だ。


 そろそろ皆、恵方巻きだの豆まきだのバレンタイン商戦だのと騒ぎ出す時期。
 正月云々の話題なんてもう誰もしない。


 そりゃそうだ。
 一月末に「お前、おみくじの待ち人の所になんて書かれてた?」とか聞かれても普通は覚えてない。
 正月系の話題の賞味期限はせいぜい一月上旬中だ。


「そう、もう今更なんです、二月なんです! あっという間です! 新年会以降、お正月らしいことをした記憶が無い! 私達、悪の組織なのに!」
「悪の組織が正月を激しく満喫するモンだとは思えないんだが……」


 相変わらず、変な所で妙な部分の認識がズレている。
 一体どんなお城で育つとこんなよくわからん姫になるのか、ガイアは常々疑問である。


「正月っぽいこと、なぁ」


 正月と言えば、なんだろうか。
 人生すごろくとかはトラウマになるレベルのを既にやらされたし……


「凧上げとか羽根突き、か?」
「凧は無いですし……羽根突きも墨と筆しか…あ、テニスラケットとテニスボールなら確か三階の押入れにありましたよ! あれで羽根突きしましょう!」
「それ最早テニスじゃねぇか。せめて羽根を突かせろよ」


 と言うか、羽根突きのルールを適用すると、嫌が応でもボレー合戦ラリーを強いられることになる。
 正月のやんごとない感じなど欠片も無い、激しいガチスポーツの様相を呈することになりそうだ。


「って言うか、お前の魔法で羽子板と羽根くらい召喚できないのか?」
「『魔法の羽根突きセット』なら出せますけど……あれ結構エグいですよ?」
「エグい?」


 魔法のなんたら、って言うと、少女の夢とか詰まってそうなイメージだが。


「盛り上げ用のオプションスキルがランダムで勝手に発動するんです。プレイヤーの五感奪ったりとか、プレイヤーを観客席まで吹っ飛ばしたりとか……」
「結局テニスかよ……」
「お城でやった時は、いつの間にか設置されてたブラックホールにエキドナさんが吸い込まれそうになって大変でした」
「ブラックホールまで出るのか……」


 もうテニス以外の何物でも無い。


「あ、そうだ。わかったテレサ。良いこと思いついた」
「お! 流石は我が商会の参謀ガイアさん! 一体どんな名案ですか!?」
「寝正月ってことで、帰って寝ようぜ」
「私が求めてる正月っぽさはもっと能動的な正月ですよ!? プリーズ・アクティブショーガツ!」
「夢見心地の正月……素敵じゃん?」
「夢見心地って言うか夢見てますよね!? 気分の話じゃないですよね!? って言うかさっきから何なんですかガイアさん! らしく無いですよ!? あ! さては面倒臭くなって早く話を畳もうと躍起になってますね!?」
「躍起ってほどノリノリで畳みには行ってねぇよ」


 面倒臭くなったと言う所は決して否定しないが。


「なんつぅか、もう無理して正月を満喫する必要無くね?」


 まず大前提として、正月はとっくの昔に終わっているのだから。


「私だって、何の理由も無く正月っぽいことしたいと言ってる訳ではありませんよ?」
「…………?」
「暇なんです」
「だからアシリアたちと一緒に散歩に行けと……」
「アシリアちゃんの散歩ハードなんですもん! 毎日同行してたら太腿がパーンッってなっちゃいますよ!」
「でもコウメが付いて行けるくらいだろ?」
「コウメさん、何かインドアな印象ありますが結構あれですよ!? 普通に山とか登れるくらいの激しいバイセクシャルですよ!? 完全に山ガールです!」
「バイタリティ、な。唐突にコウメを猛烈な両性愛者にするな」


 ガイアはテレサの阿呆さ加減に慣れているので一瞬で言い間違いに気付けたが……それでも余りに予想外過ぎる単語の登場に軽く動揺した。
 ガイア以外が今の発言を聞いたら、多分エグい誤解が生まれていただろう。
 ドゥル子辺りが聞いたら「まだ男を愛する余裕があるのお姉様!?」と面倒臭い展開に…


「お姉様が激しいバイセクシャル……!?」
「ふぇ? 何かガイアさんが座ってるソファーの下から声がしましたよ」
「……お姉様云々って発言の時点で大体予想付くけどな」


 ソファーの下をいちいち確認するまでも無い。 


「何してんだ、ドゥル子」
「……チッ、バレたか……」


 ソファーの下から這い出して来たのは、冬でも動きやすそうな軽装の緑髪褐色少女。
 アーリマンの少女、ドゥル子だ。


「ドゥル子さん? そんな所で何してたんですか?」
「別に。ただお姉様がソファーに腰を降ろした瞬間に、その隙だらけの御御足にむしゃぶり付こうと思って待機してただけよ」
「少し見ない間に大分変態度が上がったなお前……」
「お姉様が全然構ってくれなくて欲求不満なの。そりゃ足でも良いから舐めたくなるわよ。文句あるの?」
「理由はともあれ、ナイスタイミングですドゥル子さん! 私達と一緒に正月より正月らしいことしましょう!」
「私はそんなに暇じゃない。急用もできたし」
「急用?」
「今すぐお姉様の目を覚まさせるのよッ!」
「待て阿呆二号。さっきのはテレサの言い間違いだ。俺が訂正しただろうが」
「あんたの言葉を信じる訳無いでしょッ!?」
「いや、何でだよ……」


 ガイアは、テレサを弄る時以外あんまり嘘は吐かない主義だ。
 ドゥル子の信用を損なう様なことをした覚えは……


「特に下心も無く歳下女子ーズの面倒を見続ける真聖ロリコンのあんたが、その女子ーズのメンバーであるお姉様をマイノリティの道に引きずり込もうとする私を快く思っている訳が無いッ! お姉様を守るためならあんたはきっと平然と私に嘘を吐くッ! この嘘吐きッ!」
「誰が真聖ロリコンだコラ。つぅかお前が人に嘘吐き言うな。しかも推測で」


 ガイアが魔地悪威絶商会の面々の面倒を見ているのは、誰かがフォローしないとここの阿呆共は何をしでかすかわからないからだ。


 実際、ガイアが目を離した隙に異世界行っちゃった猫耳の子がいる。


「大体もう男って時点で何か信用できない私がいるわ」
「流石に拗らせ過ぎじゃないかそれ……」
「……えぇ、正直な所、自分でもヤバい段階にキてると思う。でも止まれないのよ、何故かッ! 何で!? もう自分で自分が恐いッ!」


 それは多分、真性だからだ。


「ま、まぁ、アレだ。一回落ち着…」
「はっ! そうか…これが真実の愛なのね! 愛が私を変えたのねッ!?」


 いや、多分、真性なだけだ。
 変わったんじゃなくて目覚めただけだ。


「私は虚偽のドゥルジャーノイ……きっと、真実の愛を…自分には不似合いな誠実な感情を、無意識に拒絶してしまっていたのね…だからよくわからない恐怖に怯えていた、不安だった……我ながら、何て愚かなの!」
「いや、おい、ドゥル子?」


 ガイアは別に人の性癖をあれこれ言う趣味は無いが、流石に性別だけで不信感を持つレベルに至るのは異常だと思う。
 その件について、危機感を持つのは正常な気がするのだが……


「もう自分に嘘は吐かないッ! もう迷いもしないッ! もう何も恐くなァいッ! だって真実の愛を受け入れたからァッ!」
「おーい? ドゥル子? お前色々と壊れて来てな…」
「黙れ汚物ッ! 耳障りよッ! 又にぶら下げた産業廃棄物を引きちぎってから出直しな!」


 あ、ダメだこれ。
 完全に変なブレーカーが上がった感じだ。


「さぁ待っててお姉様ァァ! 迷いを捨てた私がどんな手を使ってでもあなたの目を覚まさせてみせるからァァァッ! どぅるぁっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」


 …………………………。


「何かドゥル子さん、すごい血走った目で瞬間移動しちゃいましたね」
「……とりあえず、カゲヌイに連絡して、コウメを避難させるか…今のアレは洒落にならんことをしそうだ」


 ……変態は何人か知っているガイアだが、まさか目の前で変態が完成する瞬間を見る日が来るとは思わなかった。



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