悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R32,猫耳娘の猫探し(忍者も一緒)

 正午を少し過ぎた頃、魔地悪威絶商会オフィス。


「うー……」


 テレサのデスクの下を覗き込みながら、アシリアが悩まし気なうなりをあげる。


「……ここも違う」


 耳と尻尾をパタつかせながら、アシリアはオフィス内を行ったり来たり。
 引き出しと言う引き出しを開けたり、冷蔵庫やら本棚やらの裏を覗き込んでみたり、テーブルの下に潜ってみたり。
 テーブルを潜り抜けた先には、ソファーに座って雑誌を読むガイア。その傍らにはガイアがよく持ち歩いている鞄。


「ねぇ、ガイア。ガイアの鞄も見て良い?」
「ん? ああ、別に良いけど……さっきから何探してんだ?」
「ミーちゃん師匠」
「……いないと思うが」


 まぁ、探したいなら好きにすれば良い、とガイアはアシリアに鞄を渡す。
 入ってるのは大学で使ってるファイルや筆記具、たまに買ってるゴシップ誌、ペットボトルに詰められたどっかの山の天然水とかだ。
 見られて困るモノは無い。


「そう言や、最近あのデブ猫見てないな……」


 最後に見たのは何時だったか……確か、シラユキの事件の少し前くらいから見てない気がする。
 ……いや、待てよ。ヤマト国から帰って来てから見てない気も……


 元々ミーちゃんは飼い猫とは思えないくらい放浪癖のある猫だし、ガイアは全く気にかけていなかった。


「いない……アシリア、久々に師匠と遊びたかったのに」
「尋ね人……いえ、尋ね猫ですか」
「あ、カゲヌイ」
「毎度毎度、本当に突然出てくるなあんた」
「真の忍者なので」


 はいはい、とガイアは適当に流す。
 もう慣れたモノである。


「してアシリア氏、肩を落とすことはありません。ぶっちゃけ暇なこのカゲヌイが、そのミーちゃんとやらの捜索を手伝ってあげませう」
「本当!?」
「ええ。来てみたは良いモノの、茶菓子が切れてしまっていたので……ぶっちゃけ、このまま帰ってしまおうかとさえ思っていた所なのです」


 ちなみに、今テレサとコウメがその茶菓子の補充のためコンビニに向かっている所である。


「でも、師匠がどこにいるか全然わかんないよ?」
「私をどこの何者か、お忘れですか? 真の忍者ならば当然、超能力的な何かしらで風を感じることで、地球の裏側にいようと探し人を見つけ出せます」
「忍者すごい!」
「……本当、忍者ってなんなんだろうな」
「ノンノンお二方。私は忍者ではなく真の忍者です。では行きましょうアシリア氏。風の詩を頼りに」
「うん! じゃあガイア、アシリア少し出かけてくる!」


 夕飯までには帰って来いよー、とガイアは適当に2人を送り出した。










「ふむ……と言う訳で、怪鳥を口寄せして風の向くままに空の旅に興じてみたりした訳ですが……随分遠くまで来てしまいましたね」
「見た事ない町!」
「まぁ、そりゃあそうでしょう。私も初です」


 真の忍者的直感でGPS情報を検知してみた所、カゲヌイ達は現在、ナスタチウム王国の隣国、ベルガモット王国の王都にまで来ていた。


「やれやれ……随分と旅好きの猫さんの様ですね。おかげで我々は不法入国者です」


 ミーちゃんの活動領域は真の忍者すら少しばかり微妙に若干ほんのりと少々舌を巻く領域らしい。


「カゲヌイ! すごい! あのお店、テレビでしか見たこと無いやつ!」
「子供らしいことは大変よろしいのですが……アシリア氏。日が傾きかけてしまっています。昼下がりと言う奴です。ここまでの距離を考えると……これはかなり急がなければ夕飯に間に合わずガイア氏のお叱りを受けてしまう可能性があります」
「っ!? か、カゲヌイ! 急ぐ!」
「イエス・サーです。さて……この方角ですね。行きましょう」
「うん!」








「山!」
「山ですね」


 カゲヌイとアシリアが足を運んだのは、王都の外れにあるとあるテーマパーク。
 カゲヌイが行きがけに調達したパンフレットによれば、先々代のベルガモット国王が開設した国営施設。


 敷地内にささやかではあるが山・森林・草原・川・湖・海etc…あらゆる自然環境を再現しており、希少生物を中心とした多くの種類の生き物を保護している。
 各エリアには自然に溶け込ませた観測小屋も多く用意されており、運次第ではあるがかなりの近距離で希少生物を観察することもできたりする。


 日常、目にする機会の無い生物達の生態を生で見て知る場を国民に与えたい。そんな先々代国王の想いから作られた施設だそうだ。
 入場料は無料。一部特殊環境エリアを除き立ち入り自由。


「ふむ……要するに動物園色を強めた小規模の自然公園ネイチャーパークですか。ぶっちゃけ、あまり好きな発想ではありませんね」
「なんで?」
「ワイルドライフ…人工環境での管理が非常に困難ないわゆる純野生動物を管理するのが、自然公園と言う施設の根底的目的である訳です。それは『希少種の保護』と言う観点で見れば素晴らしい取り組みですが……安易な見世物色を強くされると、なんかこう、不必要にレアリティが下がってる感じがすると言うか……」
「?」
「アレですよ。少年誌でのエロと成人誌でのエロとじゃもう色々と違うアレです。別の例えをするならば、アナウンサーのポロリとAV女優のポロリでも良いでしょう。やはり、『中々お目にかかれない』と言う要素は重要な付加価値であると思うのです」
「??????」
「そうですね……アシリア氏にもわかりやすく言うのなら……サーモンのお寿司が蛇口を捻ればいくらでも出てくるとしたら、どう思いますか?」
「嬉しい!」
「……………………」


 カゲヌイとしては、「たまにしか味わえないことの有り難さ」を理解して欲しいのだが……


「……まぁ、良いです。とりあえず、この公園内……おそらくは目の前のあの山に、お探しの猫さんがいるはずです」
「でも、結構広そう」


 小規模、とは言っても、自然公園としては比較的小規模なだけであって、このパークの広さは中々のモノ。
 目の前の山も、素人では登頂し切れるか不安の残る高度がある。


「真の忍者の手にかかればこの程度の捜索範囲、訳もありません。4畳半のワンルームで成獣のヒグマと隠れんぼしている様なモノです」
「ん? ねぇカゲヌイ。なんか来る」
「何か? ああ、アレですか。アレは……精霊獣の類でしょうかね」


 アシリア達に接近して来たのは、灰色の毛皮に覆われた巨獣。軽くカゲヌイの倍近い身長を誇っている。
 全体的なシルエットは丸く、遠くから見れば灰色の毛玉。
 近くで見れば、胴体に比べるとかなり小さいがちゃんと四肢や耳、目や鼻なども確認できる。


「おぉぉぉぉぉおおぉぉぉん……」


 巨獣はアシリア達の目の前で立ち止まると、一鳴き。
 腹の底から震えるまさしく地鳴りの様な声。


「なんか困ってるみたい?」
「その様ですね」


 アシリアは獣人としての野生の勘、カゲヌイはトゥルー忍者特有の便利直感で毛玉怪獣の心情を察する。


「おぉぉん、おろろろーん……」
「この毛玉、我々をパークの職員と勘違いしている様ですね。パークの問題は我々の関知する所ではありません。さ、猫を探しませう」
「でも、目の前で困ってるのに放っとけない。アシリア、便利屋さんだもん」
「帰りが遅くなると、ガイア氏が心配してしまいますよ? そして怒られます」
「うっ……でも、テレサやガイアがここにいたら、絶対助けると思う」
「テレサ氏はこう言うのを放って置けないタイプですし、ガイア氏は口ではあーだこーだ言いつつも手を差し出す典型的なツンデレ野郎ですからね」
「アシリアも放って置けないたいぷ! ガイアに怒られるの嫌だけど……そうだ!」
「どうしました?」
「この丸いのの困り事を解決して、師匠も見つけて、夕飯に間に合う様に帰る!」
「おやおや…随分と突貫スケジュールですね」
「放っとけないし怒られたくない! アシリア頑張る!」
「………………」


 やれやれ、とカゲヌイは溜息。


「……と、やれやれ感を出してみましたが、ぶっちゃけ、そう言う欲張った発想は嫌いではありません」


 ぶっちゃけ私も欲張りな女なので、とカゲヌイは薄い笑顔を浮かべる。


「久々に、私も頑張りましょう」
「カゲヌイも頑張ってくれるの? アシリア心強い!」
「ええ、是非期待してください。私が頑張るからには、どんなミッションインポッシボーな案件も余裕のよっちゃんがうたた寝ついでに鼻をほじり出すレベルです」


 なぜならば、


「私、真の忍者なので」


 忍者細胞によって構成されるポジティブ脳に、不可能と言う概念は存在しない。



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