悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R22,悪の組織と悪の組織(笑)



 薄青色のLEDライトが照らす室内。ライトの光量は控えめで、室内は夜明け前の空を思わせる妖しい色合いに包まれていた。
 そんな空間で、円卓を囲む5つの影。


「暇ッ」


 勢いよくつぶやいたのは、フードを深く被った緑髪の少年。
 その若草の様な髪と褐色の肌に蒼い瞳は、少年が『悪神族アーリマン』である事を証明する。


 少年の名はアンラ。
 割とガチな悪の組織『絶対悪の原典たる者達アーリマン・アヴェスターズ』のボスを勤める者。
 この場に集まった5人の中でトップに当たる人物である。


「最近、大した活動をしていないからな。確かに暇だ」


 軽く身長2メートルを越える巨漢が、静かにアンラに同意した。
 巨漢の名はタルウィタート。彼もまたアーリマンであり、芝生を思わせる短い緑髪に浅黒い肌、コバルトブルーの瞳をしている。


「そうですね……」


 会計帳を広げながら溜息を吐いたのは若い金髪の女性。
 外見的特徴は通常人種。その金の長髪をいくつもの三つ編みにまとめている。
 彼女はシェリー。アーリマン・アヴェスターズの会計係でありアンラの秘書的な存在。
 元は自称勇者だった経歴を持つ現役女子大生でもある。


「先月の商談成立は、アンラ社長がセールスした1件だけですね」
「あれ? ドゥル子も何か販売したんじゃなかったっけ?」
「………………」
「おーい、ドゥル子?」
「え、あ、ごめん。何?」


 アーリマンの少女、ドゥルジャーノイ。通称ドゥル子は、アンラの問いかけにビクッと反応。
 誰がどう見ても完全に話を聞いていなかった事が伺えるリアクションだ。
 それでも平静を装うため、ドゥル子は口の中で遊ばせていたガムを風船にして見せる。


「ドゥルジャーノイ……最近、よく考え事をしている様だが、何かあったのか?」


 ドゥル子の隣りに座っていたスーツ姿の赤髪青年が問いかける。
 青年の頭頂部にはネコ科風の耳。猫系の獣人だ。


「いやね……ちょっと、気になる子がいて」
「気になる子?」
「うん。でも、なぁーんでこんなに気になるのか、自分でもわかんないんだよねー。不思議でさぁ」
「理由も無く気になる……青春の予感だ!」


 テンション上がってまいりました! と言わんばかりにアンラが勢いよく立ち上がる。


「今すぐその人をここに呼べドゥル子! そして皆でドゥル子の夫候補を値踏みしよう!」
「うむ、そうだな。そうすべきだ。我々アーリマンは絶滅危惧種、伴侶選びは皆で取り組むべき問題。決してこれは好奇心だけでの賛成ではないぞ。断じてな」


 タルウィタートもちょっとワクワクした感じでアンラに賛同する。


「アンラ、タルウィ……言っとくけど相手も女の子だから」
「じゃあ嫁候補か!」
「美人か?」
「おい待てコラ。当然の如く恋話方面で話を継続するって何か? あんたらは私が男に見えんのか?」
「チ○コついてないだけでほぼ男みたいなモンじゃん」
「色気の欠片も無いしな」
「殺すわよ!?」


 ギャーギャー喚くアーリマン3人組を傍目に、シェリーは会計帳を見返し、獣人青年は欠伸を噛み殺す。


「大体何なのよこの集会! 私を小馬鹿にするために幹部が5人も集まった訳!?」
「違うしー全然違うしー。暇だから皆で遊ぼうと思って招集かけただけだしー。まぁ5人しか集まらなかったけどー。って言うかドゥル子ちゃんマジ超自意識過剰なんですけどー」
「ムカつく……!」
「落ち着けドゥル子。喧嘩っ早い旦那は嫁に逃げられるのも早いと聞く」
「えぇい、まだそのネタを使うか! そういうのじゃないってば! 多分!」
「しかし、暇だから遊ぶと言っても何をする気だ?」


 獣人青年が眠そうに目をこすりながらアンラへ問いかける。


 アンラはニッコリと笑みを浮かべ、


「それも皆で考えよう!」
「相変わらずの無計画ね……」
「ふむ……ここにあるモノで言えば……複数人で遊べるのはUNOくらいか」


 タルウィタートが取り出したのは、年季の入ったボロパッケージに収まったUNO。
 使い古された感が半端では無い。


「えー、先週毎月恒例の幹部総員全力UNO大会やったばっかじゃん。しかも、どうせやったってシェリーの圧勝だろうし」
「そうですね。あなた達なんて相手になりません」
「……言うじゃないか」
「上等ね」
「シェリー、ちょっと天狗になってるみたいだね。これはよろしくない」


 タルウィタート、ドゥル子、アンラのアーリマン3人組がパキパキと指を鳴らし始める。獣人青年はこっくらこっくらと船を漕ぎ始めた。


「よぉぉぉし! やるぞドゥル子、タルウィ! 特別開催…シェリーの鼻っ柱をへし折ろうぜUNO大会ィィッ!」
「「おぉぉぉぉおおおおぉおぉおおおおぉおおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおッッ!!」」
「やれやれ、仕方の無い人達です。お相手しましょう」
「……ぐー……ZZZ……」








「私の友達! 出てこいコックリさん! 妖怪メダ…」
「やめれ」
「あいたっ!?」


 魔地悪威絶紹介オフィス。
 例のメダルを噂のウォッチにセットしようとする途中で、テレサはガイアに頭を叩かれてしまった。


「いきなり開幕DVて!」
「前にも言ったが、誰と誰がドメスティックだこの野郎」


 やれやれ、とガイアは溜息。


「つぅか、何であの不気味狐を呼び出そうとしてんだよ」


 言いながらガイアは、叩いた拍子にテレサが落っことしたコックリさんメダルを拾い上げてみる。
 メダルの表面にはあの狐と犬と狸の3つ首を持つ不気味な獣がプリントされていた。
 ご丁寧に裏面にはQRコードまでありやがる。手の込んだ真似を……


「コックリさんは何でも知ってるんですよね? ちょっと聞きたい事がありまして……」
「別にあんなん頼らなくても、スマホでググりゃ良いだろうが」
「ぐぐる?」


 ……そこからググらせなければならないのか。


「ググるってのはな、インターネット検索で色んな事を調べる事だよ」
「インターネットで調べても出ないと思います」
「はぁ? 何を聞きたいんだよ?」
「シラユキちゃんに変なアイテムを渡したアーリマンの人の居場所です」
「!」


 確かに、それはググってもどうしようもない。


「その話か……」


 この件に関しては、以前コウメに頼んで、ドゥル子なるアーリマンの人物に話を聞いている。


 結果として、ドゥル子はシラユキの事は全く知らなかった。
 特に思い当たる事も無いとの事。


「……つぅか、お前まだその辺りの事ちゃんと覚えてたんだな」
「その意外過ぎると言わんばかりの表情は心外なんですが」
「いや、だって魔法のパンの時、完全にアーリマンの事を忘れ去ってただろうに」
「アーリマンと言う名称を忘れてただけで、シラユキちゃんに狼藉を働いた人がいるって事は忘れてませんもん!」


 まぁ確かに。
 あの時テレサは「アーリマン」と言う名称自体は忘れていたが、それを思い出した途端にシラユキの件と結び付けていた。
 流石のこの阿呆姫も、大切な友人が巻き込まれた事件をまるっと忘却する事は無いらしい。


「あの……やっぱり、アーリマンの人達とは……その……戦う、んですか……?」
「安心してくださいコウメさん。私は、シラユキちゃんにちょっかいを出した個人に会って話を付けたいだけですから」


 清々しい悪戯小僧の様な印象の巨漢、タルウィタート。
 そしてコウメを介して助けてくれたドゥル子。


 例えそれが一面的要素に過ぎなかったとしても、アーリマンは噂に聞くほど凶悪な存在では無い。
 それはテレサだって理解している。


 テレサはアーリマン全体を敵対視している訳ではない。
 ただ、シラユキを唆したアーリマンとだけは、どうしても直接話がしたいのだろう。


「会って、説得して、反省文を書かせます! あと、悪の組織としての活動も、もっとこう……マイルドな感じにしてもらいます!」
「マイルドな悪の組織的活動ってなんだよ……」
「日がな1日、組織のメンバーでUNO大会をやるとか!」
「なぁ、お前は1度、悪の組織って言葉の意味を考え直した方が良いと思う」
「私達は大体そんな感じでやっていけてるじゃないですか!」


 そりゃあ、この組織が『悪の組織(笑)』だからである。


「……と言うか、説得でどうにかなるモンか?」


 悪としての活動は、アーリマンに取っては生き甲斐みたいなモンだと聞いている。


「その説得術についても、コックリさんに聞いてみるんです!」
「……また神通力の反動でエラい事にならなきゃ良いがな……」








 と言う訳で、例のコックリさんを召喚してみた所、


「ワシらは道徳を重んじると言ったコン」
「特定の個人の居場所なんて教えられるはずが無いワン」
「……………………」
「ああ、そう言えば、前回そんな事を言ってたっけ」


 って言うか狸が綺麗な顔して沈黙を守っているんだがこれは……


「そこを何とかお願いします!」
「ダメなモノはダメだコン」
「いくら友達の頼みと言えど、こればっかりは譲れないワン」
「うぅ……じゃあ、アーリマンの人を説得する方法だけで良いです」
「ふむ、それならば良いだろうコン」
「神通力発動だワン!」
「……ふむふむ。見えたコン!」
「そのアーリマンとやらを見つけ出し、勝負をするワン!」
「勝負、ですか?」


 テレサの復唱に狐と犬が頷く。


「ワシらの神通力が集約した情報によれば、アーリマンと言うのは勝負事……特に遊戯をベースにした博打が好きらしいコン」


 確かに、タルウィタートはノリノリでじゃんけん勝負を提案してきた。


「娯楽に飢えた好奇心の化身。それがアーリマンと言う種族の本質らしいワン」
「故に、不測の事態や珍事に繋がる『欲求任せの衝動的行動』……人の社会では概ね『悪』に分類される行動や思想を愛好しているコン」
「日々の刺激を求めて、悪を助長してるって事か……」


 思想的には、スリルや楽しさを求めて悪戯を繰り返すガキンチョのそれに近いのだろう。
 ただし、その手法や規模が、笑い事で済むガキの悪戯とは次元が違う。


「その本質から、アーリマンは基本的に売られた勝負ケンカは買うコン」
「生命のやり取りでもない限り、どんな条件の勝負だろうと、一時の京楽を求めて勝負を承諾するワン」
「その極小娘の要求を飲ませるための勝負なら、ほぼ9割9分9厘、受けると考えて良いコン」
「どんな勝負をし、どういう結果になるかまでは……不確定要素が多過ぎるから答え切れないワン」
「要するに、あとは貴様ら次第だコン」


 テレサの「反省文の作成、及び活動内容のマイルド化」と言う要求を飲ませる方法。
 そのアーリマンを見つけ出し、この条件を掲げて勝負を挑む。
 そしてコックリさんの神通力による見立て通りなら、そのアーリマンはこの勝負を受けてくれる。
 あとは、どうにかしてその勝負に勝つだけ、か。


「じゃあ、当面の課題はアーリマンの人を見つける事、ですね……」


 それが当面の課題であり、最大の課題とも言えるだろう。


「……ふん。おい極小娘。貴様、何座だコン?」
「はい?」


 唐突な、コックリさんの質問。


「えぇと、乙女座ですけど」
「ふむふむ、だコン」
「ここは一丁、コックリさんらしく占いをしてやるワン」
「占い?」
「乙女座の貴様、今日の夕方18時22分から20時01分の間に、オーロラ商店街南口傍のゲームセンターに行ってみると、悩み事が解決するかも知れないコン!」
「!」
「と言う訳だワン。用が済んだのなら、帰らせてもらうワン」


 それだけ言って、コックリさんは窓から飛び出して行ってしまった。


「今のって……」
「……まぁ、多分そういう事だろうな」


 友達と認めているテレサ達へ、ちょっとイケないサービスと言った所か。
 コックリさん自身の口からは、個人情報に関係する事は教える事ができない。
 だから、「コックリさん以外のツテからテレサの望む情報を得る術」を教えてくれたのだろう。
 コックリさんの指定した日時、場所。そこに向かえば、何らかの情報が得られる。


「行ってみっか……オーロラ商店街」
「はい!」



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