悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~
R00,ダークヒーローとの出会い(前日談)
平和な平和な国、ナスタチウム王国。
その王城の廊下を、ぷんすか不機嫌そうに歩く1人の少女。
テレサ・リリィ・ナスタチウム。この国のお姫様である。
その容姿はランドセルを背負っていてもおかしくない程に幼気が残っているが、実はきっちり義務教育を受け終えた年齢だったりする。
「本当にお父様はなんにもわかってないです! 大っ嫌いですよ、もう!」
テレサの父、つまりは王様だ。
「……私に取って魔法は、お母様との繋がりなのに……!」
テレサは母譲りで魔法が使える。
今は亡き彼女の母は、その魔法の才能を褒めてくれた。
テレサに取って魔法とは、亡き母との思い出に深く結びつく存在である。
しかし、彼女の父、国王はそれを否定した。
「魔法は魔族や魔獣が使うイメージが強いモノ、王族としては、使うのを控えるべきだ」と。
なのでテレサはご立腹である。
「大体なんですか! 魔族と王族が同じ事して何が駄目なんですか! 意味がわかりません!」
「おうおう、何かむくれてんなぁ、テレサ」
「! ヴェルグ兄様」
不意にテレサの声に答えた人物、それは、王城の雰囲気にはミスマッチにも程がある出で立ちの青年。
手入れ不足な長髪を雑に束ね、薄ら無精髭も生えている。灰色のダボ付いたスウェットがよく似合う。
そんな無気力の塊の様な外見のこの青年、実はこの国の第2王子である。
名前はヴェルグ・セイクリッド・ナスタチウム。テレサとは10歳以上も歳が離れた実兄だ。
「お部屋から出てるなんて、珍しいですね」
「俺だってたまにゃあ日光が恋しくなるんだぜ」
「でも、兄様が出てくるなんて事態……雨が降るのでは?」
「ああ、確かに雲行きが怪しくなってきたなぁ」
窓の外、「異常気象では無いか」と思える程の速度で暗雲が空を蹂躙していく。
俺と太陽は織姫と彦星だなぁ、と軽くつぶやき、ヴェルグがやる気の無い微妙な笑みを浮かべた。
「で、何にそんな怒ってんだよ? 久々に顔を合わせたんだ、お兄様らしく相談くらいは乗ってやるぜ」
「本当ですか? ……にしても、お互い毎日城にいるのに、久々に顔を合わせると言うのも不思議な感覚ですね」
「ああ、ホント不思議だな」
とりあえず、テレサはプンスカしていた経緯をヴェルグに説明。
「あー……まぁ、古くせぇ認識ではあるが、魔族ってのは蛮族の代表格みたいなモンだからなぁ。王族の体面どうこうあんだろう」
「魔族はそんな悪い人達じゃないですよう! デビ子さんとか超良い人ですよ!」
「この手の偏見ってのは根が深いんだよ。魔族って言えば悪神族とかも含まれるしな」
「ありま……?」
「とにかく、旧い人間なら、魔族って聞いただけでちょっと身構えちまうモンなんだ」
「そんなのおかしいです!」
「偏見だ差別ってのはおかしいモンだよ。どっかが狂ってるからそうなる」
「じゃあ、やっぱりお父様の言ってる事は間違ってるじゃないですか!」
「まぁ、その通りだぜ。でもな、親父殿も立場ってモンがあんだ。そこはわかってやれよ」
魔族への偏見は捨てるべきもの。それはここ最近の風潮だ。
その風潮が浸透し、最近の若者達の間では、そもそもそういう偏見がある事すら知らない世代も増えて来ている。
だが、未だその偏見を捨てられずにいる国民も一定数いると言うのが現状だ。
王としてはそういう人々に配慮し、王族が無闇に魔法を使うのはどうかと苦言を呈さざるを得ないのだろう。
「お前の気持ちもわかるけどよ。親父殿だって意地悪したくて言ってる訳じゃねぇんだ。そう嫌ってやるな」
「うー……理屈はなんとなくわかりますが、やっぱり納得いきません」
「まぁ、多少は良いんじゃねぇの。不満な事は不満に思って。子供の内から『そういうものだから仕方無い』なんて達観してちゃあ気持ち悪いぜ」
子供はそれで良い。ただ、大人には大人の事情があると言う事は知っておけ。
とヴェルグは言いたい訳だ。
「子供って……私もうすぐ16ですよ!」
「16はまだ子供だろ」
「法的には結婚できるから大人です!」
「へぇ、それくらいは知ってたか。賢くなったな。偉いぞテレサ」
「えへへ、そりゃもう私は16歳ですから!」
褒められて照れ笑いするその姿はまだまだ立派な子供だな……とヴェルグは呆れ笑いを浮かべる。
「……でもやっぱり、大人な私でもこの件は承服しかねるんです」
「うーむ……」
王の言い分もテレサの言い分も理解できるヴェルグとしては、これ以上は何も言えそうにない。
「……そうだ、テレサ。解消が難しいモヤモヤを抱えた時は気分を変えんのが1番良い」
やや面倒くさくなって来たヴェルグは、もうこの話題終わらせちまおうと逃げの決断を下した。
「付いて来いよ。良いモン貸してやる」
「良いものですか?」
「ああ、ネット上で空前のブームが来てる最高に熱い漫画だ。きっとお前も気に入るぜ」
「漫画……どんなのですか?」
テレサはあまり漫画を読んだ事が無い。
「いわゆるダークヒーロー物だ」
「ダークヒーロー?」
「筋を通す悪。自分が善だろうが悪だろうが、自分の信念を貫いて戦い抜く、孤高のヒーローって奴だ。痺れるぜ」
「……? よくわかんないです」
「ま、とにかく読んでみりゃわかるって。絶対お前、読みながら『かっこいいです!』って騒ぎだすぜ」
「えー……?」
私はそんなに単純じゃないですよ? とか何とか言いつつ、気になるので漫画は借りる事にした。
この後、テレサはこの漫画にがっつり影響され、ダークヒーローを目指し悪の組織(笑)を結成する事になる。
その王城の廊下を、ぷんすか不機嫌そうに歩く1人の少女。
テレサ・リリィ・ナスタチウム。この国のお姫様である。
その容姿はランドセルを背負っていてもおかしくない程に幼気が残っているが、実はきっちり義務教育を受け終えた年齢だったりする。
「本当にお父様はなんにもわかってないです! 大っ嫌いですよ、もう!」
テレサの父、つまりは王様だ。
「……私に取って魔法は、お母様との繋がりなのに……!」
テレサは母譲りで魔法が使える。
今は亡き彼女の母は、その魔法の才能を褒めてくれた。
テレサに取って魔法とは、亡き母との思い出に深く結びつく存在である。
しかし、彼女の父、国王はそれを否定した。
「魔法は魔族や魔獣が使うイメージが強いモノ、王族としては、使うのを控えるべきだ」と。
なのでテレサはご立腹である。
「大体なんですか! 魔族と王族が同じ事して何が駄目なんですか! 意味がわかりません!」
「おうおう、何かむくれてんなぁ、テレサ」
「! ヴェルグ兄様」
不意にテレサの声に答えた人物、それは、王城の雰囲気にはミスマッチにも程がある出で立ちの青年。
手入れ不足な長髪を雑に束ね、薄ら無精髭も生えている。灰色のダボ付いたスウェットがよく似合う。
そんな無気力の塊の様な外見のこの青年、実はこの国の第2王子である。
名前はヴェルグ・セイクリッド・ナスタチウム。テレサとは10歳以上も歳が離れた実兄だ。
「お部屋から出てるなんて、珍しいですね」
「俺だってたまにゃあ日光が恋しくなるんだぜ」
「でも、兄様が出てくるなんて事態……雨が降るのでは?」
「ああ、確かに雲行きが怪しくなってきたなぁ」
窓の外、「異常気象では無いか」と思える程の速度で暗雲が空を蹂躙していく。
俺と太陽は織姫と彦星だなぁ、と軽くつぶやき、ヴェルグがやる気の無い微妙な笑みを浮かべた。
「で、何にそんな怒ってんだよ? 久々に顔を合わせたんだ、お兄様らしく相談くらいは乗ってやるぜ」
「本当ですか? ……にしても、お互い毎日城にいるのに、久々に顔を合わせると言うのも不思議な感覚ですね」
「ああ、ホント不思議だな」
とりあえず、テレサはプンスカしていた経緯をヴェルグに説明。
「あー……まぁ、古くせぇ認識ではあるが、魔族ってのは蛮族の代表格みたいなモンだからなぁ。王族の体面どうこうあんだろう」
「魔族はそんな悪い人達じゃないですよう! デビ子さんとか超良い人ですよ!」
「この手の偏見ってのは根が深いんだよ。魔族って言えば悪神族とかも含まれるしな」
「ありま……?」
「とにかく、旧い人間なら、魔族って聞いただけでちょっと身構えちまうモンなんだ」
「そんなのおかしいです!」
「偏見だ差別ってのはおかしいモンだよ。どっかが狂ってるからそうなる」
「じゃあ、やっぱりお父様の言ってる事は間違ってるじゃないですか!」
「まぁ、その通りだぜ。でもな、親父殿も立場ってモンがあんだ。そこはわかってやれよ」
魔族への偏見は捨てるべきもの。それはここ最近の風潮だ。
その風潮が浸透し、最近の若者達の間では、そもそもそういう偏見がある事すら知らない世代も増えて来ている。
だが、未だその偏見を捨てられずにいる国民も一定数いると言うのが現状だ。
王としてはそういう人々に配慮し、王族が無闇に魔法を使うのはどうかと苦言を呈さざるを得ないのだろう。
「お前の気持ちもわかるけどよ。親父殿だって意地悪したくて言ってる訳じゃねぇんだ。そう嫌ってやるな」
「うー……理屈はなんとなくわかりますが、やっぱり納得いきません」
「まぁ、多少は良いんじゃねぇの。不満な事は不満に思って。子供の内から『そういうものだから仕方無い』なんて達観してちゃあ気持ち悪いぜ」
子供はそれで良い。ただ、大人には大人の事情があると言う事は知っておけ。
とヴェルグは言いたい訳だ。
「子供って……私もうすぐ16ですよ!」
「16はまだ子供だろ」
「法的には結婚できるから大人です!」
「へぇ、それくらいは知ってたか。賢くなったな。偉いぞテレサ」
「えへへ、そりゃもう私は16歳ですから!」
褒められて照れ笑いするその姿はまだまだ立派な子供だな……とヴェルグは呆れ笑いを浮かべる。
「……でもやっぱり、大人な私でもこの件は承服しかねるんです」
「うーむ……」
王の言い分もテレサの言い分も理解できるヴェルグとしては、これ以上は何も言えそうにない。
「……そうだ、テレサ。解消が難しいモヤモヤを抱えた時は気分を変えんのが1番良い」
やや面倒くさくなって来たヴェルグは、もうこの話題終わらせちまおうと逃げの決断を下した。
「付いて来いよ。良いモン貸してやる」
「良いものですか?」
「ああ、ネット上で空前のブームが来てる最高に熱い漫画だ。きっとお前も気に入るぜ」
「漫画……どんなのですか?」
テレサはあまり漫画を読んだ事が無い。
「いわゆるダークヒーロー物だ」
「ダークヒーロー?」
「筋を通す悪。自分が善だろうが悪だろうが、自分の信念を貫いて戦い抜く、孤高のヒーローって奴だ。痺れるぜ」
「……? よくわかんないです」
「ま、とにかく読んでみりゃわかるって。絶対お前、読みながら『かっこいいです!』って騒ぎだすぜ」
「えー……?」
私はそんなに単純じゃないですよ? とか何とか言いつつ、気になるので漫画は借りる事にした。
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