悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~
第36話 グリ(ム)とグラ①
誰もが、きっと、望まれてこの世に生を受ける。
俺様も、きっとそうだった。
卵の殻を破る、その時までは。
外気に触れたその瞬間から、俺様はあらゆる生物の『敵』と見なされた。
別に、何かをした訳じゃない。
そうなりたいと俺様が望んだ訳でもない。
ただ、そういう風に、生まれてきた。
そんな俺様が、生まれて最初に見た光景。
それは、俺様を殺そうと牙を剥く、つがいのドラゴン。
両親すら、本能的に俺様を排除すべき対象と判断したのだろう。
でも、俺様は君臨した。
例え同種だろうと、殺せる。でも殺す意味が無い。
だから、あらゆる者達を、生まれ持った力で押さえつけた。
歯向かう者を叩き潰し、なお立ち上がるのを待ち、また潰す。
その作業は、何故かとても楽しく感じた。
そうして俺様は、同種達と手近な生物達を、圧倒的恐怖で支配した。
いつしか、俺様に恐怖すると同時に憧れる者達が現れた。
俺様に歯向かう者は、いなくなった。
そこら辺で、俺様は気付く。
つまらねぇ、と。
しばらくして、人間という生き物が世界に台頭してきた。
奴らは、俺様に歯向かってきた。
久々に、何かが疼き、そこからの数万年は余り退屈はしなかった。
しかしそれも終わる。
やがて、流石の俺様にも寿命という物が訪れる。
それを俺様は察した。
このままでいいのか。
暗い巣穴で横たわり、倦怠の中、奈落へと沈み、消えるのか。
そこで俺様は思い出した。
昔感じた「楽しさ」と、ある人間のオスの言葉を。
暗い。
ここは、どこだ。
俺様は、死んだはずだ。
声が、出し辛い。
意識がフラフラする。
何だろう、異常に腹も減っている。
「俺、様は……一体……」
「あなたは、『王』の残照……いいえ、闇その物の様なあなたを、日に例えるのもおかしな話ですね」
「何……だ、テ、メェは」
小さい、人間の女だ。
地面に届きそうな程に伸びた金髪には、ふんわりとしたウェーブがかかり、とても柔らかそうに見える。
だが、俺様の『声』を聞いても平然としている辺り、ただの人間では無い。
「私は、『偉大なる精霊の女王』」
「グ、ラ?」
「まぁ、長いのならそう略称していただいて構いません。さて、これをどうぞ」
「……何、だ、そ…りゃあ……」
「キャンディです。私のおやつですが、差し上げましょう」
「はぁ……?」
「お腹、空いてるんでしょう?見てわかります」
……確かに、腹は減っている。
「……ん、な…事よ、り……ここぁ…どこだ……?」
人間サイズのキャンディなんぞ腹の足しにもならないが、一応口に放置込み、俺様は問う。
「ここは私の森。その最深部。生命の還る場所」
「生、命の……還る、場所?」
「ええ。肉体が朽ち、野へ放たれた全ての生命は、この森に溶け、転生の時を待ちます」
「…………」
「まぁ、たまに、死した魂の残り滓の塊……いわゆる亡霊が生まれたりもしますがね。あなたの様に」
「……はっ……こ、の俺様を、残り滓扱い、か……」
まぁ、納得はした。
ヤケに体が軽いし、落ち着かない。
それに薄々体躯も縮んでいる気はしていた。
「亡霊化した者は、『天界』の者に任せる事になっているのですが……あなたは少し、『力』が強すぎますね」
「……まぁ、…生まれ、つき……それ、が売、りみたいなモ、ンだか、らな……一辺死、のうが、俺様は、俺様、って事、だ」
「……死してなお……いいえ、死したからこそ余計に。むき出しのその魂は周囲を害してしまう様ですね。あなたの意思に関わらず」
亡霊になってもなお、あらゆる者に疎まれる。
もう何か逆に笑えてくる。
「天界行きは、少し考えた方が良さそうですね。ひとまず、『器』を用意しますので、その中に」
「そのあ、と……俺様は、ど、うなる?」
「そうですねぇ…………」
精霊の女王を名乗った少女は、笑った。
俺様が生きた数十万年の中、1度も見た事の無い表情を、少女は見せた。
「私と暮らしましょう。丁度、お一人様状態に飽き飽きしていた所です」
そう、きっと、こういうのを「陽だまりの様な笑顔」と言うのだろう。
俺様も、きっとそうだった。
卵の殻を破る、その時までは。
外気に触れたその瞬間から、俺様はあらゆる生物の『敵』と見なされた。
別に、何かをした訳じゃない。
そうなりたいと俺様が望んだ訳でもない。
ただ、そういう風に、生まれてきた。
そんな俺様が、生まれて最初に見た光景。
それは、俺様を殺そうと牙を剥く、つがいのドラゴン。
両親すら、本能的に俺様を排除すべき対象と判断したのだろう。
でも、俺様は君臨した。
例え同種だろうと、殺せる。でも殺す意味が無い。
だから、あらゆる者達を、生まれ持った力で押さえつけた。
歯向かう者を叩き潰し、なお立ち上がるのを待ち、また潰す。
その作業は、何故かとても楽しく感じた。
そうして俺様は、同種達と手近な生物達を、圧倒的恐怖で支配した。
いつしか、俺様に恐怖すると同時に憧れる者達が現れた。
俺様に歯向かう者は、いなくなった。
そこら辺で、俺様は気付く。
つまらねぇ、と。
しばらくして、人間という生き物が世界に台頭してきた。
奴らは、俺様に歯向かってきた。
久々に、何かが疼き、そこからの数万年は余り退屈はしなかった。
しかしそれも終わる。
やがて、流石の俺様にも寿命という物が訪れる。
それを俺様は察した。
このままでいいのか。
暗い巣穴で横たわり、倦怠の中、奈落へと沈み、消えるのか。
そこで俺様は思い出した。
昔感じた「楽しさ」と、ある人間のオスの言葉を。
暗い。
ここは、どこだ。
俺様は、死んだはずだ。
声が、出し辛い。
意識がフラフラする。
何だろう、異常に腹も減っている。
「俺、様は……一体……」
「あなたは、『王』の残照……いいえ、闇その物の様なあなたを、日に例えるのもおかしな話ですね」
「何……だ、テ、メェは」
小さい、人間の女だ。
地面に届きそうな程に伸びた金髪には、ふんわりとしたウェーブがかかり、とても柔らかそうに見える。
だが、俺様の『声』を聞いても平然としている辺り、ただの人間では無い。
「私は、『偉大なる精霊の女王』」
「グ、ラ?」
「まぁ、長いのならそう略称していただいて構いません。さて、これをどうぞ」
「……何、だ、そ…りゃあ……」
「キャンディです。私のおやつですが、差し上げましょう」
「はぁ……?」
「お腹、空いてるんでしょう?見てわかります」
……確かに、腹は減っている。
「……ん、な…事よ、り……ここぁ…どこだ……?」
人間サイズのキャンディなんぞ腹の足しにもならないが、一応口に放置込み、俺様は問う。
「ここは私の森。その最深部。生命の還る場所」
「生、命の……還る、場所?」
「ええ。肉体が朽ち、野へ放たれた全ての生命は、この森に溶け、転生の時を待ちます」
「…………」
「まぁ、たまに、死した魂の残り滓の塊……いわゆる亡霊が生まれたりもしますがね。あなたの様に」
「……はっ……こ、の俺様を、残り滓扱い、か……」
まぁ、納得はした。
ヤケに体が軽いし、落ち着かない。
それに薄々体躯も縮んでいる気はしていた。
「亡霊化した者は、『天界』の者に任せる事になっているのですが……あなたは少し、『力』が強すぎますね」
「……まぁ、…生まれ、つき……それ、が売、りみたいなモ、ンだか、らな……一辺死、のうが、俺様は、俺様、って事、だ」
「……死してなお……いいえ、死したからこそ余計に。むき出しのその魂は周囲を害してしまう様ですね。あなたの意思に関わらず」
亡霊になってもなお、あらゆる者に疎まれる。
もう何か逆に笑えてくる。
「天界行きは、少し考えた方が良さそうですね。ひとまず、『器』を用意しますので、その中に」
「そのあ、と……俺様は、ど、うなる?」
「そうですねぇ…………」
精霊の女王を名乗った少女は、笑った。
俺様が生きた数十万年の中、1度も見た事の無い表情を、少女は見せた。
「私と暮らしましょう。丁度、お一人様状態に飽き飽きしていた所です」
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