悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~
第20話 月より団子(月見)
夕方。
魔地悪威絶商会オフィス。
『今晩から明日朝にかけては雲1つ無い快晴! 綺麗なお月様が見えますよ。彼女と月見して、いい雰囲気になったら「今度は君の2つの満月で、三日月並に反り返った俺のナニを…』
ピッ。
「あ、何でチャンネル変えるんですかガイアさん」
「今の人、何か言おうとしてたのに」
「……もうあのアナウンサーが出てる番組は見るな」
あいつはPTAが恐く無いのか。
そろそろ干されるなり吊るし上げられるなりされても良い頃だと思うのだが。
「それにしてもお月見ですか……今日は皆でお月見しましょう!」
「アシリア、月見るの好き」
「そんな面白いモンでもねぇだろ?」
花見と一緒だ。
楽しみのメインは月より飲み食いの方。
「月見てると、こう胸の奥がふわふわしてきて、雄叫びあげる。何か楽しい」
「狼男かお前は」
「アシリアは女」
そういえば狼男の女版って何て言うんだろうか。
ガイアがそんな事を考えていると、テレサが何かを思い出した様に声をあげた。
「あ、ガイアさんアシリアちゃん、知ってますか? お月様の模様って、よく見ると兎さんがお餅を突いてる様に見えるらしいんですよ!」
「あーよく言ってるけど、本当にそう見えるかあれ?」
「月の兎って、餅突くの?」
アシリアは少し考え込む。
「月の兎、お得」
「何がだよ?」
「その兎捕まえたら、兎のお肉とお餅が一緒に手に入る」
「そんな狩人的角度から月を見るな」
流石元野生児だ。
「アシリア、俄然月に行きたくなってきた」
「あのな、月の模様がそう見えるだけであって、月に兎はいないぞ」
それ以前に餅をつく兎なんてのも、ガイアが知る限りいない。
「え、いないんですか!?」
「お前、さっき自分で『月の模様がそう見えるだけ』って言っただろ」
「あれは『月で餅つきなう』っていう兎さんからのメッセージだって、死んだ母が…」
「つぶやき感覚で衛星の模様を変えられてたまるか!」
どうやらテレサの母もテレサに良く似てアレだった様だ。
「うぅ、ちょっとショックです……」
「アシリアもがっかり」
残念のベクトルは大分違うが、2人揃って肩を落とす。
「……で、本当に月見すんのか?」
「ええ、それはやります!」
「じゃあ団子でも買ってくるか……」
「私も行きます」
「……何でだよ」
「最近、そこの団子屋さんが新商品として激辛団子を出したと聞きました……ガイアさん1人に任せたら、私にそれ買ってくるでしょ?」
「……チッ」
「ほらやっぱり!」
前回のチョコで少しは学習しやがった様だ。
『失神する程では無いが、決してタダではすまない。絶倒必至』
そんな悪戯心を全力でくすぐる素敵キャッチフレーズでテレビにも取り上げられた一品。
是非ともテレサにはリアクションを見せて欲しかったのだが……諦めるしか無い様だ。
という訳でアシリアに留守番を頼み、ガイアとテレサは団子屋へと向かった。
チャンネルはあのアナウンサーが出てない番組に合わせ、リモコンは隠したし、大丈夫だろう。
「いいですかガイアさん、絶対激辛団子は買いませんよ!」
「お前もどんだけねだったって玩具は買ってやらんぞ」
「ねだりませんから! 子供扱いしないでください!」
「へいへい…おし、着い…」
団子屋はそんなに遠くも無いので、すぐに到着した、が、
「あら、あなた達は、いつぞやの魔法使いさんと部下の方」
見覚えのある人物が、団子を購入していた。
「あ、デレラさん、お久しぶりです」
「おお、確かに久しぶりだ」
その女性は、以前とあるネズミの依頼でガイア達と関わりを持った女性、シンデレラ。
彼女の特筆点は……
「…あの時はごめんなさいね、せっかく結婚のお世話してくれたのに」
「いえいえ、兄様に至らない所があったのなら、仕方無いんです。結婚はお互いの合意の上じゃなきゃ」
「そう言わず、私をぶってくれても良いんですよ? むしろこっちからお願いしてもいいですか?」
「え、遠慮します」
天性のドM、という事。
「と、ところでデレラさん、何でこんな所に?」
「当然、噂の激辛団子で悶絶するために!」
「まぁ大体予想は着いてたが……」
ブレないドM感だ。
「つぅかそんな大量に…胃荒れるぞ」
シンデレラの持つ紙袋はパンパンに膨れ上がっている。
「それはそれで歓迎ですけど、これはお義姉様とお義母様の分もあるんです」
「え、皆で激辛食べるんですか?」
「いいえ、食べていただくんです」
シンデレラは少しうつ向き気味になり、
「最近、皆私への責めが甘くなっていて……」
それはそんな残念そうに言う事じゃないだろう。普通。
「という訳で、この激辛団子を不意打ちに食べさせて、私への憎しみの炎に油を注ぐんです! カムバック刺激的日常作戦、です!」
「勢い余って殺されない様にな……」
「はい、死んでしまったら、この快感をもう楽しめないですもんね!」
本当に筋金入りだこの人。
これからの未来に期待しながら、ルンルン気分で帰っていくシンデレラ。
「まぁ、当人は幸せそうで何よりだ」
「ですね、少し私には理解できない境地みたいですけど」
人の趣味にとやかく言う権限は無い。そっとしておこう。
「よし、じゃあ俺らも団子買うか」
「はい。念を押しますが、絶対激辛はダメですよ」
「はいはい。あ、すみません、こいつにこの激苦大福を…」
「思わぬ伏兵!? ダメです! それもダメです!」
「うるせぇな…じゃあこっちのハッピーセット的な奴を…」
「子供扱いもダメです! ……あ、でもこのゼンマイ猫さんちょっと……はっ! 違います! 断じて欲しく無いです!」
「……欲しいのか?」
「…………………でも、欲しいって言ったらガイアさん絶対馬鹿にしますよね?」
テレサがチラチラと視線を送っているのは、ゼンマイを巻くと手が動く仕組みらしい招き猫的なゼンマイ人形。
彼女の反応を見るに、かなり欲しい様だ。
「…………」
「…………」
「……別に、馬鹿にしねぇよ」
「え、本当ですか!?」
「ああ。安心しろ」
「じゃあこの猫さん欲しいです!」
「はいはい」
イジられるのが嫌だからなんて理由で、本当に欲しい物を我慢されては、イジる側としても気分が悪い。
こっちは別に嫌がらせをしたい訳では無く、あくまでテレサをイジってその大騒ぎを見たいだけなのだから。
今回は、特別に見逃してやろう。
魔地悪威絶商会オフィス。
『今晩から明日朝にかけては雲1つ無い快晴! 綺麗なお月様が見えますよ。彼女と月見して、いい雰囲気になったら「今度は君の2つの満月で、三日月並に反り返った俺のナニを…』
ピッ。
「あ、何でチャンネル変えるんですかガイアさん」
「今の人、何か言おうとしてたのに」
「……もうあのアナウンサーが出てる番組は見るな」
あいつはPTAが恐く無いのか。
そろそろ干されるなり吊るし上げられるなりされても良い頃だと思うのだが。
「それにしてもお月見ですか……今日は皆でお月見しましょう!」
「アシリア、月見るの好き」
「そんな面白いモンでもねぇだろ?」
花見と一緒だ。
楽しみのメインは月より飲み食いの方。
「月見てると、こう胸の奥がふわふわしてきて、雄叫びあげる。何か楽しい」
「狼男かお前は」
「アシリアは女」
そういえば狼男の女版って何て言うんだろうか。
ガイアがそんな事を考えていると、テレサが何かを思い出した様に声をあげた。
「あ、ガイアさんアシリアちゃん、知ってますか? お月様の模様って、よく見ると兎さんがお餅を突いてる様に見えるらしいんですよ!」
「あーよく言ってるけど、本当にそう見えるかあれ?」
「月の兎って、餅突くの?」
アシリアは少し考え込む。
「月の兎、お得」
「何がだよ?」
「その兎捕まえたら、兎のお肉とお餅が一緒に手に入る」
「そんな狩人的角度から月を見るな」
流石元野生児だ。
「アシリア、俄然月に行きたくなってきた」
「あのな、月の模様がそう見えるだけであって、月に兎はいないぞ」
それ以前に餅をつく兎なんてのも、ガイアが知る限りいない。
「え、いないんですか!?」
「お前、さっき自分で『月の模様がそう見えるだけ』って言っただろ」
「あれは『月で餅つきなう』っていう兎さんからのメッセージだって、死んだ母が…」
「つぶやき感覚で衛星の模様を変えられてたまるか!」
どうやらテレサの母もテレサに良く似てアレだった様だ。
「うぅ、ちょっとショックです……」
「アシリアもがっかり」
残念のベクトルは大分違うが、2人揃って肩を落とす。
「……で、本当に月見すんのか?」
「ええ、それはやります!」
「じゃあ団子でも買ってくるか……」
「私も行きます」
「……何でだよ」
「最近、そこの団子屋さんが新商品として激辛団子を出したと聞きました……ガイアさん1人に任せたら、私にそれ買ってくるでしょ?」
「……チッ」
「ほらやっぱり!」
前回のチョコで少しは学習しやがった様だ。
『失神する程では無いが、決してタダではすまない。絶倒必至』
そんな悪戯心を全力でくすぐる素敵キャッチフレーズでテレビにも取り上げられた一品。
是非ともテレサにはリアクションを見せて欲しかったのだが……諦めるしか無い様だ。
という訳でアシリアに留守番を頼み、ガイアとテレサは団子屋へと向かった。
チャンネルはあのアナウンサーが出てない番組に合わせ、リモコンは隠したし、大丈夫だろう。
「いいですかガイアさん、絶対激辛団子は買いませんよ!」
「お前もどんだけねだったって玩具は買ってやらんぞ」
「ねだりませんから! 子供扱いしないでください!」
「へいへい…おし、着い…」
団子屋はそんなに遠くも無いので、すぐに到着した、が、
「あら、あなた達は、いつぞやの魔法使いさんと部下の方」
見覚えのある人物が、団子を購入していた。
「あ、デレラさん、お久しぶりです」
「おお、確かに久しぶりだ」
その女性は、以前とあるネズミの依頼でガイア達と関わりを持った女性、シンデレラ。
彼女の特筆点は……
「…あの時はごめんなさいね、せっかく結婚のお世話してくれたのに」
「いえいえ、兄様に至らない所があったのなら、仕方無いんです。結婚はお互いの合意の上じゃなきゃ」
「そう言わず、私をぶってくれても良いんですよ? むしろこっちからお願いしてもいいですか?」
「え、遠慮します」
天性のドM、という事。
「と、ところでデレラさん、何でこんな所に?」
「当然、噂の激辛団子で悶絶するために!」
「まぁ大体予想は着いてたが……」
ブレないドM感だ。
「つぅかそんな大量に…胃荒れるぞ」
シンデレラの持つ紙袋はパンパンに膨れ上がっている。
「それはそれで歓迎ですけど、これはお義姉様とお義母様の分もあるんです」
「え、皆で激辛食べるんですか?」
「いいえ、食べていただくんです」
シンデレラは少しうつ向き気味になり、
「最近、皆私への責めが甘くなっていて……」
それはそんな残念そうに言う事じゃないだろう。普通。
「という訳で、この激辛団子を不意打ちに食べさせて、私への憎しみの炎に油を注ぐんです! カムバック刺激的日常作戦、です!」
「勢い余って殺されない様にな……」
「はい、死んでしまったら、この快感をもう楽しめないですもんね!」
本当に筋金入りだこの人。
これからの未来に期待しながら、ルンルン気分で帰っていくシンデレラ。
「まぁ、当人は幸せそうで何よりだ」
「ですね、少し私には理解できない境地みたいですけど」
人の趣味にとやかく言う権限は無い。そっとしておこう。
「よし、じゃあ俺らも団子買うか」
「はい。念を押しますが、絶対激辛はダメですよ」
「はいはい。あ、すみません、こいつにこの激苦大福を…」
「思わぬ伏兵!? ダメです! それもダメです!」
「うるせぇな…じゃあこっちのハッピーセット的な奴を…」
「子供扱いもダメです! ……あ、でもこのゼンマイ猫さんちょっと……はっ! 違います! 断じて欲しく無いです!」
「……欲しいのか?」
「…………………でも、欲しいって言ったらガイアさん絶対馬鹿にしますよね?」
テレサがチラチラと視線を送っているのは、ゼンマイを巻くと手が動く仕組みらしい招き猫的なゼンマイ人形。
彼女の反応を見るに、かなり欲しい様だ。
「…………」
「…………」
「……別に、馬鹿にしねぇよ」
「え、本当ですか!?」
「ああ。安心しろ」
「じゃあこの猫さん欲しいです!」
「はいはい」
イジられるのが嫌だからなんて理由で、本当に欲しい物を我慢されては、イジる側としても気分が悪い。
こっちは別に嫌がらせをしたい訳では無く、あくまでテレサをイジってその大騒ぎを見たいだけなのだから。
今回は、特別に見逃してやろう。
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