悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

第04話 愛娘は可愛くて(愛)

 バカみたいに広く、いちいち絢爛豪華な王の城。


 玉座の間には、当然、堂々と玉座に座す国王、エドワードがいる。
 立派な髭を蓄え、鍛え上げられた肉体も相まって「ヒグマの様な大男」という感じに仕上がっている。


「なぁチャールズ」
「何でしょうか、父上」


 そのエドワードの前に跪くのは、彼の息子、要するに王子なチャールズ。
 父とは似ず、優形なハンサム系の好青年だ。


 その謁見を見守るのは、数人の臣下。


「由々しき事態だ」
「…………!」


 普段は見た目に反して非常に軽いノリのエドワードが、暗い面持ちで口を開く。


 そんないつもと違う父の様子に、チャールズは若干の緊張を覚えた。
 見守っていた臣下や衛兵達も息を飲む。


 まさか、国を揺るがすような事件が水面下で進行しているとでも言うのか。


 そんな、非常に重苦しい緊張感。




 ……しかし、


「……最近、テレサが構ってくれない」
「…………は、はぁ」


 その場にいたエドワード以外の全員が、余りの肩透かし具合にズッコケそうになる。


 テレサとは、エドワードの娘。要するにお姫様だ。
 末っ子だし、子共達の中で唯一の女の子だしで、もう父としては、こう、構ってくれないと寂しい。
 エドワード的にはもう大事件なのである。


「……ウィリアム兄さんと言い、父上と言い……」


 愛されてるなーテレサ、とチャールズは溜息を付く。


「やっぱアレかなぁ……魔法の事をとやかく言ったのが不味かったかなぁ……」
「うわっ、それは不味いですよ父上。テレサはあの魔法の力をすごく大切に思っています。母上との思い出だと」


 今は亡き王妃は、テレサに宿る魔法の力を褒め称えた。
 テレサに取って、魔法は、幼い頃に母と笑って過ごした日々に深く関わる物なのだ。その魔法に多少でもケチをつければ、そりゃあ不機嫌にもなるだろう。


「……だって……」


 エドワードはワナワナと震え、そして泣き出しそうな震えた声で叫ぶ。


「魔法で何でも出来る子になったら、ワシの事頼ってくれないじゃん!」


 魔法は魔族とかが使う物というイメージが強い。王族らしくない。
 そんなん、ただの建前だ。ぶっちゃけ、エドワードは全然王族が魔法使っててもいいとは思う。というか実際、王妃は魔法が使えた。
 でも娘の自立が加速するだけなので、あれこれ言って魔法を使わせまいとしていたのだ。


「……少しは娘離れしてください」
「うるさい! 独身童貞の貴様に父親の苦悩の何がわかる!」
「っ、テメェこのクソ親父! 世の中には言っていい事と悪い事があんぞコラァッ!」
「やんのか息子テメェコラ!」
「上等だよクーデター起こしたらぁ!」


 迷わず剣を抜くチャールズ。
 拳を構えるエドワード。


「落ち着いてください王様! チャールズ様もそんな軽い気持ちで剣を抜かないでください! あ、しかもそれ対竜兵装じゃないですか!」
「うっせぇ臣下その1ぃ! 王子でそこそこイケメンなのに何故かモテない俺の苦悩がテメェにわかるか!?」
「臣下なのでわかりません! それとその1では無くダニエルです! っていうか落ち着いてください!」
「つぅかマジで何で!? 社会的地位も見た目も完璧だろうが!? 見目麗しいだろうが! 役満だろうがぁぁぁ! 寄ってこいよ町娘!」
「情緒が不安定過ぎるんですよ! あなたに限らずこの国の王族ほぼ全員!」


 ちょっと天然なおっとり王妃に似たテレサ以外、王族みんなこんな感じなので、臣下も衛兵も毎日苦労が絶えない。


 現に「近親戦争だコラ!」と騒ぐ王様と王子を押さえ付けて落ち着かせるのに、臣下と衛兵はかなり手間を取られている。
 エドワードは普段から鍛えているだけあって尚の事タチが悪い。


「はぁ、はぁ、……ふう」


 しばらくして、ようやく落ち着いた王様と王子。
 ちょっとはしゃぎ過ぎて暑くなったのだろう、マントを脱ぎ捨てながら、話を戻す。


「とにかく、ワシは寂しいんだ…………特に最近は……何か外にいる時間長いし?お友達でもできたのかねぇ……」
「あれ、父上、知らないんですか?」
「?」


 チャールズは臣下の1人に指示し、何日か前の新聞を持ってこさせる。


「これを」
「何? スポーツ新聞?」
「違いますからエロコーナー探さないでください。一面です一面」
「一面って、大抵どーでもいい経済事とかしか載ってないじゃ……こ、これは……!?」


 臣下達が「王様が自国の経済をどーでもいいって言わんでください!」と叫んでいるが、そんな言葉は耳に入らない。


 一面の見出しは『またしてもお手柄! この魔法少女がやりました!』。


 そして、ピースサインをカメラに向け満面の笑みなテレサの写真が、デカデカと貼り付けられていた。


「な、ななななななななななななななななな……」
「ちょっと前から『ダークヒーローになるんです』って色々やってるみたいで……知らなかったんですか?」


 普通に本人から色々聞いているチャールズ。
 チャールズだけでは無い。兄弟全員知っている。


 臣下や衛兵ですらも普通に新聞で見知って、「姫様がんばってるなぁ」と陰ながら応援している。


 ……どうやらエドワードはテレサにガチ目に敬遠されているのだろう。
 全く知らなかった様だ。


「お前……これ……」
「前からちょくちょく一面に載っていますよ。……まぁ、そう怒らないでやってください父上。テレサに取って、魔法は……」
「か、可愛いっ……! おい臣下その1! ラミネーターを……いや、新聞社に連絡を取れ! この写真をメートル単位で引き伸ばしてここに飾るぞ! 臣下その2! とにかくデッカイ額縁買ってこい! 今すぐにだ!」
「ダニエルです!」
「ブラウンです!」
「ついでに僕はキースです!」
「いいから早く行け! 娘関係の時のワシはすぐキレるぞ!」
「「は、はい!!」」


 またギャーギャー暴れられては面倒くさい。
 すたこらさっさと命令通りに動き始める臣下達。


「はぁああああああああ……可愛い……テレサ可愛いよテレサ……」
(……何かこの父上、気持ち悪いなぁ……)


 若干引き気味の息子なんぞ気にせず、エドワードは食い入る様にテレサの写真を眺めている。


「あぁ…こんな笑顔ワシには全然見せてくれないよ……あぁ、でも可愛い」
「……切ないですね、父上」


 将来娘が生まれたら、絶対に機嫌を損ねない様にしよう。
 チャールズは強くそう思った。







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