悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

第02話 無邪気な凶気(金的)

「……1つ聞いていいか?」
「何ですか?」


 大学の講義を終えたガイア。
 そんなガイアを校門で待ち伏せていたテレサ。


 何でも組織の事務所の準備が整ったから今から行こう! との事。


 そんな訳でやって来たのは3階建ての雑居ビル、なのだが……


「……ビルのてっぺんにすごく頭悪そうな社名が……」


 普通、借りているフロアの辺りに看板は取っ付けるモンだろう。
 少なくともガイアが今まで見てきた事務所ってのはそういう物だ。


「はい。このビル全部我社です!」
「……ちなみに、構成員は?」
「現状あなたと私と私のペット……3人です!」
「デッドスペース満載だな!? つぅかペットを人で数えるな!」
「な、何ですか! この前2人しかいないって言ったら、あからさまに嫌そうな顔したのガイアさんじゃないですか!」
「ペットで水増しするな! あと嫌そうな顔じゃなくて、不安に胸が膨らまされて気分悪くなっただけだ!」


 ガイアはこの組織に入るためにバイトを辞めたのだ。
 この組織がすぐさま倒産、なんて事になっては困る。


 ……でもまぁ、正直ちょっと予想はしていた部分はある。


 あんなスカウトに応じる自称勇者はまずいないだろう。
 テレサも「まともに取り合ってくれたのガイアさんくらいで~」とか言ってた。


「まぁとにかく、中に入りましょう! 中、すごいですよ! 湯水のごとくお金をかけましたから!」
「お前は国民の血税を何だと……」


 テレサはお姫様。つまりこの少女の財力の源は税金である。


「ご安心を。父に頼り続けるの癪だったので、最近自分でお金を作りました」
「どうやって?」
「カジノです。魔法使えばチョロいですよ。こう机の下で指をパチンと…」
「犯罪だ!」
「私達は悪の組織ですよ」
「悪の組織っつっても、ダークヒーローを目指すんだろ!?」
「ガイアさん……時には汚れる事も躊躇わない…それがダークヒーローです」
「汚れ方が薄汚な過ぎるんだよ!」
「むー…そこまで言うのなら仕方ありません。残金はどっかの慈善団体に寄付しておきます」


 せっかく稼いだのになー、とやや不満気なテレサ。
 子供は善悪の概念がイマイチ定まっていないから恐いな、とガイアは溜息。


「……でも、そうすると困りましたね。元が税金である家のお金は抵抗があるんでしょう? 資金はどうしましょう」
「……お前なぁ……こういう時は…そうだな。とりあえず銀行、だな」
「銀行?」
「ああ、銀行マンなら会社のやり繰り云々は詳しいだろ。窓口で色々教えてもらおう」
「良い考えです! 流石ドラゴンいじめの自称勇者!」


 彼女の笑顔を見る限りその気は無いのだろうが、ガイアには貶し言葉にしか聞こえなかった。








 という訳だったのだが……


「おらテメェら! 手を頭の後ろに回して壁際に立ちやがれ!」


 という命令を受け、ガイアとテレサは言われた通りの態勢で壁際にならんでいる。


「……なぁテレサ。ここ銀行だよな」
「看板にブラックキンリバンクって書いてあったじゃ無いですか」
「……銀行ってマシンガン持って来る所だっけ」
「そうなんですか!? 私達そんなの用意してないですよ…! 魔法で出しますか?」
「…………いや、いい」


 ガイアとしては、頭の中の整理を付けたくて口に出してみたのだが、隣にいるのがこの小娘では無駄だった様だ。


 ガイア達の目の前にいるマシンガンを持った男たちは、あれだろう。


 銀行強盗、という奴だろう。


「……どうすれば良いと思う?」
「マドグチっていうので話を聞くんじゃないんですか?」


 ああその通りだ。
 そのために現状をどうすればいいか聞いているのだこの阿呆め。
 ガイアはもう今日何度目かもわからない溜息を吐く。


「テレサ……わかってない様だから言っとくが、アレ強盗だぞ」
「え、マジですか!?」


 流石に強盗は知っている様だ。


「強盗って…お金をくれるか、かなりの悪戯させろって言ってくるあの…」


 一体どこのハロウィンだろうか。収穫祭にしては過激過ぎやしないか。
 いや、まぁある意味当たっているのか?
 とガイアは少し考えるが、そんな無駄な思考を働かせている場合じゃないと気付き、脳内のかぼちゃ共を振り払う。


「そう、とにかくお金を要求する悪い奴らだ」
「じゃあ、ガイアさんの出番ですね!」


 へ? とガイアが目を丸くする。


「だって、自称勇者って事は対竜兵装所持検定準2級以上は持ってるんですよね?」


 対竜兵装所持検定。
 それは3年前から始まった自称勇者のためのアマチュア検定。
 準2級以上だと対竜兵装というすんごい武器の所持、および携帯が許可され、ドラゴンとの戦闘も可能になる。


「まぁ準1級持ってるけど……」
「すごい!」


 ただし、


「その肝心の対竜兵装は…ウチだ」


 免許は持ってるが、物は今持ってない。


「……持ち歩いててくださいよ! 勇者の心得ってモンを忘れたんですか!? 常時我戦闘中とかなんとか!」
「忘れたよ! 俺一応今は普通の大学生だからな!?」


 そんな感じで現状を忘れて騒ぎ出す2人。


 まぁひそひそ話くらいさせてやるか、と2人を放置していた意外と心の広い強盗達も我慢の限界である。


「さっきからギャーギャーうるせぇぞそこの2人!」
「今大事な話中なんですよ!」
「!?」
「この人はウチの構成員として少し自覚が足りてないです! 良いですか!? ダークヒーローなんですよ!? いついかなる時も颯爽と現れて弱きを守る! それが…」
「うっせぇな! 大体あんなごっつい武器を今のご時勢持ち歩けるか! 兵装規制法って知ってるか!」


 悪竜の王が倒れた現在、準2級以上を持っていても、対竜兵装の携帯は随時国の許可が必要だと法律が改正されている。
 大体、そういう風に法を改正したのは王政、テレサの父とその臣下達だ。


「こ、構成員の自覚がどうとか知らねぇが…テメェらには人質としての自覚が…」
「話がわからないなら黙っててください!」
「そうだこの野郎! 俺はただでさえ不安いっぱいだってのに、こんな状況に置かれて軽いパニック状態なんだよ! 何が人質だ! 同情しろオラァ!」
「な、何なんだこいつら……」


 困り果てた強盗。そこに仲間がやって来て、「もう撃っちゃっていいんじゃね?」と相談を始める。
 困っていた強盗は少し考えて「いや、何か本当にパニクってるだけみたいだし、落ち着くの待ってやろうぜ」と未だ言い合いを続ける2人を静観する事に。


「大体な、お前がその指パッチンの簡単魔法でどうにかすればイイじゃねぇか!」
「何を言って……」
「「…………それだ!」」
「お、何か決まったみたいだな。なら大人しく人質として……」
「そいやっ!」
「ぎゃん!?」


 テレサの指パッチンと同時に、虚空に出現したトンカチが、強盗の股間を強襲する。
 相当な威力だったのだろう、強盗はその一撃で白目を剥いて倒れてしまった。


「仲間その1ーっ!」
「お前……それはちょっと……」


 これは酷い。
 しかしテレサはガイアの言葉を聞いていない。
 自分の魔法が有効活用出来る機会を存分に楽しんでいる様だ。


「もういっちょ!」


 男の弱点はそこ。
 それだけは知っているお子様が、凶気の指を鳴らし続ける。


 死屍累々とした光景が出来上がるまで、20秒もかからなかった。


「……テレサ」
「何でしょう?」
「約束してくれ。もし、俺がこの先お前の逆鱗に触れたとしても、股間だけは勘弁してください」
「? ……まぁ、そんな真剣な顔でお願いされては無下にNOとは言いませんけど……」


 まぁ何はともあれ、これで窓口で話を……


 聞ける訳ないか。


 強盗の悲鳴を聞き雪崩込んで来た警察を見て、ガイアはまぁ普通の予想を立てる。




 多分、これから事情聴取だ。












「何ですかコレは!」


 人のアパートに朝っぱらから押しかけて来といて何やらご立腹のテレサ。


「何だよ朝っぱらから……今日は講義3限からだから、昼まで寝るんだよ俺は」
「いいからこれ見てくださいよ!」
「?」


 差し出されたのは今朝の朝刊。


 一面の大見出しは、


「……良かったじゃん」
『お手柄魔法少女、強盗団を見事粉砕!(色んな意味で)』。
「良くないですよ!」
「はぁ?」
「これ、普通に良い事しちゃってるじゃないですか!」
「……あー……」


 そういや、このお子様が目指しているのはダークヒーローだっけか。


「まぁいいじゃん、やってる事は大差無いだろ」


 結局は人助けなんだし。


「うー! 違うんですよ! 私が求めてるのはー!」


 まぁ何だ、ガイアは思う。
 この小娘にダークヒーローは無理だろう。


 キャラ的に。


「とにかくです! 今日の夕方からは本格的にダークヒーローとして活動しますよ!」
「具体的には?」
「まず悪い人を探します! そして悪を以て悪を制すんです!」
「悪を以てって、どんな風にだよ?」
「それはその場で考えます!」




 ……よくわからんが、多分明日の朝刊も彼女の意思に反した見出しになりそうだ。





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