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Kfumi

chapter 18 第5の審判 -3

3  9月16日 元凶


 薄暗く生徒や教師の悲鳴すらそこには聞こえてこない階段があった。
 その先に行ってしまえば、この世からあの世へと繋がっているかもしれないとすら思わせる階段だった。
 この先は屋上へと繋がっている。
 陽太と霧島、そして桜は階段の先を見つめていた。
 残暑のある季節のはずであるが、そうとは考えられないほどの冷ややかな空気を感じた。
 もはや現在の状況は第5の審判と呼んでしまってもいいかもしれない。
 校内各地で3年1組の生徒たちが死亡していた。事態は一刻を争うのである。

「行こう。この先で全てを解決させる」

 陽太はそうぽつりとこぼして、後に続く霧島と共に歩き始めたときだった。

「い、いやだ……私、怖い」

 桜が一歩足を退いた。俯いている桜のほうを向き、陽太はいった。

「桜……来るんだ。俺たちは遊びでこのクラスを変えようとしてたんじゃないだろ」
「……」
「カーストがあったときから、そんなもんぶっ壊したくて、頑張ってきただろ」
「……」
「桜は俺たちと一緒に来なきゃならない」

 桜は静かに頷いた。陽太は怯える桜へと手を差し伸べた。


 暗雲が漂っている、という表現が一番にしっくりくるだろう。
 そんな空模様が広がっていた。
 午後から快晴といっていたが、雷雨が降るといわれたほうがしっくりくる。
 いつの日か陽太が桜と共にあのクラスで卒業するために約束をした屋上である。
 陽太たちがやってきたとき、そこには誰もいなかった。

「誰もいないじゃない」

 桜が小さく呟いた。

「ああ。でも大丈夫だ。呼んであるから」

 陽太がいった。

「呼んであるって……誰を?」
「『犯人』……審判の全ての元凶さ」

 霧島がいった。

「たぶん……ここに来るはずだから」

 陽太は声色を落として告げた。

「……」

 桜が震え怯える表情で陽太と霧島の背中を見つめていた。
 桜のほうを振り返らずに霧島が続けていった。

「前にも一度いったことがあるよね。僕は100パーセントの確証がなければ自分の推論を話したくないって」
「う、うん……」
「でもね。事態は一刻を争うし、それに向こうから自白してくる可能性もあるからね」
「……自白?」
「自分が審判を起こしていた犯人だ、って」

 桜の頬を汗が伝った。

「ど、どうして、そんなことが言い切れるの?」

 そのときだった。

 カツン――

 背後の上ってきた階段とを遮るドアのところから、靴の音が聞こえた。

「神谷君……どうやら来たみたいだね」
「ああ」

 陽太と霧島は声を落としていった。
 陽太は桜に背を向けたまま続けていった。

「どうしてそんなことが言い切れるのか、って質問だったよな。桜」
「何故なら『犯人』は、この審判を必ず『成功』させたいからだ」
「……成功?」
「もしも恨みのある人間がいて、その特定の人物を殺害したいなら、こんな『大それたこと』する必要なんてないし、『審判』じゃ必ずその人物を殺せる絶対的可能性だってない。……つまり御影浪子や、当時の教師たちに恨みを抱いている、御影零は犯人とは言い難い」

 ドアに背を向けているため一切視界には入っていないが、ドアの向こうにいるその『人物』は今、陽太たちを睨みつけているような気がした。

「じゃあ……御影充君の……呪いが具現化して……」

 桜の疑問に霧島が答えた。

「そうかもしれないね。でも……未知へと一石を投じて、解決を探っていくことが間違いだって気づいた」
「それよりも俺たちは目の前の可能性をつなげるほうが、可能性が高いって気づいたんだ」

 桜は手をきゅっと握り、自らの喉元を撫でた。

「『犯人』はこの審判を成功させたい、ってさっき言ったよな」
「う、うん……」

 陽太は桜のほうを振り返り続けた。

「つまり俺たちは俺たちの持つ可能性を見せるだけだ。このままじゃ『審判』は失敗するかもしれないぞ、っていう可能性を……」

 桜は陽太の目を見ていた。陽太は悲しそうな瞳を一度桜へと向けるとドアの先にいる『人物』の影のほうへと目をやった。

「僕たちは『審判』の仕組みを理解したからね」

 霧島は口元に嫌味たらしい笑みを浮かべていった。

「仕組みを理解した者には、もう『審判』は効かないかもしれない。そんな不安要素を放っておけるはずがない」
「仕組み……?」
「桜……これは……『審判』は御影充の呪いなんかじゃない。これは御影充のいじめ自殺を利用し企てられた……大量殺人事件だ」

 ドアの先から小さな舌打ちが聞こえた気がした。
 陽太はドアの先を睨みつけ、小さく呼吸をした。そして、悔しそうな目を向けいった。

「『御影充』……この名前には勿論聞き覚えがあるはずだ。だって……今から27年も前にアンタが自らのお腹を痛めて産んだ実の子供なんだから」

 霧島は自らのポケットから取り出した数枚の資料を宙へと投げ捨てた。
 それは警察署で亜門から受け取った資料のコピーだった。

「どうして貴方は自らの経歴を消したのですか? どうして自らの名を隠したのですか? それはもしかしたらこの『審判』を起こして成功させるためなのではないですか?」

 それは御影浪子という女性の詳細名簿だった。
 そして、名前が何度も改名され、経歴が何度も消去されていた。
 そのなかの一枚が桜の目に留まった。

「う、うそ……そんな」

 桜は小さく呟いた。
 そのとき屋上のドアが床と擦れる金属音を鳴らし、ゆっくりと開いた。
 そして、陽太が苛立ちの声をあげ、その『人物』へと告げた。

「『審判』を起こした全ての元凶はアンタだ。……なあ、そうなんだろ?」

 ドアが開いた先から、その『人物』は姿を現した。
 その人物を睨みつけ、陽太は続けた。

「『御影浪子』、いや……『静間奈美子』先生」

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